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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2021年9月生活記録【第16期生 大西啓人】[2021年10月07日(Thu)]

みなさんこんにちは。対面授業が始まって、1ヶ月経ち、ギャロデット大学での過ごし方も慣れて快適に学生生活を送れています。実は、先月で紹介しましたFowler Hall(主に教育学部が使われている校舎)に自習室があり、よく使用するようになりました。

その自習室は教育学部の学生のみが利用できる部屋なため、あまり人が来ないので自分の学習に集中できるのが利点です。たまに来る人がほとんど院生なので(学部生も利用できるがあまり来ない)、顔馴染みのある人なので馴染みやすい場所です。
そこでは課題をやったり、自分の研究を進めたり、エッセイ本や論文を読んだり、昼寝したりできるうえに、人数制限、食事における注意、清潔面での注意など厳しく管理されているので、快適でかつ安心できます。

たまに別のところで自習しますが、人が集まるところなので友だちと過ごすことが多く、勉強が進みません…笑(ろうコミュニティではあるあるかもしれませんね。)

さて、今回は非常に有意義な時間を過ごしている対面授業からその一部を紹介します。自分の研究テーマに関連のあるトピックである「バイリンガル教育」についてです。

その授業ではバイリンガル教育におけるプログラムや指導戦略、定義など学んでおり、まだ一ヶ月しか学んでいませんが、すでに元々知識として知っているものよりさらに広く深く学ぶことができました。まだ始まったばかりなのに、これからの学びが楽しみで楽しみで仕方がありません。

バイリンガル教育とは簡単に言えば、2つの言語を学び、両方の言語を流暢に話すことを目的とした教育ですね。言語だけではなく文化理解、コミュニティ参加なども含まれています。実際に多くの学校でニ言語の両方を通して学問分野や専門知識、学術的議論でも活用できるレベルまで発達することを目標に、様々な指導がなされています。日本では日本語教育が強く、あまりバイリンガル教育には馴染みがないかもしれませんが、これからの教育に必要なものだ考えています。ろう教育にもこれから日本手話と書記日本語のバイリンガル教育が必要でしょう。

では、バイリンガル教育について学んだことの一部を挙げていきます。

Language Separation:言語分離
バイリンガル教育において、マジョリティ言語とマイノリティ言語を扱うプログラムであり、アメリカではマジョリティ言語としての英語、マイノリティ言語としてのスペイン語 (他にも英語と中国語、英語とフランス語などもある)で構成されることが多いです。この教育で重要なことは「言語の分離」を維持することです。学校内において、時間内容教職員で分けることができるとされています。

時間による分離:各言語の授業を半日(午前と午後)、隔日(月水金と火木)、隔週で行うことができる。例えば月はスペイン語であれば、火は英語になったり、午前は英語を使用するなら、午後はスペイン語になる。
内容による分離:科目によってどの言語を使用し、学ぶかを決定する。例えば数学や科学は英語を用い、社会と読み書きはスペイン語を用いる。
教職員による分離:マイノリティ言語が堪能な教員、マジョリティ言語が堪能な教員でチーム組んで言語を分離させる。マイノリティ言語が堪能な教員が担当する授業や時間帯はスペイン語になる。

他にも様々なコンテンツで言語を分離させることができます。英語ですが、詳しくはこちらを見てください。
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※授業で使用されたパワーポイントより引用

Dual Language (Two-way) Bilingual Educatuon:双言語バイリンガル教育
この教育はマジョリティ言語マイノリティ言語の二言語を用いて、生徒もマジョリティ言語が第一言語である生徒とマイノリティ言語が第一言語である生徒を半分ずつ構成されたクラスで指導されます。
例:マジョリティ言語としての英語を母国語として使う人が50%、マイノリティ言語としてのスペイン語を母国語として使う人が50%で構成される。

この教育は全米で幅広く活用されており、公教育に用いられることが多いそうです。ろう教育では用いるところがありますが、少ないです。言語を2つ用いるため、クラス内で言語が混雑されてしまいそうですが、ここでは主にLanguage Separation(言語分離)が使われています。主に、時間、内容、人物によって用いる言語を分けたり、指導に使われる言語を決めたりしています。

Immersion Bilingual Education:集中型バイリンガル教育
第一言語(母国語)より第二言語が多く使われる場合(例:移民や難民がアメリカで教育を受ける場合)において、多く割り当てられる教育です。ほとんどの教室は第二言語が50%以上使用されており、ターゲットとなる言語が習得対象であるのと同時に学習の手段として提供されるものです。つまり第二言語で学習し、第二言語を学ぶということです。
このImmersion Bilingual Educationには、完全に第二言語のみ使用する部分的に第二言語を使用し、残りは母国語で学習する母国語と第二言語の両方で教育を受けるといった3つのモデルがあります。三つ目のモデルは異なる言語背景をもつ児童生徒が同じ教室で同じ内容を学習するときに一般的に使われるモデルです。

