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勉強が苦手な子どもたちのために

勉強が苦手な子どもたちがいます。教えても自分でやるとできなかったり、そもそもちゃんと聞いているのか、わかっているのかもあやしかったりします。

保護者や先生たちが一生懸命になっても、それが叶うとは限りません。そんな現実を受け入れることができず、私たちはついカッとなり、子どもにあたってしまうこともあるでしょう。

そして、子どももきっと辛い思いに苛まれているはずです。

ここでは、勉強の苦手な子どもに何とか寄り添った教え方ができないか。「技術」・「理論」・「心理」など様々な切り口で考えていきたいと思っています。

特定非営利活動法人 CEセンター 理事長 野田弘一


練習問題の落とし穴 [2016年09月30日(Fri)]
〇練習問題の落とし穴

子どもに勉強を教える際、必ずといってよいほどドリルや練習問題をさせています。できていれば○で、できていなければ×で採点します。時には×のところを直させることもあるでしょう。

ところが、このドリルや練習問題、よく考えると何となくさせてしまっていることはないでしょうか。

子どもの状態や勉強の過程によって、実際に解いてみることの意味や効果は異なります。ところが、学校の先生でも、これまでの習慣などから何となくやらせてしまっている授業を目にすることがあります。

今回は、子どもの状態や勉強の過程に応じた、ドリルや練習問題の意味や効果、そして問題の出し方について考えてみたいと思います。

まずは、子どもがやる気をなくしてしまう間違えたやりかたを挙げ、その理由を土台に効果的な方法を探っていきたいと思います。

やる気をなくすパターンで一番多いのは、教える側の説明がわかっているかどうかを確認しないまま、たくさんの問題を解かせてしまうケースです。説明がわかっていないのに解けるはずはありませんね。

「わかっているのかどうか確認するため」に問題を解かせる方法がありますが、そのために20問もあるドリルを全部やらせる必要はありません。仮に20問のドリルをやらせてみて、子どもが最初のほうでつまずいたり、途中でわからなくなったときのことを考えてみてください。勉強が苦手な子どもにとって、苦手なものを補うことが目的だった勉強が、失敗体験を積み重ねることに目的が変わってしまいます。

二番目に多いのは、(教えた内容に加えて)ひとひねりした問題も盛り込んでやらせてしまうケースです。今教えてもらった内容ができるかどうかというときに、ひとひねりした問題を入れてしまうと、子どもが混乱してしまいます。

「習ったことを活用したり応用したりする力も大切」というのは間違いありませんが、今その子どもに必要なのかどうかの判断もしなければなりません。教えてもらったことがわかっているのか、自分でもできるのかがわからないのに、ハードルを上げた問題で混乱してしまうときのことを考えてみてください。ハードルを上げた問題で混乱してしまうと、多くの子どもはリセットできないので、最初に教えてもらった内容もわからなくなります。

これもまた、苦手を補うはずだった目的が、いつのまにか変わってしまうことになりますね。

以上のふたつのケースを合わせた問題練習の悪い例が下記のようなプリントです。二年生の繰下がりのあるひき算(ひっ算)を使ってみました。

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このような構成の練習問題をさせると、教えたことがわからない子どもは長い時間プリントに向き合うだけになってしまいます。実際は、わからないまま向き合うことができる子どもは少ないので、多くはあれこれ策を練ってごまかそうとします。

大人は「わからなければ質問すれば良い」と思いがちですが、何がわからないかわからないので質問できません。「言っていることがわからない」のが本音ですが、そんなこと言おうものなら怒られるだけなので黙っています。

また、書くことが苦手な子どもは、プリントの式をひっ算の式に書きなおす必要があるため、計算の前に書き間違いをしてしまうことがあります。間違いを直しているうちに、計算の方法がわからなくなってしまうという展開になりがちです。

教科書では、子どもが混乱してできなくなってしまうことを想定していて、一時間目は繰下がりのないひっ算の学習から始めて、二時間目から繰下がりに入るようになっています。

しかも、二時間目では、「一の位のひき算ができないので十の位から借りる」というシンプルな計算の学習をして、三時間目では混乱しやすい計算を中心に学習します。

例えば、引かれる数の一の位が「0」になる計算と、繰下がりの結果引かれる数と引く数の十の位が同じ数になる計算などです。一の位が「0」であっても、十の位同士が同じ数でも(ひき算をすると「0」になっても)計算の考え方は変わりありませんが、子どもが混乱してしまうことが多いことから、同じ繰下がりの計算でも、別にあつかって少しずつ進むことができるようにしているわけです。

それでは、この二年生の繰下がりのあるひき算を例に、子どもが混乱しない練習問題を考えてみましょう。

まず、教科書の展開に合わせながら、混乱させずにスモールステップで進めていくには、「リハーサル問題」と「習熟問題」のふたつの構成にするのが良いと思います。

「リハーサル問題」とは、教えたことがわかっているかどうかを確認するためだけの問題です。「習熟問題」とは、一般的な量をこなして身に着ける問題です。

「リハーサル問題」は確認するためだけですから、下のように二問だけやってみます。

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二問やって、できない(間違えた)問題がある場合は、教え方に問題があり、わかりにくかったりするなど子どもが理解できていないことを意味しています。教え方の何が悪かったのかを把握したうえで再度説明し、次の二問をやってみるようになっています。このプリントでは三回チャレンジできるようになっています。

「リハーサル問題」では、字を書くことが苦手な子どもにも配慮します。書き写しの段階でつまずかないようあらかじめ式が書いてあり、(教えてもらった)計算に集中できるようにしています。また、問題のレベルはすべて同じで、つまずきやすかったり不安になったりする問題は入れていません。

この「リハーサル問題」ができるようなったのであれば、子どもは教えたことを理解しできるようになったことを意味しています。

このことを押さえたうえで次の「習熟問題」に移ります。ここでは、一般的な練習問題と同じように、量をこなして自然にできるようにすることが目的です。

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ここで初めて、間違えやすい問題や不安になるような式が出てきます。また字を書くことが苦手な子どもを想定していて、書くことの負担を少しずつ増やす構成になっています。なお、習熟問題の例を二枚しか出していませんが、特に二枚目のようなプリントはもう何枚かやる必要があります。

今回は、教えたことがわかったのか、教えたとおりできるのかを確認するための練習問題と、できていることを押さえたうえで自然にできるようにする(学力として身に着くようにする)練習問題を紹介しました。

これまであまり意識することなく、場合によっては既成のものを疑問なくやらせていた練習問題ですが、その構成や量によって、いろいろな意味や効果を期待した問題があるわけです。

