
9月27日「元気な地域をつくる脱炭素化技術」勉強会の報告[2023年09月30日(Sat)]
NPO法人農都会議は、9月27日(水)夕、「元気な社会を創る脱炭素と技術 〜気候危機の現状から地域活性化まで、世界が注目する脱炭素のいまがわかる」勉強会をオンラインで開催しました。
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地域に賦存する様々な資源を活用し脱炭素化をはかり、持続可能な地域づくりを実現するためには新たな科学技術の導入とそれを可能とする市民合意形成を踏まえた事業スキームの検討が必要です。今回は『脱炭素の論点』編集幹事を務められた東京農工大学教授秋澤淳先生、事業構想大学院大学教授重藤さわ子先生および東京都品川区ご担当者から脱炭素化技術の具体的、先駆的な取組みのお話をお聞きします。
約50名の参加者が集まり、講演と質疑応答、ディスカッションが行われました。
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地域に賦存する様々な資源を活用し脱炭素化をはかり、持続可能な地域づくりを実現するためには新たな科学技術の導入とそれを可能とする市民合意形成を踏まえた事業スキームの検討が必要です。今回は『脱炭素の論点』編集幹事を務められた東京農工大学教授秋澤淳先生、事業構想大学院大学教授重藤さわ子先生および東京都品川区ご担当者から脱炭素化技術の具体的、先駆的な取組みのお話をお聞きします。
約50名の参加者が集まり、講演と質疑応答、ディスカッションが行われました。
開会挨拶は日本工業大学客員教授、農都会議運営委員の雨宮隆氏が行いました。
第1部は、最初に東京農工大学大学院教授の秋澤淳氏より、「エネルギーシステムの視点からみた脱炭素への技術的対応と『脱炭素の論点2023-2024』の紹介」のテーマで講演がありました。
秋澤氏は、 『脱炭素の論点』(共生エネルギー社会実装研究所他編著)の紹介をされ、エネルギーシステムの視点からみた脱炭素への技術的対応などについて説明されました。
また、再エネの前に省エネから始める、省エクセルギー(熱が生み出せる最大の動力)が本質的な課題とお話しされました。
秋澤氏の講演の要旨です。
・脱炭素化を目指すに際し適用する技術の方向として2通りある。1つがエンドオブパイプ技術で、化石燃料を燃やして出してしまったCO2をCCSなどで回収・処理する。もう1つはインプロセス技術であり、我々はCO2がそもそも出ない社会システムを構築するプロセス技術を選ぶべきである。
・脱炭素化へ向けてエネルギーシステムを考える場合は、熱を無駄なく使うことが重要。熱の質はエクセルギーで考える。熱が生み出せる最大の仕事のことであり、利用できる高温熱源の温度が環境温度より高いほど、高いエクセルギーが得られる。
・コージェネレーションはエクセルギーの無駄の少ない使い方の例である。電気に加えて排熱も使え、投入燃料のエネルギー効率が8割程度と利用効率が高い。地域内にコージェネの設備が分散配置されるのが将来像であるべきだ。
・脱炭素はゴールではない。たとえカーボンニュートラルが達成できても、エクセルギーの無駄を減らす省エクセルギーが永遠の課題。22世紀以降も持続可能なエクセルギー源は太陽のエクセルギーを利用する再エネのみであり、これを有する地域こそが競争力を持つだろう。
次に、事業構想大学院大学教授の重藤さわ子氏より、「脱炭素化を日本経済と地域の活性化につなげるには」のテーマで講演がありました。
重藤氏の講演の概要です。
・脱炭素は社会や地域にとってどういう意味を持つか
‐脱炭素は、社会や地域の将来のために総力戦で取り組むべき「未来づくり」、新たな経済的付加価値を生み出し生活の質を高めエネルギーや経済の自立を実現」するチャンス
‐地域(地方)が貧しい大きな原因は、膨大な対外エネルギー支払いにある、「地域資本」主義で真の循環型社会をめざすべき
‐3.11後導入された再生可能エネルギー等固定価格買取制度
(FIT)のねらいは再エネの大幅導入だけではなかったはず、「地域」の視点に乏しい再エネ導入計画
・脱炭素社会転換への障壁
@国や自治体の制度面での問題→政府の縦割り行政や中途半端な制度改革
A経済面→急激な経済社会変革は、産業の盛衰、産業構造変化、地方経済へ雇用への影響をもたらし、当然摩擦と変化への抵抗を生む
・『脱炭素の論点』に込められたメッセージ
@「社会を元気にする脱炭素」の視点
A適正技術の視点
B多主体性の視点: 参加・熟議・互恵の作法・技法
Cエネルギー弱者救済・福祉の視点
