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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2021年10月生活記録【第16期生 大西啓人】[2021年11月07日(Sun)]


皆さんこんにちは。
秋学期が始まってから授業カリキュラムがもう半分も終えて、時間が経つのが早く感じるこの頃になりました…!新しいことを学び、自分の糧となってこれからにどう活かすか自分なりに熟考するのが楽しくて、半分も終わったことに驚くほど充実しています。
また友だちに恵まれて、イベントに参加したり、夕食を一緒に行ったり、誕生日会に招待してもらったり、アメリカの歴史にまつわる観光地や街に訪れたりなど交流する機会が増えて前よりさらに楽しめています。本当に一緒に遊んでくれる友だちに感謝です。

さて、実は先週から新たに始まった授業があり、「0~5歳における早期バイリンガル教育」という内容で行われています。これはオンラインで行っており、教室でのASLではなく全てオンライン上で、ディスカッションボードなど英語による議論で、知見を深めているため、英語に苦戦していますが、自分の意見を英語化にして言いたいことが伝え、それが伝わったときの嬉しさは大きいです笑

今回はそこで興味深いものがあったのでこれを紹介したいと思います。

https://www.youtube.com/watch?v=GTGVFSSu67Q&t=573s
※動画は全てASLと英語だけになっております。ご了承ください。

中でも特に要点として挙げたい点をいくつか説明していきたいと思います。

〇家族による早期介入
みなさんも知っていると思いますが、ろう児は聞こえる両親の元に生まれることが聞こえない両親より多いです。ある調査の結果、ろう児をもつ聴親にとって、初めて会う「ろう者」が自分の子どもというケースが95%もあるそうです。その際に両親は自分の子どもとどう接したらいいのかどう育てればいいのかわからない場合が多いイメージですが、家族との関わりが早期から頻繁に行われている場合、言語発達が著しく成長できるというデータがあるそうです。自分の子どもが「ろう者」だと分かったとき、それを受け入れてどのような教育を行うべきか情報を集めないといけないことが一つの課題ですが、何らかの目的に一貫性をもたらす(手話を使ってコミュニケーションをとる等)ことで、一般的に障がいのない子と同様に言語発達ができるとされています。つまり、ろう児の成長は家族との関わりは必要不可欠だということです。

実際に研究の中で、四つのグループ(「@早期からろう者であることを理解し、早期介入プログラムに入り、家族との関わりも強い児童生徒」「A早期からろう者であることを理解し、早期介入プログラムに入っているが、家族との関わりは少ない、またはない児童生徒」「B遅れてろう者であることを理解し、早期介入プログラムも遅れて入ったまたは入っていないが、家族との関わりがある児童生徒」「C遅れてろう者であることを理解し、早期介入プログラムも遅れて入ったかまたは入っていないうえに、家族との関わりも乏しい、またはない児童生徒」)に分けて言語能力発達の程度を調査しました。結果として、一番効果があるのはもちろん@グループでした。では二番目に効果があったのはどのグループでしょうか…?早期からろう者のアイデンティティが芽生え、ろう学校に入ってるためAグループだと思いがちですが、実はBグループなのです。この結果から家族との関わりがどれだけ強く言語能力に影響をもたらしているのが一目瞭然ですね。この研究から、教育現場で児童生徒への宿題や親への講習会などで親との関わりを意識するなど色々と構想できます。

〇手話言語による他言語の獲得への影響
まだろう教育についての研究も少なかった頃、一部の聴親、教育者、医者は早期から手話を使って教育することは言語獲得の妨げになる音声言語の習得が遅くなる言語剥奪を促進させるなどといった誤解がありました。現在において、こういった懸念をもつ人は少ないと思いますが、少なからず同様に考えている人もいるでしょう。口話教育を受けてなければ、言語能力の発達が難しいと考える人もいます。しかし実際はそうではありません。実際に手話言語が言語能力の発達や他言語の獲得を妨げるという証拠はありません。手話を学ぶことで言語剥奪になってしまうこともありません。