ところで、今回紹介したプリントを見てみると、習熟問題は「量をこなす」と言いながら、四問ずつになっています。一度に20問くらいやらなければならないドリルがある中で、ちょっと少ないと思われる方もいるかもしれません。

量をこなすといっても、私は一度に何十問もやり続けることはあまりお勧めしません。集中を持続することが苦手な子どもは、(できるようになっても)必ずどこかで間違いをしてしまいます。また採点をする際にも時間がかかり過ぎ、子どもが飽きてしまいます。実は教室でも同じことが言えます。何十問もあると、早い子どもと遅い子どもの時間の差が大きくなります。

一度に何十問も連続して解くことは苦痛をともなうので、修練や鍛錬といった言葉でイメージできる精神的な成長に効果がありそうな気がします。しかし、算数の問題量を増やしても、我慢強くなったり壁を乗り越える力がつくといった精神的な成長は望めません。

終わってからの満足感は、実は教える側の大人だけであり、算数嫌いになるなどのデメリットのほうが多く、子どもの立場で考えると避けたほうが良いと思います。

むしろ自分でわかった実感がもてることや、自分の力でできた体験のほうが、本人の精神的な満足につながります。またその積み重ねが、次も自分でできるのではないかという自信になり、我慢強さや壁を乗り越える力につながると思っていただいて良いと思います。

Posted by ookubo at 18:01 | 理論編 | この記事のURL
立体図形と展開図の関係 [2016年09月15日(Thu)]
〇立体図形と展開図の関係

二年生の三学期になると、「はこ(箱)の形」という単元で、初めて立体図形を学習します。図形は比較的やさしい単元と思われることが多く、確かに多くの子どもたちが苦労せずできるようです。これまで数字を使った単元で苦労してきた子どもにとっても、楽しく授業に参加できる時間だったりもします。

ところが、この単元で、箱の形を見て展開図を書いたり、展開図を書いて箱を作る授業になると、急にわからなくなる子どもがいることを知っておいてほしいと思います。

学校の先生でも、楽しく取り組んでいる子どもたちに目がいってしまい、気がつかないまま取り残してしまうことがあるくらいです。大きな問題はないだろうと思うかもしれませんが、ここがわからないままだと、三年生の「円と球」でもつまずき、四年生の「立方体と直方体」でもつまずきます。

中学生の数学や技術の時間に、展開図が書けず苦労しているケースのほとんどは、小学校二年生のつまずきから始まったと思っていいでしょう。

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箱の形から展開図を書くこと(またはその逆)が苦手な理由は、
辺と辺の接する場所を考えることと、箱の全体のイメージを考えることを、同時にイメージしなければならないことにあります。

箱の形は、タテやヨコの長さはいろいろですし、展開のパターンも11種類もあります。視覚的に考えなければならないふたつの課題を、お互いにすり合わせながら同時におこなうことが難しいわけです。

もし箱の形が一種類しかなく、展開のパターンも一種類であれば、難しいことは言わずに丸暗記という手もあるかもしれません。ところが実際の授業では、たくさんの種類が立て続けに出てくるので、多くの子どもが感覚的にできてしまう陰で、ますます混乱してしまうことになります。

もし、展開図を書くことが苦手なようでしたら、下記のような練習をしてみてください。

まず、箱の形を展開できる教具が必要です。学校の先生などでなくても、誰でも買うことができるものをピックアップしてみました。

マジキャップ
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マグフォーマ
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購入が難しい場合は、画用紙と繰り返し貼れるテープを使って箱を作ってもかまいません。
その際、六面とも同じ形ではなく、ティッシュの箱のように各面の形が異なる箱にするのがコツです。

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@まず最初に、完成してある箱型のものを、展開図になるよう分解します。

A次に、分解したものをノートに写してみます。このとき輪郭だけ書くのではなく、展開図になるよう、面をひとつひとつ並べた形で書きましょう。子どもが試行錯誤して取り組んでいる最中は口を出しません。また展開図は多少曲がったり歪んで書いてしまっても問題ありません(辺や角を正確に書かせる必要はありません)。

これを、いろいろアレンジして繰り返します。@の分解の際に右側の面から分解したようだったら、次は左側の面でもやったり、手前の面からやったりします。また複数の色のブロックがあれば、ブロックの色をそろえて同じ色でやったりするのも良いかもしれません。飽きないように工夫することがポイントです。

ここまでスムーズにいくようになったら、次のステップになります。

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@あらかじめ、ふたつ同じ箱を作っておきます。

A子どもが取り組む前に、ふたつのうちひとつの箱を完全にバラバラに分解しておきます(ブロックどうしがつながっていない状態にします)。

B子どもに、残った箱の形をみせながら、バラバラのブロックをつなぎ合わせて展開図を作ってもらいます。前のステップで書いた展開図と同じように、それをブロックで作るわけです。ここでも子どもの試行錯誤を見守り、口を出さずに待っていましょう。

Cできあがったら、できた展開図を実際に組み立ててみましょう。同じ形の箱ができるかどうか楽しみながらやるのがコツです。間違えてもかまいません。変な形になったのを、お互いに笑ったり、不思議な顔をしながら楽しみます。二回まで再チャレンジします。それ以上だと嫌になったり飽きてしまうことがあるので、あまり頑張らせることをしないで、次の箱に移りましょう。

Dこれを何度か繰り返します。ここでも色を変えたりなど工夫をしながら進めてください。

もし宿題もやらなければならないようでしたら、練習でつかったブロックを使ってやっても良いでしょう。練習前とは比べものにならないくらいスムーズにできると思います。

この練習は、辺と辺の接する場所や箱の全体のイメージを同時に考えなければならない負担を(ブロックを使うことで)軽減し、箱から展開図(またはその逆)へのつながりをスムーズに理解できようにするのが特徴です。

欠点として、負担が減った辺と辺の接する場所と全体のイメージを同時的におこなう思考力は、ある程度の量をこなさないと(繰り返し練習しないと)身につかないことが挙げられます。

教科書は、そのあたりのことをある程度わかっているので、向き合った面どうしの色を同じにすることや、箱を画用紙の上に置き写し取るなど、位置関係を把握しながら展開図を書かせるなど、指導書を通じてアドバイスをしています。

しかし、実際の授業では、同じ色の面を意識したり箱を書き写してできるようになっても、(授業は成立するかもしれませんが)この授業のねらいである「箱の形を構成する面のつながり方がわかる」ようにはならないことがあります。

また、手先が不器用な子どもにとって、作業そのものでつまずいてしまい、何の授業かわからないこともあります。中には、箱を作ったことしか残らない授業もときどき見受けられます。

