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2013年05月23日

【新著連載】Q16.すぐに現状に満足してしまう

Q.すぐに現状に満足してしまう

→A.「量的な拡大」よりも「質的な変化」を追いかける

 起業家の特長は、現状に満足しないことです。一つ目標を達成したとしても、それに飽き足らずに、もっと高みを目指して、次なる高度な目標が見つかるのです。
 もっと高度な目標といっても、それは、企業を大きくする、会員を増やすといった「量的な拡大」ばかりとは限りません。「量的な拡大」は、時には、行き過ぎた競争や、社会との不調和を招いて、かえって心を貧して、周囲を不幸せにすることも少なくありません。現状に満足しない真に充実した生き方は、「質的な進化」を伴うのです。

●「現状に満足しない生き方の5段階」

 かつて米国の心理学者のアブラハム・マズローが、欲求段階説を唱えました。人間の欲求が、五段階(1生理的欲求 2安全の欲求 3所属と愛の欲求 4承認(尊重)の欲求 5自己実現の欲求)で進化すると唱え、「自己実現の欲求」が最も高次な欲求と定義されました。しかし、私自身のささやかな体験では、「自己実現」よりも、さらに高次な目標が芽生えて、そこに向かってに挑戦したくなります。
 そこで私が体感した「現状に満足しない生き方の五段階」をご案内いたしましょう。
 まず、第一段階は、「贅沢欲求」です。実は、私の場合は、父が事業を成功させながら「贅沢欲求」を満たすプロセスを見ることで、生きる目標が進化しました。昭和10年生まれの父は、戦後の焼け野原、路地裏の自宅兼町工場を祖父から引き継ぎました。大学にも行かず、自分でトラックを運転して工場と取引先を往復しました。だからこそ、日本初のTシャツ専業メーカーして成功すると、次々に欲しかったものを手に入れて行きました。何と言っても、表通りに面した10階建ての自社ビル兼自宅がその象徴でしょう。しかし、あらゆる贅沢をした後、バブル崩壊を経て、父が晩年に語ったのは「物を持つと苦労する。贅沢せずとも幸せになれる」という境地でした。家族とレンタカーで三陸海岸をドライブして、名も無き漁港の防波堤に腰掛け「おにぎりを食べた」のが、一番美味しかったと、死の直前にしみじみ語ったのです。
 「贅沢欲求」=物欲が満たされると、次は「認証欲求」=地位・名誉欲が大切になります。日本ではお金や物を持っているだけでは尊敬されないからです。1995年当時、私は無名の中小企業経営者でした。しかし、日経インターネットアワード、経済産業省「IT経営百選」、東京商工会議所「勇気ある経営大賞」などを受賞し、マスメディアにも取り上げられると、明らかに対応が変わりました。悪い気はしませんが、嬉しいのは最初のうちだけでした。これまでの成果=既に終わった自分を褒められるよりも、これからの挑戦=未来に向けて走る自分を見て欲しいと思うようになるのです。

●真の自己実現は自己満足では得られない

 続いて「自己実現欲求」が首をもたげます。懸命に生きていれば、簡単にほめてくれないどころか、むしろ叱咤激励される「師匠」が見つかります。その師匠の生き方を見ていると、自分の足りない点や目指すべき姿が見えてきます。私は故・林雄二郎先生のように生きたいと憧れています。林先生は、1969年に「情報化社会」という名著で未来を予見し、日本財団やトヨタ財団など日本の社会貢献活動の先達をつとめ、90歳を過ぎても精力的に活躍していました。自分の専門領域を拡げながら、自分の潜在的な可能性を、死ぬまでずっと追求していく生き方に、私は強く惹かれるのです。
 しかし、真の「自己実現」は「自己満足」では得られないことにも気づきます。自分が気づいたこと学んだことを、より多くの人に広く活用して欲しいと願うようになるのです。東京商工会議所のIT推進担当役員や、日本財団CANPANセンターの理事として、インターネット活用の方法を、これまで1万人以上の方々にお伝えしてきました。さらに、明治大学講師、雑誌連載やビジネス書著書として、自分以外の人たちの「自己実現」支援=「他人実現」を達成することが生きがいになってきたのです。
 さらに「未来実現欲求」も、日に日に大きくなります。自分たちの子孫のために、美しい自然環境、地域固有の文化に根ざしたコミュニティ、愛情にあふれた手仕事の伝統などを、どうすれば未来に遺せるか、大きな責任を感じています。誇大妄想だと笑われるでしょうが、これまで培って来たスキルや、達人たちとのネットワークを、「私の死後はるか先に生きる人たち」の幸せに役立てたいと真剣に考えているのです。

A.「量的な拡大」よりも「質的な変化」を追いかける

【バックナンバー】
Q01.起業家にとって一番大切なことは?
Q02.そもそもリスクとはどういうものでしょうか?
Q03.「リスク」をとったらどんな変化がありますか?
Q04.「リスク」と「リターン」を見極めるコツは?
Q05.「リスク」をとって得られる最大の学びは?
Q06.「リスク」をとると人間関係はどう変わる?
Q07.なんのために「リスク」を背負うのですか?
Q08.若くて経験も知識もなく不安です
Q09.失敗するのが怖い
Q10.部下がいないうちは大きなことに挑戦できない?
Q11.力不足をさらけ出すのが怖い
Q12.人から笑われるのが怖いんです
Q13.「とるべきリスク」とはどんなものですか?
Q14.もっと大きな仕事がしたい
Q15.未来を見通す目がほしい
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