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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2020年3月生活記録【第16期生 皆川愛】[2020年04月08日(Wed)]
今月は型コロナウイルスとろうに関する話題です。

カチンコ動画はこちらより 


 @いまの米国での生活 (0:44)
 A米国ろうコミュニティへの影響と動き (3:07)
 B仮の身体可能性 (7:56)
 Cいま私たちにできること (9:08)

@いまの米国での生活
先月の生活記録を書いた3月初旬、
新型コロナウイルス感染症はアジアを中心に流行していることを目にしてはいたものの、
米国での感染者数は微々たるものであり、遠い世界の出来事と捉えていた人が多かったように思います。
かくいう私も研究室の仕事でカリフォルニア州のロサンゼルスに行っていました
(これについては次月の生活記録に掲載予定です。)

ところが3月中盤から米国での情勢は大きく変わりました。
死亡者の報告が各地で出始め、私の通うギャロデット大学も閉鎖になり、
授業や会議は全てオンラインに移行しました。
そんな中でも、は咲くという自然の強さを教えてくれます。
IMG_1206.JPG
(スーパーへ買い物の帰りに見た桜)


私の住むワシントンDCと隣接する州では、ロックダウン(首都封鎖)の政策が取られ、
映画館や劇場、居酒屋などは休業、レストランは配達や持ち帰りのみ、
さらにクリニックも休業しています(大きな病院は通常通り運行しています)。

ただし、クリニックは、医療ポータルというネット上で、過去の病歴や治療が閲覧でき、
さらに薬の再処方の依頼をしたり、医師やスタッフにメッセージを送ったりできる制度があり、
継続した医療サービスを提供しているところも多いようです。
スクリーンショット 2020-04-07 01.25.00.png
(FollowMyHealthより、薬の再処方のリクエスト画面)


さらに、ソーシャルディスタンス(社会的距離戦略)といって、
6フィート(約1.8メートル)距離を置くように言われています。飛沫感染を防ぐためです。
先日訪ねたスーパーでは、施設内で人が密集しないように、入れる人数を50人に制限し
かつ人々に距離を置くように勧告していました。
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(スーパーの前で6フィート置きながら並ぶ人々)


A新型コロナウイルスを取り巻くろうコミュニティへの影響と動き
ギャロデット大学が閉鎖したことによる影響をまとめた記事の要点をあげます。
スクリーンショット 2020-04-07 02.02.41.png
(BuzzFeed Newsより)

ギャロデット大学の学生にとって、ろう者同士が交流し、手話で完全にコミュニケーションアクセスできる場所は貴重です。
地元に帰れば、地域にろうの仲間がいなく、家庭において口話のみの生活を強いられ、孤立する学生もたくさんいます
こうした学生のストレス、またメンタルヘルスへの影響は考慮すべきことです。
さらに、ろう者の雇用の場の一つであるギャロデット大学の封鎖によって、
飲食や清掃サービスが不要になるため、雇用を失うろう者も出てきました

当時は、米国連邦や米国疾病予防管理センター "通称CDC”からの情報発信に手話がついておらず、
ろうコミュニティから情報アクセス困難が問題に上がっていました。
そうした声を受けて、3月22日にCDCからろう通訳者による動画発信がなされました。
4月6日現時点で、11本の動画がアップされています。
こちらより(ASLと英語字幕のみ)
スクリーンショット 2020-04-07 02.05.08.png



全米ろう連盟は、新型コロナにまつわるろう・難聴・盲ろう者の受診におけるコミュニケーションアクセスに関して医療従事者向けに以下の推奨事項を公表しています。
こちらより(英語のみ)
スクリーンショット 2020-04-07 01.57.28.png

日本でも参考になると思うので、要点を記します。
新型コロナに関連した受診においては、従来の医療サービスとは違う状況にあり、
障害を持つアメリカ人法(ADA)に基づくコミュニケーションの義務付けは猶予される場合があること。
対面の手話通訳は手話通訳者に感染のリスクをもたらすため、ビデオ電話による遠隔通訳サービスの活用が望ましいこと。
通訳不在の場合は、音声スピーチを文字化する翻訳機器やアプリを活用し、コミュニケーションを最大限にすること。
について、勧告しています。