したがって宿題に出されてしまうと、家ではお手上げというわけです。

箱の形と展開図は、いつも以上に楽しそうに取り組む子どもが多いので、苦手な子どもやその理由について取り上げられる機会が少ない単元です。でも、ここで落ちこぼしてしまった子どもは、積み重ねの問題から、学年が上がるにつれて補うことが難しくなり、中学生になっても苦労してしまことにつながってしまいます。

大人が苦手な原因を知ってその負担をできるだけ減らし、子ども自身が手の感触を使い試行錯誤する時間が保障されると、あとは子どもが自ら「わかる」「できる」ようになるわけです。
Posted by ookubo at 21:43 | 技術編 | この記事のURL
不等号は「<」よりも「>」のほうが難しい。 [2016年08月30日(Tue)]
〇不等号は「<」よりも「>」のほうが難しい。

二年生の一学期になると3ケタの数を学習します。教科書では、百の位と十の位、そして一の位というグループごとに数がなりたっていることを理解しながら、3ケタの数を書いたり読んだりできるように構成されています。さらに単元の中頃には、数直線を使ってさまざまな3ケタの数の順序や大きさを比べます(その流れで簡単な足し算や引き算をあつかう教科書もありますが、本格的な計算は別の単元で学習します)。

そして後半になると不等号が出てきます。3ケタのふたつの数の大きさを比べて、「<」や「>」の記号を正しく使うことができるよう学ぶわけです。

不等号の難しさとして、記号の向きで混乱してしまうという話を聞いたことがあると思います。ふたつのうちどちらの数が大きい(小さい)かはわかるのに、記号をどっち向きに書いたら良いのかわからなくなってしまう子どもがいるからです。

そのため、学校の先生は、例えば下記のようなキャラクターを使って「大きい数のほうを食べる」という教え方をするなど、苦手な子どもでも理解ができるように工夫しています。

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ところが、不等号の向きを覚えるだけでは、どうしてもできるようにならない子どももいます。

今回は、不等号の向きがわかっているのに、自分でやるとわからなくなってしまうときに、どのような教え方をしたらよいのかについてお話したいと思います。

まず最初にわからなくなってしまう原因からお話しましょう。

もともと人間は、ふたつの数字だけを見て大小の判断をするとは限りません。もちろん本人はふたつの数字だけを見ていると思っているわけですが、無意識に数直線と同じような左から始まる数字の配列を前提に考えています。「数直線と同じ」とは、下記のように左にもっとも小さい数字があり、そこから右方向に順番に数字が大きくなるという配列パターンのことです。

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ここでは「心の数直線」と呼ぶことにしましょう。人間は、このように左にいくにしたがって数が大きくなるという、「心の数直線」を知らないうちに頭にインプットして判断しているわけです。

そのため、常に右側の数が大きい並べ方のほうが、感覚的に親しみやすくなります。

日常生活を振り返ってみても、このような時刻表や・・・

バスの時刻表.jpg

野球場のスコアボードだって・・・

スコアボード.jpg

人間は、子どものころから「心の数直線」をもっているので、それに合わせて表示したほうが安心できるのです。

前回『□をつかった「たし算とひき算」は難しい』でも、視覚的に左から順番に情報処理をすることについてお話しました。これも同じ理屈からきています。

不等号の話にもどると、「321<654」のほうが親しみやすく、「654>321」となると何となく違和感をもってしまいます。子どもにとって、こうした違和感が学習するうえで混乱をまねき、わからなくなる原因となります。

タイトルにある、「>(左側の数が大きい)」のほうが「<(右側の数が大きい)」よりも難しいというのは、こうした理由からきています。

では、不等号の向きがわかっているのに、自分でやるとわからなくなってしまう子どもには、どのように教えたら良いのでしょうか。

ひとつの方法は、「心の数直線」を無視してしまう方法があります。
例えば、「654」と「321」の場合、下記のように「654」を上段に「321」を下段に書きます。これは、数を上下に配置することで、横に並べる「心の数直線」を想起させない効果をねらっています。そして、最初に百の位の数字だけを比べて、大きいほうの数が「大きい」と判定する方法があります(この例の場合は「654」が大きいとなります)。

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もし百の位が同じ数(「654」と「645」など)だったら百の位では判定できませんので、次に十の位の数字を比べて判定します。もし十の位も同じ数(「654」と「651」など)だったら一の位で判定します。

どうしても苦手という子どもには、この方法がもっとも負担が少なく次に進むモチベーションを損なわないという点でも良いようです。

ただ、これは欠点ももち合わせていますので、少なくても教える側はわかっておいたほうがよいことがあります。

それは、操作が機械的なため、すでに学んでいる数直線の読み取りや順序などと直感的につなげて考えることが難しいことです。

例えば数の順序を考える次のようなときには、まったく別の課題として学びなおさなければなりません。

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もっとも、多くの教科書は、数の順序を先に学習します。ここでつまずいていても、不等号を使った学習を身につけることができるというポジティブな考え方もできますね。

ふたつ目は、数直線の読み取りや順序などと直感的につなげて身に着ける方法です。これは手間がかかりますが、本来のねらいにそった学習方法なので、できればチャレンジしたいところです。

まず、下記のように、最初に練習する数字の組み合わせを、左側が小さい(右側が大きい)ものだけに絞って練習します。

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これは、左側の数のほうが小さい(右側の数のほうが大きい)という「心の数直線」にそって学習するので、不等号の意味がわかっていれば負担なく「できる」ようになります。また本来の数直線の並びに合わせて数字を組み合わせているので、読み取りや順序などと直感的につなげて身につけることもできます。

もし、すでに習ったはずの数直線そのものが苦手な場合は、下記のように数直線で場所を確認してから大小の判断の練習をしてみてください。

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ただ、この方法でも、ここまでの段階では欠点もあります。それは不等号の向きが常に同じなので、大小の判断を省いて機械的に書いてしまう可能性があることです。このあたりことは次に述べますが、まずは問題を解いている子どもには、数の大小をちゃんと考えて取り組ませてくださいね。

上記の例では百の位が同じものだけですが、できていることを押さえたうえで、いろいろな数で練習してみてください。

ここまでがスムーズになれば、後は数直線と逆にならんでいるバージョンの練習をするだけです。ここでは「難しい問題」などと伝えて特殊な例であることを子どもにも意識させてください。例えば下記のように同じ数の組み合わせから始めると、数の順序などと直感的なつながりが深まります。

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こうしてできるようになれば、記号を機械的に書く心配はなくなります。また、本来のねらいである数直線上での数の順序や配列などと関連付けながら理解できる可能性が高くなります。

