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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2018年9月生活記録【第13期生 山田茉侑】[2018年10月08日(Mon)]
みなさまこんにちは。
毎日のようにあるホームワークやプロジェクトを追いかけているうちに、あっという間に10月になりました。美しい街ボストンで太陽が照らし出す日々は、引っ越して数日で終わり、現在はどんより曇りの狭間にちょこっと青空が顔を覗かせる程度です。カリフォルニアのつき刺すような日差しが懐かしくなってきました。



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こちらは、Boston Public Libraryです。夜の授業まで予定がないときはここで本を開いで勉強しております。飲食禁止と、居眠りのできない雰囲気は集中して勉強するのに助かっております。

今回は、ボストン大学の情報保障と今学期に受講しているクラスについて紹介したいと思います。

◆情報保障について
ボストン大学では、手話通訳からPCテイク、ノート提供まで様々な形の情報保障を受けられます。今回驚いたのは、CDI(ろう者通訳)を受けられることです。CDIとは、ネイティブのASLユーザー、つまり手話通訳の資格を保有するろう者が、主にろう者や盲ろう者のために通訳することです(聴者や講演者のための通訳でもありますね)。
わたしはろうの留学生ということで、ネイティブのASL(アメリカ手話)やSEE(対応手話)へのアクセスに困難を伴います。なので、現在全ての授業に2人のCDIをつけてもらいました。
クラスで話されているASLの80-90%は読み取れるけど、理解の鍵になるその10-20%がどうしてもわからない・・・、その勝負の10-20%で授業全体がわかるかわからないかの分かれ道になる、そういうところを、スライドごとに、また先生の話が変わるごとに話のポイントとして通訳してもらっております。また、アメリカ人であればわかるような一般常識、例えば派手な建物の写真がスライドに表示されたときに、カジノの中でも有名な建物であることなど、情報を膨らませて通訳してもらっております。翻訳のような感じです。
ちなみに、友達全員には事情を話しており、全員がわかるような手話を意識していただいております。ただ、見えているはずなのに、見えていなかった取りこぼしの情報が常にあるので、そういう面でもCDIの存在は非常に助かっております。



◆受講しているクラスについて
現在は5つのクラス+ろう学校でのインターンを受けております。
1. Expressive/ Receptive Vocal Processes (聴覚障害と病理)
2. Elementary Mathematics 1 (初等科算数)
3. Instructional Strategies (指導戦略)
4. Psychology and the Deaf world (ろうと心理)
5. Language and the Deaf Child (ろう児童生徒と言語)
6. Internship (インターンシップ)

1. Expressive/ Receptive Vocal Processes (聴覚障害と病理)
こちらは、現役の言語聴覚士の方2名から毎週特別講演という形で授業を受けております。現場の話からはじまり、聴こえ方や手話の構成など幅広く扱っております。

2. Elementary Mathematics 1 (初等科算数)
こちらは、一般科目です。数学の概念の理解の一歩となる10進法を、4進法に置き換えて10進法のシステムを改めて考えたりしました。例えば、わたしたちは1・2・3・4・5・6・7・8・9・10・11・・・と数え、それが当たり前の中で生きております。では4進法だとどうでしょうか。1・2・3・10・11・12・13・20・・・ややこしいですね。脇道にそれそうなので、この話は省略します。この話のポイントは、10進法のようにシンプルに1〜10で表現する数え方であっても、子どもたちにとっては理解が難しい、ということです。それを大人でも混乱する4進法に置き換えて、子どもの気持ちになり、どうやって子どもに数を教えるのかを改めて考えました。
ちなみに、このクラスで面白いと思ったことがあります。
ホームサイナー(言語を持たず、家族間のみで通じるサインで会話をする人たち)のうち、数というものを知らない人は、数えることができるだろうか、という実験検証ビデオを見ました。

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紙には15匹のお魚がおります。一人の男性が一生懸命お魚を数えます・・・が、彼は「12」と答えるのでした。もしかしたら、お魚が不規則に並んでいるので、それが混乱の原因になったのではないか、という意見が出たので、もう一つ別のビデオを見ました。
その男性の手首に軽く指を「4回」叩きます。同じように4回叩き返すようにいうと、その男性は「7回」叩いたのです。
つまり、数の概念がないと、数えることが難しくなるということですね。
また、数というものは実は難しく、1〜100まで数えられる7歳ぐらいの子どもであっても、「数」と「全部でいくつあるのか」が結びついていないことも多いそうです。例えば、赤いブロック7個、青いブロック3個を合わせて「1・2・3・・・・9・10」と数えていたにもかかわらず、全部でいくつあったかを聞くと「12」「29」と答えるそうです。最後の数字が、全体の数になることと結びついていないのです。意外な盲点ですね。現在インターンで5歳児クラスを見ておりますが、そこでは今週から2〜50の数字のASLを教えはじめたばかりです。ろうの子どもに、どうやって数字と概念を結びつけて教えるのか、これからしっかり見てきたいと思います。


3. Instructional Strategies (指導戦略)
このクラスは、わたしの一番のお気に入りのクラスです。前月の記事で「ASLの音韻分析が英語獲得に役に立つ」というのを軽く取り上げましたが、なるほどその答えがわかりました。長くなってしまいますので、近いうちにこのトピックに焦点を当てて報告したいと思います。


