8月29日バイオマスボイラー業界団体づくりセミナーの報告[2024年09月13日(Fri)]
NPO法人農都会議はバイオマスボイラー・ユーザー協会準備会と協働して、8月29日(木)夕、「バイオマスボイラー業界団体づくりセミナー」第1回をオンラインで開催しました。
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本セミナーは、ボイラー導入の事例や地域経済に及ぼす効果、燃料調達などの課題、ユーザー目線から見るバイオマス熱利用事業のあり方、経済性の確保などを一緒に考えるため開催しました。80名近いオンライン参加者(申込者含む)が集まり、講演とディスカッションを行いました。
開会にあたり、バイオマスボイラー・ユーザー協会 準備会の辻保彦代表幹事がご挨拶し、総合司会は同じく安藤慎純(しんじ)幹事が行いました。
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本セミナーは、ボイラー導入の事例や地域経済に及ぼす効果、燃料調達などの課題、ユーザー目線から見るバイオマス熱利用事業のあり方、経済性の確保などを一緒に考えるため開催しました。80名近いオンライン参加者(申込者含む)が集まり、講演とディスカッションを行いました。
開会にあたり、バイオマスボイラー・ユーザー協会 準備会の辻保彦代表幹事がご挨拶し、総合司会は同じく安藤慎純(しんじ)幹事が行いました。
第1部は四氏の講演でした。最初に、岩手県西和賀町林政専門官、岩手木質バイオマス研究会運営委員の中村文治氏より、「地域資源を活かすバイオマス熱利用の取組と課題」のテーマで講演がありました。
西和賀町は、日本で初めてチップボイラーを導入し、資源とお金をまわすツールとしてバイオマス熱利用に取り組んできました。森林資源に恵まれている一方寒冷積雪地の西和賀町にとって熱需要への対応は必須です。
中村氏は、これまでのバイオマス熱利用=チップボイラーと燃料チップ利用の取組、燃料チップの規格の重要性、薪炭林利用の可能性を最適化するシステムなどについてお話しされ、近年取り組み始めた「地域内エコシステム」のスキームと実施項目についても説明されました。
また、町の少子高齢化の現状と将来について、薪炭を活かすにしても便利な暮らしには勝てない、バイオマス熱利用について夏場の冷房や空調以外の需要も検討したいとお話しされました。
続いて、山形県最上町エネルギー産業推進室主任の阿部亘氏より、「最上町における木質バイオマスを用いた地域熱供給事業について」のテーマで講演がありました。
森林が84%を占め人口約8千人の山形県最上町では、森林系、農業系、廃棄物系のバイオマスを地域循環エネルギーとして使い、産業と雇用の創出、エネルギーの地産地消、循環型社会の実現をめざしています。
阿部氏は、ヨーロッパの仕組を用いて23世帯に熱を供給するシステムに取り組んで6年目、木質バイオマスを最大限に活用した町づくりについて次のようにお話しされました。
○これまでの木質バイオマスの活用状況
・最上町の山は国有林と民有林があり、管理の課題として間伐しないため荒廃が進んでいる。そこで間伐材をバイオマス活用しようとなった。
・若者定住環境モデルタウンに地域熱供給システムを導入したが、熱使用料はオール電化と変わらない。
・無人制御でやっているが、バックアップのため多種類のボイラーを使い、トラブル多い。
・オーストリア製ペレットボイラーは大きなトラブルなし、追い炊き機能を付加。
・地域熱供給の基本料金は3,760円で300万強の収入となり赤字事業である。経費は燃料費が400万円かかる。制度設計が甘かったかと思う。現状は灯油使用がベースとなっている。
・バイオマスチップは暖房には適しているが、融雪にはコスト高となる。地下水による融雪は電気代が少しかかるだけである。
三番目に、NPO法人九州バイオマスフォーラム事務局長の中坊真氏より、「バイオマス熱利用に不可欠な燃料調達〜主に九州地域において」のテーマで講演がありました。
中坊氏は、薪の生産・販売、薪・木質ペレット・木灰活用、草からエネルギーを作るなど身近な資源活用を進めているNPOの現場から、燃料調達の考え方、課題などについて、次のようにお話しされました。
○九州の木質チップの需給状況
・バイオマス発電によりチップがひっ迫し、丸太価格の上昇と合せてチップも上昇している。
・広葉樹は樹皮(バーク)でチップの乾燥を行っている。
・枝葉やバーク、薪も活用している。
○九州の木質バイオマス熱利用の状況
・チップボイラーが温浴施設、病院、農業ハウス等に導入されている。
○九州の木質バイオマス発電所
・発電総量87万kW。木質チップ需要量725万トンは九州の素材生産量に匹敵する100万生トンに達している。
○全国の木質バイオマス利用量
・年50万絶乾トン増加(輸入含む)。
・円安になると国産チップの需要が伸びる。チップ価格高騰により、枝葉の利用も進んでいる。
・燃料用丸太は現状8000円〜9000円であり、輸出材1万円となっている。