不等号は、ふたつの数字だけを見ているつもりでも、視覚的に左から数字が大きくなる「心の数直線」を使って考えています。苦手な子どもは、「心の数直線」と不等号の向きを別々に考えて学習することが難しいので、わからなくなってしまうわけです。

どうやら人間は、ちゃんと見ているようで、無意識に視覚的な思い込みをしてしまうのかもしれませんね。

Posted by ookubo at 11:28 | 技術編 | この記事のURL
□を使った「たし算とひき算」は難しい。 [2016年06月30日(Thu)]
〇□を使った「たし算とひき算」は難しい。

二年生や三年生になると、わからない数を□を使って求める授業があります。文章題をピンクと青のテープ図を使って状況を理解してから式をつくり答えを求めます。

テープ図を使う理由は、文章を読んで全体の数(量)と部分の数(量)の関係を理解してから式をつくってほしいということがあります。これは、「論理的な思考力を育てるとは」のところでお話した、算数は順序立てて考える能力を育てることが土台になっているからです。

ところが、これがなかなか難しい。子どもたちにとって難しいことはもちろんですが、教えるほうも苦労します。

教えるほうも苦労する理由は、
これまで左から順番に出てくる数を、その順番で計算していたのに、ここでは順番通り計算できない
ことにあります。

詳しく説明します。
この単元の前までは、例えば次のような文章題から式をつくり答えを出していました。
「花子さんは、おはじきを31こ もっていました。妹に 8こ あげました。のこりは 何こに なったでしょう。」
読み進めていくと、出てくる数は左から順に「31」→「8」になります。

数はふたつとは限りません。
「バスに 12人 のっています。バスていで 6人 おりて、3人のりました。バスには、いま何人 のっているでしょうか。」
という場合は、左から「12」→「6」→「3」になりますね。

花子さんの文章を読んで式をつくると、出てきた順に「31−8」となります。同じようにバスの文章では「12−6+3」になります。

ところが、□をつかった文章題では次のようになります。
「花子さんは、おはじきをもっていました。妹に 8こ あげました。のこりを数えたら23こに なりました。はじめに何こ もっていたでしょうか。」

これまで学んだ方法を使うと「8」→「23」の順に数が出てくるので、「8−23」や「8+23」が頭に浮かびます。「8−23」は計算できないので、「8+23」しか残りません。

この例の場合は、結果的に答えは「31」になり正解になりますが、実際の授業は、□を使って式をつくる過程の説明がありますから、子どもは何やらさっぱりわからないとなります。

教えるほうは、文章の最初の部分を□に置き換えればよいことを知っていますから、既に頭の中で「□‐8=23」と左から順に式が完成しています。

左から順になっていることは意識していないので、子どもが「どうしてわからないのかわからない」ことになってしまいます。

私たちは、無意識に左から順番に情報を処理する習慣を身に着けてきました。横書きの文章は必ず左から読み書きします。単純に数字を書く時も左から「1、2、3・・・」と書きますね。数直線でも左から順に数が大きくなります。

私は「無意識に」と述べましたが、この単元の授業に苦労してきた学校の先生の間では、□を使った問題を「逆思考の問題」と表現して、授業の改善に努めてきました。

花子さんの例で説明すると、「のこりは・・・」とひき算を思わせる表現を使いながら、実際はたし算で答えを出すことから、逆に考える必要があるとのことから生まれた表現です。

子どもが苦手な理由を、文章の意味理解にあるのではないかと考えたことからわかるように、左から順番に情報を処理していることは「無意識」であることがわかります。

では、視覚的に左から情報処理する習慣がある子どもに、どのように教えたら良いのでしょうか。

これまでの経験から、最初に□を含めたテープ図の関係を視覚的に練習することから始めたほうが良いようです。

全体の数(量)と部分の数(量)の関係を、例えば次のように示します。
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全体が□(わからない)のであれば、次のように変化します。
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部分が□(わからない)のであれば、次のようになります。
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このように、最初に□を含めたテープ図の関係を視覚的に練習してから、文章を読んでどのテープ図の関係と同じなのかを探すことを繰り返すうちに、多くの場合はできるようになるはずです。

文章は左から順に読み、内容を理解します。式も左から順に計算します。私たちは無意識に視覚的な習慣も身に着けているわけです。

ところが□を使った文章題では、テープ図という視覚的な方法を使っているにも関わらず、これまでの左から順に処理する習慣は活用できません。

そこで、左から順番ではなく、全体と部分の関係を視覚的に学ぶ(練習する)必要があるわけです。

Posted by ookubo at 20:30 | この記事のURL
苦手な子どもほど頑張らない [2016年05月28日(Sat)]
〇苦手な子どもほど頑張らない。

私たちは、勉強が苦手な子どもほど頑張って成績を上げて欲しいと思っています。ところが苦手な子どもほど、頑張ることが難しい傾向があります。そのことを知っておかないと、努力しないその姿だけを見て、態度の問題や精神論で追い込んでしまうことになりかねません。

多くの子どもは、保育園や幼稚園の年中レベルになると、何か失敗すると恥ずかしさや罪悪感をもつようになります。

特に失敗して親から怒られた経験が多い子どもは、罪悪感を通り越して見捨てられた感覚が芽生えます。

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それが園や学校という集団の中であれば、恥ずかしさを通り越して、皆と違うことがバレてしまったという屈辱感が生まれます。


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頑張ってもうまくいかなかった現実は、「ダメな人間である」ことの証明になるわけです。

これが勉強であれば、頭の悪い人間であることを証明したことになるわけです。

子どもでも、皆と違うことに恐怖を感じているのは大人と変わりありません。頭の悪い人間であることを認めるよりも、「勉強をしなかったからできなかった」ことにしたほうが、自分の気持ちを落ち着かせることができます。

子どもが、嘘やごまかし、他のせいにするような場面に出会ったら、子どもが自分自身の存在を守ろうとしているのではないかと、一度立ち止まって考えてみてください。

勉強が苦手な子どもほど頑張らないことを、私たちは子どもの側に立って知っておくことがとても大切です。

以前に自己モニタリングの大切さのところでお話しましたが、教える側が「他者からの目」を気にし過ぎてしまうと、「怒り」が心を支配して子どもの気持ちに気がつかないことがあります。

もともと保育園・幼稚園、そして学校は、子どもに頑張らせることを中心に考えてきたところがあり、大人側の問題に触れないようにしてきたところがあると思います。

例えば、子どもが分数の計算でつまずいている場面があったとします。冷静に考えると教え方や教科書・教材の問題である可能性もあるわけですが、たいてい教え方や教科書・教材の内容を振り返るということはありませんね。

