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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2018年11月生活記録 【第13期生 山田茉侑】[2018年12月01日(Sat)]
みなさまこんにちは。
ボストンで一番美しい紅葉の季節は、木枯しによってすっかり一掃されてしまいました。

秋景色.jpg
こちらの紅葉が、5日後にはこうなりました。


景色.jpg
上の写真は、ボストン郊外にある公園で撮った湖です。見渡す限り静かな視界に、もうすっかり冬になってしまったと心寂しさを感じます。



さて、今月は「Lead-K」について紹介したいと思います。今月の流れは、以下のようになります。

⑴ 前置き アメリカのろう教育の歴史を振り返って
⑵ Lead-Kとは
⑶ Lead-Kの課題と戒め
⑷ Lead-Kはバイアスがあるのかどうか

⑴ 前置き:アメリカのろう教育の歴史を振り返って
これまでのろう教育の歴史を振り返ってみると、アメリカは手話→口話→手話→口話と移り変わってきています。「ふりこ」、その様にろう教育の行く末を形容されています。

naoshi.png

そうです、現在はより口話教育が強くなっております。実は、全米の98%のろうの子どもは、手話による教育を受けておりません。そのような子たちの言語は正常の発達過程に沿っているかというと、そうではありません。大幅に遅れていることも珍しくありません。また、ろう学校でも、5歳児の子どもの言語がわずかなものだということもよくある話です。
そのような中、「Lead-K」のキャンペーン運動が始まりました。「Lead-K」とは、日本で前からホットな「手話言語条例」制定推進運動のようなものです。
こちらの運動が始まってから、もしかしたら、ふりこの向きが手話に向くのではないかと全米でも注目されており、最近クラスでも取り上げられました。


⑵ Lead―Kとは
(Lead-K のウェブサイトのURL: http://www.lead-k.org
(こちらで、Lead-Kの方針や現在の状況が詳しく紹介されてます。http://www.lead-k.org/media/
「Lead-K :Language Equality and Acquisition for Deaf Kids」とはなんでしょうか。Kindergarten (5歳児クラス) に入るまでに、子どもたちが5歳児レベルの言語発達に辿り着いている状態にすることを目標に、「州全体で0−5歳児の英語、ASLの発達テストを義務付ける法律」を推進する運動のことです。
ASL、英語どちらも同じ言語発達過程を持ちます。しかし今までは英語、ASLどちらにおいても発達テストを行うかどうかは各機関の判断に委ねられておりました。つまり、子どものASLや英語のレベルが年齢同等なのか判断できないまま、課題や解決方法を話し合うこともできず言語が大幅に遅れたまま5歳に達してしまうという現状にありました。
また、先生が言語の遅れについて保護者に話しても目に見える物差しがないため、なかなか信じてもらえないこともあったそうです。例えば、保護者にとっては、子どもと正常にコミュニケーションが取れていたつもりでも、実は単語だけのやりとりだった、というケースもよくあるそうです。
それが、発達テストを義務付けることで、子どもの言語のレベルが視覚化されます。そして、現在の課題が洗い出され、これからどうするかという将来のことを話し合えるようになります。例えば口話で育てたものの、テスト結果を見てコミュニケーション手段をASLに切り替えるなどといった判断が早いうちからできるようになります。
ちなみに、テストはASLと英語両方やらなければならないという縛りはなく、どちらか一方のみのテストでも可能だそうです。
現在はカリフォルニア州を含む7つの州で評価を義務付ける法律が制定されました。(https://www.livebinders.com/play/play?id=2106355
将来はIDEA(Individuals with Disabilities Education Act)という全米の法律レベルで制定されることを目標にしているそうです。


  ⑶「Lead-K」の課題と戒め
現在2つの課題があります。
1) 英語の発達リストとテスト方法は全米で共通のものが使われている一方、ASLは発達リストがあっても、共通のテスト方法が確立されていない。

例えば
sマイルストン.png

子どものASLの表出を一からカウントしてテストする先生もいれば、テストをせず自己判断でチェックを入れる先生もいます。また、保護者の「大丈夫です、500語あります」という言葉に従ってチェックを入れる先生もいます。つまり、各個人の判断によって評価が委ねられてしまっています。


2) ASLのテストをする先生が、必ずしもASLができるとは限らない。
例えば、手話の音韻の一つである手の形が間違っていても、オーケーを出す先生がいるのです。2歳であれば、手の形が間違っていても問題はないのですが、5歳になるとそそうでもありません。手話に長けていないと手話の音韻の評価は難しいものがあります。


もしも、日本でLead-Kのような言語発達の評価を義務付ける法律を推進する場合は、アメリカでの課題を参考にする必要があります。日本手話の同一した発達リストとテスト方法を確立させ、かつ日本手話の評価に関しては専門家を呼ぶか、テストを行う者の条件を加える必要があります。


⑸ Lead-Kはバイアスがあるのかどうか

クラスで、Lead-KはASLを持ち上げている、バイアスがあるのではないか、と話し合いました。確かに、Lead-Kのメンバーは強力なろう者のリーダーで固められています。また、メンバーの思惑が感じ取れるときもあります。ですが、英語至上主義だった中ようやくろうの子どもの言語であるASLが英語と同じように一つの言語として並んでいるのです。そこにバイアスがあると考えること自体が英語を持ち上げるバイアスとして存在するのかなと思いました。

長くなりましたが、Lead-K、とても興味深い法律ですね。発達リストにそってテストができると、子どもの言語のレベルが目に見える形で現れるので、聞こえる保護者たちも安心して日本手話などで子育てができるようになるのかな、と思いました。それでは翌月またお会いしましょう。
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https://blog.canpan.info/deaf-ryugaku/archive/1199
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