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勉強が苦手な子どもたちのために

勉強が苦手な子どもたちがいます。教えても自分でやるとできなかったり、そもそもちゃんと聞いているのか、わかっているのかもあやしかったりします。

保護者や先生たちが一生懸命になっても、それが叶うとは限りません。そんな現実を受け入れることができず、私たちはついカッとなり、子どもにあたってしまうこともあるでしょう。

そして、子どももきっと辛い思いに苛まれているはずです。

ここでは、勉強の苦手な子どもに何とか寄り添った教え方ができないか。「技術」・「理論」・「心理」など様々な切り口で考えていきたいと思っています。

特定非営利活動法人 CEセンター 理事長 野田弘一


立体図形と展開図の関係 [2016年09月15日(Thu)]
〇立体図形と展開図の関係

二年生の三学期になると、「はこ(箱)の形」という単元で、初めて立体図形を学習します。図形は比較的やさしい単元と思われることが多く、確かに多くの子どもたちが苦労せずできるようです。これまで数字を使った単元で苦労してきた子どもにとっても、楽しく授業に参加できる時間だったりもします。

ところが、この単元で、箱の形を見て展開図を書いたり、展開図を書いて箱を作る授業になると、急にわからなくなる子どもがいることを知っておいてほしいと思います。

学校の先生でも、楽しく取り組んでいる子どもたちに目がいってしまい、気がつかないまま取り残してしまうことがあるくらいです。大きな問題はないだろうと思うかもしれませんが、ここがわからないままだと、三年生の「円と球」でもつまずき、四年生の「立方体と直方体」でもつまずきます。

中学生の数学や技術の時間に、展開図が書けず苦労しているケースのほとんどは、小学校二年生のつまずきから始まったと思っていいでしょう。

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箱の形から展開図を書くこと(またはその逆)が苦手な理由は、
辺と辺の接する場所を考えることと、箱の全体のイメージを考えることを、同時にイメージしなければならないことにあります。

箱の形は、タテやヨコの長さはいろいろですし、展開のパターンも11種類もあります。視覚的に考えなければならないふたつの課題を、お互いにすり合わせながら同時におこなうことが難しいわけです。

もし箱の形が一種類しかなく、展開のパターンも一種類であれば、難しいことは言わずに丸暗記という手もあるかもしれません。ところが実際の授業では、たくさんの種類が立て続けに出てくるので、多くの子どもが感覚的にできてしまう陰で、ますます混乱してしまうことになります。

もし、展開図を書くことが苦手なようでしたら、下記のような練習をしてみてください。

まず、箱の形を展開できる教具が必要です。学校の先生などでなくても、誰でも買うことができるものをピックアップしてみました。

マジキャップ
マジキャップ.jpg


マグフォーマ
マグフォーマ.jpg


購入が難しい場合は、画用紙と繰り返し貼れるテープを使って箱を作ってもかまいません。
その際、六面とも同じ形ではなく、ティッシュの箱のように各面の形が異なる箱にするのがコツです。

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@まず最初に、完成してある箱型のものを、展開図になるよう分解します。

A次に、分解したものをノートに写してみます。このとき輪郭だけ書くのではなく、展開図になるよう、面をひとつひとつ並べた形で書きましょう。子どもが試行錯誤して取り組んでいる最中は口を出しません。また展開図は多少曲がったり歪んで書いてしまっても問題ありません(辺や角を正確に書かせる必要はありません)。

これを、いろいろアレンジして繰り返します。@の分解の際に右側の面から分解したようだったら、次は左側の面でもやったり、手前の面からやったりします。また複数の色のブロックがあれば、ブロックの色をそろえて同じ色でやったりするのも良いかもしれません。飽きないように工夫することがポイントです。

ここまでスムーズにいくようになったら、次のステップになります。

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@あらかじめ、ふたつ同じ箱を作っておきます。

A子どもが取り組む前に、ふたつのうちひとつの箱を完全にバラバラに分解しておきます(ブロックどうしがつながっていない状態にします)。

B子どもに、残った箱の形をみせながら、バラバラのブロックをつなぎ合わせて展開図を作ってもらいます。前のステップで書いた展開図と同じように、それをブロックで作るわけです。ここでも子どもの試行錯誤を見守り、口を出さずに待っていましょう。

Cできあがったら、できた展開図を実際に組み立ててみましょう。同じ形の箱ができるかどうか楽しみながらやるのがコツです。間違えてもかまいません。変な形になったのを、お互いに笑ったり、不思議な顔をしながら楽しみます。二回まで再チャレンジします。それ以上だと嫌になったり飽きてしまうことがあるので、あまり頑張らせることをしないで、次の箱に移りましょう。

Dこれを何度か繰り返します。ここでも色を変えたりなど工夫をしながら進めてください。

もし宿題もやらなければならないようでしたら、練習でつかったブロックを使ってやっても良いでしょう。練習前とは比べものにならないくらいスムーズにできると思います。

この練習は、辺と辺の接する場所や箱の全体のイメージを同時に考えなければならない負担を(ブロックを使うことで)軽減し、箱から展開図(またはその逆)へのつながりをスムーズに理解できようにするのが特徴です。

欠点として、負担が減った辺と辺の接する場所と全体のイメージを同時的におこなう思考力は、ある程度の量をこなさないと(繰り返し練習しないと)身につかないことが挙げられます。

教科書は、そのあたりのことをある程度わかっているので、向き合った面どうしの色を同じにすることや、箱を画用紙の上に置き写し取るなど、位置関係を把握しながら展開図を書かせるなど、指導書を通じてアドバイスをしています。

しかし、実際の授業では、同じ色の面を意識したり箱を書き写してできるようになっても、(授業は成立するかもしれませんが)この授業のねらいである「箱の形を構成する面のつながり方がわかる」ようにはならないことがあります。

また、手先が不器用な子どもにとって、作業そのものでつまずいてしまい、何の授業かわからないこともあります。中には、箱を作ったことしか残らない授業もときどき見受けられます。

したがって宿題に出されてしまうと、家ではお手上げというわけです。

箱の形と展開図は、いつも以上に楽しそうに取り組む子どもが多いので、苦手な子どもやその理由について取り上げられる機会が少ない単元です。でも、ここで落ちこぼしてしまった子どもは、積み重ねの問題から、学年が上がるにつれて補うことが難しくなり、中学生になっても苦労してしまことにつながってしまいます。