その時たまたま子どもが投げやりな態度になれば「頑張る力」が足りないとなり、他の話題をもちだして煙に巻こうとすれば「集中力」が足りないとなりがちです。

私たちは、(無意識に)親として、先生として、恥を感じたり評価が気なって子どもを頑張らせてしまいがちですが、一生懸命頑張ってもできない子どもの気持ちに心を向ける余裕がないわけです。

苦手な子どもたちのために意識しなければならないことは、
〇子どもができる見通しをもてる教え方をすること
〇子どもができた達成感をもてる教え方をすること

です。

これまでの教え方は、子どもが頑張ることに依存してきたところがあるとお話をしました。それは「頑張ればできる」という考え方に、私たち自身が疑問をもたないままきてしまったことがひとつの原因です。

自己モニタリングができていれば、私たち自身が頑張ってもできなかった経験があるわけですから、教え方の工夫をしなければいけないことに気がついたかもしれません。

また、「誠実にものごとにあたることが大切である」という考え方を支えに、頑張る姿を見せて欲しいと願っていたところにも原因があります。

これも自己モニタリングができていれば、ただ大人の精神的な満足のためにしかならないことに気がついたかもしれません。

私たちは、皆一緒になって頑張らせて、皆同じ方法で同じ結果を出させることから、そろそろ卒業する勇気が必要がかもしれませんね。


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Posted by ookubo at 11:20 | 心理編 | この記事のURL
教科書通りに教えなくても。 [2016年03月29日(Tue)]
〇教科書通りに教えなくても。

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教科書は基本的に日常的な場面から始まります。例えば、三年生の野田君がみんなにミカンを配ろうとしたら、同じ数だけ配ることができずに困ってしまうという場面から始まります。そして授業では子どもたちの意見を引き出しながら、最終的に「あまりのある割り算」を学んでいきます。

このようなスタイルは、計算のやり方(法則)から教えてしまうと、その成り立ちの理解がおろそかになってしまうという反省から生まれました。丸暗記して覚えるだけでは論理的な思考力が育たないという意見も、このようなスタイルを支持してのものです。

最近多くの学校で取り組んでいる「問題解決学習」という授業方法も、同じ考え方から生まれています。

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ところが、この方法は成り立ちが理解でたり、子ども自身で考える機会が増えるというメリットがある反面、子どもたちの頭の中を日常的な場面から「あまりのある引き算」にもっていくのが難しいというデメリットも持ち合わせています。

能力が高く単元のねらいに気がつく子どもは、授業を受けているうちに後半がポイントであることに気がついたり、どのような答え方を期待されているかを先読みしてしまうことがあります。さらにいろいろな条件が重なると、真面目に取り組まない子どももでてきてしまいます。

また、勉強が苦手な子どもには、日常の場面を言葉で説明されると、言語的な情報量が多すぎて、ポイントが理解できないということが起きてしまいます。すでに算数嫌いになっている子どもは、これまでの経験から「どうせできない」と察しますから、最初から見向きもしなくなります。

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教科書はこうしたことを想定していて、できるだけイラストを多用しいろいろな課題を視覚で補うことで解決をしようと努力していますが、それでも理解できない子どもは出てきます。

このように、教科書にもまだ克服しなければならない課題があるわけです。勉強が苦手な子どもに教えるときは、無理に教科書の流れに合わせる必要はないと思ってください。

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そこで、教科書とはまったく逆の流れを意識して、まず「あまりのある割り算」の計算方法を最初に教えて、できるようになったら日常的な場面(文章題)に挑戦するという方法を使ってみると良いと思います。

計算に限らず長さの単位や表の書き方を初めに教えてできるようにする。それもなんとかできるというレベルでなく、サクサクできるようになることを目指します。

できるようになったことがわかれば、それを道具のように見立てて実際に活用していくわけです。

この方法のメリットは、言語的な情報量が多くなると理解しにくくなる子どもには負担が少なくてすむこと、自分でできたという実感が比較的早くもてるので、成功体験の少ない子どものモチベーションを高める意味でも期待がもてます。

いっぽうのデメリットとして、時間の制約などから計算ができるようになる段階で終わってしまい、日常的な場面(文章題など)で活用してみる機会がないままになってしまう可能性があります。

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子どもに限ったことではありませんが、人の話が理解できたことよりも、自分でやってできた成功経験のほうが満足度が高い傾向があります。

勉強が苦手な子どもに対して、辛い思いをさせて乗り越えることを重視する教育方法をよく耳にしますが、勉強を通じて新しい知的な発見や体験を優先したほうが、私は良いと思います。

子どもは、「自分でもできるんだ」という自信が生まれ、「次はどんな発見や体験ができるの?」という期待感につながり、そして継続的に取り組むことができる可能性が高くなるからです。


Posted by ookubo at 17:36 | 理論編 | この記事のURL
時計の読みが苦手なときは [2016年03月15日(Tue)]
〇時計の読みが苦手なときは

一年生で学習する時計の読み(何時何分)は、教えるのが難しい単元のひとつです。何時何分なのかわからないまま終わってしまう子どもが、必ず何人か出てきてしまいます。

それにも関わらず、学校の先生の間でもあまり話題にならないのは、何年かすると生活の中で学習して読めるようになる子どもがそれなりにいるからです。ただ、大人になっても読めないままの方もおられます。本人も恥ずかしさから、それとわからないように振る舞いますし、今はデジタルの数字だけの時計も普及しているので困ることは少ないかもしれません。

ただ、授業でわからないままの子どもを、それは時が解決してくれると放置しておくのはどうかと思います。二年生になると、時計が読めることを前提に60分で一時間になることや、ある時刻から「20分後」や「20分前」が何時何分なるのかといった内容を学習します。ここで失敗体験をさらに積み重ねる結果になり、時が来る前に子どものモチベーションを下げてしまう結果になることがあるからです。

ところで、時計の読みが難しい主な理由として下記の三つが挙げられます。
@ 短針の示す位置が数字と数字の途中にあると、どちらの数字なのか混乱してしまう。
A 短針を読んだ後、長針の数字を読んでいるうちに、短針の数字を忘れてしまう。
B 特に長針を読むときに、目盛りを目で追っていくことが難しい。


最近の教科書は、時計の読みの難しさを意識して、単元をふたつにわけているものが増えてきました。最初の単元では「7時」や「7時半(7時30分)」のように何時と何時半だけを読めるようにして、繰り上がりの足し算や引き算などの単元が終わってから「7時23分」のように何時何分を学習するよう工夫されています。

