「日々の活動に追われ、組織運営まで頭が回らない」
「そもそも組織をどうマネジメントしたらよいかわからない」
そんなNPOの悩みを解決しようと、3月1日、CANPANセンター主催のセミナー「米・NPO支援センターに学ぶNPO経営のノウハウ」が行われた。アメリカのNPO支援センター「CompassPoint」で14年間ディレクターを務めたジャン・マサオカ氏を講師に迎え、マネジメント、ファンドレイジング、人材育成など組織運営に欠かせない多くのことを学ぶ場となった。
NPOの現状と問題点
セミナーに参加したのは、NPOや中間支援組織、財団などで働く約20人。中には組織の代表者やマネジメント層も含まれていた。
セミナーは2部に分かれ、第1部ではマサオカ氏の講演が行われた。
まずはアメリカのNPOの現状について。
○郊外のホームレスが都市部のフードバンク(※1)に殺到している
○個人や財団からの寄付、政府からの補助金は急激に減少している(※2)
○政府は事業を委託しているNPOに対し、約10億円の未払い金を抱えている
2008年後半から始まった世界的な金融不況により、アメリカのNPOを取り巻く環境はかなり厳しいようだ。あるNPOは、今後5ヶ月で資金が尽きてしまうため、スタッフを解雇すべきか悩んでいるという話も披露された。
NPOの現状と問題点について講演するマサオカ氏(右)# 一方、経済情勢の悪化を受けて新たな動きも登場している。
職を失った人がNPOを設立したり、これまで主流だった若者層に加え定年を控えた世代もNPO活動に従事し始めたことなどが、その代表的な例だという。
その後、講演はNPOを設立する際の問題点へと移った。
1) 強い意志があれば活動が成り立つという安易な考え
2) どのように財源を獲得するか考えないで団体を立ち上げてしまう
3) 活動を始めても動きが遅い
マサオカ氏が指摘するこれらの問題点は、これから日本でNPOを始めようとする人々にとっても、参考になるだろう。
講演に熱心に聞き入る参加者たち しかし最も重要なのは、自分たちの活動を批判してくれるメンバーを役員に招き入れるなど、客観的な目を持つ人を周囲に確保することだという。
ある人物はNPOを立ち上げる前に、NPOでの経験が豊富な20人を集め、構想中の事業アイデアを批判してもらうためのミーティングを開催した。実際、多くのNPOはさまざまなアイデアを駆使して、社会問題を解決しようと活動している。しかし、そのアイデアが本当に優れたものかどうかは、考えついた本人だけでは判断できない場合もある。
「最も大きなミステイクは、社会にとって重要ではないことに人生を捧げてしまうこと」
マサオカ氏が強調する通り、自分たちの活動が本当に社会にとって必要とされているのか、客観的に判断できる環境を整えておく必要がありそうだ。
NPOを円滑に運営するためのヒント
セミナーの第2部はワークショップ。
まずは参加者が抱える悩みを「中間支援組織のマネジメント(※3)」、「人材育成」、「ファンドレイジング」の3つのテーマに分類。各テーマのチームに分かれて議論を重ね、マサオカ氏への質問にまとめプレゼンテーションを行った。
まずは参加者からの悩みを聞く
その後、チームに分かれて議論を重ねる 「中間支援組織のマネジメント」のチームは、顧客となるNPOをいかに獲得するかが悩みの焦点だった。
マサオカ氏からは、魅力的なNPO支援のサービス(※4)を開発することが難しい場合、まず自分たちより大きな団体とジョイント・ベンチャーを組むことを提案された。その団体から無料で事業を請け負い、ノウハウを得ることで、他のNPOに有料でサービスを提供できるというのだ。
また、中間支援組織が持つ会計やITなど独自のスキルに加え、税理士や弁護士など外部のスキルも活用し、彼らにコンサルティング料金を払いながら、NPOにはパッケージとしてサービスを提供することも効果があるという。
「人材育成」のチームからは、団体と個人のゴールが違う場合の対処方法についての質問が出された。
マサオカ氏によれば、組織と個人のゴールの違いは、NPOに限らずどの組織にも共通するとのこと。