大人が苦手な原因を知ってその負担をできるだけ減らし、子ども自身が手の感触を使い試行錯誤する時間が保障されると、あとは子どもが自ら「わかる」「できる」ようになるわけです。
Posted by ookubo at 21:43 | 技術編 | この記事のURL
不等号は「<」よりも「>」のほうが難しい。 [2016年08月30日(Tue)]
〇不等号は「<」よりも「>」のほうが難しい。

二年生の一学期になると3ケタの数を学習します。教科書では、百の位と十の位、そして一の位というグループごとに数がなりたっていることを理解しながら、3ケタの数を書いたり読んだりできるように構成されています。さらに単元の中頃には、数直線を使ってさまざまな3ケタの数の順序や大きさを比べます(その流れで簡単な足し算や引き算をあつかう教科書もありますが、本格的な計算は別の単元で学習します)。

そして後半になると不等号が出てきます。3ケタのふたつの数の大きさを比べて、「<」や「>」の記号を正しく使うことができるよう学ぶわけです。

不等号の難しさとして、記号の向きで混乱してしまうという話を聞いたことがあると思います。ふたつのうちどちらの数が大きい(小さい)かはわかるのに、記号をどっち向きに書いたら良いのかわからなくなってしまう子どもがいるからです。

そのため、学校の先生は、例えば下記のようなキャラクターを使って「大きい数のほうを食べる」という教え方をするなど、苦手な子どもでも理解ができるように工夫しています。

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ところが、不等号の向きを覚えるだけでは、どうしてもできるようにならない子どももいます。

今回は、不等号の向きがわかっているのに、自分でやるとわからなくなってしまうときに、どのような教え方をしたらよいのかについてお話したいと思います。

まず最初にわからなくなってしまう原因からお話しましょう。

もともと人間は、ふたつの数字だけを見て大小の判断をするとは限りません。もちろん本人はふたつの数字だけを見ていると思っているわけですが、無意識に数直線と同じような左から始まる数字の配列を前提に考えています。「数直線と同じ」とは、下記のように左にもっとも小さい数字があり、そこから右方向に順番に数字が大きくなるという配列パターンのことです。

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ここでは「心の数直線」と呼ぶことにしましょう。人間は、このように左にいくにしたがって数が大きくなるという、「心の数直線」を知らないうちに頭にインプットして判断しているわけです。

そのため、常に右側の数が大きい並べ方のほうが、感覚的に親しみやすくなります。

日常生活を振り返ってみても、このような時刻表や・・・

バスの時刻表.jpg

野球場のスコアボードだって・・・

スコアボード.jpg

人間は、子どものころから「心の数直線」をもっているので、それに合わせて表示したほうが安心できるのです。

前回『□をつかった「たし算とひき算」は難しい』でも、視覚的に左から順番に情報処理をすることについてお話しました。これも同じ理屈からきています。

不等号の話にもどると、「321<654」のほうが親しみやすく、「654>321」となると何となく違和感をもってしまいます。子どもにとって、こうした違和感が学習するうえで混乱をまねき、わからなくなる原因となります。

タイトルにある、「>(左側の数が大きい)」のほうが「<(右側の数が大きい)」よりも難しいというのは、こうした理由からきています。

では、不等号の向きがわかっているのに、自分でやるとわからなくなってしまう子どもには、どのように教えたら良いのでしょうか。

ひとつの方法は、「心の数直線」を無視してしまう方法があります。
例えば、「654」と「321」の場合、下記のように「654」を上段に「321」を下段に書きます。これは、数を上下に配置することで、横に並べる「心の数直線」を想起させない効果をねらっています。そして、最初に百の位の数字だけを比べて、大きいほうの数が「大きい」と判定する方法があります(この例の場合は「654」が大きいとなります)。

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もし百の位が同じ数(「654」と「645」など)だったら百の位では判定できませんので、次に十の位の数字を比べて判定します。もし十の位も同じ数(「654」と「651」など)だったら一の位で判定します。

どうしても苦手という子どもには、この方法がもっとも負担が少なく次に進むモチベーションを損なわないという点でも良いようです。

ただ、これは欠点ももち合わせていますので、少なくても教える側はわかっておいたほうがよいことがあります。

それは、操作が機械的なため、すでに学んでいる数直線の読み取りや順序などと直感的につなげて考えることが難しいことです。

例えば数の順序を考える次のようなときには、まったく別の課題として学びなおさなければなりません。

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もっとも、多くの教科書は、数の順序を先に学習します。ここでつまずいていても、不等号を使った学習を身につけることができるというポジティブな考え方もできますね。

ふたつ目は、数直線の読み取りや順序などと直感的につなげて身に着ける方法です。これは手間がかかりますが、本来のねらいにそった学習方法なので、できればチャレンジしたいところです。

まず、下記のように、最初に練習する数字の組み合わせを、左側が小さい(右側が大きい)ものだけに絞って練習します。

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これは、左側の数のほうが小さい(右側の数のほうが大きい)という「心の数直線」にそって学習するので、不等号の意味がわかっていれば負担なく「できる」ようになります。また本来の数直線の並びに合わせて数字を組み合わせているので、読み取りや順序などと直感的につなげて身につけることもできます。

もし、すでに習ったはずの数直線そのものが苦手な場合は、下記のように数直線で場所を確認してから大小の判断の練習をしてみてください。

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ただ、この方法でも、ここまでの段階では欠点もあります。それは不等号の向きが常に同じなので、大小の判断を省いて機械的に書いてしまう可能性があることです。このあたりことは次に述べますが、まずは問題を解いている子どもには、数の大小をちゃんと考えて取り組ませてくださいね。

上記の例では百の位が同じものだけですが、できていることを押さえたうえで、いろいろな数で練習してみてください。

ここまでがスムーズになれば、後は数直線と逆にならんでいるバージョンの練習をするだけです。ここでは「難しい問題」などと伝えて特殊な例であることを子どもにも意識させてください。例えば下記のように同じ数の組み合わせから始めると、数の順序などと直感的なつながりが深まります。