その結果として@のような数字の途中にある短針の読みについては、理解できないままの子どもの数はかなり少なくなってきています。

ただ、AとBのつまずきにまで配慮している教科書はまだ少なく、単元をふたつにわけても解決はできていません。

そこで今回は、AとBのつまずきに配慮した学習方法についてお話ししたいと思います。
最初に用意していただきたいのは、下のような時計の図です。

時計盤.png

見てわかるように、ふたつの特徴があります。ひとつは短針の時刻を表す数字の範囲がわかるようにしてあること。もうひとつは、分の目盛りにも数字が書かれていることです。

最初はこのように視覚的にわかりやすくすることで、子どもは教えられたことを自分でもできそうだと見通しをもつことができます。

このような方法だと、癖がついて数字のない時計だと読めるようにならないのではないかという意見があります。数字のない時計が読めない理由は、そもそも何時何分が読めないことが原因なのであって、「癖がついた」わけではありません。上のような時計を使ってできるようになると、文字盤のない時計でもちゃんと読めるようになりますので安心してください。

では時計を読む学習方法について順を追って説明します。

まずは短針だけの練習です。ここで大切なのは、長針について一切触れないず、短針のみ練習することです。

下のような図を使って、最初は数字にピッタリ合った時刻を練習し、読めるようになったら数字と数字の途中にある時刻を練習します。最初にお話ししたように、短針が途中にあるとわからなくなることがありますから、丁寧に説明しながら繰り返し練習してください。

時計何時@.jpg
スライド1.JPG

そして読めるようになったら、下のように短針が示す範囲が書かれていない時計を使って練習します。

スライド1.JPG
スライド1.JPG

スムーズに読めるようになったら、次は長針の読みに移ります。

長針の読みで配慮していただきたい点はふたつ。短針には触れず長針のみ練習することと最初は30分以内の読みから始めるということ。

短針は読めるようになったのだから、そこに積み重ねていけばよいのではと考えがちですが、それでは難しい子どももいます。

短針の数字を頭の中に置いたまま、長針の数字を目で追っていくと、いつのまにか短針の数字を忘れてしまうことがあるからです。

また、初めて習う子どもにとって、目盛りの位置で大まかな予測をすることはできません。

長針や目盛りの位置を見て、瞬時に10分、20分、30分、40分、50分と目安をつけることができないので、目盛りを順に追って数えます。そのため目で追っていくうちに目盛りの位置がずれてしまうことや、いまいくつなのかわからなくなることがあります。

最初は、7分や14分、そして19分や23分といったように、少しずつ目で追う距離を長くしていくようにしましょう。

スライド1.JPG

30分までスムーズに読めるようになったら、次は30分を超えた数字を読む練習に。

スライド1.JPG

それがスムーズにできたら、数字のない目盛りだけの時計を使って練習します。

スライド1.JPG

ここまでで、短針と長針それぞれを読むことができるようになりました。

いよいよ普通の時計と同じように、短針と長針を合わせて読む練習に入ります。

少しでも不安があるようでしたら、下のように時計は別々にしながら合わせて読む練習から始めてください。

スライド2.JPG


上のような図をみて「7時12分」と読むことがスムーズにできるようになってから、ひとつの時計で練習するというのもスモールステップのひとつです。

スライド1.JPG
スライド2.JPG

ところで、針先が目盛りに対して微妙にズレていると、どうしても納得がいかないという子どもがときどきいます。このような場合は、印刷などの都合でずれてしまうことがあるので「一番近いところを読む」ように教えてください。

ズレているからといってピッタリ合うように直してあげることは、できれば避けてください。

直してあげることで、先々ズレを意識しないと気が済まなくなることがあるからです。学校の授業でも、日常の中でも、針先がずれているか気になってばかりいたらかわいそうですからね。


Posted by ookubo at 21:23 | 技術編 | この記事のURL
数字の書き順A [2016年02月29日(Mon)]
〇数字の筆順A

 前回、数字を書くことが苦手な子どものために、四角形などの図形を書くという練習について取り上げました。そもそも「正式な書き順(筆順)」というのは存在していないこと。そして書き順の問題だと思っていたことが、実は直線や弧を書くことなどの苦手さが原因かもしれないというお話でした。また、数字だけでなく文字や漢字にも影響を与えることもお伝えしました。

 今回は、数字そのものを書く練習方法についてお話していきたいと思います。

ここでは、前回の図形の練習が既に終わっていることが前提になります。急ぐあまり数字そのものの練習から始めてしまうと、苦手を克服できないままになってしまう可能性がありますので、注意が必要です。

 最初に練習する数字は「8」です。前回練習した円を上下にふたつ重ねた形と理解していただいてかまいません。下記のようにステップ1からステップ4まであります。
 点から点までの距離が少しずつ長くなるようになっています。
8T.jpg
8U.jpg

次に練習する数字は「6」です。前回練習した円と三角形の要素があります。斜めに直線を書くことと弧に(丸く)書くことです。ここでも、点と点の距離が少しずつ長くなるようになっています。
6T.jpg
6U.jpg

次に練習するのは「4」です。四角形と三角形の練習の成果が表れます。
4.jpg

最後に練習するのは「7」です。ここも「4」と同じで、四角形と三角形の練習の成果が表れます。
7.jpg

上記の「8」「6」「4」「7」が最も難しい数字です。苦手な子どものほとんどが、この四つの数字の全部またはいくつかを書くのに苦戦しています。ここまでをある程度整った形で書けるようになれば、他の数字は多少の練習で書けるようになると思います。

最初にお話ししたように、図形の練習が終わっていることが前提ですので、時間はそれほどかかりません。急がず丁寧にやってみましょう。

そして、できるようになった後に意識していただきたいのは、書けるようになった数字と読み方が一致できていること。そして、その数はいくつを表しているのかがすぐわかることです。

詳しくは「就学前に数の学習は必要か」のところで触れていますが、教える大人が数字を書かせることに一生懸命になり過ぎると、(字が書けるようになっただけで)読み方やいくつを表しているのかとマッチングしていないことに気がつかないことがあります。このあたりのところも、できれば確認しておいてください。

さて、前回と今回二回にわたって数字の書き方についてお話をしました。そして、特に直線や弧を書くことが苦手な子どもを中心に、その練習方法を詳しくお伝えしました。統計的にまとめたわけではありませんが、経験から言えることとして、この練習方法を使うと苦手な子どもの70%くらいが整った数字を書けるようになります。文字や漢字も同様に書けるようになります。

