今なおタバコの害を侮る日本と向き合う
[2017年03月10日(Fri)]
世界では「タバコの規制に関する世界保健機関枠組条約」に示されているように、受動喫煙の健康被害は明白なものとして全面禁煙化がすすんでいます。
1990年代以降、アメリカのカリフォルニア州やニューヨーク州などでは、一般の職場はもちろんレストランやバーも全面禁煙とする動きが始まりました。そしてアイルランドで2004年に世界で初めて国全体を全面禁煙とする法律が施行され、同年のニュージーランド、その後もウルグアイ(2006年)・イギリス(2007年)・香港・トルコ(2009年)、そしてアメリカでも半数以上の州で屋内を全面禁煙とする法律が成立しています。喫煙する利用者の利便性よりも、飲食店等で働いている人を受動喫煙から保護することの方が重要だからです。2013年時点で43ヵ国が全面禁煙になっています。
一方、日本はこうした海外の状況に比較して、タバコ対策後進国と揶揄されています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、他人のタバコの煙を吸い込む受動喫煙を防ぐため、厚生労働省は健康増進法改正案を提出、飲食店やホテル内の原則禁煙、医療機関の敷地内の全面禁煙をめざしています。日本ホスピス緩和ケア協会は「残り時間の少ない人を追い詰めるのは…」と全面禁煙の対象から除外するよう求めています。他方、日本禁煙学会は「喫煙はメンタルヘルス悪化の危険因子」「緩和ケアを受けている非喫煙患者の平穏のため、タバコの煙から完全に解放された療養環境を提供すべき」と全面禁煙を求めています。
功利主義の創始者として有名な英国の哲学・経済学・法学者であるJ・ベンサムは、「正しい行為や政策は“最大多数の最大幸福”をもたらすものである」と論じました。2017年2月4日の世界がんデーにWHO(世界保健機関)は、「タバコの使用はがんの最も重要なリスク要因の一つであり、世界中でがん関連死亡の約22%を占めている」と報告しました。厚生労働省国民健康栄養調査によると、現在習慣的に喫煙している成人の割合は2割を切ると報告しています。ここで数字を示して、大多数の人間が幸福になればその他小数の人間はその犠牲になっても構わないと言っているわけではありません。J・ベンサムの考え方を継承した英国の哲学・経済学者であるJ・S・ミルは「自ら他人や社会の幸福のために動くことで、より質の高い幸福が得られる」と主張しました。“量”の最大化に寄与することは“質”の最大化も図られるのではないでしょうか。