論理的な思考力を育てるとは
[2015年10月29日(Thu)]
〇論理的な思考力を育てるとは
先日、繰り上がりの足し算で「10のまとまりをつくって計算する(サクランボ計算)」の難しさと、それを丁寧に少しずつ練習していくことの意味についてお話しました。実際の学校の授業では、サクランボ計算を身につけるところまでいかない子どもが多いので、順番に数えて答えを求めることで済ませてしまう場合もたくさんあります。また家庭でも「計算さえできれば良い」と考えてしまうことが多いかと思います。
学校での授業は時間の制約などがありますし、家庭で教えるとなるとサクランボ計算は教えにくいことも原因です。あまり理屈にこだわるよりも、状況にそって現実的な対応にならざるを得ないのは当然のことと思います。
ではなぜ教科書は理屈にこだわるのでしょうか。もちろん、10進法の仕組みに準じて計算をすることが大切だと考えているからですが、実はもっと大きな考え方が根底にあります。それは「論理的な思考力を育てる」ことです。
これまで、算数・数学は論理的な思考力を育てることだとよく言われてきましたが、このことについて丁寧に説明している機会は以外に少なかった気がします。そこで小学生に期待している論理的な思考力とは具体的にどんなことなのか、そして論理的な思考力とサクランボ計算などがどのように結びつくのかについてお話してみたいと思います。
小学生、特に低学年の子どもに論理的な思考力といっても、大人が思考するようなレベルのことを期待しているわけではありません。「10進法の仕組みにあわせて、10のまとまりをつくって計算する」ことそのものを論理的な思考と考えることもできますが、私は論理的な思考力を育てるための基礎的な力を身につけると考えたほうが近い気がしています。
この基礎的な力とは、複数の情報を頭の中に置いておく一種の記憶能力を指しています。
人間は何かを思考するときにいろいろなことを頭の中に置いて、「これでもない。あれでもない。」と考えます。「これ」や「あれ」を考えることができるのは、「これ」や「あれ」を頭の中に置いておけるからです。置いてあるものから「これ」を引っ張ってきたり「あれ」を引っ張ってきたりするから「これでもない。あれでもない。」と思考することができます。
ところがもし、頭の中に置いておける量が少なければどうなるでしょうか?「これでもないし・・・」で終わってしまい「あれ」が出てきませんね。
子どもたちは、この頭の中に置いておける量が大人に比べて少なく、いろいろなことを思考することがまだ難しい段階です。さらにその子どもたちの中に個人差もあります。特に一年生の中には、三つの数字を頭の中に置いて復唱することが難しい子どももいるくらいです。
小学校の間に「これでもない。あれでもない。」と考えることに耐えられる記憶能力を育てるから、いずれ「こうなって、ああなって」と「論理的に」考えることができるようになるわけです。
そんなわけで、サクランボ計算のような学習は、「10のまとまりをつくる」作業を通じて頭の中に置いておける量を増やしていく練習の意味をもっています。頭の中に置いておける量を増やしていくことで、複数の情報を順序立てて考えることができるようになり、それが論理的な思考力を育てることにつながるわけです。
こうした意味を考えると、教科書が理屈にこだわっている理由が少しわかっていただけたのではないでしょうか。
算数は、数字が書けることから始まり長さや量を測ることやお金を数えることなど生活に直接役に立つ知識や技術を身につける部分と、サクランボ計算のように論理的な思考力を育てる(ための基礎的な力を育てる)部分があります。九九などのように生活に役立つ部分と論理的な思考力を育てる両方の部分をもっているものもあります。
そしてもうひとつ、他の教科と同じく成績や進学のような選抜の場面で勝ち抜く役割もありますね。
このように、算数の勉強はいくつもの役割を担っていますが、時間の制約や教えにくさなどがあって、特に論理的な思考力やその基礎的な力を育てることを意識して、私たちは子どもに教えようとしていなかったと思います。そして最近では、一足飛びに「問題解決能力」を求めてしまっているところも気になるところです。
能力のある子どもはどのように教えてもできますからよいのですが、論理的な思考力につながる基礎的な力を育てる必要がある子どもが犠牲になりがちであることは知っておかなければなりません。
ときどき、最初からできている子どもを指して「問題解決能力が育った」と評価したり、逆に基礎的な力を育てないまま結果がでない子どもに向かって精神論で追い込んでしまっている場面を目にすることがあります。これでは教えていることにも育てていることにもなりませんね。
私たちは、少なくとも教えることを通じて子どもを選抜してしまうことにならないよう、心しておかなければなりませんね。
