10月生活記録 【第13期生 山田茉侑】[2019年11月08日(Fri)]
みなさまこんにちは。
「Time flies so fast!!!」
時間がジャンプするようにどんどん過ぎ去っていきます。課題の山で先の見えなかったトンネルが今や前方から光が差し込んできており、もうすぐ今学期が終わるのだなとじみじみと感じております。
10月はプロジェクト、研究、宿泊学習などで息つく間もなく忙しかったのですが、どれも最後のまとめを作っており、まだ報告できる段階ではありません。なので、今月は以前に作った教材を紹介したいと思います。この教材には、ボストン大学のバイリンガル教育の方向性がくっきり表れています。そちらも合わせて報告したいと思います。
その教材とは…?
スバリ、子どもの「予測」能力を強化するものです。
授業で、ろうの子どもたちがときどき次に何が起こるのかを予測するのに苦戦していることがあります。
例えば国語の授業では…

こちら、ごんぎつねの最後のシーンです。
「兵十はどんな気持ちになったのか?」
「ごんはどんな気持ちでうなづいたのか?」
日本語ネイティブでもかなり難しい問題だと思います。
長い日本語文を読み解き、登場人物の心情の動きを追いかけ、そしてこの考察を熟考するには相当な日本語の力が必要でしょう。また、物語の中から因果関係を読み解けるようにならなければなりません。
今回の教材は、因果関係を読み解く、つまりろうの子どもたちの「予測」能力を強化するためのものです。また、予測した理由(つまり、手がかりは何だったのか)を子どもたちが説明できるようにする、というねらいがあります。
8月の生活記録で少し触れましたが、ボストン大学では指導の際に
「概念形成→日本手話→日本語」を意識します。教材作成の時もしかりです。
例えば「りんご」という単語を教えたいときに、日本手話や日本語でいくら説明しても、概念「
」りんごそのもののイメージができてないと、子どもたちは理解できません。概念「
」があってはじめて日本手話、日本語での指導が可能になるのです。
これは、日常生活から国語算数社会理科などの教科まで全般的に言えることだと思います。
それでは、キーノートから一部スライドを引用したいと思います。
1)「概念形成」編
「予測」能力を高めるために次のイラストをみて、次に何が起こるか予想してみてください。
注意:それぞれのイラストにはコメントをつけておりますが、クラスでは先生からの言葉かけは一切しません。画像を見て、そこにある手がかりをもとに、子どもが自分で次に何が起こるのかを予想するのです。
テクテク歩いていると…?

綺麗な海だ!ジャンプしちゃおう!

ゴミがたまってきたな、そろそろ捨てよう。どちらのゴミ箱にいれる?

何かが落ちてる!

子どもたちに、それぞれの顔に表情を描いてもらうのもいいかもしれません。
こちらは短編動画です。
家に着いた!…あれっ?
おいしい!おいしい!
宿題(assignment #5)の締め切りが6月29日だけれど…?
ろう文化に関する動画を作るのもいいかもしれません。
例えば、3人暮らしのデフファミリーの家。
Aさんがトイレに行くと、ドアが閉まっている。でも、両親はリビングルームでくつろいでいる…最後にAさんの怪訝な顔のアップを入れる、など。
(ろう文化では、使ってないトイレは開けっ放しにします。)
上のようなイラストや短編動画を通して、子どもたちと「何が起こるのか、どうすればいいのか/どうすればよかったのか」などといった話し合い活動ができると思います。
2)日本手話編
次の動画をみて、次に何が起こるか予想してみてください。
こちらの動画のように、始終日本手話だけというのもありですが、イラストや日本語と組み合わせてみるのもいいかもしれません。
例えばこういう風に。
正しいのはどれか予想してみてください。
イラストのような状態に雪だるまがなるときは、どんなとき?
3)日本語編
次の文をみて、次に何が起こるか/もっとも当てはまるのはどれか 予想してみてください。
同じ気持ちになったことはありますか。

