「子どもも大人も、お年寄りも障害者も、みんな同じ地域に暮らす仲間」
「一緒に手をつないで、もっともっと住みやすいまちにしていこうよ」
「FOR YOUにこにこの家」は、地域のみんなが交流する憩いの家だ。この家は、地域にある14の公的施設やボランティア団体らと力を合わせて「住みやすいまちづくり」を進めている。困ったら駆け込める場所があちこちにあれば、一人で悩むことなく安心して暮らすことができるはず。明るく取り組むまちづくりを住民たちも応援している。
「とっさの手当て」を地域のみんなと学ぶ
「では、はずぃめましょっがねー」
地元ならではの和やかムードで、日本赤十字社の講習会が始まった。「救急車が来るまでに私たちができることは?」と題したこの日の講習会で学ぶのは、三角巾を使った応急処置の方法。集まったのは地域に暮らすお年寄りやお母さんたちなど約60人だ。
「三角巾は半分に折ってさー、まんだ半分に折るんだよー」と講習は続く。三角巾を手にした参加者からは「できたー」の声。最後は参加者をモデルに腕を肩から吊る方法のデモンストレーション。「はい、じゃ2人で組んでおだがいにやっでみでー」。
「三角巾がながっだらシャツの前のボタンのどごに腕突っ込めばいいよー。でも、セーター着てるからって首に手ぇつっごむんじゃねぇよ」。大爆笑に包まれて2時間の講習が終わった。
地域のみんなで日本赤十字社の講習会を受ける この講習会を企画したのは「ほっとネットin東中田」。仙台市の南部に位置する東中田地区で、住みやすいまちづくりを目指す14の公的施設や市民団体のネットワークだ。この地区では古くからの農家に加えて、近年は市営住宅や福祉施設、高齢者施設が建ち、昔からの住民と新しい住民が混在している。一人暮らしのお年寄りや障害者、母子家庭も多いが、以前は市の福祉サービスやボランティア団体がそれぞれに支援を行っていた。
2000年、民生委員やボランティア、障害者の就労施設や高齢者のデイサービス施設のスタッフなどが、親睦を目的に集まった。「力を合わせればもっと住みやすいまちになる」。考えを同じくする包括支援センターや生活支援センター、児童館や放課後ケア事業所、福祉施設、民生委員、NPOやボランティア団体など14の団体が手を組み、2002年、地域に根ざした福祉ネットワーク「ほっとネットin東中田」が誕生した。以来、災害時に備えた避難マップ作りや病歴などを記入する身分証「ほっとカード」作りをはじめ、日本赤十字社などの講習会や講演会、オレオレ詐欺防止の啓発劇などの広報活動も共催し、地域の結束と安全を住民に働きかけている。
「子どもも大人もお年寄りも、病気や障害がある人も、元気で安心して暮らせる地域にしたい。みんなで支え合えば、一人で不安を抱えることもなくなるはずです」と代表の小岩孝子さんは語る。
「FOR YOUにこにこの家」理事長、小岩孝子さんランチして、フラダンス習って、赤ちゃん預けて
「ほっとネットin東中田」の事務局を務めるのが、「FOR YOUにこにこの家」だ。ここは地域のみんなの憩いの場。カルチャーサロンでフラダンスを習ったり、ヘルシーランチを食べたり。手作り雑貨の小さなショップもある。高齢者のミニデイサービスや子どもの一時預かりも行っており、誰でも気軽に利用できる「大きな家」のような場所になっている。
カルチャーサロンでフラダンスを習ってます!
