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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2021年5月生活記録【第16期生 皆川愛】[2021年06月07日(Mon)]
この留学ブログに綴るの生活記録となりました。

カチンコ動画はこちら


卒業式修了のご報告
5月14日付けをもって、ギャロデット大学大学院ろう者学修士課程を修了することができました。
また、ギャロデット大学から大学院最優秀学生賞(Graduate student outstanding achievement award)
更にろう者学部からもジョージ・ヴィディッツ賞(George Veditz award)を頂きました。
*各賞をクリックすると受賞の説明に飛びます(アメリカ手話と英語)パソコン

これもひとえに、日本財団をはじめとし、日本ASL協会、家族、友人、
そしてこの生活記録を通して応援してくださった皆様のご支援によるものです。お礼申し上げます。

パンデミックの情勢により、卒業式はオンラインでの実施となりました。
そこで、有志にてフーディング(hooding)と呼ばれる黒のガウンの上に首元にフードをかけていただく、日本でいう学位授与式を行っていただきました。
ささやかなものでしたが、院生活、そして米国生活が走馬灯のように思い出され、忘れられないものになりましたうま
IMG_8846.JPG

(有志によるフーディング、ギャロデット大学の先生と日本人学生とで)

We also have the Graduate Student.png

(学部内でのzoomお祝い会では受賞にスポットライトを当てていただきました)

最後の生活記録では、
・留学で得たもの
・私にとってのギャローデット大学
について書きたいと思います。
あくまでも私目線です。

かわいい留学で得たもの
私が留学生活で得たものは知識や技術はもちろん、大きな糧になったのは「脈」でした。

クシャルナガル先生(Dr. Poorna Kushalnagar)がセンター長を務めるろう健康研究センター(Center for Deaf Health Equity)での院生助手としての経験は、
ろうの医療や健康問題に取り組む研究と実践を直に学ぶ大変貴重な機会となりました。
そして彼女は私の人生の中で、ろう者として、女性として、研究者として、遠のロールモデルです。
先生とは米国内での活動にとどまらず、世界ろう者会議の場で一緒に発表させていただき、
また国立がんセンターの研究班にて招致講演ができたこともこの上ない光栄でした。

デフゲインを提唱されたバウマン先生(Dr. H-Dirksen Bauman)、今後のろう者学を引っ張っていかれるモリアーティ先生(Dr. Erin Moriarty Harrelson)の元で、ろう者学を学べたことも大変幸運でした。
バウマン先生には、ろう者への看護に関する教育において何が必要なのか、
それは単に手話を覚えたり、マニュアルを身につけたりすることではなく、
個々人が抱く「ろう」の意味を見つめ、そして変えていくことなのだと教えていただきました。

モリアーティ先生には、言語イデオロギーを紐解くことの難しさ、面白さを教えていただきました。社会の中にある行動や信念、価値観は、イデオロギーに基づいています。言語もそうです。
Congratulations!.png

(修論の口頭試問: Defence にて、左上ダークセンバウマン先生、右上モリアーティ先生、左下がクシャルナガル先生、右下がストーカー先生)

このように、人生において、ろう者として、学術分野での活動者として、ろうコミュニティのアドボケーターとして、
沢山のロールモデルに出会い、今後にとって心強い人脈を得ることができました。
日本に帰国しても、人との繋がりは切れないものです。

留学生活では、言語の壁、様々な”ism”(差別)と、日本では経験しなかったような困難にも出くわしました。
日本での経験やキャリアを失うことの不安もありました。
それでも、得たものの方が多かったですし、留学して良かったと心から言えます。

ビル私にとってのギャロデット大学
5つの観点を箇条書きにします。

1. リベラルアーツに根ざした教育
ギャロデット大学は世界でも唯一のろう者のためのリベラルアーツに基づく大学だというフレーズをしばしば目にしますが、これは間違いありません。
リベラルアーツは幅広い学問に触れ、世界を変えるためのヒントを提示してくれます。
特に私が2年間没頭したろう者学は多学際的でした。歴史、哲学、社会学、倫理学、法学などの分野を網羅します。そうしないと、社会の構造は見えてきません。
以下の図は生活記録でも何度か出してきました。「ろう」の概念は無限大です。それを無限大にするのはリベラルアーツだと思っています。
次に、「一本のペットボトルの水」から何を思い浮かべるでしょうか。
9625350_01_S.jpeg