Concurrent Use of Language:並行的バイリンガル教育
二つの言語を同時に用いる教育で、児童生徒が第一言語を学んで維持したり発展させたりしながら、第二言語の「追加(教育、学習、環境)」を目指すものです。学術的レベル文化的意識を高めることを目的としています。研究に基づくと、認知的・言語的能力は多くの言語に共通されており、言語発達に役に立つとされています。つまり第一言語における言語的能力が第二言語と読み書き能力の発達を強化することができるということです。バイリンガル教育は2つの言語を使用するだけではなく、学校生活において四つの言語スキル(読む、書く、聞く、話す(見る、手話する))を完全に発達させることが求められています。同時に言語を使用するために使われているプログラム (指導戦略) は以下のような例があります。

Purposeful Concurrent Use(PCU):目的に応じて、2つの言語を統合しながら、言語と内容の両方を理解できるように実現する。つまり2つの言語を戦略的に統合して、理解しやすい形で指導する。ここでは言語使用の配分は重要だが、それぞれの言語をどのような目的で使用するかが一番重要である。意識的、計画的に言語から言語へ変化させることで理解させることを目指している。

Free Translation:翻訳において、基となる言語による内容を別の言語へ翻訳する際に、翻訳先である言語に合わせた翻訳を行うこと。ここでは書記言語の隠された意味を拡張することが多く、基の言語が英語の場合、英語プリントから切断され、翻訳言語がASLの場合、翻訳はASLの文法、構造に沿ったものになる。

Literal Translation:原文である言語構造を最優先に、別の言語へ翻訳する。単語やフレーズ、文章にポイントや下線を引き、重要な単語を指文字で表すなどができる。概念的に適切なASLを用いながら、英語での構想を表現することを指す。

Preview View Peview:言語と内容の理解力を強化するために授業内で内容を授業前、授業中、授業後に分けて、二つの言語を交互に使用する方法。例えば授業前に英語で教科書を読んだり、単語や文法を予習したりしてから、授業中はこれをASLで展開させる。内容を理解できてから、授業後にもう一度英語で議論したりポイントを要約したりすることで、より理解へ導くことができるものとなっている。

Language Separation(言語分離)とConcurrent Use of Language(同時使用)において、先生が分かりやすく図解化したものがありますので、ぜひ参考にしてみてください。

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※授業中の内容から抜粋しています。

ここまで、この一ヶ月に授業で学んだことになります。すでに多くを学び、バイリンガル教育について考えさせられる毎日で非常に楽しいです。上記のバイリンガル教育を学校のカリキュラムの一部として用いることで、理想的なバイリンガル教育を提供することができますが、児童生徒のニーズ言語背景習得状況などを鑑みながら、柔軟に対応できることが重要です。生活言語(Basic Interpersonal Communication Skills)学習言語(Cognitive Academic Language Proficiency)という言葉がありますが、これを意識しながら授業や指導戦略を展開させる必要があります。第一言語がどの段階にあるのか、第二言語がどの段階にあるのか、英語学習者として学術的レベルを目指すにはどういう手順で教育させていくべきか、常に考えることがバイリンガル教育を目指す教師として求められているのではないでしょうか?

私は今、バイリンガル教育について学んでいる中で、「日本手話(もしくは書記日本語)と英語の双言語をどう教育するべきか。お互いの相関性を効果的に活用することができるか。」といったこのテーマに疑問をもち、興味深くなってきています。言語獲得において、早期に獲得できたもの遅く習得できたものがあります。これに基づき、第二言語の習得について学ぶことが先程の疑問を解決するヒントになれるのではないかと考えています。

日本のろう教育へのバイリンガル教育の提供を目指して、お互い頑張っていきましょう。
最後まで読んでいただきありがとうございました。

大西

【参考文献】
Fred Genesee, Bilingual Acquisition, Colorado!, https://www.colorincolorado.org/article/bilingual-acquisition

Amygardner, Immersion Bilingual Education for Your Student and School: How to Get Started, FluentU, https://www.fluentu.com/blog/educator/immersion-bilingual-education/

The Balancing Act of Bilingual Immersion, ascd, https://www.ascd.org/el/articles/the-balancing-act-of-bilingual-immersion
Posted by 大西 at 12:30 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
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