4. Psychology and the Deaf world (ろうと心理)
心理学を様々な焦点から学んでおります。現在は、アイデンティティ形成について学んでおります。「The colorizer and colorized」という抑圧者と被抑圧者について取り上げている本や、「The mismeasure of man」という、一昔前頭蓋骨の大きさで人類の優劣を測り、白人が一番優れていると主張していた時代のことを取り上げた本(実は頭蓋骨の大きさを人為的に選択していたというオチ・・・)を読みながら、ろう者の抑圧状況とアイデンティティ形成について学んだばかりです。


5. Language and the Deaf Child (ろう児童生徒と言語)
この授業では、毎週2つの論文を読んで、その論文テーマに合ったプレゼンを交代で行っております。前週は、「Language deprivation(言語剥奪)」について話し合いました。ろう教育にとって、最大の課題は書き言葉の獲得ですね。では、なぜ「言語剥奪」というのか。ろうの子どもにとって最も自然にアクセスできる言語は、手話です。その手話で育てた場合、確実に第一言語を獲得できます。しかし、手話が第一言語ではない聞こえる親にとって、手話の環境を作り出すことは、とても難しいことです。そのため、英語の話し言葉だけで育て、その英語が十分子どもの中に入っていなかった場合(つまり、英語に十分アクセスできていなかった場合)、第一言語として英語どころか手話までも獲得することができなくなってしまいます。そして、手話を与えられないまま書き言葉も獲得できず、結果的に第一言語が脆弱になってしまうことを「言語剥奪」といいます。
ちなみに、第一言語が脆弱だと、第二言語の獲得も難しくなります。つまり、後になって手話を与えたとしても、手話をネイティブレベルのように獲得できるかどうかは怪しいということです。
先週は、「言語剥奪」の概念を作り出したろう者の医師であるHall先生とテレビ電話で繋がり、質問する機会をいただきました。基本的に、9歳までであれば第一言語を獲得できますが、5歳までの脳が言語獲得のピークになります。Hall先生は最初は話し言葉のみで育ったそうですが、なかなか英語が出てこないことを心配した両親が5歳になった頃にASLに切り替えたそうです。第一言語としてASLを獲得した後に、英語を第二言語として獲得し「言語剥奪」を逃れたとおっしゃっておりました。
ちなみに、対応手話で育てた場合「言語剥奪」を防げるかどうか質問しましたが、微妙なお返事をいただきました。なぜなら、対応手話は、日本語や英語に手話の単語を当てはめて表す”方法”(method)であって、そこにある言語は、手話ではなくあくまで日本語、英語だからです。
そして、話し言葉の英語、日本語を読み取ることはろう者にとってかなり難しいことです。たとえそこに、補助手段として手話の単語を当てはめて話をしたとしても、その単語から話し言葉を類推することはかなり頭を使います。
実は、日々SEE(英語の対応手話)が全くといって読み取れず、苦戦しています。対応手話が英語の勉強になるかと思いきや、内容の理解の時点でかなり怪しいものがあります。そういう面も考えると、小さい子どもたちが対応手話を十分に理解できるかどうかは怪しいと思います。
つまり、補助として手話単語を添えても、そもそもその話し言葉(英語、日本語)に十分アクセスできていなければ、第一言語としての獲得は難しくなります。大事なことは、「その言語に十分にアクセスできているかどうか」です。
ちなみに、アメリカに来てから手話で育ち英語の音韻を持たないながらも第二言語として高度なレベルの英語を獲得したたくさんの友人たちと出会ってきました。第一言語としてASLをしっかり獲得しているかどうかが一つのキーですね(あくまでも、一つのキーです。どうやって書き言葉に繋げるかは、これからの課題です。)


※対応手話と日本手話の違いについて
日本語「車がゆっくりとハンプの上を通り、右に曲がった」
これを対応手話(話し言葉としての日本語+手話単語)で表すと、「車/ゆっくり/走る ハンプ/上/通る 右/曲がる/た(完了)」話を区切ってわかりやすく表しても、思いつくだけで5〜10ほどの手話の単語が必要です。長すぎて結局何を言っていたのかを忘れてしまいますね。これを言語としての日本手話で表すと、一発で表現できます。詳しくはろう者に尋ねてみてください。
上の文章を日本語で聞いた場合、すんなりと意味がわかります。日本手話の表現もすんなり頭に入ると思います。しかし、対応手話になった途端、何を言いたいのかわからなくなってしまいます。
つまり、日本語と日本手話は全く違う言語であり、かつ対応手話は話し言葉としての日本語に手話単語を並べただけで、分かりやすくなっているのかどうかというと、そうでもないということです。


6. Internship (インターンシップ)
毎週月曜日に、The Leaning Center for the Deaf (https://www.tlcdeaf.org)で修行をさせていただいております。基本的に小〜高等部のクラスに配属する決まりになっているのですが、交渉したところ熱意を感じ取ってくださったのか5歳児クラスと、乳幼児教育相談に配属してもらうことができました。乳幼児教育相談のHome visit(家庭訪問)もぜひとおっしゃってくださり、来週から参加することになりました。
こちらの学校、ボストン大学の卒業生が多く働いておりますので、クラスで学んだことをみなさんうまく使っております。そのため、学校で理論を学び、その応用として現場で実践を見ることができている、と感じております。詳しくはInstructional Strategies (指導戦略)のクラスの紹介の時に合わせて報告したいと思います。


それでは、翌月にまたお会いしましょう。
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