Q.「リスク」をとったらどんな変化がありますか?
→A.自分のスキルが磨かれる、多くの師匠と出会える
リスクをとったその時から、世界の見え方と自分の見え方が変わります。毎日の時間の流れ方も、見慣れた風景の見え方も変わります。そして、付き合う人の顔ぶれも会話の中身も変わります。何より、自分自身が変わることに驚くことでしょう。
今だから言えますが、もともと私は自分から積極的に動く人ではありませんでした。子供のころから受身な上「ものぐさ信ちゃん」と呼ばれるほど怠惰だったのです。
●百戦錬磨の経営者たちとの真剣勝負で「修行」
しかし、人間は環境で変わります。中でも、リスクの中に自分の体を置くと、目の色が変わって、自然に変化に対応しようと体が動きはじめるのですから不思議です。
たとえば、私にとって一番大きなリスクをとったのは、家業の久米繊維工業に戻る決意をした時でしょう。しかも父の考えで、30歳そこそこの若造が、知識も経験もないのに、会社に戻った瞬間、「代表取締役副社長」の名刺を持たされたのです。そして、私の生涯賃金の何倍にもなるような借金の連帯保証人になりました。
任された仕事は、集金係と称しながら内情を聞き出して、良いお客様にはさらなる売り込みを、危険なお客様には現金取引への変更を行なうという辛いものでした。なにしろ、私のお相手は、百戦錬磨の一国一城の主、繊維問屋や広告代理店の経営者や番頭さんです。一応、副社長、社長の息子として扱ってはくれますが、心の中では私の値踏みをして、スキあらば良い条件を勝ち取ろうとしています。言わば真剣勝負です。もちろん、痛い目にも合いましたが、この時ほど勉強になったことはありません。
なにしろ、こちらは中小企業とは言えオーナー経営者、株主ですから会社のお金は自分のお金です。金の取りっぱぐれで会社がおかしくなれば、持ち株がゼロになるだけではく、多額の借金の肩代わりまでしなければなりません。ですから、集金係自体は誰でもできるルーティンワークですが、私の場合は真剣さが違いました。経営者や担当者のお話のみならず、顔色や、社員の働きぶり、倉庫の在庫まで、五感と直感をフルに働かせて、お取引先の勢いを感じ取らねばならないのです。
●真剣だからこそ、相手を知るセンサーと直感力が磨かれる
こうした修行のような仕事をしている時は、あっという間に時間が過ぎ去ります。しかし、時間の密度が違います。短い訪問や面談時間の中で、いかに多くの情報をキャッチできるか真剣だからです。やっていることは毎月の繰り返しですが、訪ねるたびに、その会社のことや経営者のことが深く理解できるようになります。
見慣れたお客様の事務所も、毎回違って見えてきて新しい発見があるのです。センサーと直感力が磨かれ、お客様の知識のデータベースが自分の中に蓄積されます。そして、あっという間の一年を振り返ると、知らず知らず身に付いた知識やスキルに驚かされるのです。
もちろん、対人関係も豊かになっていきます。ただの集金相手ではなくて、まるで人生の先生のように思える方もいらっしゃいます。どうすれば、お客様のことをもっと知ることができるか、営業・コミュニケーション・与信管理などの本も山ほどよみ、セミナーにも積極的に参加しました。
多くの師匠に出会うと同時に、中の仕事を真剣にやればやるほど、外の世界や知識に触れないといけないことも、この時学びました。
●危機的な状況でも「失敗の程度」が直感できるように
こうした修行を3年も続けていると、自分が自分に下す評価も変わってきます。修羅場をくぐり抜けるうちに、自然に肚がすわってきて、「意外に自分もやるな。できるな」と思うようになるのです。そして、危機的な状況になっても「何とかなるな」「失敗してもこの程度で収まるな」と相場が直感できるようにもなります。何より驚くのは、いつしか「修羅場を楽しみ、乗り切ることに喜びを感じる自分」に変わったことです。
ゲームと金融の世界しか知らなかった私が、自分の父より年上の先輩経営者、自分たちより何十倍も大きな老舗企業と、厳しい条件交渉をする。そんな、嫌で嫌で怖くて怖くてしかたなかった状況でも、まるで「チャレンジしがいのある試合」のように楽しんで出かけられる自分に、わずか3年で変わることができました。
リスクを恐れず、変化を先取りして挑むことは、いずれ「辛いこと」から「楽しいこと」に変わります。さらに、スキルアップと人脈形成にもつながり、チャンスをものにできるのですから、若いうちにリスクをとって損をすることはないのです。
A.自分のスキルが磨かれる、多くの師匠と出会える
【バックナンバー】
Q01.起業家にとって一番大切なことは?
Q02.そもそもリスクとはどういうものでしょうか?
2013年04月22日
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