「あなたのコミュニティは何ですか?」
そう聞かれて、何が思い浮かぶだろうか。今の日本では地域社会のつながりが希薄になりつつあり、家族や学校、職場など日々の生活で所属する場所以外に思い当たるコミュニティがない人も多いのでは。そんな中、「CRファクトリー」は見知らぬ人同士が出会い、交流し、つながり合うことで、愛着を感じられるコミュニティを日本に広めようと活動している。代表の呉さんにお話をうかがった。
社会問題を解決することで人々を幸せにする
――コミュニティ支援を始めた背景を教えてください。
生まれ育った家庭環境と、大学時代に参加したボランティア・サークルの影響が大きいです。
父は映画監督で、社会問題を扱うドキュメンタリー作品を手掛けていました。母も旧社会党の活動を支援するなど、とても社会派な家で育ったと思います。両親の影響もあり、私自身も「なぜ人は戦争するのか、自殺するのか、差別するのか」「どうすれば人は幸せになれるのか」、そんなことばかり考えている子でした。次第に、「社会問題を解決して人々を幸せにする仕事をしたい」と思うようになります。
そして大学進学の時期に社会学に出会いました。知れば知るほど、自分が勉強したい学問だと感じましたね。
――大学で出会ったボランティア・サークルではどんな活動をしていたのですか。
養護学校に通う小中学生や高校生に、勉強を教えるボランティアをしていました。また、自立して生活する障害者の介護もお手伝いしました。もともと障害者の分野に強い興味はなかったのですが、このサークルがきっかけで引きこまれていきました。
――本当によい雰囲気だったのですね。
サークルのみんなと障害を持つ方たちが、ひとつのコミュニティになっていました。体が不自由な人もいるけれど、仲間がいて、支え合いながら幸せに生きている。ステキだなと思いました。
一方大学には、五体満足でも充足感を得られない学生がたくさんいた。「人の幸せって何だろう?」と思いましたね。
――呉さんの価値観にも影響を与えたのですか。
それまでは、あまり積極的に人生を生きたいとは思っていませんでした。「オレがいなくても世の中変わらない」なんてことを考えたり。でもボランティア・サークルに出会って、「こいつらとずっと一緒に生きて行きたい」と本気で思えた。同時に、ずっと抱えていた「どうすれば人は幸せになれるのか」という問いに、「居場所と仲間がいることで人を幸せにできる」という答えを見つけたのです。
そして大学卒業後に企業勤務を経て、「ビジネスで社会問題を解決しよう!」と独立を決心し、コミュニティづくりをスタートしました。
失恋しても話す相手がいない
――独立後の計画は決まっていたのですか。
まったくの白紙でした(笑)。でも「あたたかいコミュニティづくりをするんだ!」という思いだけは確かだった。半年間、午前中にアルバイトをして午後は事業計画を立てるという日々を過ごし、2001年8月に最初のコミュニティとなる「DCT交流勉強会」を立ち上げました。
――現在は3つのコミュニティを運営されていますね。
「DCT交流勉強会」は、自分がもっとビジネスのことを勉強したくて立ち上げたコミュニティです。一人で黙々と勉強するのは苦手なので、仲間を募りました。「BASEBALL KIDS」は、大人たちが子供心を持って野球を楽しむコミュニティ。野球が好きという単純な理由で立ち上げました(笑)。「日韓文化交流会J ∞ K」は、「DCT交流勉強会」に来ていた韓国人女性の発案でできました。最初は韓国語講座から始まり、今では日韓の文化交流に関わるさまざまなイベントを開催しています。
「DCT交流勉強会」のひとコマ。「自己研鑽」と「交流」をコンセプトにした勉強会・交流会。メンバーから講師を出して、毎回さまざまなテーマで学ぶ。勉強会で出会い、結婚したカップルも
「BASEBALL KIDS」のひとコマ。野球好きの人が集まるコミュニティ。野球観戦と草野球がメインの活動。プロ野球の順位予想大会などマニアックなイベントも
「日韓文化交流会J ∞ K」のひとコマ。日本人と韓国人の人と人との交流をメインテーマにしている。毎回徹夜で飲んでしまうような熱い韓国のノリ(?)が特徴――コミュニティの人たちはもともと知り合いだったのですか。
最初は知人や友人をベースに少人数で始めましたが、募集案内や口コミを通じて次第に輪が広がり、大きなコミュニティに成長しています。
――他のコミュニティとどう違うのでしょうか。
私たちのコミュニティは、感性・趣味・テーマといった志向性の合う仲間が集うグループです。社会学的には、家族などの血縁が第1次コミュニティ、学校や会社などの機能縁が第2次コミュニティ、そして地域・社会・仲間集団が第3次コミュニティになります。私たちが支援するのは、仲間集団のコミュニティです。
――なぜ第3次コミュニティを支援するのですか。
都市部を中心に、親族社会や地域社会が機能しにくくなっているからです。たとえば、失恋した男子学生が仲の良い地元のおじさんに悩みを打ち明ける、なんて話は現代では考えにくいですよね。以前は家族も会社もひとつのコミュニティとして機能していた。ところが日本の家族主義的な文化が欧米の個人主義的な文化へ移り変わる中で、父・母といった役割や部長・課長といった仕事上の機能だけが残り、人と人との絆は弱まってしまったのです。
――第3次コミュニティならこうした問題を解決できると。
たとえば、家族というコミュニティがしっかりしているなら、第3次コミュニティに所属しなくても幸せな生活を送れるかもしれません。しかし実際は、2.6組に1組が離婚しているなど、家族そのものが危機的な状況にあります。会社では、仕事に追われ、出世競争にさらされ、プライベートで他の社員と交流する余裕もない。人々が利害関係なく自発的に集まる第3次コミュニティなら、あたたかい居場所になり得ると思うのです。
あたたかいコミュニティがあふれる世の中に
――あたたかいコミュニティが増えるとどうなりますか。
まず各個人が居場所と仲間を持てるようになる。自分が受け入れられることで、人生や自分自身に対する肯定感も高まります。そして自分自身を認められるようになれば、他者への関心ややさしさも持てるはず。こうした個人の変化こそが、幸福への第一歩だと考えています。
――コミュニティの参加者には何か変化はありましたか。
あるうつ病の人は職場で自分の居場所がないと感じ休職していたのですが、私たちのコミュニティに参加したことで、人と話すことがこわくなくなり、職場復帰できました。また、コミュニティで出会ったことが縁で結婚したカップルもいます。
――今後の活動計画を教えてください。
「CRファクトリー」のビジョンは、コミュニティ支援事業を通して、あたたかいコミュニティがあふれる世の中を実現することです。今は参加者が「受け入れられた」「他の人と深くつながれた」と感じてもらえるような雰囲気を作りながら、コミュニティをあたたかくすることに全力を注いでいます。将来は「どこかのコミュニティに入りたい」「日々の生活で抱える悩みを解決したい」と願う人と、その願いにかなうコミュニティをマッチングする活動ができればと思っています。
誰かと新しく知り合ったときに「会社はどこですか?」と聞くだけでなく、「どんなコミュニティで活動していますか?」とも聞き合える。そんなあいさつが交わされる日本になることを心から願っています。
CRファクトリーが主催する「コミュニティリーダーズフォーラム」のひとコマ。NPO・NGO・サークル・会などの団体を運営しているリーダーやコアスタッフが集まり、お互いが抱える課題について考え、話し合い、学び合う。熱気あふれるフォーラムだ