人間が生きるために必要なもの、ありとあらゆる生態系を維持するもの、
世界には飲水へのアクセスに格差があることなど、、一つの物事から何が想像できるか、何が見えるか。
リベラルアーツはこの引き出しを増やすのに大きく役立ちました。
社会を変えたいなら、自分の専門分野に関係なく、リベラルアーツはきっと役に立ちます。

2. 手話によるフルアクセスと卓越したメンター
言わずもがなですが、手話で不自由なく学術的な議論ができ、ご指導を頂き、共に研究ができるということは当たり前のようで、私とっては大変貴重でした。
ろうや手話のことを1から説明しなくてもいいこともありがたいものでした。むしろそれを上回る視点や意見をくれました。
ギャロデット大学が150年以上の歴史をかけて築いた学術スペースとリソースは格別でした。

3. 少人数・参加型授業
ギャロデット大学は基本的に少人数の参加型の授業です。
授業ではグループワーク、ディスカッション、プレゼンテーションを繰り返しでした。
そのおかげで筋道を立てて、ともに学び合い、違いに気づき、新たな自分を発見電球、その上で伝える力が身に付けられたと思います。

4. 世界とつながる
アメリカ手話と英語のバイリンガル教育によって、語学力を伸ばせます。
この語学力は新しい世界へのドアを開く大きな武器になります。
学会や会議に参加する後押しをしてくれます。そこで世界中の学者、アドボケーターとの縁を掴むこともできます。

5. 自己洞察
ギャロデット大学は、ある意味USAアメリカ社会の縮図とも言えます。
多様な背景を持つ者が者集まります。肌の色、国籍、ジェンダー、障害、出身地、家庭、卒業校なども様々です。
その中でどうしても誰かが特権(Privilege)を持ち、その力関係の中で、そして抑圧(Oppression)が生まれます。
この文脈で、特権とは労なくして得られる優位性です。
米国では白人が白人というだけで、特権を持つと言われています。それを裏付ける例として、黒人の大卒の人よりも、白人の高卒の人の方が寿命が長いのです。
肌の色は変えられません、これが社会の不平等です。
言語獲得に関しても、乳児期から手話の環境にあるか否かは大きく影響します。
特権と抑圧が表裏一体の場所で、思うことはたくさんありました。
私は日本で肌の色によって差別や抑圧を受けた経験がありません。
日本における私自身の特権、それがもたらすであろう抑圧にも向き合うことができました。
さらに、社会における力関係を洞察するきっかけになりました。それは留学しなければ一生気づかなかったことかもしれません。
picture.png

(第16期生の大西さんとギャロデットのランドマークにて)

大西さんとはこちらで初めて出会い、アトランタに旅行に行ったり、一緒にコロナの予防接種を受けたり、
ろうのイシューを話し合ったりと、とても濃い時間を過ごしました。
アプローチや専門は違うけれど、大西さんのろう教育にかける思いにたくさんの刺激を受けました。
ありがとう!

育てられることのありがたみを知った今、コミュニティへの還元をすること、
そして、これからの世代、特にろう者、女性たちの力になれるようになりたいと強く思っています。
それだけ自分がそう思える素晴らしい先生方、同僚、クラスメイトに出会えたからです。

英語で卒業式はcommencementといい、この単語は「まり」という意味を持ちます。
まさにここからが本当のスタートだと感じています。

最後になりますが、留学開始当初から多大なご支援をくださった日本財団、日本ASL協会、
特に細やかなサポートをしてくださった根本様、奨学生の先輩方と同期、家族、友人、
そして、応援してくださった全ての皆様に感謝いたします。

7月からろう健康研究センターで研究員(Research associate)として働かせていただくご縁に恵まれました。
奨学金をはじめ、様々なご縁や機会は私自身の特権とも言えるかもしれません。
これらの特権を抑圧を生む権力に使うのではなくエネルギーに変えて、これからも精進いたします。
日本でも看護大学の非常勤講師や国立がんセンターの研究員などを通して、
継続的にろうコミュニティとつながり、還元できる活動を続けて参りますので、
どうかこれからもよろしくお願いいたします。

16期奨学生 皆川 愛
Posted by 皆川 at 11:33 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
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