• もっと見る

CSOネットワークのブログ

一般財団法人CSOネットワークのブログです。
一人一人の尊厳が保障される公正な社会の実現に向けて、
持続可能な社会づくりの担い手をセクターを越えてつなぎ、
人々の参加を促すことを目的に活動しています。
評価事業、SDGs関連事業などについての記事を書いていきます。


事業のサクセス(成功)を描こう! [2018年12月03日(Mon)]

こんにちは。CSOネットワークの千葉です。


今回はCSOネットワークがDE(発展的評価)の実践で用いている『成功の状態(サクセスイメージ)』について紹介します。『伴走評価エキスパート育成講座』の指南役であるニュージーランドのDE実践者Kate McKegg(ケイト・マッケグ)氏に教えてもらったものです。評価実践者や財団などによって編み出されたようです。


まずはDE実践における『成功の状態(サクセスイメージ)』の位置付けを整理しましょう。「評価(evaluation)」の語源は、価値(value)を引き出す(ex+です。この言葉の通り、DEでは常に状況把握をおこないながら、事業が持つ価値をどんな観点で引き出せばよいかを考えます。『成功の状態(サクセスイメージ)』を描くことは、事業の価値を引き出す上での大きな一歩であり、次のステップである『評価設問(Evaluation Question)』の設定につながります。ここまでを整理すると、下図のようなイメージになります。

図1.png
▲状況を把握することと価値を引き出すことの関係▲

事業が置かれる環境が複雑であり次の一手が見えづらいとき、様々なステークホルダーがいて多様な意見があるとき、いきなり評価設計を行うことは困難を極めるでしょう。


一方でこの事業の『成功の状態(サクセスイメージ)』は状況や関係者の多さに限らずに描きやすいものです。このサクセスイメージが描けると、そこから評価目的や評価設問の設定まで下ろしやすくなります。


『成功の状態(サクセスイメージ)』について、

DE実践においては)何がおこったら成功なのかを第一に考えること。データを取ることは二の次である

McKegg氏は言います。


『成功の状態(サクセスイメージ)』は、事業や取り組みが最良の形でうまくいく場合はどんな状態かをイメージするものです。この『成功の状態(サクセスイメージ)』が描けると、たくさんのいいことが起こります。


例えば、

・この『成功の状態(サクセスイメージ)』を描く過程で、組織内部や重要なステークホルダーの相互理解が深まる

・設定した目標があっという間に無効になってしまう複雑な世界において、どの方向に進めばいいかの北極星となる

・対象事業にとって必要な『評価目的』の設定や、『評価設問(Evaluation Question)』づくりにつながる

などです。


『成功の状態(サクセスイメージ)』の見本として、McKegg氏が紹介してくれたニュージーランドでの学校教育に関するある取り組みの例を紹介しましょう。この地域では、白人系と先住民がうまく混ざり合わず、学校では先住民系の子供たちの学力が下がっていたそうです。これを解消するために事業のステークホルダーでプロジェクトのサクセスイメージを描いたら、以下のようになりました。


ニュージーランドでの学校教育に関するある取り組みのサクセスイメージ>

様々な民族の人が(この取り組みに)参加していること、男性も参加している、いろんな家族形態の家庭からの参加者があること、新しい人とこれまでの人たちがちゃんと混ざり合っている状態である


評価で、事業の価値を最大限引き出すために『成功の状態(サクセスイメージ)』をなるべく詳細に描くことが必要になります。具体的な描き方のポイントを紹介します。


1)事業のステークホルダーの中にある大切なことが反映されていること(ステークホルダー間で合意すること

2)話し合いや成功の姿のイラストを描くのみにとどまらず、出てきたことを言語化・テキスト化すること


の2点です。描き方は自由ですが、例えば関係者でありたい未来をイメージしながら「リッチピクチャー」を描くこと(その後言語化・テキスト化すること)、協働事業であればそれぞれの組織の究極的な姿を話し合い、それを統合することもできるかもしれません。


複雑な世界を想定しているDEでは、詳細な行動計画ではなく、『成功の状態(サクセスイメージ)』を描くことがとても大事で、これが大海原の航海における北極星のような役割を果たしてくれます。常に海面の状態が変化する航海において、このサクセスという北極星は事業者や評価者を正しい方向に導いてくれるでしょう。


さあ、みなさんも取り組んでみてください。


(*)図表の『3つの質問』や『システムマッピング』は、以下のブログを参照ください。

現実世界を『3つの質問』で捉えよう

https://blog.canpan.info/csonj/archive/25



現状をシステムで把握するシステムマップ

https://blog.canpan.info/csonj/archive/26


Posted by 長谷川 at 13:39 | この記事のURL | コメント(0) | トラックバック(0)
複雑なシステムのパターンを捉えよう [2018年12月03日(Mon)]

こんにちは。CSOネットワークの千葉です。


今回は複雑な世界に対応するための、『Pattern Spotting(パターン発見)』というフレームワークを紹介します。2018年度DE研修で、Kate McKegg(ケイト・マッケグ)氏Kinnectグループ所属、ニュージーランド評価学会副会長)が紹介をしてくれたものです。


