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聴覚障害者留学
 
 このブログは、2004年度より特定非営利活動法人(NPO)日本ASL協会が日本財団の助成の下実施しております「日本財団聴覚障害者海外奨学金事業」の奨学生がアメリカ留学の様子および帰国後の活動などについてお届けするものです。
 コメントでいただくご質問はブログに書かれている内容の範囲のみでお願いします。それ以外の留学に関するご質問は日本ASL協会の留学担当にお問い合わせ下さい。
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2018年2月生活記録 第11期生 <牧谷陽平>[2018年02月28日(Wed)]
2月はRITで過ごす最後の月となります

2月は自分の勉強と,アメリカにいるろう学生のサポートの両立をしました。今回は,このろう学生のサポートの実情を話しますね。私はこちらで週に数時間,大学院生がするアシスタントとして,何らかの仕事をしなければならず,数学の個別指導の仕事を2016年秋学期からしています。ちょっと愚痴が出るかもですが,これも含めて,私から世界にいるろうの子どもたちへのメッセージです。

2016年9月,アメリカで最初の仕事,そのためには Social Security Number (日本でいう社会保障番号) を申請し,やっとの思いで番号を獲得し,アメリカで数学を教えられることにワクワクしていました。学生たちは高校の数学の復習から大学数学を勉強していて,躓いたところを聞きに来るんだな,と最初は思っていました。しかし,この仕事を始めていろんな衝撃的なことを経験してきました。まず最初にびっくりした事件が,次のようなことです:とある学生が数学の問題をこなしていたのですが,そこには電卓が…。34.1203 × (-0.0341) や e^(2.002) などの複雑な計算を簡潔にするために使っているんだろうなと思っていたら,そこには
14 - 8

という式しかありません。「あれっ?」と思いました。ここは小学校ではないですよね?りっぱな大学ですよね?と自分に言い聞かせました。いやいや,この式ではなく,前の複雑な問題を電卓を使って解いて,電卓を机の上に置いたままにしているんだろうと思っていたのですが,その学生さんは上のような小学1年生がする計算を,電卓をどんどん使っていっていました。。。

ぎょえーーー!! 小学1年生の計算も暗算でできない人が,ここにいるのか!? これは…やはり1人か2人とかの人だろうと再び自分に言い聞かせていました。しかし,別の日にこの仕事の部屋に入ると,5〜7人の学生が座っていて,全員が,電卓を手元に置いて,積極的に使って数学の問題を解いていました。問題を見ると,小学校で習う足し算,2桁の数の掛け算から,高校で習う多項式や微分積分などを,電卓を使って解いていました…。日本では物理や化学を除いて,電卓を使うことは許されていなくて,自分の力で複雑な計算も筆算を用いて頑張って計算をしているのに…。この光景はさすがに私もショックでした。最初は目をつぶって電卓を使うのを許していました。しかし,仕事をしていくにつれて,計算ができないと電卓を用いてラクしている姿がイラっとくるようになりました。また,高校の数学をしている学生さんが,微分や積分などの複雑な計算をして,答えに ¾ - 5/2 という分数が出てきた場合,それが自力でできなくて電卓で答えを出している姿にはさすがに呆れました。
やはり,ここに来る学生さんは雲泥の差があって,大学レベルの数学をしている人は電卓をほとんど使っていません。

とある日,聞こえる先生と一緒になって個別指導をしていたのですが,私の方針は電卓を使わせないと言ったら,その先生は「そんなことをしてはいけない!そんなことをすると,ろうの学生が,数学ができなくなる。数学で学ぶのは計算の技術ではなくて,何を学ぶか,が大事だ。電卓を使って層の学生さんたちの数学の学習意欲を削がないようにするのが,私たちの仕事である。RITの聞こえる先生たちは電卓を使うことを許していないが,それはかえって学生さんのやる気を削いでしまっている。それはあってはならない。少しでも学生さんの意欲を沸かせるようになってほしい」と言いました。しかし1年半もこの仕事をしていて思ったのは

1.繰り上りや繰り下がり,分数の計算もできない人が,微分や積分などの高度な内容を理解できるはずがない
2.電卓を使って教育していると,RITで聞こえる学生たちとともに学習するときに,電卓が使えなくなってクラスに合格しない
3.数学で基本的な計算が暗算でできるようになって,簡単な数の概念を学習していないと,数学の概念は身につかない。

このメッセージを言うのは甘いと思います。ろうを,聞こえる人と対等に教育したいのであれば,甘やかすやり方はしていけないと思います。数学の先生として素質を疑ったときでした。日本のろうの子どもたちよ,あなたが今,学校で電卓を使わないで暗算で計算して頑張っていることはとっても輝かしいことです。10年後,かならず,自分の糧になって生活を支えてくれるもとになります。今は我慢して,ひたすら,学ぶしかないんです。結果は後からかえってきます。