ある研究では、言語背景や年齢、ろう学校に入った時期などが同じになる児童生徒を集めて、調査しました。ただ二つのグループに分けたうえでの唯一の違いがあり、一つは手話言語で教育するもので、もう一つは音声言語で教育するものでした。その結果、音声(書記)言語としての英語力は音声言語で受けた児童生徒より、手話言語で教育を受けた児童生徒のほうがはるかに優れていました。この結果からわかることは手話言語はむしろ妨げるより、他言語獲得(習得)の助けになれるということです。カミンズ氏(Cummins)の相互言語依存仮説によれば、手話を第一言語として獲得することで、第二言語、第三言語の習得は手話によって行うこともできるということですね。もちろん第一言語が音声(書記)言語としての英語、日本語でも第二言語習得を助けることもできます。ここで述べたいことは、手話は言語能力の発達を妨げる、言語剥奪になる可能性を促進するといった影響力は持っておらず、視覚的言語として学びに有効であるということです。

〇視覚能力を用いた教育(人工内耳装用児に対する視覚的教育)
乳幼児はまだ言語の獲得ができておらず、ほとんどの場合は視覚(目)から入る情報を頼りに様々な知識や語彙力、文化などを吸収しています。ここはろう児でも聴児でも関わらず、全ての子どもに該当します。視覚能力を用いた教育の有効性は非常に高く、特にろう児にとっては重要なポイントです。

想像してみてください。音声言語で教育している家庭があったとします。難聴児や人工内耳装用児だと残存聴力によって音や声を聞き分け、言葉として捉えることと可能かもしれませんが、キッチンや別の場所で親が兄弟や友人と声で話していたら、子どもはあっちで情報が発生していることに気づけず、見逃してしまいます。難聴児でも装用児でも音や声での把握が完璧ではないからでしょう。もし これに手話だとしたらどうでしょうか?音による情報ではなく、手の動きや体の動きによる情報だと視覚的に捉えることができ、一つの情報として子どもたちは獲得することができます。もちろん死角で手話を使ってたら気づけませんが、ほとんどは気づくと思います。まだ乳幼児だから内容を理解できないので少しくらい見逃してしまっても大丈夫と思うかもしれませんが、こういった経験は意外と子どもの記憶に残っているものです。当時は分からなくても、後々理解できるようになってくるかもしれません。実際に些細な情報でも子どもの言語能力の発達に貢献しているのです。人工内耳装用児では音声言語での教育を行うことが多いと思いますが、音声言語だけではなく手話のような視覚能力を活用できるための環境や経験も必要だと私は思います。

〇乳幼児たちの教育的ニーズ
これまで3つのポイントを特に重要な点として挙げましたが、他にも言語能力の発達や思考能力、コミュニケーション力などのスキル向上につながる要素はたくさんあります。例として以下のものが挙げられます。

・言語への完全なアクセス
・充実した環境
・家族との強い関わり
・言語的モデル
・高い期待値
・ロールモデル
・積極的な姿勢

これまでに経験した乳幼児期、少年期、青年期を振り返ってみてください。上のような要素はありましたか?ここからは私の話になります。長くなるので、飛ばしてもOKです笑
私は聴親から生まれたろう児ですが、家は常に手話があり、手話でコミュニケーションしていました。もちろん母だけではなく、兄、父も家族全員、手話ができるのでどんな時も手話でコミュニケーションをし、学校でもコミュニティ(ろうスポーツクラブや教育ボランティア活動への参加)でも手話を用いる環境がしっかりありました。私はよく些細な事でも母に話したり、くだらないことでも兄と遊んだり、父もスポーツクラブに一緒に参加したり、家族と一緒にいることが多かったです。その時に会話した内容は今思えば、どれも自分の成長につながるものばかりでした。例えば漢字の読み方だったり、地震が起きたときの対策だったり、食事時のマナーだったり、様々なことを学びました。他にもコミュニティに成人ろう者がたくさんいたので、ロールモデルとして目に見る機会が多くあり、当時から「ろう」に対する劣等感はまったくありませんでした。こうして私以外の家族は聴者であるにも関わらず、手話を学習してくれたり、一緒にスポーツクラブに参加してくれることで一緒にいる時間が増えたり、日常生活のことで些細な質問でもしっかり答えてくれたり、真摯に向き合ってくれていました。