単語にとらわれずに、文脈をよくみないといけませんね。

赤い風船!ほしい!でも、ちょっとまって。

遊びたいけど、それなら仕方がないね。

とある映画を思い出してしまいます…。でもここは因果関係に注目。

自由に「?」内のセリフを書いてもらうのもいいかもしれません。でも、縛り(=手がかり)があることには気をつけて。

以上、「概念形成→日本手話→日本語」の順に例を載せました。
今回紹介した教材は、わたしが今まで作った中でも大好きな教材です。
アメリカに来てから、ASLと英語という第三、四言語の生活のなかにいます。なるほどクラスから日常生活全般において「意図」を掴むのが、日本にいるよりも難しくなってきました。たまに、的を外れた発言、とんちな行動をすることも…。
そこで周りがわたしをどう思うか。
「ASL、英語ができない」と見るか。
「その人には十分思考力があって、日本手話、日本語ができる。いまは第三、四言語でチャレンジしている」と見るか。
考える時間があれば、情報に完全にアクセスできれば、と悔しいと思ったことは数え切れません。わたしは ろう なので、情報弱者という面で日本にいる間も悔しいと思ったことはたくさんあります。
ろうの子どもたちもそうではないでしょうか。圧倒的な日本語で埋め尽くされている教科書と、話し言葉の日本語には、十分アクセスできているのでしょうか。そこに子どものレベルに合わせた「推測」するための手がかりはあるのでしょうか。
「概念形成→言語」は幼児教育で大事にされていますよね。十分に情報にアクセスできる状態で、今までの経験から手がかりを探し出していくことで、子どもの思考力と認知能力が育っていく。とても大切なことです。日本手話と日本語どちらか、ではなくどちらも、とはこういうことです。これがバイリンガル教育の本質かな、と思っております。
長くなりました。今回紹介した教材、なにかの役に立てればこの上なく嬉しいです。
今月末には、テネシーろう学校に一週間ほど実習に行きます。今回は小学部の理科と英語(書き)の授業をもつことになりました。どんな子どもたちに会えるか今から楽しみです。
それではまた翌月にお会いしましょう。
「Time flies so fast!!!」
時間がジャンプするようにどんどん過ぎ去っていきます。課題の山で先の見えなかったトンネルが今や前方から光が差し込んできており、もうすぐ今学期が終わるのだなとじみじみと感じております。
10月はプロジェクト、研究、宿泊学習などで息つく間もなく忙しかったのですが、どれも最後のまとめを作っており、まだ報告できる段階ではありません。なので、今月は以前に作った教材を紹介したいと思います。この教材には、ボストン大学のバイリンガル教育の方向性がくっきり表れています。そちらも合わせて報告したいと思います。
その教材とは…?
スバリ、子どもの「予測」能力を強化するものです。
授業で、ろうの子どもたちがときどき次に何が起こるのかを予測するのに苦戦していることがあります。
例えば国語の授業では…

こちら、ごんぎつねの最後のシーンです。
「兵十はどんな気持ちになったのか?」
「ごんはどんな気持ちでうなづいたのか?」
日本語ネイティブでもかなり難しい問題だと思います。
長い日本語文を読み解き、登場人物の心情の動きを追いかけ、そしてこの考察を熟考するには相当な日本語の力が必要でしょう。また、物語の中から因果関係を読み解けるようにならなければなりません。
今回の教材は、因果関係を読み解く、つまりろうの子どもたちの「予測」能力を強化するためのものです。また、予測した理由(つまり、手がかりは何だったのか)を子どもたちが説明できるようにする、というねらいがあります。
8月の生活記録で少し触れましたが、ボストン大学では指導の際に
「概念形成→日本手話→日本語」を意識します。教材作成の時もしかりです。
例えば「りんご」という単語を教えたいときに、日本手話や日本語でいくら説明しても、概念「
これは、日常生活から国語算数社会理科などの教科まで全般的に言えることだと思います。
それでは、キーノートから一部スライドを引用したいと思います。
1)「概念形成」編
「予測」能力を高めるために次のイラストをみて、次に何が起こるか予想してみてください。
注意:それぞれのイラストにはコメントをつけておりますが、クラスでは先生からの言葉かけは一切しません。画像を見て、そこにある手がかりをもとに、子どもが自分で次に何が起こるのかを予想するのです。
テクテク歩いていると…?

