株式会社 損害保険ジャパン
「木を植える『人』を育てる。」をキーワードに、CSR推進の原動力となる全国の社員の人づくりに注力する。
私たちのCSRには、損害保険事業という本業の強みを社会的課題の解決に生かすために、社員一人ひとりが自ら考え、行動してステークホルダーの期待に応えていくプロセスが欠かせません。今後も、環境問題の解決に貢献する保険・金融・リスクマネジメントサービスの提供、全国各地で地域との協働による社員のボランティア活動、環境教育を軸としたNPOや市民とのネットワーク強化等に力を入れ、先駆的なCSRにチャレンジし続けていきます。
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常に半歩先を行くCSRを追求
創業1888年。日本最古の火災保険会社としてスタートしたこの企業は、国から正式認可された唯一の私設消防組としても活躍した。創業時に培われた「お客さま第一」の精神は、現在に至るまで脈々と受け継がれている。
この企業のCSRの取り組みは、1990年に国内金融機関初となる地球環境リスク・マネジメント室を設置したことに始まる。1993年からは「市民のための環境公開講座」をスタートし、「人」を育てるという同社のCSRの原点となった。
1997年にも国内金融機関初のISO14001(※1)を取得。常に半歩先を行くCSRを追求してきた。
2002年の合併を機に、ステークホルダー(※2)・ミーティングを開始し、「人間尊重」などを含むCSRの取り組みを本格化。2003年にはCSR・環境推進室に組織変更。更なるCSRの深化に取り組んでいる。
「市民のための環境公開講座」15周年記念シンポジウム(2007年12月 本社会議室)
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保険商品で環境問題に取り組む
この企業では、社内の省エネ活動や社員のボランティア活動、NPOとの協働などの活動に加え、損害保険会社だからこそ提供できる商品・サービスを開発することで、本業を通じた環境問題への取り組みにも力を入れている。
例えば、太陽光発電システムを購入する消費者に対して異常気象で日照時間が少ない場合に補償金を支払う「天候デリバティブ」を提供し、太陽光発電の導入を促進している。
今後は天候デリバティブの仕組みを使って、気候変動への適応策として発展途上国の農業を支援する保険機能も提供していく。
これは干ばつなどの異常気象による農業被害から地域の農家を守るために、雨量が一定の基準を下回った場合に補償金を支払うもの。今秋からタイでパイロット・プロジェクトを開始する予定だ。
また、環境に特に配慮した事業活動を行う企業に積極的に投資するエコファンド(投資信託)を1999年から提供。主力ファンドの純資産残高は約200億円(2008年7月末現在)、運用実績も好調に推移。現在は新たなエコファンドの開発も行っている。
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社長の「鶴の一声」で終わらないために
理解ある社長の決断でゴーサインが出たのに、その社長が退陣したために、CSR活動がしりすぼみになってしまった……。そんな事態を防ぐために、この企業では「人」づくりを意識し、「環境方針」の中でも全員参加、地道・継続、自主性を盛り込み、実行している。
1993年には全社員がメンバーになるボランティア組織「ちきゅうくらぶ」を設立し、全国の社員がそれぞれの地域に根ざしたボランティア活動を続けている。
2007年度は、大阪ぶなの森の保全活動や障がい者向けのパソコン教室の開催など、全国各地で294件の多種多様な活動が実施された。
大阪ぶなの森守ろう運動
また、毎月100円以上の希望額を「ちきゅうくらぶ」メンバーの給与から天引きして、ボランティア活動やNPO支援に役立てる「社会貢献ファンド」を2000年に開始。社員が自主企画したボランティア活動の支援やNPO団体への寄付などに使われている。
2007年度は5,807名の社員が参加し、1,500万円以上の資金が集まった。この資金の使いみちも社員有志で構成する委員会で決定されるという徹底振りだ。
さらに、多くの企業がCSRレポートの制作を外注する中、この企業ではすべての原稿を社員の手で執筆している。プロが書く文章に比べると、手づくりのゴツゴツした感じはあるが、各部門の社員110名以上が制作プロセスに関わることでCSRマインド醸成や社内浸透の面で効果があると考えている。
完成したCSRレポートはグループ全社員に配布され、職場ごとの勉強会も実施されている。
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変わり始めた社員の意識
この企業では、数年前に初めて障がい者雇用率をCSRレポートに掲載しようとした際、法定基準を達成していない状況の中で本当に掲載すべきかどうか、社内で大きな議論になった。
「法定雇用率を達成したら情報を出してもよいのでは」という担当部門と、「良いことだけ載せるためのレポートではない」というCSR部門が1ヶ月にわたり議論し、情報開示にこぎつけた。
また、2006年に保険金の一部支払い漏れによる行政処分を受けた際も、その内容をCSRレポートにどう書くかが議論になったが、経営企画部が詳細な情報をすべて開示することを申し出た。
これはその年のCSRレポートに反映された。CSRレポートの制作プロセスを通じてできるたけ多くの部門を巻き込んで様々なCSRの課題について対話を続けることによって、社員の意識は確実に変化している。
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CSR成功の鍵はステークホルダーの上手な巻き込み
この企業ではCSRレポート以外にも、ホームページ上にCSRの専用サイトを開設して市民からの質問に答えたり企業側からテーマを出して議論を活性化させたりしており、多様なコミュニケーション機会を通じて市民との対話を図っている。
また、環境分野での人材育成を目的とした財団を設立し、環境NPOに大学生・大学院生をインターンとして派遣するプログラムを実施。
8ヶ月間に及ぶインターン期間中、学生たちにはこの企業から時給800円の奨学金が支給されるが、これには上述の社員による「社会貢献ファンド」が活用されている。
学生たちは、長期間の活動を通じてNPOを深く理解することができる。NPO側は単に労働力が増えるだけでなく、活動に対する理解者が増えることにもなり、双方にとって効果の高いプログラムになっている。
インターンの学生たち
この企業ではモットーとする「木を植える『人』を育てる」の言葉どおり、持続可能な社会のために自ら考え行動する社員づくりを続けるとともに、市民、NPO、行政などあらゆるステークホルダーを巻き込んで、今後もCSRを経営に浸透させる取り組みを深めていく。
有限会社パワーボールからのコメント
「守り」ではなく「攻め」のCSRを実践している。常に半歩先のCSRを追及する姿からは、そんな印象を受けた。また、損害保険という目に見えにくい商品・サービスを提供している企業だからこそ、CSRにおいては常に目に見える活動を心がけているとも感じた。地球環境や社会を良くも悪くも変える力を持つのは「人」。そこに着目し、本業と社会貢献の両側面から「人」の意識に変化をもたらすことで、よりよい社会を一緒に築こうとする姿勢は特徴的だ。
(※1)環境に配慮した活動をしていると認められた組織に与えられる国際認証規格。
(※2)企業、行政、NPOなどの組織の行動に直接・間接的な利害関係を有する者。
(※3)法律や規則などの基本的なルールに従って活動を行うこと。