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こうしてできるようになれば、記号を機械的に書く心配はなくなります。また、本来のねらいである数直線上での数の順序や配列などと関連付けながら理解できる可能性が高くなります。

不等号は、ふたつの数字だけを見ているつもりでも、視覚的に左から数字が大きくなる「心の数直線」を使って考えています。苦手な子どもは、「心の数直線」と不等号の向きを別々に考えて学習することが難しいので、わからなくなってしまうわけです。

どうやら人間は、ちゃんと見ているようで、無意識に視覚的な思い込みをしてしまうのかもしれませんね。

Posted by ookubo at 11:28 | 技術編 | この記事のURL
時計の読みが苦手なときは [2016年03月15日(Tue)]
〇時計の読みが苦手なときは

一年生で学習する時計の読み(何時何分)は、教えるのが難しい単元のひとつです。何時何分なのかわからないまま終わってしまう子どもが、必ず何人か出てきてしまいます。

それにも関わらず、学校の先生の間でもあまり話題にならないのは、何年かすると生活の中で学習して読めるようになる子どもがそれなりにいるからです。ただ、大人になっても読めないままの方もおられます。本人も恥ずかしさから、それとわからないように振る舞いますし、今はデジタルの数字だけの時計も普及しているので困ることは少ないかもしれません。

ただ、授業でわからないままの子どもを、それは時が解決してくれると放置しておくのはどうかと思います。二年生になると、時計が読めることを前提に60分で一時間になることや、ある時刻から「20分後」や「20分前」が何時何分なるのかといった内容を学習します。ここで失敗体験をさらに積み重ねる結果になり、時が来る前に子どものモチベーションを下げてしまう結果になることがあるからです。

ところで、時計の読みが難しい主な理由として下記の三つが挙げられます。
@ 短針の示す位置が数字と数字の途中にあると、どちらの数字なのか混乱してしまう。
A 短針を読んだ後、長針の数字を読んでいるうちに、短針の数字を忘れてしまう。
B 特に長針を読むときに、目盛りを目で追っていくことが難しい。


最近の教科書は、時計の読みの難しさを意識して、単元をふたつにわけているものが増えてきました。最初の単元では「7時」や「7時半(7時30分)」のように何時と何時半だけを読めるようにして、繰り上がりの足し算や引き算などの単元が終わってから「7時23分」のように何時何分を学習するよう工夫されています。

その結果として@のような数字の途中にある短針の読みについては、理解できないままの子どもの数はかなり少なくなってきています。

ただ、AとBのつまずきにまで配慮している教科書はまだ少なく、単元をふたつにわけても解決はできていません。

そこで今回は、AとBのつまずきに配慮した学習方法についてお話ししたいと思います。
最初に用意していただきたいのは、下のような時計の図です。

時計盤.png

見てわかるように、ふたつの特徴があります。ひとつは短針の時刻を表す数字の範囲がわかるようにしてあること。もうひとつは、分の目盛りにも数字が書かれていることです。

最初はこのように視覚的にわかりやすくすることで、子どもは教えられたことを自分でもできそうだと見通しをもつことができます。

このような方法だと、癖がついて数字のない時計だと読めるようにならないのではないかという意見があります。数字のない時計が読めない理由は、そもそも何時何分が読めないことが原因なのであって、「癖がついた」わけではありません。上のような時計を使ってできるようになると、文字盤のない時計でもちゃんと読めるようになりますので安心してください。

では時計を読む学習方法について順を追って説明します。

まずは短針だけの練習です。ここで大切なのは、長針について一切触れないず、短針のみ練習することです。

下のような図を使って、最初は数字にピッタリ合った時刻を練習し、読めるようになったら数字と数字の途中にある時刻を練習します。最初にお話ししたように、短針が途中にあるとわからなくなることがありますから、丁寧に説明しながら繰り返し練習してください。

時計何時@.jpg
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そして読めるようになったら、下のように短針が示す範囲が書かれていない時計を使って練習します。

スライド1.JPG
スライド1.JPG

スムーズに読めるようになったら、次は長針の読みに移ります。

長針の読みで配慮していただきたい点はふたつ。短針には触れず長針のみ練習することと最初は30分以内の読みから始めるということ。

短針は読めるようになったのだから、そこに積み重ねていけばよいのではと考えがちですが、それでは難しい子どももいます。

短針の数字を頭の中に置いたまま、長針の数字を目で追っていくと、いつのまにか短針の数字を忘れてしまうことがあるからです。

また、初めて習う子どもにとって、目盛りの位置で大まかな予測をすることはできません。

長針や目盛りの位置を見て、瞬時に10分、20分、30分、40分、50分と目安をつけることができないので、目盛りを順に追って数えます。そのため目で追っていくうちに目盛りの位置がずれてしまうことや、いまいくつなのかわからなくなることがあります。

最初は、7分や14分、そして19分や23分といったように、少しずつ目で追う距離を長くしていくようにしましょう。

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30分までスムーズに読めるようになったら、次は30分を超えた数字を読む練習に。

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それがスムーズにできたら、数字のない目盛りだけの時計を使って練習します。

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ここまでで、短針と長針それぞれを読むことができるようになりました。

いよいよ普通の時計と同じように、短針と長針を合わせて読む練習に入ります。

少しでも不安があるようでしたら、下のように時計は別々にしながら合わせて読む練習から始めてください。

スライド2.JPG


上のような図をみて「7時12分」と読むことがスムーズにできるようになってから、ひとつの時計で練習するというのもスモールステップのひとつです。

スライド1.JPG
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ところで、針先が目盛りに対して微妙にズレていると、どうしても納得がいかないという子どもがときどきいます。このような場合は、印刷などの都合でずれてしまうことがあるので「一番近いところを読む」ように教えてください。

ズレているからといってピッタリ合うように直してあげることは、できれば避けてください。

直してあげることで、先々ズレを意識しないと気が済まなくなることがあるからです。学校の授業でも、日常の中でも、針先がずれているか気になってばかりいたらかわいそうですからね。


Posted by ookubo at 21:23 | 技術編 | この記事のURL
数字の書き順A [2016年02月29日(Mon)]
〇数字の筆順A

 前回、数字を書くことが苦手な子どものために、四角形などの図形を書くという練習について取り上げました。そもそも「正式な書き順(筆順)」というのは存在していないこと。そして書き順の問題だと思っていたことが、実は直線や弧を書くことなどの苦手さが原因かもしれないというお話でした。また、数字だけでなく文字や漢字にも影響を与えることもお伝えしました。