綺麗な海だ!ジャンプしちゃおう!

ゴミがたまってきたな、そろそろ捨てよう。どちらのゴミ箱にいれる?

何かが落ちてる!

子どもたちに、それぞれの顔に表情を描いてもらうのもいいかもしれません。
こちらは短編動画です。
家に着いた!…あれっ?
おいしい!おいしい!
宿題(assignment #5)の締め切りが6月29日だけれど…?
ろう文化に関する動画を作るのもいいかもしれません。
例えば、3人暮らしのデフファミリーの家。
Aさんがトイレに行くと、ドアが閉まっている。でも、両親はリビングルームでくつろいでいる…最後にAさんの怪訝な顔のアップを入れる、など。
(ろう文化では、使ってないトイレは開けっ放しにします。)
上のようなイラストや短編動画を通して、子どもたちと「何が起こるのか、どうすればいいのか/どうすればよかったのか」などといった話し合い活動ができると思います。
2)日本手話編
次の動画をみて、次に何が起こるか予想してみてください。
こちらの動画のように、始終日本手話だけというのもありですが、イラストや日本語と組み合わせてみるのもいいかもしれません。
例えばこういう風に。
正しいのはどれか予想してみてください。
イラストのような状態に雪だるまがなるときは、どんなとき?
3)日本語編
次の文をみて、次に何が起こるか/もっとも当てはまるのはどれか 予想してみてください。
同じ気持ちになったことはありますか。

単語にとらわれずに、文脈をよくみないといけませんね。

赤い風船!ほしい!でも、ちょっとまって。

遊びたいけど、それなら仕方がないね。

とある映画を思い出してしまいます…。でもここは因果関係に注目。

自由に「?」内のセリフを書いてもらうのもいいかもしれません。でも、縛り(=手がかり)があることには気をつけて。

以上、「概念形成→日本手話→日本語」の順に例を載せました。
今回紹介した教材は、わたしが今まで作った中でも大好きな教材です。
アメリカに来てから、ASLと英語という第三、四言語の生活のなかにいます。なるほどクラスから日常生活全般において「意図」を掴むのが、日本にいるよりも難しくなってきました。たまに、的を外れた発言、とんちな行動をすることも…。
そこで周りがわたしをどう思うか。
「ASL、英語ができない」と見るか。
「その人には十分思考力があって、日本手話、日本語ができる。いまは第三、四言語でチャレンジしている」と見るか。
考える時間があれば、情報に完全にアクセスできれば、と悔しいと思ったことは数え切れません。わたしは ろう なので、情報弱者という面で日本にいる間も悔しいと思ったことはたくさんあります。
ろうの子どもたちもそうではないでしょうか。圧倒的な日本語で埋め尽くされている教科書と、話し言葉の日本語には、十分アクセスできているのでしょうか。そこに子どものレベルに合わせた「推測」するための手がかりはあるのでしょうか。
「概念形成→言語」は幼児教育で大事にされていますよね。十分に情報にアクセスできる状態で、今までの経験から手がかりを探し出していくことで、子どもの思考力と認知能力が育っていく。とても大切なことです。日本手話と日本語どちらか、ではなくどちらも、とはこういうことです。これがバイリンガル教育の本質かな、と思っております。
長くなりました。今回紹介した教材、なにかの役に立てればこの上なく嬉しいです。
今月末には、テネシーろう学校に一週間ほど実習に行きます。今回は小学部の理科と英語(書き)の授業をもつことになりました。どんな子どもたちに会えるか今から楽しみです。
それではまた翌月にお会いしましょう。




