不等号は「<」よりも「>」のほうが難しい。
[2016年08月30日(Tue)]
〇不等号は「<」よりも「>」のほうが難しい。
二年生の一学期になると3ケタの数を学習します。教科書では、百の位と十の位、そして一の位というグループごとに数がなりたっていることを理解しながら、3ケタの数を書いたり読んだりできるように構成されています。さらに単元の中頃には、数直線を使ってさまざまな3ケタの数の順序や大きさを比べます(その流れで簡単な足し算や引き算をあつかう教科書もありますが、本格的な計算は別の単元で学習します)。
そして後半になると不等号が出てきます。3ケタのふたつの数の大きさを比べて、「<」や「>」の記号を正しく使うことができるよう学ぶわけです。
不等号の難しさとして、記号の向きで混乱してしまうという話を聞いたことがあると思います。ふたつのうちどちらの数が大きい(小さい)かはわかるのに、記号をどっち向きに書いたら良いのかわからなくなってしまう子どもがいるからです。
そのため、学校の先生は、例えば下記のようなキャラクターを使って「大きい数のほうを食べる」という教え方をするなど、苦手な子どもでも理解ができるように工夫しています。
ところが、不等号の向きを覚えるだけでは、どうしてもできるようにならない子どももいます。
今回は、不等号の向きがわかっているのに、自分でやるとわからなくなってしまうときに、どのような教え方をしたらよいのかについてお話したいと思います。
まず最初にわからなくなってしまう原因からお話しましょう。
もともと人間は、ふたつの数字だけを見て大小の判断をするとは限りません。もちろん本人はふたつの数字だけを見ていると思っているわけですが、無意識に数直線と同じような左から始まる数字の配列を前提に考えています。「数直線と同じ」とは、下記のように左にもっとも小さい数字があり、そこから右方向に順番に数字が大きくなるという配列パターンのことです。
ここでは「心の数直線」と呼ぶことにしましょう。人間は、このように左にいくにしたがって数が大きくなるという、「心の数直線」を知らないうちに頭にインプットして判断しているわけです。
そのため、常に右側の数が大きい並べ方のほうが、感覚的に親しみやすくなります。
日常生活を振り返ってみても、このような時刻表や・・・
野球場のスコアボードだって・・・
人間は、子どものころから「心の数直線」をもっているので、それに合わせて表示したほうが安心できるのです。
前回『□をつかった「たし算とひき算」は難しい』でも、視覚的に左から順番に情報処理をすることについてお話しました。これも同じ理屈からきています。
不等号の話にもどると、「321<654」のほうが親しみやすく、「654>321」となると何となく違和感をもってしまいます。子どもにとって、こうした違和感が学習するうえで混乱をまねき、わからなくなる原因となります。
タイトルにある、「>(左側の数が大きい)」のほうが「<(右側の数が大きい)」よりも難しいというのは、こうした理由からきています。
では、不等号の向きがわかっているのに、自分でやるとわからなくなってしまう子どもには、どのように教えたら良いのでしょうか。
ひとつの方法は、「心の数直線」を無視してしまう方法があります。
例えば、「654」と「321」の場合、下記のように「654」を上段に「321」を下段に書きます。これは、数を上下に配置することで、横に並べる「心の数直線」を想起させない効果をねらっています。そして、最初に百の位の数字だけを比べて、大きいほうの数が「大きい」と判定する方法があります(この例の場合は「654」が大きいとなります)。
もし百の位が同じ数(「654」と「645」など)だったら百の位では判定できませんので、次に十の位の数字を比べて判定します。もし十の位も同じ数(「654」と「651」など)だったら一の位で判定します。
どうしても苦手という子どもには、この方法がもっとも負担が少なく次に進むモチベーションを損なわないという点でも良いようです。
ただ、これは欠点ももち合わせていますので、少なくても教える側はわかっておいたほうがよいことがあります。
それは、操作が機械的なため、すでに学んでいる数直線の読み取りや順序などと直感的につなげて考えることが難しいことです。
例えば数の順序を考える次のようなときには、まったく別の課題として学びなおさなければなりません。