ただ、残念ですが30%くらいの子どもは、これでは不十分ではないかと想像しています。目で形を認識することや手を細かく動かすことが極端に苦手であったり、また眼球をスムーズに動かすことが苦手な子どももいます。

また、書いているわずかな時間でも待てない子どもも、時間をかけて書く練習しても、その効果は50%いくかどうかといったところではないかと思います。いま何に集中するべきかの判断や、いったん振り返ることなどをコントロールしている脳の神経間の伝達がうまくいかない子どももいます。

このような可能性が疑われる場合、字の形にはこだわらず、見る側が意識すればその字だとわかるのであればOKとする配慮と、(字はヘタだけど)計算だけはできるようにするなど本来の目標が達成できるようにすることが必要です。

そして、このような子どもは他の生活場面でも非常に困っている可能性があります。思い切って専門医に相談してみることもお勧めします。

メリットとして、まずお母さんとお父さんの育て方などの問題ではないことがわかります。また園・学校の先生や学習塾の先生の理解が得られるようになると、少なくても叱られることがなくなります。そして、一番大切なことは、専門医がその子どもにあった良くなる方法を教えてもらえることです。




Posted by ookubo at 20:44 | 技術編 | この記事のURL
数字の書き順@ [2016年02月15日(Mon)]
〇数字の書き順@

このブログをはじめて、ご質問をいただくことがあります。保護者の方はもちろんですが、幼稚園・保育園の先生や小学校の先生、そして学習塾の先生まで幅広い立場におよんでいます。もともと困っている子どもたちへの思いから始めたわけですが、実は教える側の大人もまた困っているということを、あらためて心に留めて続けていきたいと思っています。

さて、そのご質問が多かったもののひとつに数字の書き方についてのご相談があります。書き方といってもその中身はいろいろで、「正しい書き順」についてや「丁寧に書こうとしない」ことなど多岐にわたります。

まず書き順(筆順)についてですが、「正式な書き順(筆順)」というものはそもそも存在しません。

学習指導要領の中に正しい書き順として何か定められているものはありませんし、教科書の指導書の中にも記されていません。したがって日常生活では、どのように書いても他人が見てわかればそれで良いわけです。

でも、一年生の教科書を見ると、初めて数字を書く練習のところでは、それぞれの数字の出だしのところに矢印や数字などを使って書き始めや方向が記されていますね。これは、教室の子どもたちが一緒に勉強する際、同じ書き方で練習したほうが混乱が少ないという理由からきています。また、書き方はいろいろあっても良いのですが、形の構成から、多くの人はだいたい同じような書き方になるので、その書き方がもっともスムーズに書ける方法だろうと考え、それをもとに書き始めや矢印が書かれているわけです。

同じ理由で「+」「−」「×」「÷」といった記号のほとんどに、「正式な書き順」は存在しません。

初めて習う子どもたち向かって「書き方は決まってないので好きに書いてね!」と先生が言ったら、みんな困ってしまいますね。書き順はそのためにあるわけです。

市販の問題集などの中に、「正しい書き順」といったタイトルや「数を身につける上で書き順は大切な基本である」といったコメントを目にすることがあります。このようなことから、「正式な書き順」が存在すると誤解されるようになったのかもしれません。

ただ、実は「正しい書き順」についてのご質問の中に、よく読んでみると「7」の字が変な形であるとか「8」の丸いところが上手に書けないなど、形の問題で困っているという内容のほうが多いようです。

これらは「書き順」の問題ではなく、実は見たものを上手に書けないことが原因なのです。

数字の形を見本と同じように上手に書けない原因は、
1. 直線や円などの線を書くことが苦手。
2. 数字などの文字を書いているわずかな時間が待てない。


このふたつであることがほとんどです。これらは、とうぜん「正式な書き順」で書いても解決はしません。また若干左利きの子どもに多い傾向があります。

では、もう少し詳しくお話しします。数字に限らずひらがなや漢字でも、その形は@横・たての直線とA折れ曲がった直線とB弧で書かれた曲線で成り立っています。トメやハネなどの詳細な部分を除くと、数字やひらがな・漢字は、この三つを書くことができれば、必ず見本通りに書くことができるわけです。

もし、子どもが数字を書くことに苦労しているようであれば、一度下のような図を見本に、四角形と円と三角形を書かせてみてください。形だけでなく、大きさや向きなども含めて、見本通りに書けないようでしたら、このあたりが原因と考えてよさそうです。

四角形・円・三角形.jpg

では、上手に線が書けないことがわかったら、どのように練習したらよいでしょうか。ここからは、数字を上手に書けることを目指して、その練習方法について詳しく説明していきたいと思います。

本来は線を引くことができればよいので、単純に直線や円を書く練習をすることになりますが、それでは子どもは飽きてしまいます。また文字や漢字などに応用していく意味も考えると、四角形・円・三角形を書く練習を通じて身に着けたほうが効果があるようです。さらに、できた図形に色を塗ったり、図形をいくつか組み合わせておもしろいデザインを作ってみるのも良いかもしれませんね。

それでは、最初の練習として四角形から始めます。書き方は、一筆書きと同じように、始点(書き始めるところ)から終点(書き終わるところ)まで続けて書きます。途中で鉛筆が離れてしまってもかまいません。離れたところから再び書き続けてください。

下の図の左側の部分で説明すると、まずA点から@の方向に書き始めてB点、C点、D点を通り一周してA点に戻っていくようにします。

四角形T.jpg

ここで大切なポイントはふたつあります。ひとつは、鉛筆の先を点から点へ真っすぐ書くことができるようになること。ふたつ目は、ひとつの点のところで直角に折れて書き進めることができるようになることです。

スピードは、子どもが丁寧に書けるのであれば特にこだわる必要はありませんが、10秒程度で書き終わるのが目安です。10秒以上かかってもかまいませんが、5秒以内で終わってしまうのは早過ぎます。どうしても急いでしまうようであれば、点から点へ移るときに1秒くらいのペースで「イ〜チ、ニ〜、サ〜ン」と数えてあげてください。

ステップ1では、点から点までの距離を短くしています。@の方向にある程度真っすぐにそしてスムーズに書けるようになったら、次はAの方向(@と逆回り)で練習してみます。これは、数字や文字は常に同じ方向に書くわけではないことが理由です。

書くことが苦手な子どもは、逆方向に書くときにつまずきやすい傾向があります。うまく書けない時は、次の点を意識しながらよりゆっくり書かせるなど工夫が必要です。ときには一度休憩したり翌日以降に再チャレンジするなど、練習することそのものに苦手意識を与えないように工夫してください。