その解決方法としては、例えば、団体を辞めることを前提にした1対1の面接を、スタッフに対して毎年行うことがある。もし今年で今のNPOを辞めるとしたら、この1年間にどんな準備をし、来年はどんな仕事をするのか、などを聞く。まるでスタッフを追い出そうとするような面接だが、各スタッフにとっては組織とは異なる自分のゴールについて真剣に考えるきっかけになり、実際に辞めることは少ないという。
また各スタッフに年間2−3万円ほどを支給し、自らのスキルアップのために使わせることで、組織と個人のゴールの違いを受け入れる土壌を作ることもできるそうだ。
各チームの代表者が質問内容をプレゼンテーション 「ファンドレイジング」のチームでは、日本の現状をふまえ、どうすれば小さなNPOが資金を獲得できるかが質問の的になった。
資金提供をアピールする際のポイントとして、マサオカ氏は3点を強調した。
1) 団体の紹介ではなく問題提起から始める
その問題がどのような社会的インパクトをもたらしているかを説明し、問題に対する共有意識を作ることが特に大切になる。
2) なぜ自分たちがその問題を解決することができるのかを伝える
ここで団体の強みや独自性をアピールする。例えば、途上国で子どもの教育支援を行う団体であれば、「大きな団体に比べて管理費が安い」「現地の学校やNPOとのネットワークを持っている」などを強調する。
3) 具体的な金額を示す
相手の決断を手助けするためにも、必要な資金額を明確にしておくことが求められる。
またマサオカ氏は、寄付金を募る際の効果的なステップについても教えてくれた。
継続的に寄付をする個人の多くは、最初の寄付から3ヵ月以内に次の寄付を行うことが多い。そして寄付の回数が増えれば、団体に対する信用も深まり、1回あたりの寄付金額が増える可能性も高まる。そこで、以下のようなステップで寄付をお願いする。
ステップ1手紙
1000円、5000円、10000円のように複数の金額を提案するのがポイント。
ステップ2電話
手紙で寄付をした人に3ヶ月以内に電話し、最初の金額の2倍の寄付をお願いする。
その後、ステップ3ではNPOの事務所に寄付者を招き、ステップ4では寄付者のもとを訪ね、信頼関係を深めながらより大きな寄付を獲得していく。
肝心なのは、団体の活動ばかりをPRするのではなく、未来の支援者となり得る相手のことをよく知り、価値を共有することのようだ。
NPOがNPOを知ることの重要性
セミナー終了後、マサオカ氏にお話をうかがった。
――日本のNPOの印象を教えてください。
「アメリカのNPOは大きくなりすぎて、官僚的な団体も多い。日本のNPOは規模こそ小さいけれど、情熱を持ちアイデアにあふれる団体ばかりなので、とても良い印象を持っています」
――規模の小さなNPOに向けたアドバイスをお願いします。
「Just do it. とにかく待たずに動いてほしい。アメリカのNPOは熟考せずに動いてしまう傾向にありますが、日本のNPOは逆に考えすぎて身動きが取れないこともあるようです。動かなくては何も始まらないし変わりません」
――最後に、日本のNPOが強くなるための秘訣を教えてください。
「まずは自分たちの団体をよく知ること。どんな小さな団体だって、一度は寄付を獲得したことがあるはずです。どうして寄付を得ることができたのか、徹底的に研究してみる。そして他の団体のことも知る必要があります。日本財団のような組織が、各NPOにヒアリングしながら成功事例と失敗事例を可能な限り多く集め、ネット上に公開してNPO全体で共有できれば、大きな力になるはずです。また、日頃NPOに接点のない人たちに『NPOの嫌いな部分』を聞いて、その情報を共有するのも、新たな視点を得られる機会になると思いますよ」
――貴重なお話ありがとうございました。
セミナー終了後に記念撮影! (※1)包装が破損しただけで品質に問題のない食料品や、賞味期限が近づき廃棄せざるをえない食品・食材を、企業や小売店から寄贈してもらい、必要としている人々や施設などへ無償で届ける非営利団体
(※2)マサオカ氏によれば、アメリカのNPO全体の財源割合は、政府=40%、事業収益=40%、個人寄付=10%、財団=5%、企業=5%となっている。
(※3)本セミナーには中間支援組織のスタッフが多数参加していた。
(※4)中間支援組織の主なサービスとしては、NPOの設立や運営に関わる相談業務、セミナー・講座・勉強会の開催、メールマガジンや書籍などによる情報提供などがある。