共働き夫婦が増え、家事も分担するのが当たり前になった現代の日本。でも仕事が忙しくて、子どもと一緒に過ごす時間を持てない、料理はお母さんにまかせっきり、というお父さんもまだまだ多いのでは。そんな状況を改善するために、料理を通じて父親の存在意義を再発見し、家族の絆を深める「おやじの休日の会」を立ち上げた岡本さんにお話をうかがった。
おやじを救出する会!?
――会を始めたきっかけを教えてください。
息子が通う小学校の「子ども会(地域活動)」に参加したのがきっかけです。お父さんたちは仕事で忙しいのか、参加者はお母さんたちばかり。ショックを受けました。「何か父親のための企画があってもいいのでは?」と思ったのです。
――それで会を立ち上げたのですね。
「会を作ろう!」というより、まずは「得意な料理を活かして何かしたい!」と思いました。そこで父と子の料理教室を開催したのです。開催告知が新聞に載ったお陰で、幸いにも申し込みは多数ありました。でも申し込みをしてきたのは、ほとんどがお母さんでした。
――父親の意識の問題があるのでしょうか。
まずはお父さんたちの価値観を変えないとダメだと感じましたね。昔の大家族と違い、核家族が当たり前の現代では、男性も「食の自立」が必要です。料理をお母さんたちにまかせっきりにしていると、いざ先立たれたり離婚したりしたときに、自分で何も作ることができず人頼みになってしまいます。それではお金がかかるし、食べたい物も食べられないかもしれない。料理ができないと、最後に困るのは自分なんです。
――男性にとっても料理は不可欠なのですね。
しかも今の不景気の中では、外食は少なくなり、家で料理をする機会が増えています。自分で料理するようになれば、食材の産地も気になり、日本が抱える食問題についても理解するきっかけになるはず。何より料理は「身近な楽しみ」です。ジャムを作ったり、粕漬けに挑戦してみたり。お父さんが子どもと一緒に楽しめるのが料理なのです。
キャンプ場の釜を利用して、即席でピザを焼くための石釜づくり。おやじの知恵を集めれば、こんなことは朝飯前です!――父親を参加させるのは大変ではないですか。
「やらされ感」があると参加してくれません。子どもと一緒に楽しく過ごしながら、料理も学べる、しかも老後の自分のためにもなる、というように、楽しめて役に立つことをアピールしています。
会の名前が「おやじの休日の会」に決まった後、あるお父さんから「おやじを救出する会ですか?」と聞かれました(笑)。その方は単純に名前を聞き間違えただけでしたが、まさにそういう会にしたいなと思いましたね。
おやじを社会との接点に
――現在の活動内容を教えてください。
料理にまつわる活動が主です。金ごまを植えたり、アイスクリームを作ったり、ペットボトルでピザを作ったり。ポイントは楽しみながらできることと、野外活動を多く取り入れること。以前、ダチョウの玉子を使ってケーキを作りましたが、こういう遊び心を盛り込むことで、子どもは「お父さんと料理するのは楽しい!」と感じてくれます。また、野外活動にすることで、子ども時代にキャンプなどを経験したお父さんが、力を発揮する場も増えるのです。
ダチョウの卵を割った瞬間。こんな大きな卵から、どんな玉子が飛び出すのか?みんな興味深々です社会貢献の要素も取り入れています。年末に年越しそばを作って独居老人のみなさんにふるまったり、千葉県房総半島の郷土料理である「鬼の飾り巻き寿司」を作って、老人ホームや地域のお年寄りの方に食べてもらったりしました。
年末に子どもたちが打った年越しそばを独居老人の方へお届け。ご老人の方に喜ばれて子どもたちも大満足!――なぜ社会貢献の要素も取り入れるのですか。
お父さんの存在を、子どもが社会にふれる接点にしたいからです。
たとえば、体が不自由で食べることに困りがちな独居老人に料理を提供することで、子どもは社会にふれることができます。自分が楽しみながら作った料理が、誰かの役に立つとわかる意味はとても大きい。それは、社会というのは誰かの役に立つことでつながっていて、お互い支えあって生きていることを理解することにもつながります。
子どもは常々、「なぜ勉強するの?」という疑問を抱いています。「親に言われるから」「よい学校に入ってよい会社に就職するため」。そんな理由ではなかなか納得しません。料理の活動に社会貢献の要素を取り入れることは、子どもが勉強する意味を理解するチャンスになるのです。
こうした社会活動の原点とも言える活動に、実際に社会で働いているお父さんがそばでサポートしてあげる意味は、とても大きいと思いますよ。
――父親を通じて、子どもに社会性を体得してもらうのですね。
子どもが社会性を身に付けるには、親の力で社会に押し出してあげることが必要です。近年、ひきこもりの子が増えている原因には、子どもを社会に押し出す父親の力が弱まっていることもあるのではないでしょうか。
「お父さんはいつも疲れていて、魅力を感じない」
「お父さんのような大人になりたくない」
子どもにそう思われないためにも、父親が好きなことをして楽しんでいる姿を見せることが必要なのです。
ペットボトルを使ってピザをどう作るんだろう?集まったみんなは半信半疑。でも、そんな心配も作り始めると… おやじを頼ってくれる時期は短い
――子育てに苦手意識を持つ父親は多いのですか。
確かに多いかもしれません。でも、子どもが「お父さん、お父さん」と言って頼ってくれる時期は意外と短い。その短い期間に子どもとの関わりを持つことは、お父さんの楽しみでもあるし、貴重な時間にもなるはず。意識していないとあっという間に過ぎてしまうので、ぜひ大切にしてほしいですね。きっと充実感を得られると思います。
――子どもに頼られるのは嬉しいですよね。
「子どもに必要とされているうちが花」です(笑)。もちろん仕事も大切ですが、何のために仕事をしているのか、その原点を考えてほしい。家族がいるからこそ仕事もがんばれると思えれば、「おやじの休日の会」のような活動に参加しても後悔しないと思いますよ。
「のび〜るアイス」は力勝負!やっぱり力のあるお父さんは頼りになります――父親にとっても意味ある活動なのですね。
活動をする際に大切にしているのは、「参加して楽しい」と子どもが思えること。お父さんは子どもの喜ぶ姿を見て、満足感が高まります。子どもは楽しければ、「また行こうよ」とお父さんを誘います。日頃あまり経験できない、「子どもに必要とされている」と感じることは、お父さんにとっても大きな喜びになるでしょう。
そしてお父さんには、子どもを介してたくさんの友人を作ってほしい。学生時代の友人とは離れ離れになってしまったり、職場では利害関係が絡むこともあるので友人を作るのが難しかったりします。私たちの活動は、見知らぬお父さん同士が仲良くなれるチャンスでもあるのです。
以前、「うつ病にならないためには、何でも話せる友人が3人必要」という話を聞いたことがあります。そんな友人が3人もいるお父さんは少ないのではないでしょうか。現代は経済だけでなく人間関係も大変な世の中です。ぜひお父さんには何でも話せる友人をたくさん作ってほしい。きっとお父さんの人生に広がりをもたらしてくれると思いますよ。