ステップ2では、点と点の距離が少し長くなります。直角に書くことは変わりません。どうしても急いで書くようであれば、点と点の間を2秒くらいで進むよう、ステップ1と同じように時間をコントロールしてください。

下の図はステップ3とステップ4です。

四角形U.jpg

ステップ3では、点から点までの距離がさらに長くなっています。そして、直角に書くところに目安となる点が一部ありません。ここでは正確に90度になることは求めていませんが、角が丸くならないように練習します。またある程度直角にかけたら、次の点まで真っすぐ書くことにも意識を向けることも必要です。

ステップ4では、もう途中に点はありません。正確に必要はありませんが、ステップ3までとほぼ同じ大きさの四角形が書けるように練習します。時間のコントロールも忘れずにおこなってください。

四角形がある程度スムーズに書けるようになったら、次は円になります。円は直線ではなく弧に(丸く)なるように書かなければなりません。下の図はステップ1からステップ4になるにしたがって、次の点までの距離が少しずつ長くなっていきます。

円T.jpg
円U.jpg

ここでも、書きだす方向が逆になるものも入っています。たとえば「8」の上半分は左回りになりますが、下半分は右回りに書かなければなりませんね。数字や文字は常に同じ方向に書くわけではないので、このような練習が必要なのです。時間のコントロールも大切です。

そして最後は三角形です。三角形でのポイントは、斜めに直線を書くことです。ここでも、次の点までの距離が少しずつ長くなっていきます。次の点に向かって真っすぐ書けるよう練習を繰り返してください。

三角形T.jpg
三角形U.jpg
四角形・円・三角形を使って数字を上手に書く練習についてお話をさせていただきました。一年生であれば一日にかける時間は(時間のコントロールをしながら)10分から15分、長くても30分程度が限界です。就学前の子どもだと30分は難しいかもしれません。

なにしろ苦手なことを練習するわけですから、ここで精神論を持ち出して頑張らせるようなことだけはしないよう気を付けてください。また最初にお話ししたように、色を塗ったりデザイン化して楽しみながらであれば、もう少し長い時間近く楽しめるかもしれませんね。
次回は、数字そのものを書く練習方法についてお話ししたいと思います。

Posted by ookubo at 19:39 | 技術編 | この記事のURL
10のまとまりを作るサクランボ計算に挑戦(ひき算編) [2016年01月30日(Sat)]
〇10のまとまりを作るサクランボ計算に挑戦(ひき算編)

以前「10のまとまりを作るサクランボ計算に挑戦」のところで、サクランボ計算についてお話をしました。一年生にとって、サクランボ計算はとても難しく、「論理的な思考力」を育てるという目的は理解できるものの、そのためには教え方の工夫が必要な単元のひとつです。そして、この「サクランボ計算」はひき算でも扱われています。

ひき算の難しさは、前回の「ひき算が苦手なときは」でも触れたように、数字を逆に唱えていかなければならないことなどに大きな原因があります。その上に「サクランボ計算」を扱うわけですから、あきらめてしまう子どもが出てくるのもわかります。

したがって、数字を逆に唱えることが難しいなど、サクランボ計算どころかブロックなどの具体物を使う方法から脱出できない場合は、思い切って復習から始めたほうが結果的には良いと思います。

ここでは、繰下がりのないひき算はスムーズにできていることを前提に、「サクランボ計算」でのつまずきやすいポイントとその対応についてお話ししたいと思います。

つまずきやすいポイントの前に、実は教科書によってサクランボの書き方が微妙に違うことについてお話しましょう。

下の図は、A教科書とB教科書の「サクランボ計算」の途中までを書いたものです。同じ「13−8」なのですが、「13」を「10」のまとまりと「あといくつ」になるかを考え分解するときに、よく見ると分解した数(サクランボの実)のところが違っていますね。
サクランボ(ひき算).jpg


気がついたと思いますが、A教科書では「10」を左側に「3」を右側に書いてあります。いっぽうB教科書では逆に「3」を左側に「10」を右側に書いてあります。

ちなみに、どちらでもその後の計算方法は同じです。上記のように「13」を「10」のまとまりと「あといくつ(3)」になるかを考えて分解しました。そして「10」のまとまりから「8」を引きます。「10−8」は「2」になりますね。この「2」と「あといくつ」で求めた「3」を合わせて、答えが「5」となるわけです。

では、なぜ同じことなのに左右が異なる教科書があるのでしょうか。それはそれぞれの教科書が何をポイントにおいているかによる違いです。

A教科書は、「13」の数を10進法の仕組みにしたがって表すことにポイントにおいたため、「10」とあと「3」という流れで書いてあります。

そしてB教科書では、「13」を分解したあとに「10−8」の計算をすることにポイントをおいたため、「10−8」をわかりやすくするために「3」を先に書き「10」を「8」に近い右側に書いてあるのです。

このように、教科書によって成り立ちを重視するか、わかりやすさを重視するかで書き方が違ってくることもあります。どちらかが正しいというわけではありません。またこのように成り立ちとわかりやすさの両立が難しい場合もあるわけです。

つまずきやすいポイントとその対応についてお話するはずが、前置きが長くなってしまいました。ただ、この前置きを読んでつまずきやすいポイントに気がついたと思います。

つまずく場合の多くは、分解したあとにどの数字をひき算するのかがわからなくなってしまうことにあります。

実は先生も黒板で説明するときに困っている場面をよく目にします。成り立ちを重視して「13」を分解した場合、「10」と「8」の位置が離れたところにあるため、「10」と「8」を引くことの説明の時に、そのまま式に表すことができないからです。

下の写真は、実際の授業で「12−9」を使って先生が黒板に書いたものです。「10」と「9」の位置が離れていて「10−9」と書けないため、分解した「10」と「9」を囲ってひき算することを示していますね。
IMG_20160127_133405.jpg


勉強が苦手な子どもには、分解した数のうち10を右に書き(もうひとつの数字を左に書くことで)、「10−8」が見ただけでわかるようするほうが良いと思います。下の写真は、この方法で授業をしている黒板です。
IMG_20160127_133515.jpg


小学校一年生の子どもにとって見てわかりやすいですし、先生にとっても説明がしやすくなりますね。

まずは、この10を右に書き、もうひとつの数を左に書く分解だけの練習だけをすることが効果的です。左側に「3」を右側に「10」を書くのと同じように、いろいろな数字を使って(次のひき算がしやすいよう)練習します。

分解がスムーズにできたら、いよいよサクランボ計算を答えをだす最後のところまでやってみましょう。あとは繰り返し練習するだけになります。
Posted by ookubo at 12:26 | 技術編 | この記事のURL
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