 今回は、数字そのものを書く練習方法についてお話していきたいと思います。

ここでは、前回の図形の練習が既に終わっていることが前提になります。急ぐあまり数字そのものの練習から始めてしまうと、苦手を克服できないままになってしまう可能性がありますので、注意が必要です。

 最初に練習する数字は「8」です。前回練習した円を上下にふたつ重ねた形と理解していただいてかまいません。下記のようにステップ1からステップ4まであります。
 点から点までの距離が少しずつ長くなるようになっています。
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次に練習する数字は「6」です。前回練習した円と三角形の要素があります。斜めに直線を書くことと弧に(丸く)書くことです。ここでも、点と点の距離が少しずつ長くなるようになっています。
6T.jpg
6U.jpg

次に練習するのは「4」です。四角形と三角形の練習の成果が表れます。
4.jpg

最後に練習するのは「7」です。ここも「4」と同じで、四角形と三角形の練習の成果が表れます。
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上記の「8」「6」「4」「7」が最も難しい数字です。苦手な子どものほとんどが、この四つの数字の全部またはいくつかを書くのに苦戦しています。ここまでをある程度整った形で書けるようになれば、他の数字は多少の練習で書けるようになると思います。

最初にお話ししたように、図形の練習が終わっていることが前提ですので、時間はそれほどかかりません。急がず丁寧にやってみましょう。

そして、できるようになった後に意識していただきたいのは、書けるようになった数字と読み方が一致できていること。そして、その数はいくつを表しているのかがすぐわかることです。

詳しくは「就学前に数の学習は必要か」のところで触れていますが、教える大人が数字を書かせることに一生懸命になり過ぎると、(字が書けるようになっただけで)読み方やいくつを表しているのかとマッチングしていないことに気がつかないことがあります。このあたりのところも、できれば確認しておいてください。

さて、前回と今回二回にわたって数字の書き方についてお話をしました。そして、特に直線や弧を書くことが苦手な子どもを中心に、その練習方法を詳しくお伝えしました。統計的にまとめたわけではありませんが、経験から言えることとして、この練習方法を使うと苦手な子どもの70%くらいが整った数字を書けるようになります。文字や漢字も同様に書けるようになります。

ただ、残念ですが30%くらいの子どもは、これでは不十分ではないかと想像しています。目で形を認識することや手を細かく動かすことが極端に苦手であったり、また眼球をスムーズに動かすことが苦手な子どももいます。

また、書いているわずかな時間でも待てない子どもも、時間をかけて書く練習しても、その効果は50%いくかどうかといったところではないかと思います。いま何に集中するべきかの判断や、いったん振り返ることなどをコントロールしている脳の神経間の伝達がうまくいかない子どももいます。

このような可能性が疑われる場合、字の形にはこだわらず、見る側が意識すればその字だとわかるのであればOKとする配慮と、(字はヘタだけど)計算だけはできるようにするなど本来の目標が達成できるようにすることが必要です。

そして、このような子どもは他の生活場面でも非常に困っている可能性があります。思い切って専門医に相談してみることもお勧めします。

メリットとして、まずお母さんとお父さんの育て方などの問題ではないことがわかります。また園・学校の先生や学習塾の先生の理解が得られるようになると、少なくても叱られることがなくなります。そして、一番大切なことは、専門医がその子どもにあった良くなる方法を教えてもらえることです。




Posted by ookubo at 20:44 | 技術編 | この記事のURL
数字の書き順@ [2016年02月15日(Mon)]
〇数字の書き順@

このブログをはじめて、ご質問をいただくことがあります。保護者の方はもちろんですが、幼稚園・保育園の先生や小学校の先生、そして学習塾の先生まで幅広い立場におよんでいます。もともと困っている子どもたちへの思いから始めたわけですが、実は教える側の大人もまた困っているということを、あらためて心に留めて続けていきたいと思っています。

さて、そのご質問が多かったもののひとつに数字の書き方についてのご相談があります。書き方といってもその中身はいろいろで、「正しい書き順」についてや「丁寧に書こうとしない」ことなど多岐にわたります。

まず書き順(筆順)についてですが、「正式な書き順(筆順)」というものはそもそも存在しません。

学習指導要領の中に正しい書き順として何か定められているものはありませんし、教科書の指導書の中にも記されていません。したがって日常生活では、どのように書いても他人が見てわかればそれで良いわけです。

でも、一年生の教科書を見ると、初めて数字を書く練習のところでは、それぞれの数字の出だしのところに矢印や数字などを使って書き始めや方向が記されていますね。これは、教室の子どもたちが一緒に勉強する際、同じ書き方で練習したほうが混乱が少ないという理由からきています。また、書き方はいろいろあっても良いのですが、形の構成から、多くの人はだいたい同じような書き方になるので、その書き方がもっともスムーズに書ける方法だろうと考え、それをもとに書き始めや矢印が書かれているわけです。

同じ理由で「+」「−」「×」「÷」といった記号のほとんどに、「正式な書き順」は存在しません。

初めて習う子どもたち向かって「書き方は決まってないので好きに書いてね!」と先生が言ったら、みんな困ってしまいますね。書き順はそのためにあるわけです。

市販の問題集などの中に、「正しい書き順」といったタイトルや「数を身につける上で書き順は大切な基本である」といったコメントを目にすることがあります。このようなことから、「正式な書き順」が存在すると誤解されるようになったのかもしれません。

ただ、実は「正しい書き順」についてのご質問の中に、よく読んでみると「7」の字が変な形であるとか「8」の丸いところが上手に書けないなど、形の問題で困っているという内容のほうが多いようです。

これらは「書き順」の問題ではなく、実は見たものを上手に書けないことが原因なのです。

数字の形を見本と同じように上手に書けない原因は、
1. 直線や円などの線を書くことが苦手。
2. 数字などの文字を書いているわずかな時間が待てない。


このふたつであることがほとんどです。これらは、とうぜん「正式な書き順」で書いても解決はしません。また若干左利きの子どもに多い傾向があります。

では、もう少し詳しくお話しします。数字に限らずひらがなや漢字でも、その形は@横・たての直線とA折れ曲がった直線とB弧で書かれた曲線で成り立っています。トメやハネなどの詳細な部分を除くと、数字やひらがな・漢字は、この三つを書くことができれば、必ず見本通りに書くことができるわけです。