長くなりましたが、このように自分の中で教育的ニーズとして意識したことはなくても、他者によってこういった要素が確立されていたおかげで、私は今こうして言語獲得、様々な経験や知見を得られることができたのではないかと思っています。

話を戻しますが、乳幼児の教育的ニーズは一般的に上のような項目が挙げられていますが、もちろんこれだけではなく、個人差によって、他にも必要不可欠な要素もあります。私たち教員や教育者ができることはこれらが確立できるように環境を整えたり、情報を用意したり、万端な状態で迎えることではないかと思います。

〇ろう児に対して聴親が思う誤解、先入観
「ろう者」と会ったことがなく、手話やろう文化など「ろう」に関する知識もまったく知らない人からしたら、別世界の人のようなものに感じてしまっているのではないでしょうか?私自身も日本の大学で友だちになった人から「聞こえない人ってふつうに日本語を使えるんやね」「ろう者って何?」と言われたことがあります。悪意がまったくなくても、言われる側にとっては嫌な気持ちになってしまいますね…。そういった誤解や先入観は色々あります。例として以下のものがあります。

・ろう児が手話使うと、話せなくなる
・人工内耳装用児は手話を使うべきではない
・ろう児は必ず手話か、口話のどちらかを選ばないといけない
・手話を用いるろう児は文字を読めない
・手話言語(ASLなど)は本当の言語ではない
・すべてのろう児はまず最初に口話に挑戦するべき
・すべてのろう者は人工内耳装用に対して反対している
・口話を用いるろう児に手話は必要ない

これらは主に自分の子どもが初めての「ろう者」であるろう児をもつ聴親が抱える誤解や先入観の例です。ここを見てくださってる皆さんも実際にそう思ったところもあれば、思わなかったところもあれば、個人差があるでしょう。ただ私は「ろう」に関することを何も知らない人からしたら、こういった誤解や先入観はごく自然な反応だと考えています。できるだけこういった反応を減らすために私たちからもっと情報発信をしなければならない気持ちになりました。少しでも誤解や先入観を解消できるようにいつでも情報提供、発信できるように準備しておく必要がありますね。

〇まとめ
家族の早期介入、手話、視覚能力、教育的ニーズ、誤解や先入観などたくさん述べましたが、こういったポイントは早期教育の時点から重要な役割になるため、意識しなければなりません。また個人的に情報の重要性も改めて知れた回になったと感じています。家族の介入があったほうが言語発達に有効だったり、手話は他言語獲得への妨害にならなかったり、視覚能力を最大限に活かした環境や工夫が必要不可欠だったり、様々な情報がありますが、どれも早い段階で知るべき情報です。もしもこういった情報を知らないままだと、もちろんそういった工夫もできないうえに、不安な気持ちを抱えたまま、自分の子どもと向き合うことになってしまいます。そういうことが起きないために将来、学校や放課後デイサービスのような教育現場でそういう親がいたとき、教員として何ができるのか考えてみました。少しでも親の負担を軽減できるように情報提供したり、人工内耳装用や口話教育に対する意見を出したり、「ろう」を学ぶ、コミュニティへの参加などの機会の確保をサポートしたりできることはたくさんあります。特に選択肢を増やして、よりたくさんのことを考えてもらう機会を与えることが何より大事ではないでしょうか。もしもろう当事者である私から「〇〇したほうがいいですよ!」というふうに述べた場合、その親は、当事者の声ほど信憑性が高いものは他にないと思うので、このまま何も考えず従ってしまうこともあるかもしれません。親は子どもの将来をきちんと考える義務があるので、「自分の子どもが将来どんなことができる子になってほしいのか」「どんな大人になってほしいのか」など想像しながら選択肢から選べるように偏りなく幅広い情報を提供することが、教員としてできることであると考えてます。

今回はここまでとなります。ここまで読んでくださりありがとうございました。

大西

【参考】
How Early Intervention Can Make a Difference: Research and Trends, https://www.youtube.com/watch?v=GTGVFSSu67Q&t=573s

言語能力の相互依存仮説(ジム・カミンズ)
https://terasawat.hatenablog.jp/entry/20110228/1298923995
Posted by 大西 at 09:39 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
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