・広葉樹チップの生産量年間70万m3減少しているが、これは紙需要減少のため。広葉樹は乾燥に時間がかかり、チッパーの負荷も大きい。バイオマス発電所でもコスト高で敬遠されている。
・建廃チップや支障木、未利用材チップの調達は今後ますます難しくなる。
○燃料用チップ乾燥の必要性
・チップ乾燥にはバンド乾燥機やコンテナ型があり、バイオマス発電所の排熱も利用している。
・温暖化による豪雨災害のリスクが増加しているため、皆伐による災害リスクに注意が必要。熊本県内の衛星写真では茶色に見える皆伐地が目立つ。
第1部の最後に、辻製油株式会社製油事業本部生産部 次長の安藤 慎純氏より、「未利用資源で地域を活性化する〜辻製油の産業用木質バイオマス熱利用の事例等」のテーマで講演がありました。
辻製油は、三重県内の間伐材等の木質チップを利用した 「バイオマスボイラー」を熱源として蒸気を発生させて植物油脂の製造を行い、さらに副産物や排熱を利用する循環型生産システムに取り組んでおり、それらはユーザーの立場で考えた結果、自ずとそうなったとのこと。今回は講演時間が短くなってしまったため、ユーザー目線から見たバイオマスボイラーについては次回に改めてお話しいただきます。
安藤氏の講演は次の内容でした。
・辻製油の沿革
・SDGsに向けた取り組み
・辻製油のコアテクノロジー&ビジネスフィールド
・辻製油 の第二創業は“バイオマス”から始まった
・工場でのバイオマスボイラー利用
第2部は、質疑応答と「バイオマスボイラー・ユーザー協会(準備会)の役割とは?」をテーマにディスカッションが行われました。パネリスは第1部の講師の方々、コーディネーターはソーラーワールド株式会社代表取締役の武内賢二氏でした。
ディスカッションの一部を記します。
○司会(武内氏):まずZoomのチャットでいただいた質問で、チップボイラーの経済性等についてのお尋ねです。
・中村氏:チップ品質には気を使っている。小山田エンジニアリング製は湿潤チップも使えたが、効率の点から乾燥チップを利用している。
・参加者:排出権は検討しないか?
・阿部氏:最上町ではJ-クレジットも考えているが、ボイラーの年数も経過しており補助金使っているので認められないかもしれない。
・参加者:バイオマス事業の成功には辻製油のように原料から無駄なく使うことが重要と思った。
○司会:業界団体準備会の役割についてお尋ねします。
・中村氏:バイオマス熱利用により便利で豊かな生活の何かヒントがもらえればと参加している。
・阿部氏:バイオマス熱利用・熱供給は誰が得をする事業なのか? 役所の縦割りの問題もあり課題を感じるところだ。生活の質を上げる必要がある。
・中村氏:これまでのバイオマス熱利用では豊かな生活にまで至らなかったのではと思う。
・中坊氏:当NPOは薪ストーブ用の薪を販売しているが、豊かさを求める方々の需要が増えている。サウナブームもあり、趣味性が高い生活感覚が出ている。
・安藤氏:食品を安定的に低価格で供給することで、消費者にとっての豊かさを提供したい。一方バイオマスボイラーの操作性やメンテナンスで多少の課題はある。
・参加者:バイオマス熱利用は温室効果ガスの削減の手段となるが、安定供給とのバランスが問題。割合を増やしつつバックアップとしての化石燃料ボイラーについて、1年ぐらいかけ課題を克服したい。産業用ボイラーの課題についても同様。
○司会:ユーザー目線でのハードルを下げるために必要なことは何か?
・参加者:工場からの廃棄物をエネルギー活用の研究が農家に伝わっていない。行政の仕組や補助金の仕組を変えないと。
○司会:補助金の仕組の問題として、初期費用が高いものに補助金は出すが、ランニングには出さない。地域の大学を活用する必要がある。どのエネルギーが安いだろうか?
・辻氏:コストを下げるためにバイオマスボイラーを始めた。蒸気は100%使いきれない、無駄をなくすため植物工場に利用することにした。小型化した地域のユーザーが使えるボイラーを身近で使える仕組を仕上げた。
○司会:ディスカッションの最後のまとめ―ノウハウの集約、技術の継承、ユーザーサイドの意見などを伺いたい。
・泊氏:情報の整理と普及が絶対必要と思う。当面は、ユーザー協会の形づくりをきちんとしていくことが大事ではないか。
最後に準備会の泊みゆき幹事が閉会挨拶を行い、バイオマスボイラー業界団体づくりセミナー第1回は終了しました。
今回は準備会の1回目のセミナーということがあってお聞き苦しい点もあったかと思いますが、大勢の方々に参加していただき、丁寧な講演と熱心な意見交換が行われ充実した内容だったと思われます。
参加者アンケートに「バイオマスボイラー導入に対するいろいろな立ち位置からのご意見をいただき、今後ボイラー導入を考えている者として興味深く参考になりました」、「今後ボイラー需要は高まると思うが、問題も多いと思う。問題点を共有し解決に至る手立てを考える場にして頂きたい」など沢山のご意見がありましたが、来春の協会設立をめざしている準備会にとって大変有意義な機会になったと思います。
講師の皆さま並びにご出席の皆さま、誠にありがとうございました。
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