以前のブログ「複雑な世界では、「もう犯人探しはやめよう」(*1)で紹介した@単純(simple)な状況とA煩雑(complicated)な状況では、物事は要素分解ができるので、打ち手が見えやすいです。


しかし、B複雑(complex)な状況では、物事は要素分解ができないため、明確な原因や打ち手がわかりません。この複雑な状況への対処の方法は、物事のなんらかの規則性や例外を捉えることで状況を把握する、介入ポイントを検討するというアプローチをとります。


Pattern Spotting(パターン発見)』のフレームワークは複雑なシステムにおいてパターンを捉えることに適した手法で、状況把握や物事の解釈などで用いることができます。


複雑な状況を説明する『複雑系理論』というものがありますが、性質のひとつである生成・創発(エマージェンス)に自己組織性(self-organization)という特徴があります。これは、個々の主体が独自の動きをすることにより、主体の間に関係性が生まれ、誰も意図しないパターンが生成される、というものです。


Pattern Spotting(パターン発見)』により、このような複雑なシステムにおいてパターンを捉えることが可能です。具体的に以下のような問いに答えることです。

スクリーンショット 2018-12-03 13.36.15.png

どんなに複雑な状況でも、なんらかのパターンはあります。(ちなみにパターンがないこともパターンです)

1〜3の設問は、観察を続け、状況把握をしようとしていれば、答えられるでしょう。例えば、1であれば「団体のスタッフ同士で描く成功の姿が共有されていない」、「この団体の事業のファンが全国にたくさんいるが、地元にはあまりいない」などです。3は「Aというスタッフと代表のみが成功の姿を共有している、しかしAは出勤日数が少ないパート従業員である」、「地元であまり存在が知られていないが、近所の学生さんが時々事務所に立ち寄って話をしていく」などです。

さらに深く観察・解釈を進めすると、4〜6の設問に対応できるようになり、そして7に答えられるようになります。

Pattern Spotting(パターン発見)』をおこなうタイミングは、ある程度情報が溜まったらいつでもです。例えば、『3つの質問』(*2)をまわしていると常に組織の中で出てくるキーワードを拾ったり、システムマッピングをしていて、様々なステークホルダーに影響を与えている事象や人・組織に注目したり、逆に評価者が重要だと思っていたのに、スタッフたちから全く情報がでてこない新規事業プロジェクトなど、例外やサプライズも含めた上記の1〜7のいろんなパターンに気がつくことでしょう。

このパターン認識能力・発見能力は、事業者やDE評価者をはじめ複雑な状況に向き合う方達が普段から持つべき「思考」と言えるでしょう。先行き不透明な複雑な状況でも、パターンを見つけることで次の一手が見えてくるかもしれません。ぜひ実践ください。


以下のブログを参照ください。

*1:複雑な世界では、「もう犯人探しはやめよう」

https://blog.canpan.info/csonj/archive/27


*2:現実世界を『3つの質問』で捉えよう

https://blog.canpan.info/csonj/archive/25


図1.png




“複雑な世界”では、「もう犯人探しはやめよう」 [2018年12月03日(Mon)]

こんにちは。CSOネットワークの千葉です。


今回はDE(発展的評価)が向き合う世界である複雑な世界について、これがどんな性質をもった世界なのか、そして我々はその世界の中でどう処することができるかについて考えたいと思います。


みなさんの目の前に現れる困っている人、そして日々ニュースなどで流れている社会的な問題として取り上げられる困った状態を考えてみてください。例えば、親による小さな子供への虐待の問題、母子家庭や高齢世帯の貧困の問題、学校でのいじめの問題など。これらの問題には心が痛みます。このような問題が起こる原因ですが、もちろん被害者の人たちに非があるわけでもなく、また特定の加害者だけが悪いわけでもないかもしれません。


こういった不幸なことが起こるのは、その背後にこのようなことを生み出すシステムがあり、そのシステムが様々な作用をした結果、上記のような社会的な問題が顕在化したと言えるでしょう。言い換えるならば、目の前の困った人困った状態は氷山の一角であり、その水面下に全貌が見えないくらいのものすごく大きな氷塊が隠れています。全貌が見えないくらいのものすごく大きな氷の塊こそが我々の目の前に現れる現象の背後に隠れた見えないシステムであり、このあまりの大きさ、実態の見えなさが複雑な世界の難しさと言えるでしょう


複雑な世界で、我々がとるべきスタンスを示すならば、

「もう特定の犯人さがしはやめよう」

ということだと思います。

問題が起きる原因を分かりやすい犯人に求めることなく、その背後にある見えづらいシステム複雑な世界を見る努力をして、そこに向き合い続けるというスタンスを取るしかないということです。


複雑な世界を考える一歩目として、状況の分類を考えてみましょう。

発展的評価(DE)では、状況を次の3つに分類して紹介しています。

*状況の分類について、詳細はCynefinフレームワークというもので紹介されており、ここでは4〜5つに分類されています。興味のある方は、参考にしてください。


@単純(simple)な状況とは、物事の因果関係などの仮説が立てやすく、レシピがあればものごとが簡単に再現できる世界です。お菓子や料理や簡単なおもちゃなど、きちんとしたレシピやマニュアルがあれば誰でも精度高く再現できるような世界です。


