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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2019年2月生活記録 【第13期 山田茉侑】[2019年03月08日(Fri)]
ここはどこでしょう

diamond crossing.jpg

ダイヤモンドクロッシング(シカゴ)。

ボストンのスノーストームから逃げるように、シカゴにきております。しかし、ボストンの天気を持ってきてしまったようで、この週の気温はマイナス15度以下まで下がり、外を歩くのも大変でした。

シカゴでは道ゆく人に話しかけるとフレンドリーに返ってき、それと同時にホームレスの方たちにもよく話しかけられました(笑)。「I’m Deaf」といって「Sorry!」と言われない街なのです。一期一会の関係であるにもかかわらず、車両さんやお店の人はわたしがろうであることが分かると、バックヤードに戻ってASLを覚えてきて何度も声をかけてくださりました!!良くも悪くも人間のあたたかさを思い出させてくれます。

さて、なぜシカゴにいるのかというと、今年もEHDI meeting (Early Hearing Detection Intervention:ろう難聴早期発見/教育学会)に参加してきました。
こちらの学会、昔から聴覚口話主義で有名です。
最初に、スペイン語と英語を流暢に話し分ける人工内耳をつけた5歳児の動画が映し出されたときは、学会を間違えたのかなと思ってしまいました。また、なぜこのことが可能になったのかを話し合ったときに、「数年先を見越した計画、家庭との密接な連携、トレーニング」という意見しか出なかったときは、果たしてこの中に対等なろうの友達を持つ者が何人ほどいるのだろうか…と心配になってしまいました。
*れっきとした、ろう難聴早期発見/教育学会です。

また、昨年度はろう者によるEHDIのパロディー団体EHDI (Early Healthy Deaf Identity) が隣接するビルを使ってEHDIに対抗するかのように講演をしていました。
(Youtubeで昨年度の講演内容をチェックできます。英語字幕あり。
https://www.youtube.com/channel/UC1OmiaGqEtyyRiL3JxeSYcw

アメリカでは、このようなパロディー団体がたくさんあります。
今年はそのような団体による対抗講演がなかったためか、参加者の中でろう者が圧倒的に少なく、どこかしこもずっと音声言語が飛び交っておりました。Incident Leaning Environment (聴者は廊下を歩くだけで音声を通して様々な情報を得られます。手話だったらろう者も自然と情報を手に入れることができますね。)とはかけ離れた空間で、アメリカにきてこの世から音を消し去りたいと初めて思いました。

しかし、今年この学会に参加してEHDIの変わり目をしっかりと感じとりました。

パネルディスカッションでは、同い年ぐらいの勇ましいろう者をこの目で見ました。対応手話で育ったギャローデット大学3年生です。
「わたしはインテグレーションをし、幼いごろから対応手話で育ってきました。しかし、わたしの世界にはずっと何かが欠落していました。初めてASLの世界にきたとき、ろうとしてのアイデンティティをずっと探し求めていたことに気づきました。どうかおねがいです、わたしを子ども扱いしないでください。どうかわたしをコントロールしようとしないでください。わたしも意見を言えます。なにか必要だと思ったとき、そのときはお願いをすることができます。」
多くのろう者の複雑な思いや願いがこの言葉に詰まっているでしょう。
その隣にいた他のパネラー(保護者やろう教育関係者)も、聴者ですがずっとASLで堂々と意見を言っていたのは感動しました。

また、今回はASL (American Sign Language)やバイリンガル教育に関する講演を中心に見回りましたが、どの講演も満席で、後ろには参観日の保護者のようにズラーっと多くの人が立ち並んでいました。そして、ポスター発表は、なんとカリフォルニア州のバイリンガル教育の研究が優勝したのです!!!現地にいるわたしよりも先に、ボストン大学(アメリカの中でも最もバイリンガル教育で有名です)関係者の間で情報が流れたので、そのぐらい大きな一歩であることは間違いありません。

こちら、その時のポスターです。
11月の生活記録でLead-K について触れたかと思います。Lead-Kとは、0-5歳児の言語発達の評価を義務付ける法律を推進する運動のことです。カリフォルニア州では、2015年度にその法律を最初にスタートさせました。その結果、2015年秋には53.1%のお子さんが言語剥奪の危機にあったのが、2016年春には44.6%に減少したのです。そして、ECE(乳幼児教育相談から幼稚部まで)からCSD(カリフォルニア州ろう学校)に通っている子は、途中で転入した子どもよりも算数/読み/書きの面で高スコアを取ることが研究で判明したのです。

poster lead-k.jpg

ポスターの中心にある言葉:「話す(speech)こと」は言語ではないのです。それは確かに大事かもしれません。しかし、「話す(speech)こと」は音声で単語を話すための「ツール」にすぎないのです。

また、ここで一番大事な言葉です。

ENglish and asl.jpg

「ASLと英語
もしも、ろう難聴児がASLにアクセスできなかったら、いくらかの言語剥奪につながりやすくなります。我々はASL“だけ”を、“話し言葉の代わりに”ASLを、“話し言葉を排除して”ASL を、とは言っていないのです。ASL“と”と言い続けているのです。」

時代は確実に変わりつつあります。
誰もが、ろう児の健やかな成長にはASLが必要不可欠だと心のどこかで思っているのでしょう。それが今回EHDIのポスター発表の優勝という形として現れたのかなと思いました。

ちなみに、ASLと日本手話は書記言葉の獲得を妨げません。

Screen Shot 2019-03-07 at 8.22.50 PM.png

こちらの写真は、左からネィティブ英語スピーカー、ネィティブASLユーザー、ネィティブ他国の言語ユーザー(スペイン語など)、5歳児までに母国語を獲得できなかった者の、英語のレベルをグラフにしたものです。ASLは書記言葉の獲得を妨げず、むしろ第一言語の基盤が、第二言語の習得の強力な一助になることがこのグラフからわかりますね。

そして、音声言語で育てたものの途中でASLに切り替えた場合の研究結果もシェアします。

sign language.png

左から、ネィティブASLユーザー、5−7歳からASLを獲得した者、8−13歳からASLを獲得した者の、それぞれのASLのシンタックス運用(文法)のレベルを表したグラフです。
このグラフから、ASLはれっきとした言語であることがわかりますね。そして、後から音声言語からASLに切り替えたとしても、言語獲得期を逃した後ではネィティブのようにASLを使うことは難しいことがわかります。

(上の研究結果はこちらの論文を参考にしました。RACHEL, Mayberry I. “Applied Psycholinguistics .” When Timing Is Everything: Age of First-Language Acquisition Effects on Second-Language Learning, vol. 28, 2007, pp. 537–549.)


わたしがASLネイティブ同士の会話にて何度も聞き直し、そしてネイティブレベルのASLを未だ習得できないのと同じように、言語脳が閉じた後ではネィティブレベルの言語を獲得するのは非常に難しいです。ですが、幼いごろに強力な母語を獲得していれば、思考し、表現し、周囲と繋がり、コミュニケーションを取り、創造していくための一助になるでしょう。

今回の参加は、ボストン大学で学んだことと結びつけながら、より深く、そして現場の意見を伺うことができた、収穫の多いものとなりました。

それでは翌月またお会いしましょう。
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