もっとも、多くの教科書は、数の順序を先に学習します。ここでつまずいていても、不等号を使った学習を身につけることができるというポジティブな考え方もできますね。
ふたつ目は、数直線の読み取りや順序などと直感的につなげて身に着ける方法です。これは手間がかかりますが、本来のねらいにそった学習方法なので、できればチャレンジしたいところです。
まず、下記のように、最初に練習する数字の組み合わせを、左側が小さい(右側が大きい)ものだけに絞って練習します。
これは、左側の数のほうが小さい(右側の数のほうが大きい)という「心の数直線」にそって学習するので、不等号の意味がわかっていれば負担なく「できる」ようになります。また本来の数直線の並びに合わせて数字を組み合わせているので、読み取りや順序などと直感的につなげて身につけることもできます。
もし、すでに習ったはずの数直線そのものが苦手な場合は、下記のように数直線で場所を確認してから大小の判断の練習をしてみてください。
ただ、この方法でも、ここまでの段階では欠点もあります。それは不等号の向きが常に同じなので、大小の判断を省いて機械的に書いてしまう可能性があることです。このあたりことは次に述べますが、まずは問題を解いている子どもには、数の大小をちゃんと考えて取り組ませてくださいね。
上記の例では百の位が同じものだけですが、できていることを押さえたうえで、いろいろな数で練習してみてください。
ここまでがスムーズになれば、後は数直線と逆にならんでいるバージョンの練習をするだけです。ここでは「難しい問題」などと伝えて特殊な例であることを子どもにも意識させてください。例えば下記のように同じ数の組み合わせから始めると、数の順序などと直感的なつながりが深まります。
こうしてできるようになれば、記号を機械的に書く心配はなくなります。また、本来のねらいである数直線上での数の順序や配列などと関連付けながら理解できる可能性が高くなります。
不等号は、ふたつの数字だけを見ているつもりでも、視覚的に左から数字が大きくなる「心の数直線」を使って考えています。苦手な子どもは、「心の数直線」と不等号の向きを別々に考えて学習することが難しいので、わからなくなってしまうわけです。
どうやら人間は、ちゃんと見ているようで、無意識に視覚的な思い込みをしてしまうのかもしれませんね。
二年生の一学期になると3ケタの数を学習します。教科書では、百の位と十の位、そして一の位というグループごとに数がなりたっていることを理解しながら、3ケタの数を書いたり読んだりできるように構成されています。さらに単元の中頃には、数直線を使ってさまざまな3ケタの数の順序や大きさを比べます(その流れで簡単な足し算や引き算をあつかう教科書もありますが、本格的な計算は別の単元で学習します)。
そして後半になると不等号が出てきます。3ケタのふたつの数の大きさを比べて、「<」や「>」の記号を正しく使うことができるよう学ぶわけです。
不等号の難しさとして、記号の向きで混乱してしまうという話を聞いたことがあると思います。ふたつのうちどちらの数が大きい(小さい)かはわかるのに、記号をどっち向きに書いたら良いのかわからなくなってしまう子どもがいるからです。
そのため、学校の先生は、例えば下記のようなキャラクターを使って「大きい数のほうを食べる」という教え方をするなど、苦手な子どもでも理解ができるように工夫しています。
ところが、不等号の向きを覚えるだけでは、どうしてもできるようにならない子どももいます。
今回は、不等号の向きがわかっているのに、自分でやるとわからなくなってしまうときに、どのような教え方をしたらよいのかについてお話したいと思います。
まず最初にわからなくなってしまう原因からお話しましょう。
もともと人間は、ふたつの数字だけを見て大小の判断をするとは限りません。もちろん本人はふたつの数字だけを見ていると思っているわけですが、無意識に数直線と同じような左から始まる数字の配列を前提に考えています。「数直線と同じ」とは、下記のように左にもっとも小さい数字があり、そこから右方向に順番に数字が大きくなるという配列パターンのことです。
ここでは「心の数直線」と呼ぶことにしましょう。人間は、このように左にいくにしたがって数が大きくなるという、「心の数直線」を知らないうちに頭にインプットして判断しているわけです。
そのため、常に右側の数が大きい並べ方のほうが、感覚的に親しみやすくなります。
日常生活を振り返ってみても、このような時刻表や・・・
野球場のスコアボードだって・・・