もし、子どもが数字を書くことに苦労しているようであれば、一度下のような図を見本に、四角形と円と三角形を書かせてみてください。形だけでなく、大きさや向きなども含めて、見本通りに書けないようでしたら、このあたりが原因と考えてよさそうです。

四角形・円・三角形.jpg

では、上手に線が書けないことがわかったら、どのように練習したらよいでしょうか。ここからは、数字を上手に書けることを目指して、その練習方法について詳しく説明していきたいと思います。

本来は線を引くことができればよいので、単純に直線や円を書く練習をすることになりますが、それでは子どもは飽きてしまいます。また文字や漢字などに応用していく意味も考えると、四角形・円・三角形を書く練習を通じて身に着けたほうが効果があるようです。さらに、できた図形に色を塗ったり、図形をいくつか組み合わせておもしろいデザインを作ってみるのも良いかもしれませんね。

それでは、最初の練習として四角形から始めます。書き方は、一筆書きと同じように、始点(書き始めるところ)から終点(書き終わるところ)まで続けて書きます。途中で鉛筆が離れてしまってもかまいません。離れたところから再び書き続けてください。

下の図の左側の部分で説明すると、まずA点から@の方向に書き始めてB点、C点、D点を通り一周してA点に戻っていくようにします。

四角形T.jpg

ここで大切なポイントはふたつあります。ひとつは、鉛筆の先を点から点へ真っすぐ書くことができるようになること。ふたつ目は、ひとつの点のところで直角に折れて書き進めることができるようになることです。

スピードは、子どもが丁寧に書けるのであれば特にこだわる必要はありませんが、10秒程度で書き終わるのが目安です。10秒以上かかってもかまいませんが、5秒以内で終わってしまうのは早過ぎます。どうしても急いでしまうようであれば、点から点へ移るときに1秒くらいのペースで「イ〜チ、ニ〜、サ〜ン」と数えてあげてください。

ステップ1では、点から点までの距離を短くしています。@の方向にある程度真っすぐにそしてスムーズに書けるようになったら、次はAの方向(@と逆回り)で練習してみます。これは、数字や文字は常に同じ方向に書くわけではないことが理由です。

書くことが苦手な子どもは、逆方向に書くときにつまずきやすい傾向があります。うまく書けない時は、次の点を意識しながらよりゆっくり書かせるなど工夫が必要です。ときには一度休憩したり翌日以降に再チャレンジするなど、練習することそのものに苦手意識を与えないように工夫してください。

ステップ2では、点と点の距離が少し長くなります。直角に書くことは変わりません。どうしても急いで書くようであれば、点と点の間を2秒くらいで進むよう、ステップ1と同じように時間をコントロールしてください。

下の図はステップ3とステップ4です。

四角形U.jpg

ステップ3では、点から点までの距離がさらに長くなっています。そして、直角に書くところに目安となる点が一部ありません。ここでは正確に90度になることは求めていませんが、角が丸くならないように練習します。またある程度直角にかけたら、次の点まで真っすぐ書くことにも意識を向けることも必要です。

ステップ4では、もう途中に点はありません。正確に必要はありませんが、ステップ3までとほぼ同じ大きさの四角形が書けるように練習します。時間のコントロールも忘れずにおこなってください。

四角形がある程度スムーズに書けるようになったら、次は円になります。円は直線ではなく弧に(丸く)なるように書かなければなりません。下の図はステップ1からステップ4になるにしたがって、次の点までの距離が少しずつ長くなっていきます。

円T.jpg
円U.jpg

ここでも、書きだす方向が逆になるものも入っています。たとえば「8」の上半分は左回りになりますが、下半分は右回りに書かなければなりませんね。数字や文字は常に同じ方向に書くわけではないので、このような練習が必要なのです。時間のコントロールも大切です。

そして最後は三角形です。三角形でのポイントは、斜めに直線を書くことです。ここでも、次の点までの距離が少しずつ長くなっていきます。次の点に向かって真っすぐ書けるよう練習を繰り返してください。

三角形T.jpg
三角形U.jpg
四角形・円・三角形を使って数字を上手に書く練習についてお話をさせていただきました。一年生であれば一日にかける時間は(時間のコントロールをしながら)10分から15分、長くても30分程度が限界です。就学前の子どもだと30分は難しいかもしれません。

なにしろ苦手なことを練習するわけですから、ここで精神論を持ち出して頑張らせるようなことだけはしないよう気を付けてください。また最初にお話ししたように、色を塗ったりデザイン化して楽しみながらであれば、もう少し長い時間近く楽しめるかもしれませんね。
次回は、数字そのものを書く練習方法についてお話ししたいと思います。

Posted by ookubo at 19:39 | 技術編 | この記事のURL
10のまとまりを作るサクランボ計算に挑戦(ひき算編) [2016年01月30日(Sat)]
〇10のまとまりを作るサクランボ計算に挑戦(ひき算編)

以前「10のまとまりを作るサクランボ計算に挑戦」のところで、サクランボ計算についてお話をしました。一年生にとって、サクランボ計算はとても難しく、「論理的な思考力」を育てるという目的は理解できるものの、そのためには教え方の工夫が必要な単元のひとつです。そして、この「サクランボ計算」はひき算でも扱われています。

ひき算の難しさは、前回の「ひき算が苦手なときは」でも触れたように、数字を逆に唱えていかなければならないことなどに大きな原因があります。その上に「サクランボ計算」を扱うわけですから、あきらめてしまう子どもが出てくるのもわかります。

したがって、数字を逆に唱えることが難しいなど、サクランボ計算どころかブロックなどの具体物を使う方法から脱出できない場合は、思い切って復習から始めたほうが結果的には良いと思います。