「にこにこマーケット」では手作り雑貨を販売中 「にこにこの家」のランチタイムにお邪魔すると、午前中、日赤講習会に参加していたお年寄りの方たちが、スタッフの愛情たっぷり弁当を味わっていた。「三角巾の使い方なんて初めて教わったわ」「ありがたいね。すぐ忘れちゃうんだけどね」「ワハハ!」とにぎやか。100歳のおばあちゃんも車いすの利用者さんも楽しそうだ。
みなさんが利用しているミニデイサービス「にこにこくらぶ」は、参加したいときに参加すればいい。この日は午前中の講習会に続いて午後はお菓子作り。「今日はどんなお菓子かしらね〜」と楽しみにしている人もいれば、「今日は用事があるのでお昼までなの」と帰る人もいて、気楽な雰囲気だ。ほかの日もカラオケ大会あり、お出かけあり、博物館鑑賞ありと、おもしろそうな企画が盛りだくさん。
「にこにこくらぶ」のランチはおいしい手作りごはん 大切にしているのは「食べたい」「みたい」「知りたい」「やってみたい」という利用者たちの気持ちを満たすことだ。小岩さんは介護ボランティアとしてお年寄りと接するようになって初めて、こうした願望は年齢に関係なく誰でも持っているものだと気づいた。
介護現場では家族から「自分たちの時間がほしい」という訴えも数多く聞いた。ボランティア仲間と「ミニデイサービスをしてみようか」と思い立ち、市に相談すると週1回なら保健センターの調理室も借りられることに。
「大家族みたいにテーブルを囲んで手づくりのお昼ごはんを食べよう!」
「元気がでるレクリエーションやお出かけをしよう!」
こうしてお年寄りの「やりたいこと」を大切にしたミニデイサービス「にこにこくらぶ」が始まった。
ある日、「にこにこくらぶ」に子どもたちのボランティアがやって来た。帰り際、子どもたちは「お年寄りは僕たちより元気だ」と驚き、お年寄りたちは「10年若返った」と喜んだ。その様子を見た小岩さんたちは、「行政が子どもと高齢者、障害者を区分するのは自然じゃない。地域の中で子どもからお年寄りまでみんなが集まれる場所があれば!」と考えるようになった。今でこそみんなの交流の場となっている「にこにこの家」の誕生秘話だ。
子どもだってまちづくりの主役になれる
こうして2003年に「にこにこの家」が開設。地域に根差した活動を長く続けたいという思いから、2004年にはNPO法人となった。現在の活動は3本柱。ミニデイサービスやカルチャーサロンなど本来の事業である「にこにこ倶楽部」の運営に加えて、「ほっとネットin東中田」の事務局、そして2005年から携わる東四郎丸児童館の運営だ。実は新設児童館の運営を任されたのは、宮城県のNPOとして初めてのこと。地域への貢献が評価されての抜擢だった。
東四郎丸児童館は学区域、年齢、障害の有無に関係なく、「いつでも遊びに来られる児童館」を目指す。子どもたちだって地域の一員だ。町の伝説を聞いたり、探検マップを作ったりと地域を知ることからはじめ、高齢者施設のお年寄りと交流したり、誰でも参加できるイベントを企画するなど、家族以外の地域の人たちと「手をつなぐ」ことにも意欲的に取り組む。
児童館の子どもたちとケアハウスのみなさんで交流運動会 日本NPOセンターと児童健全育成推進財団の協力を受け、2007年、児童館とNPOの協働事業「チーム東中田っ子」も始まった。学区を超えた小中学生と高校生で結成されたチームでは、地域の名所を訪ねるウォークラリーや地産野菜の料理イベントを企画し、子どもたちによる地域交流を実現。2008年には、その報告を子どもたち自身が大学で発表するという偉業も成し遂げた。
「チーム東中田っ子」が東北福祉大学で活動発表! 「必要なのは勉強だけじゃない。一番大事なのは生きる力を身につけることなんですね」と小岩さん。児童館の館長を兼務しながら、子どもたちが主体的に活動するための「舞台づくり」を進める。
地域の中で生まれ、利用され、育てられてきた「FOR YOUにこにこの家」。だからこそ、その活動や精神を地域のみんなに還元し、ずっとつなげていきたいと考える。
「いつまでも住み続けたいと思えるまちに」
東中田地区には「にこにこの家」で、「ほっとネットin東中田」で、「東四郎丸児童館」で、今日も笑顔で過ごすみんながいる。