A煩雑(complicated)な状況とは、難度が高いが、次で紹介する複雑性が低いという状況です。例えば、時計や自動車、ロケットなどの機械を思い浮かべてください。これらはパーツ(要素)に分解して分析することで構造が明らかになりますし、一度分解しても詳細なマニュアルがあれば再び組み立てることができます。故障したら分解して、その原因を突き止めることもできるでしょう。煩雑な状況には、厳密な方程式やしっかりとした計画、すなわちロジックがあれば、対応することができます。目標を立てて、現実とのギャップを捉えて目標達成までのタスクを細分化して計画を立てるプロジェクトマネジメントは、この煩雑な状況への対応の一例といえるでしょう。


一方で、実際の世界、みなさんの身の回りに起こっている様々な現象やニュースなどで流れる社会的な問題はどうでしょうか?上記の@やAとは異なるのではありませんか?


みなさんの頭の中に思い浮かんだものは、B複雑(complex)な状況かもしれません。

DEでは、この複雑な状況を前提としています。この世界はあまりに多くの要因が複雑に絡み合っているので、解きほぐすことが困難です。ここでは物事が複雑に絡み合うことで生まれる相互作用(こっちのボタンを押すと、あっちのボタンが出てくる)、時間的な変化(短期的に良くなったと思っても中長期的に悪化する)などがあります。


複雑な状況では、容易に解決できるものではなく、例えある方法で一度うまくいったからといって、次に同じ方法が通じるかわかりません。よく子育てが例に挙げられますが、この世界に成功のためのレシピはありません。子どもは唯一無二の存在ですし、その子の性格や置かれた環境は違います。それなのに無理矢理枠に当てはめようとしたら、グレてしまいますよね。

図1.png
▲状況の分類(CSOネットワークの伴走評価エキスパート育成研修資料より)▲

この複雑な状況について、もう少し理解を深めるために、象徴的なイラストを2枚紹介しますね。


1枚目は、このイラスト。

おじさんが自分の横にある壁を「邪魔だ」といって倒しています。

この後、何が起きるか、お分かりですよね。

このイラストが示唆することは、「今日の解決策が、明日の問題になる」ということ。

短期的な目線での行動が長期的な成果につながるとは限らない・・・という複雑な世界をよくあらわしていると思います。

図2.png

▲複雑な状況を表すイラスト@(CSOネットワークの伴走評価エキスパート育成研修資料より。元データは『システム思考をはじめてみよう』(英治出版、ドネラ・H・メドウズ ())の表紙から)▲

2枚目は、このイラスト。

DEの生みの親であるパットン氏の講義資料で、「群盲、象を撫でる」と、紹介されています。

これは「立場によって見えているものが違う」「部分からは、全体はわからない」ということを示唆しています。


他の例えとして、大きなルービックキューブのそれぞれの面に6人が向き合っている姿を考えてみてください。同じルービックキューブに向かって、それぞれが自分の目の前の一面だけあわせようとしているという滑稽な状況に陥ってしまっているかもしれません。


図3.png
▲複雑な状況を表すイラストA(CSOネットワークの伴走評価エキスパート育成研修資料より元データは、Michael Quinn Patton講義スライド)▲

最近 “VUCA(ブーカ)という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。

これは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉で、まさにこのような状況を表すものです。これは、個人レベル、組織レベル、社会レベルにおいても、まさに予測不能な状態をあらわしており、DE“VUCAな世界における評価という言い方もできるかもしれません。


@〜Bの世界をまとめると、次のように整理できます。

スクリーンショット 2018-12-03 13.18.33.png

常に変化する動的な世界、非線形なバックキャスティング的な思考が通じないこの複雑な現実世界で、事業者やコンソーシアム(事業者の集合体)はどう問題に立ち向かい、評価者はそれらの事業の価値をどう引き出していくのかが問われているのです。まさにDEは評価の文脈でここを追求していると言えるでしょう。


このような複雑な状況へのアプローチは、

状況を把握する →トライする →失敗して学習する →問題への理解が深まる →打ち手の精度が上がる →トライする ・・・ 

つまり、常に状況把握とそれにあわせた対応をおこなうこと、トライアル・アンド・エラーをしながら組織学習のスピードをあげること、これらのサイクルを早く回していくしかないと思います。これがフォアキャスティング的な思考と言えるでしょう。


詳細は別のブログに書きたいと思いますが、この複雑な状況の拠り所になるものが2つあります。それは航海する上での北極星となるサクセスイメージであり、事業者の行動基準の拠り所で一歩一歩を確実に踏み出すためのプリンシパルです。これらについては別の機会に紹介したいと思います。



複雑な世界を無理に単純化しようとせず、複雑さをそのまま受け入れて向き合っていく、複雑な世界で生きる事業者やDE実践者はこのような姿勢を求められているように思います。