ここでは、繰下がりのないひき算はスムーズにできていることを前提に、「サクランボ計算」でのつまずきやすいポイントとその対応についてお話ししたいと思います。

つまずきやすいポイントの前に、実は教科書によってサクランボの書き方が微妙に違うことについてお話しましょう。

下の図は、A教科書とB教科書の「サクランボ計算」の途中までを書いたものです。同じ「13−8」なのですが、「13」を「10」のまとまりと「あといくつ」になるかを考え分解するときに、よく見ると分解した数(サクランボの実)のところが違っていますね。
サクランボ(ひき算).jpg


気がついたと思いますが、A教科書では「10」を左側に「3」を右側に書いてあります。いっぽうB教科書では逆に「3」を左側に「10」を右側に書いてあります。

ちなみに、どちらでもその後の計算方法は同じです。上記のように「13」を「10」のまとまりと「あといくつ(3)」になるかを考えて分解しました。そして「10」のまとまりから「8」を引きます。「10−8」は「2」になりますね。この「2」と「あといくつ」で求めた「3」を合わせて、答えが「5」となるわけです。

では、なぜ同じことなのに左右が異なる教科書があるのでしょうか。それはそれぞれの教科書が何をポイントにおいているかによる違いです。

A教科書は、「13」の数を10進法の仕組みにしたがって表すことにポイントにおいたため、「10」とあと「3」という流れで書いてあります。

そしてB教科書では、「13」を分解したあとに「10−8」の計算をすることにポイントをおいたため、「10−8」をわかりやすくするために「3」を先に書き「10」を「8」に近い右側に書いてあるのです。

このように、教科書によって成り立ちを重視するか、わかりやすさを重視するかで書き方が違ってくることもあります。どちらかが正しいというわけではありません。またこのように成り立ちとわかりやすさの両立が難しい場合もあるわけです。

つまずきやすいポイントとその対応についてお話するはずが、前置きが長くなってしまいました。ただ、この前置きを読んでつまずきやすいポイントに気がついたと思います。

つまずく場合の多くは、分解したあとにどの数字をひき算するのかがわからなくなってしまうことにあります。

実は先生も黒板で説明するときに困っている場面をよく目にします。成り立ちを重視して「13」を分解した場合、「10」と「8」の位置が離れたところにあるため、「10」と「8」を引くことの説明の時に、そのまま式に表すことができないからです。

下の写真は、実際の授業で「12−9」を使って先生が黒板に書いたものです。「10」と「9」の位置が離れていて「10−9」と書けないため、分解した「10」と「9」を囲ってひき算することを示していますね。
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勉強が苦手な子どもには、分解した数のうち10を右に書き(もうひとつの数字を左に書くことで)、「10−8」が見ただけでわかるようするほうが良いと思います。下の写真は、この方法で授業をしている黒板です。
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小学校一年生の子どもにとって見てわかりやすいですし、先生にとっても説明がしやすくなりますね。

まずは、この10を右に書き、もうひとつの数を左に書く分解だけの練習だけをすることが効果的です。左側に「3」を右側に「10」を書くのと同じように、いろいろな数字を使って(次のひき算がしやすいよう)練習します。

分解がスムーズにできたら、いよいよサクランボ計算を答えをだす最後のところまでやってみましょう。あとは繰り返し練習するだけになります。
Posted by ookubo at 12:26 | 技術編 | この記事のURL
ひき算が苦手なときは [2016年01月14日(Thu)]
〇ひき算が苦手なときは
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ひき算は、たし算よりも難しい傾向があります。大人になってもまだ苦手意識が残っているという人もいるかと思います。子どもたちの中には、苦手意識どころか、指を使っても上手に計算できないといった場合もあります。

ひき算が難しい理由は大きく二つあります。

ひとつは、「就学前に数の学習は必要か@」でお話しした具体物から数字だけの計算になる難しさです。

ひく数を、(具体物なしに)数字だけ見ていくつを表しているのかを瞬時に判断できなければならないことです。

もうひとつの理由は、ひく数を数えるときに数字を逆にたどっていかなければならない難しさです。

ふたつ目の理由はひき算独特の難しさで、私たちは数字を逆にたどっていくことに慣れていないことからきています。ふだん私たちがモノを数える時に「1(イチ)、2(ニ)、3(サン)、4(シ)、5(ゴ)・・・」と数えますね。子どもにも同じように順番に唱える練習をさせてきました。たし算のときは、この練習通りたす数の分だけ順番に数えれば答えは自然に出てくるわけです。たとえば「2+3」であれば「2」から順に「3(サン)、4(シ)、5(ゴ)」と順番に数えていけば、答えは自然に「5」だとわかります。

ところが、ひき算は逆に数えていかなければなりません。「5−3」であれば「5」から順に「5(ゴ)、4(ヨン)、3(サン)」と数えなければならないのですが、このとき逆に数えることが(順番に数えるときに比べて)スムーズにできないわけです。

このふたつの理由のどちらか、またはふたつとも重なって、どうしてもゆっくりになったり指でもわからなくなってしまう子どもが出てくるわけです。そのままにしていると当然苦手意識も強くなります。

もし就学前の段階であれば、10までの数で充分ですから逆の順番でも唱えたり書いたりする練習をしてみてください。順番に唱えるときと同じようにスムーズにできるようになることが大切です。10より大きな数を習うよりも優先して取り組んだほうが良いと思います。

入学後になってからであれば、逆の順番で練習する充分な時間がない場合もあるかもしれません。そんなときでも「ひき算」の練習する前に3分ほど練習する時間を確保してください。

最初は「10までの数を逆に唱える」ことがスムーズにできることを重視して練習します。数字を見ながら、それができたら数字を見ないで逆の順番に言えるように練習してみてください。一回の練習でできるようにならなくてもかまいません。2〜3日かけるとできるようになるはずです。スムーズに唱えることができたら、今度は数を唱えながら数字を逆の順番に書いてみる練習をしてみましょう。「ひき算」の練習とあわせてすると効果がでてくると思います。

「就学前に数の学習は必要か@」のときにもお話ししましたが、10までの数であれば暗算できるまでを目標にしたほうが、後の単元でつまずくリスクが少なくなります。

就学前や入学直後、私たちは無意識に順番に唱えることを重視してきました。これは言ってみれば「たし算」に向けた練習をしてきたと言えます。ところが逆に唱える機会が少なかったことから、「ひき算」に向けた練習はおろそかにしてきたとも言えます。

