こんにちは。CSOネットワークの千葉です。
今回はDE(発展的評価)が向き合う世界である“複雑な世界”について、これがどんな性質をもった世界なのか、そして我々はその世界の中でどう処することができるかについて考えたいと思います。
みなさんの目の前に現れる“困っている人”、そして日々ニュースなどで流れている社会的な問題として取り上げられる “困った状態”を考えてみてください。例えば、親による小さな子供への虐待の問題、母子家庭や高齢世帯の貧困の問題、学校でのいじめの問題など。これらの問題には心が痛みます。このような問題が起こる原因ですが、もちろん被害者の人たちに非があるわけでもなく、また特定の加害者だけが悪いわけでもないかもしれません。
こういった不幸なことが起こるのは、その背後にこのようなことを生み出すシステムがあり、そのシステムが様々な作用をした結果、上記のような社会的な問題が顕在化したと言えるでしょう。言い換えるならば、目の前の“困った人”や“困った状態”は氷山の一角であり、その水面下に全貌が見えないくらいのものすごく大きな氷塊が隠れています。全貌が見えないくらいのものすごく大きな氷の塊こそが我々の目の前に現れる現象の背後に隠れた見えないシステムであり、このあまりの大きさ、実態の見えなさが“複雑な世界”の難しさと言えるでしょう。
“複雑な世界”で、我々がとるべきスタンスを示すならば、
「もう特定の犯人さがしはやめよう」
ということだと思います。
問題が起きる原因を分かりやすい犯人に求めることなく、その背後にある“見えづらいシステム”や“複雑な世界”を見る努力をして、そこに向き合い続けるというスタンスを取るしかないということです。
“複雑な世界”を考える一歩目として、“状況の分類”を考えてみましょう。
発展的評価(DE)では、状況を次の3つに分類して紹介しています。
*状況の分類について、詳細はCynefinフレームワークというもので紹介されており、ここでは4〜5つに分類されています。興味のある方は、参考にしてください。
@単純(simple)な状況とは、物事の因果関係などの仮説が立てやすく、レシピがあればものごとが簡単に再現できる世界です。お菓子や料理や簡単なおもちゃなど、きちんとしたレシピやマニュアルがあれば誰でも精度高く再現できるような世界です。
A煩雑(complicated)な状況とは、難度が高いが、次で紹介する“複雑性が低い”という状況です。例えば、時計や自動車、ロケットなどの機械を思い浮かべてください。これらはパーツ(要素)に分解して分析することで構造が明らかになりますし、一度分解しても詳細なマニュアルがあれば再び組み立てることができます。故障したら分解して、その原因を突き止めることもできるでしょう。煩雑な状況には、厳密な方程式やしっかりとした計画、すなわちロジックがあれば、対応することができます。目標を立てて、現実とのギャップを捉えて目標達成までのタスクを細分化して計画を立てるプロジェクトマネジメントは、この煩雑な状況への対応の一例といえるでしょう。
一方で、実際の世界、みなさんの身の回りに起こっている様々な現象やニュースなどで流れる社会的な問題はどうでしょうか?上記の@やAとは異なるのではありませんか?
みなさんの頭の中に思い浮かんだものは、B複雑(complex)な状況かもしれません。
DEでは、この“複雑な状況”を前提としています。この世界はあまりに多くの要因が複雑に絡み合っているので、解きほぐすことが困難です。ここでは物事が複雑に絡み合うことで生まれる“相互作用”(こっちのボタンを押すと、あっちのボタンが出てくる)、“時間的な変化”(短期的に良くなったと思っても中長期的に悪化する)などがあります。
複雑な状況では、容易に解決できるものではなく、例えある方法で一度うまくいったからといって、次に同じ方法が通じるかわかりません。よく子育てが例に挙げられますが、この世界に“成功のためのレシピ”はありません。子どもは唯一無二の存在ですし、その子の性格や置かれた環境は違います。それなのに無理矢理枠に当てはめようとしたら、グレてしまいますよね。

この “複雑な状況”について、もう少し理解を深めるために、象徴的なイラストを2枚紹介しますね。
1枚目は、このイラスト。
おじさんが自分の横にある壁を「邪魔だ」といって倒しています。
この後、何が起きるか、お分かりですよね。
このイラストが示唆することは、「今日の解決策が、明日の問題になる」ということ。
短期的な目線での行動が長期的な成果につながるとは限らない・・・という複雑な世界をよくあらわしていると思います。
2枚目は、このイラスト。
DEの生みの親であるパットン氏の講義資料で、「群盲、象を撫でる」と、紹介されています。
これは「立場によって見えているものが違う」、「部分からは、全体はわからない」ということを示唆しています。
他の例えとして、“大きなルービックキューブのそれぞれの面に6人が向き合っている姿”を考えてみてください。同じルービックキューブに向かって、それぞれが自分の目の前の一面だけあわせようとしているという滑稽な状況に陥ってしまっているかもしれません。
最近 “VUCA(ブーカ)”という言葉を耳にしたことがあるかもしれません。
これは、Volatility(変動性・不安定さ)、Uncertainty(不確実性・不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性・不明確さ)という4つのキーワードの頭文字から取った言葉で、まさにこのような状況を表すものです。これは、個人レベル、組織レベル、社会レベルにおいても、まさに予測不能な状態をあらわしており、DEは“VUCAな世界”における評価という言い方もできるかもしれません。
@〜Bの世界をまとめると、次のように整理できます。
常に変化する動的な世界、非線形なバックキャスティング的な思考が通じないこの“複雑な現実世界”で、事業者やコンソーシアム(事業者の集合体)はどう問題に立ち向かい、評価者はそれらの事業の価値をどう引き出していくのかが問われているのです。まさにDEは評価の文脈でここを追求していると言えるでしょう。
このような複雑な状況へのアプローチは、
状況を把握する →トライする →失敗して学習する →問題への理解が深まる →打ち手の精度が上がる →トライする ・・・
つまり、常に状況把握とそれにあわせた対応をおこなうこと、トライアル・アンド・エラーをしながら組織学習のスピードをあげること、これらのサイクルを早く回していくしかないと思います。これがフォアキャスティング的な思考と言えるでしょう。
詳細は別のブログに書きたいと思いますが、この複雑な状況の拠り所になるものが2つあります。それは航海する上での北極星となる“サクセスイメージ”であり、事業者の行動基準の拠り所で一歩一歩を確実に踏み出すための“プリンシパル”です。これらについては別の機会に紹介したいと思います。
“複雑な世界”を無理に単純化しようとせず、複雑さをそのまま受け入れて向き合っていく、“複雑な世界”で生きる事業者やDE実践者はこのような姿勢を求められているように思います。