人間は、子どものころから「心の数直線」をもっているので、それに合わせて表示したほうが安心できるのです。
前回『□をつかった「たし算とひき算」は難しい』でも、視覚的に左から順番に情報処理をすることについてお話しました。これも同じ理屈からきています。
不等号の話にもどると、「321<654」のほうが親しみやすく、「654>321」となると何となく違和感をもってしまいます。子どもにとって、こうした違和感が学習するうえで混乱をまねき、わからなくなる原因となります。
タイトルにある、「>(左側の数が大きい)」のほうが「<(右側の数が大きい)」よりも難しいというのは、こうした理由からきています。
では、不等号の向きがわかっているのに、自分でやるとわからなくなってしまう子どもには、どのように教えたら良いのでしょうか。
ひとつの方法は、「心の数直線」を無視してしまう方法があります。
例えば、「654」と「321」の場合、下記のように「654」を上段に「321」を下段に書きます。これは、数を上下に配置することで、横に並べる「心の数直線」を想起させない効果をねらっています。そして、最初に百の位の数字だけを比べて、大きいほうの数が「大きい」と判定する方法があります(この例の場合は「654」が大きいとなります)。
もし百の位が同じ数(「654」と「645」など)だったら百の位では判定できませんので、次に十の位の数字を比べて判定します。もし十の位も同じ数(「654」と「651」など)だったら一の位で判定します。
どうしても苦手という子どもには、この方法がもっとも負担が少なく次に進むモチベーションを損なわないという点でも良いようです。
ただ、これは欠点ももち合わせていますので、少なくても教える側はわかっておいたほうがよいことがあります。
それは、操作が機械的なため、すでに学んでいる数直線の読み取りや順序などと直感的につなげて考えることが難しいことです。
例えば数の順序を考える次のようなときには、まったく別の課題として学びなおさなければなりません。
もっとも、多くの教科書は、数の順序を先に学習します。ここでつまずいていても、不等号を使った学習を身につけることができるというポジティブな考え方もできますね。
ふたつ目は、数直線の読み取りや順序などと直感的につなげて身に着ける方法です。これは手間がかかりますが、本来のねらいにそった学習方法なので、できればチャレンジしたいところです。
まず、下記のように、最初に練習する数字の組み合わせを、左側が小さい(右側が大きい)ものだけに絞って練習します。
これは、左側の数のほうが小さい(右側の数のほうが大きい)という「心の数直線」にそって学習するので、不等号の意味がわかっていれば負担なく「できる」ようになります。また本来の数直線の並びに合わせて数字を組み合わせているので、読み取りや順序などと直感的につなげて身につけることもできます。
もし、すでに習ったはずの数直線そのものが苦手な場合は、下記のように数直線で場所を確認してから大小の判断の練習をしてみてください。
ただ、この方法でも、ここまでの段階では欠点もあります。それは不等号の向きが常に同じなので、大小の判断を省いて機械的に書いてしまう可能性があることです。このあたりことは次に述べますが、まずは問題を解いている子どもには、数の大小をちゃんと考えて取り組ませてくださいね。
上記の例では百の位が同じものだけですが、できていることを押さえたうえで、いろいろな数で練習してみてください。
ここまでがスムーズになれば、後は数直線と逆にならんでいるバージョンの練習をするだけです。ここでは「難しい問題」などと伝えて特殊な例であることを子どもにも意識させてください。例えば下記のように同じ数の組み合わせから始めると、数の順序などと直感的なつながりが深まります。
こうしてできるようになれば、記号を機械的に書く心配はなくなります。また、本来のねらいである数直線上での数の順序や配列などと関連付けながら理解できる可能性が高くなります。
不等号は、ふたつの数字だけを見ているつもりでも、視覚的に左から数字が大きくなる「心の数直線」を使って考えています。苦手な子どもは、「心の数直線」と不等号の向きを別々に考えて学習することが難しいので、わからなくなってしまうわけです。
どうやら人間は、ちゃんと見ているようで、無意識に視覚的な思い込みをしてしまうのかもしれませんね。
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