子どもの中には自身の能力で乗り越えて、何ごともなかったように学力をつけていける子どももたくさんいるでしょう。いっぽうで「ひき算」に向けた練習をしないままその単元の授業に入ってしまい、できないまま困ってしまう子どももいるわけです。

数字を逆に唱える練習をしたところで、足し算よりも得意になることは一般的にありません。なぜならその後の日常でも順番に唱える場面の方が生活の中に多いからです。それでも、学校の授業がわかったりできたりする意味では、逆に唱える練習はとても有効な方法といえます。

Posted by ookubo at 19:50 | 技術編 | この記事のURL
就学前に数の学習は必要かA [2015年11月30日(Mon)]
〇就学前に数の学習は必要かA
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前回、数の特徴として「形と音と数概念」についてお話をしました。数字を書く練習だけ、声を出して唱える練習だけを続けるのはあまり良い方法とは言えないこと。数字を見て音が分かり、いくつを表しているかがリンクして理解できる学習を、学校に入る前の段階で意識していただければという内容でした。

今回は、数字の形や音からリンクしてわかる能力をもう少し掘り下げてみたいと思います。

年長児になれば、三つのアメと五つのアメを見て比べて、少ない方(多い方)がどちらなのかわかります。ところが具体的なモノを使わずに「3(サン)」と「5(ゴ)」ではどちらが小さい(大きい)のかと聞かれると、答えられない子どもが出てきます。園児に使う言葉としては、「小さい(大きい)」よりも「ちょっと(いっぱい)」のほうがいいかもしれませんね。

要は見て比べることができる具体物があればわかるのに、数字やその音だけではいくつを表すのか瞬時に出てこないので答えられないというわけです。

このように、書くことや読むことはできるのに数字だけでは大小の比較が難しい子どもがいます。

そんなときは、次のような練習を日頃から意識してみてください。
食事の際に(例えば)ウインナーを与えるときは、「お兄ちゃんだからいっぱいね。イチ、ニ、サン、シ(ヨン)、ゴ!」「妹はちょっとね。イチ、ニ、サン!」。

また洗濯物を取り込んだときに、「お父さんのシャツは、イチ、ニ、サン、シ(ヨン)だからいっぱいだね」「お兄ちゃんのは、イチ、ニ、サンだからちょっとだね」などです。

ここでくれぐれも単位にはこだわらないでください。ウインナーだから一本、二本と言わせようとしたり、シャツだから一枚、二枚と言わせたいなどと、他のことも同時に学ばせたいと欲張ると結局どれも身につかないことになりかねません。

また、数の勉強をするときに「いっぱい・おおい・ちいさい」と「ちょっと・すくない・ちいさい」といった言葉をつけ加えるのもひとつです。

就学前の知育教材などを使って、数字と具体物の両方書かれている数の大小比較から始めて、最終的に数字だけで比較する練習へ段階を踏んで練習するのも良いでしょう。

小学校になると引き算の勉強があります。最初は教科書にも具体物が描かれていますし、それを使って大小関係を確認しながら学ぶようになっています。教科書の構成にしたがって学んでいくうちに、数字を見て大小関係が瞬時に判断できるようになる子どももいます。

また「5−3」のように計算式から答えを求める場面では、最初から引かれる数が決まっているので、「5」と「3」はどちらが大きいのか(小さいのか)をわざわざ意識しなくても計算できてしまいます。それゆえに、子どもの課題に気がつかないまま進んでしまうこともあります。

ところが、二学期になると次のような場面に出くわします。

「おとうとは、アメを 5こ もっていました。おかあさんから 2こもらいました。
いもうとに 3こ あげました。のこりは、なんこでしょうか」

読んで文章の内容を頭に浮かべることができれば、順番に「5+2−3」で良いわけです。またなかなか文意がつかめなくても、「もらった」「あげた」「のこりは」といったキーワードから理解につなげていくことも可能です。

ところが数字から大小関係を瞬時に判断できない子どもは、上記の文章を読んでから式を考える過程で、例えば「・・・2こ もらいました。いもうとに 3こ あげました・・・」のところだけを見て「2−3」を先に計算しようとすることがあります。

そこで間違いに気がついた先生やお母さんは、「2は3より小さいから、引き算できないよ」と助言してしまいます。

でも、そもそも子どもは「2は3より小さい」ことが判断できないから間違えたわけですから、効果がありませんね。子どもは頭が真っ白になって固まってしまいます。

さらにその後の単元では、
「みかんが 5こと りんごが 3こ では、どちらが なんこ おおいでしょうか」
といったことも学習します。

教科書では、ほぼ全ての文章に具体物が描かれていますし、必要に応じてブロックなどを使って考える構成にもなっています。ただし、もうこの単元の段階では、具体物やブロックを使う意味が、引き算は、「残りはいくつ?」という場面と「差はいくつ?」という場面があることを学ぶという目的に変わってきます。

数字から大小関係を瞬時に判断できていないままだと、授業そのものがわからず見通しがもてなかったり、いままでできていた引き算そのものができなくなったりすることもあります。

このように就学を控えた年長児が数字を学ぶ際、数字の形や音の構成に目を向けることに加えて、大小関係が判断できるようにすることも意識してみることも大切かと思います。


Posted by ookubo at 19:44 | 技術編 | この記事のURL
就学前に数の学習は必要か。 [2015年11月18日(Wed)]
〇就学前に数の学習は必要か@

入学を控えた園児のお父さんとお母さんは、学校で授業についていけるか心配なことと思います。特に幼稚園や保育園の生活でうまくいかなかった経験が多いほど不安が強くなることでしょう。

ひらがなや数字の事前学習について、小学校の先生の立場から言えば不要という答えが返ってくると思います。誤った書き方を覚えてしまったり、エンピツのもち方に変な癖がついてしまったりがないようにというのがその理由です。また事前に書けるようになったところで、一年もたたないうちに差はなくなってしまうことが多いのも事実です。

また、最近になって就学前教育や幼児教育という考え方が登場してきました。数の学習をどうするかも議論になっています。早い段階で数字を書いたり読んだりできることが必要であるという意見がある一方で、遊びや子ども同士の関わりの中で様々なことに興味や関心をもつことが先であるという意見があります。