先日、繰り上がりの足し算で「10のまとまりをつくって計算する(サクランボ計算)」の難しさと、それを丁寧に少しずつ練習していくことの意味についてお話しました。実際の学校の授業では、サクランボ計算を身につけるところまでいかない子どもが多いので、順番に数えて答えを求めることで済ませてしまう場合もたくさんあります。また家庭でも「計算さえできれば良い」と考えてしまうことが多いかと思います。
学校での授業は時間の制約などがありますし、家庭で教えるとなるとサクランボ計算は教えにくいことも原因です。あまり理屈にこだわるよりも、状況にそって現実的な対応にならざるを得ないのは当然のことと思います。
ではなぜ教科書は理屈にこだわるのでしょうか。もちろん、10進法の仕組みに準じて計算をすることが大切だと考えているからですが、実はもっと大きな考え方が根底にあります。それは「論理的な思考力を育てる」ことです。
これまで、算数・数学は論理的な思考力を育てることだとよく言われてきましたが、このことについて丁寧に説明している機会は以外に少なかった気がします。そこで小学生に期待している論理的な思考力とは具体的にどんなことなのか、そして論理的な思考力とサクランボ計算などがどのように結びつくのかについてお話してみたいと思います。
小学生、特に低学年の子どもに論理的な思考力といっても、大人が思考するようなレベルのことを期待しているわけではありません。「10進法の仕組みにあわせて、10のまとまりをつくって計算する」ことそのものを論理的な思考と考えることもできますが、私は論理的な思考力を育てるための基礎的な力を身につけると考えたほうが近い気がしています。
この基礎的な力とは、複数の情報を頭の中に置いておく一種の記憶能力を指しています。
人間は何かを思考するときにいろいろなことを頭の中に置いて、「これでもない。あれでもない。」と考えます。「これ」や「あれ」を考えることができるのは、「これ」や「あれ」を頭の中に置いておけるからです。置いてあるものから「これ」を引っ張ってきたり「あれ」を引っ張ってきたりするから「これでもない。あれでもない。」と思考することができます。
ところがもし、頭の中に置いておける量が少なければどうなるでしょうか?「これでもないし・・・」で終わってしまい「あれ」が出てきませんね。
子どもたちは、この頭の中に置いておける量が大人に比べて少なく、いろいろなことを思考することがまだ難しい段階です。さらにその子どもたちの中に個人差もあります。特に一年生の中には、三つの数字を頭の中に置いて復唱することが難しい子どももいるくらいです。
小学校の間に「これでもない。あれでもない。」と考えることに耐えられる記憶能力を育てるから、いずれ「こうなって、ああなって」と「論理的に」考えることができるようになるわけです。
そんなわけで、サクランボ計算のような学習は、「10のまとまりをつくる」作業を通じて頭の中に置いておける量を増やしていく練習の意味をもっています。頭の中に置いておける量を増やしていくことで、複数の情報を順序立てて考えることができるようになり、それが論理的な思考力を育てることにつながるわけです。
こうした意味を考えると、教科書が理屈にこだわっている理由が少しわかっていただけたのではないでしょうか。
算数は、数字が書けることから始まり長さや量を測ることやお金を数えることなど生活に直接役に立つ知識や技術を身につける部分と、サクランボ計算のように論理的な思考力を育てる(ための基礎的な力を育てる)部分があります。九九などのように生活に役立つ部分と論理的な思考力を育てる両方の部分をもっているものもあります。
そしてもうひとつ、他の教科と同じく成績や進学のような選抜の場面で勝ち抜く役割もありますね。
このように、算数の勉強はいくつもの役割を担っていますが、時間の制約や教えにくさなどがあって、特に論理的な思考力やその基礎的な力を育てることを意識して、私たちは子どもに教えようとしていなかったと思います。そして最近では、一足飛びに「問題解決能力」を求めてしまっているところも気になるところです。
能力のある子どもはどのように教えてもできますからよいのですが、論理的な思考力につながる基礎的な力を育てる必要がある子どもが犠牲になりがちであることは知っておかなければなりません。
ときどき、最初からできている子どもを指して「問題解決能力が育った」と評価したり、逆に基礎的な力を育てないまま結果がでない子どもに向かって精神論で追い込んでしまっている場面を目にすることがあります。これでは教えていることにも育てていることにもなりませんね。
私たちは、少なくとも教えることを通じて子どもを選抜してしまうことにならないよう、心しておかなければなりませんね。
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