IMG_0518.JPG
<ここの大学には何回も注射しにいったのですが,絆創膏がなんとかわいらしい。
しかもおおざっぱな処置の仕方>


さらに別の日には,人工内耳を装着している人がこの部屋に来て,次のような会話をしました。
ある人「私はアメリカ手話が流暢に使えない。手指英語を使うんだ。アメリカでは英語が必須であるから,アメリカ手話言語よりも英語を学習するのが大事だ。手話を使っている人たちは英語を学習するのに苦戦している。しかも英語が身についていない。英語を学ばなかった人はどうなる?」
私『無理にそうする必要はないよ。あなたは自分が使いたいように手を使って話したらいい。でも手話言語がだめだ,というのはほかの人に絶対に言ってほしくない。なぜなら,手話言語を使う人は少数民族であり,いつか聞こえる人が私たちを抑圧するときが来た場合,手話言語をつぶしてしまうこともありえる。でも,ろうの人たちが英語を学習するのには手話言語が必ずいる。もし手話言語がなかったらろうはどんどん英語が身につかなくなってしまう。そうなったら “本当の終わり” だから,手話言語は守っていかなくてはならない』
と話しました。

この世の中には,ほんとうに “やっかい” な人たちがいる。私の中でいちばん “やっかい” な人は,聞こえる人ではない。聞こえにくい人たちで 「手話は学んでも意味がない。大事なのは日本語(英語)だ。なぜなら社会は日本語(英語)を使っているんだからな」と言う人たちである。彼らは聞こえる多人数民族の政権を後押しし,ろう社会という少数民族を抑圧する,”裏切者” だと私は長年の経験から学んだのだ。聞こえる人はろうたちのことをあまり知らないため, “ろう” の言うことを鵜呑みにしてしまう。そのろうの人が “見かけの” ろうの人であって中身が “聞こえる人” であると,どうなるかは,予測できるでしょう。[つまり『聞こえない』だけで,『ろう』ではない人はやっかい。『ろう』とは耳が聞こえにくいだけではなく,手話言語やろう交流の場の文化や考え方が身についている人のことをさします。]

IMG_0081.JPG
<対話分析のクラスで先生が「思い浮かべる世界 (Figured World)」で "食べ物" を題材にしたとき,
こんな食べ物を "食べ物だ" と言って,クラスの中で食べていました。
対話を分析するとき,自分の思い浮かべるものが固定観念になるので
それをきちんと理解したうえで,対話を分析するのが大事だとおっしゃっていました
私も食べましたが意外とおいしかったです>



また,他にも世界のいろんな情勢のことを話していたときに,
ある人「ロシアや中東アジアではLGBTQ*のことを排他している。これは素晴らしいことだ」
私「あなたはろうでしょ?」
ある人「うん,私はろうです」
私「ちょっと昔の時代,1960年ごろかな。。。そのときはろうが世界では異常な人たちだとみられていたんだ。その人たちとは話してはいけない,普通の人たちではないと言われて殴られたことがあったんだ。しかし今は,ろうの人たちが社会で生活しているのが当たり前のことになっている。ろうの人と友人になったり楽しく過ごしたりすることは,もう当たり前のことになった。つまり,あなたがLGBTQの人を殴ってもいいと言うのは,ろうの人を殴ってもいいということになる。なら,スターバックスに行って,聞こえる人が,あなたを殴るのは認めてもいいんでしょ?あなたは殴られてもかまわないんだよね?」
その人「いや。。。」
私『世界にはいろんな人がいる。その人を異常だからと言って排他してはいけない。そのままにしておけ!彼らには彼らの文化や生活がある。それを私たちは支えていき,一緒に生きていくのが大事なんだ』

このように,数学の個別の指導の場でもいろんなことが起きますが,数学の指導だけではなく,人間としての生き方を学ぶのもこの場で学べる醍醐味のひとつでもありますね。
と,今回の生活記録は異様に長くなりました…。ポイントをまとめると,

1. 電卓を使うのは計算技術が身についてから

2. 世界にはいろんな人がいる。どの人もその人の性格がある。LGBTQ*や,ろうのなどの少人数の人を拒むようなことは言ったり断言したりしてはならない

3. 手話言語は,英語や日本語に劣る言語だと言ってはならない


と,長くなったので,下の動画で脳を癒してくださいな〜


さて,3月からは遠く離れたところへ教育実習に行ってきます!どこへ行くかは次月の報告をおたのしみに!

*注:LGBTQという言い方はもう昔の言い方で,今ではSOGIという新しい言い方が広まっている
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https://blog.canpan.info/deaf-ryugaku/archive/1137
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