もっとも、最近では年長の時期に文字や数の勉強をする園が既に増えてきています。不安を抱えるお父さんとお母さんにとっては、安心ですね。

結局、就学前の数の学習は必要かどうかと問われれば、全員が一律同じ考え方で良いというわけではなく、子どもの個々の発達状況に応じることが必要です。先ほどお話ししたように入学してからでも大丈夫な子どもがいる一方で、やはり事前にひらがなや数字がわかっている状態で卒園したほうが良い子どももいるというのが、現実的なひとつの答えになりそうです。

実際、入学してくる子どもたちの中に、「イチ、ニ、サン、シ、ゴ、ロク・・・」と唱えることができても、ただ音として暗記しているだけで、数字の「1、2、3、4、5、6・・・」とリンクさせて理解できていない子どもに出会うことがあります。

また数字は書けるのに最初に習う「3+5」のような足し算が、三つのものと五つのものを合わせることだとなかなか理解できない子どもにも出会います。

就学前の数の練習の時、数字を読む練習は見ながら順番に読むことを繰り返しているだけだったり、書く練習では薄く書かれた部分をなぞったり見本の字を見ながら順番に書くことを繰り返しているだけだったりすると、このようなことが起きることがあります。

もし数字を順番に声に出して言うときに、いくつかの数字が抜けてしまったり順序が違ったりしたら、また数字を(順番にではなく)ひとつひとつ指差して読ませても言えない数字があったら、それは音だけを覚えようとしているのかもしれません。

数字を見ながら「イチ、ニ、サン、シ(ヨン)、ゴ・・・」と声に出して読むことは大切なことですし、そもそも始めて習う子どもたちにとって最初はこれで良いと思います。

でもある程度読めるようになったら、今度は「サン」と先生が言ったら「3」が書けること、「サン」や「3」は三つのこと(「〇〇〇」)を表していることを組み合わせて練習して欲しいのです。

また、お父さんがお風呂で一緒に数字を唱え練習している家庭もあるでしょう。10まで言えるようになったら、さらに10より大きい数にステップアップするのではなく、今度は三本の指を見せて「サン」と言える、5本指を見せて「ゴ」と言える練習をして欲しいのです。

同じように、数字を書けるけれども音にすると違っていたり、実際にいくつを意味しているのかがわかっていなようであれば、それは形だけを覚えようとしているのかもしれません。

最初は形だけでも音だけでもかまいませんが、10まで覚えることができたら、一度子どもの様子を見てください。園児向けの知育教材の中には、このような形だけ音だけ覚えてしまうことがないように、形と音と数概念をリンクさせて身に付けられるよう工夫されているものがあります。そうした教材を使ってみるのもひとつの方法です。

実は数字についてあまり知られていないことに、この「形と音と数概念」の関係があります。

数字といっても、
〇目で見て判断する「形」としての役割
〇聞いて判断する「音」としての役割、
〇それぞれの形や音と結びついた「数概念」
の三つの要素があります。


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私たちは、それぞれを知らないうちにリンクさせて覚えていくので、学校の授業がわかったり、日常生活で使うことができたりするわけです。

ブロックなどを使って何度教えても、数字だけの計算だとさっぱり積み上がらない子どもがいたら、原因はこのあたりにあるのかもしれません。さらに言えば、このことは数字だけのことではありません。ひらがなも同じなのです。
Posted by ookubo at 17:07 | 技術編 | この記事のURL
最初は式を書いてあげよう [2015年10月13日(Tue)]
〇最初は式を書いてあげよう

字を書くことが苦手な子どもがいます。授業でよく目にするのは、このような子どもの苦心している姿です。

黒板に書かれた式をノートに書いて計算する場面では、まず式を写す段階で書き間違いをしてしまいます。消しゴムで消して書き直すのですが、消し方も上手ではないため黒く汚れたりノートそのものが切れてしまうことがあります。式を無事書き写した頃には、習った計算の仕方がもうわからなくなっています。

書くことが苦手な子どもには、最初の式や問題文を書いてあげたほうが学習内容が身につきやすい傾向があります。まず身につけるべき内容だけをしっかりできるようにします。書くことの負担は、そのあとに少しずつ増やしていけば、学習内容も身につきかつ書くことの練習もできるわけです。


書き間違いが多い、自分で書いた字を読み間違う、マスからはみ出してしまうなど、苦手な様子がわかれば、学習内容を身につけることと字を書く練習を一度に求めることはせず、最初は式や問題文を書いてあげてください。

また、書くことが苦手な子どもに配慮しているワークブックなどを使うのもひとつの方法です。学ぶ内容をスモールステップで進めていく中で、少しずつ書く負担が増えていくように構成されています。

また書くことが苦手な子どもの中に、苦手さがわかりにくい子どももいます。

丁寧にゆっくり書いている子どもです。おそらく書き間違いが多いなどの経験から、自ら身につけた方法であったり、先生やお母さんから言われたりしたのでしょう。丁寧にゆっくり書くことそのものは悪いことではありません。ただ、書くことに時間がかかりすぎると、やはり教えてもらったことを忘れてしまうことがあります。

服のボタンやお箸などの使い方が不器用だったり、まとまった文章を読むときに行を飛ばして読んでしまったりする傾向がある場合も、仮に字を書くことが苦手なように見えなくても、少し気をつけて見てあげてください。もし書いているうちにわからなくなってしまうようでしたら、同じ対応で効果があがるかもしれません。

学校に限らず幼稚園や保育園でも同じことが言えますが、言葉や数といったことに比べて、手を使うことを含めた基本的な運動機能や目で形をとらえるなどの視機能について、配慮できていないことが多い気がします。

書くことが苦手な子どもは、本人自身がほかの子どもと比べて書くことにエネルギーを使っていることに気がついていません。それゆえに、「面倒くさい」「やりたくない」などと言ってしまうため、態度や規範意識の問題にされがちです。

私が小学生だった頃、担任の先生は「字は心をあらわす」と言って丁寧に書くことを大切にしていました。苦手なことはゆっくり丁寧にすることも、もちろん大切です。

でも、教える側が、苦手な理由を掘り下げて工夫してみることも大切なことです。

また子どもが身につけようとしていることの優先順位も、配慮してあげることが必要です。

Posted by ookubo at 20:13 | 技術編 | この記事のURL
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