逆に、ろう・難聴・盲ろう者向けの心構えも公表されています。アメリカ手話による解説ビデオもあります。
こちらより(英語・ASLのみ)
スクリーンショット 2020-04-07 01.54.08.png

まず、ほとんどの医療従事者はマスクやゴーグル、手袋で感染予防措置を取っており
さらに窓やカーテンの後ろなどの見えない位置から話しかけてくる可能性があること。
入院期間、感染防止の観点から面会が許可されず、ろう者が孤立する可能性があること
それでもなお、自分の医療について自分で決める権利があることを強調し、コミュニケーションを最大限にするためのいくつか役立つであろうアプリやサービスを提示しています。

B の身体可能性 “temporarily able-bodied” (ろう者学の観点から)
ウイルスは身分や地位に関係なく襲ってくきます。
例えば、暗黒の中世として、大疫病と言われたペスト。
これは身分に関係なく、人々のリンパ節を腫らし、皮膚に黒斑を作り、場合によっては死に懲らしめました。
当時は細菌学がまだ発展しておらず、治療法もないため、緩和の当てもなく人類を苦しめたらしました。
医学、医術が発展している現代でさえも、今日世界中で累計130万人を苦しめている/てきた新型コロナウイルス感染症。

世の中、ヒエラルキーで上部階層にいる人は感染しないだろうなんていう言説をたまに聞きます。
医療制度のアクセスで見ればそうかもしれません。
在宅勤務ができる地位にある人間はウイルスの暴露の機会を確かに減らします。
現在、米国に学生として在住する私は、学生としての業務を在宅で全うでき、
買い物もインターネットで注文すれば、完全に外出せずに済んでいます。
しかし、その裏に働いている人がたくさんいることを忘れてはいけないとも思い知らされます。
私たちの市民生活維持のために、物流関係者、工場勤務者、介護者、警察官、医療従事者などは
現地に出向かなければなりません。

今学んでいるろう者学では、仮の身体可能性 “temporarily able body” という言葉がよく使われます。
障害や病気は、どこか「他人のこと」と思っていないだろうか。
それが「自分たちのこと」に誰しもなりうる可能性があるのにというものです。


日本国内における新型コロナウイルスに関連した死亡者数で見れば73名(4月6日現在、厚生労働省発表より)。
今の日本にも、自分は関係ないだろう、そう思ってる人がたくさんいると思います。
今の状況、ヒエラルキーとか年齢とか関係ありません。
ウイルスはどこからとなく、誰に関係なく襲います。

C いま、私たちにできること

私にできることはなんだろうかと、ろうの看護師の立場で、主に厚生労働省の情報を元に新型コロナウイルの手話動画を二つ作成しました。

・新型コロナウイルス(コロナウイルスとは、感染経路、感染〜発症まで、症状と対処方法、予防方法)


・新型コロナウイルスにまつわるカタカナ用語の解説(クラスター、オーバーシュート、ロックダウン)


また、ろうコミュニティを対象にした新型コロナウイルスに関する調査も倫理審査委員会に提出し、準備を進めています。
これについては後日、こちらにも公表させてください。

先月に紹介させていただいた「新型コロナウイルス、情報が届きにくい方(子ども・外国語話者・視覚/聴覚障害等)のサポート・不安のケア」のページの聴覚障害者の欄で、
当初は口話と筆談でのコミュニケーションに限局されていましたが、
手話でのアクセスについて考慮してもらえるように、文章を追加・修正していただきました。
こちらより

現在このようになっています。
スクリーンショット 2020-04-07 09.49.53.png


くれぐれも身体をお大事に、そして、可能な限り外出を控え、自分と、周りの大切な人の健康を守ってくださいね。

<参考文献>

Breckenridge, C. A., & Vogler, C. (2001). The critical limits of embodiement: Disability’s criticism. PUblic Culture 13(3), 349-357.

Cohen, S. K. (2017). Cholera revolts: a class struggle we many not like. Social History 42(2), 162-180.
Posted by 皆川 at 09:18 | 奨学生生活記録 | この記事のURL
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