D現代という時代を生き、人類史的課題に挑戦する気概
・国土全域のインフラ整備と資源管理をどう進めるか
三番目に、品川区企画部施設整備課長の小林剛氏より、「新改築でのZEB化とその効果 -品川区での取組-」のテーマで講演がありました。
小林氏は、ZEBとは、国の動向、ZEBの認証状況、品川区とZEB、ZEBとSDGs、10年後の目指す姿などについてお話しされました。
また、初認証「エコルとごし」とZEB達成への導入技術(建築、機械設備、電気設備、その他の環境配慮設備)、地域産材の利用、一次エネルギー削減量、実績の考察、効果検証 (快適性)、認知度向上に向けてなどについて説明されました。
第2部は、質疑応答と「地域の特徴を活かした脱炭素化技術と、期待される効果」をテーマにディスカッションが行われました。パネリストは第1部講師の三氏、モデレーターは芝浦工業大学教授の村上公哉氏でした。
前半は、村上氏からの質問に対し、秋澤氏、重藤氏、小林氏がそれぞれ回答する形で進み、後半は参加者を交えた意見交換が行われました。熱心な議論が続く中でも「環境技術は専門家だけのものではなく、役所も住民も“自分事”として考えていく必要がある」と小林氏が話されたことが印象的でした。


講師の方々から感想をいただきました。
○秋澤氏:エクセルギーの話は物理的な説明に寄りすぎたかもしれません。皆様のお役に少しでも立てば幸いです。
○重藤氏:熱の基本的な利用に関する考え方、品川区のZEBの先進的な取り組みなど、私も大変学びが多かった。第二部のディスカッションも村上先生から、大変鋭いご質問やコメントをいただき、改めて現状を整理し、今後の展開を考える良い機会となった。
○村上氏:脱炭素の実現はまだまだ難しく、秋澤先生の機械工学的視点から省エクセルギー社会ステムの構築や重藤先生の社会科学的視点からの地域が豊かになる視点とそのためのコミュニティパワーなど大変勉強になった。
○永井氏:重藤先生のお話も大変分かり易く、賛同できる内容で、ご参加頂いた皆さんもご理解頂けたのではないかと思う。秋澤先生がご指摘いただいた熱利用、それもエクセルギーの視点は、農都会議が木質バイオマスをはじめ再エネ熱の効率的な利用の提言にもつながるお話で、参加の皆さんの参考になったのではないかと思う。
最後に、農都会議の杉浦英世代表理事より閉会挨拶がありました。
司会進行は芝浦工業大学非常勤講師、農都会議運営委員の永井猛氏でした。
今回も盛況な勉強会となり、社会や地域にとって脱炭素化が持つ意味についての理解が進み、各地域毎の脱炭素の課題や今後の進め方を多様な視点で考える、たいへん有意義な機会になったと思います。
講師の皆さま並びにご参加の皆さま、誠にありがとうございました。
第1部は、最初に東京農工大学大学院教授の秋澤淳氏より、「エネルギーシステムの視点からみた脱炭素への技術的対応と『脱炭素の論点2023-2024』の紹介」のテーマで講演がありました。
秋澤氏は、 『脱炭素の論点』(共生エネルギー社会実装研究所他編著)の紹介をされ、エネルギーシステムの視点からみた脱炭素への技術的対応などについて説明されました。
また、再エネの前に省エネから始める、省エクセルギー(熱が生み出せる最大の動力)が本質的な課題とお話しされました。
秋澤氏の講演の要旨です。
・脱炭素化を目指すに際し適用する技術の方向として2通りある。1つがエンドオブパイプ技術で、化石燃料を燃やして出してしまったCO2をCCSなどで回収・処理する。もう1つはインプロセス技術であり、我々はCO2がそもそも出ない社会システムを構築するプロセス技術を選ぶべきである。
・脱炭素化へ向けてエネルギーシステムを考える場合は、熱を無駄なく使うことが重要。熱の質はエクセルギーで考える。熱が生み出せる最大の仕事のことであり、利用できる高温熱源の温度が環境温度より高いほど、高いエクセルギーが得られる。
・コージェネレーションはエクセルギーの無駄の少ない使い方の例である。電気に加えて排熱も使え、投入燃料のエネルギー効率が8割程度と利用効率が高い。地域内にコージェネの設備が分散配置されるのが将来像であるべきだ。
・脱炭素はゴールではない。たとえカーボンニュートラルが達成できても、エクセルギーの無駄を減らす省エクセルギーが永遠の課題。22世紀以降も持続可能なエクセルギー源は太陽のエクセルギーを利用する再エネのみであり、これを有する地域こそが競争力を持つだろう。
次に、事業構想大学院大学教授の重藤さわ子氏より、「脱炭素化を日本経済と地域の活性化につなげるには」のテーマで講演がありました。
重藤氏の講演の概要です。
・脱炭素は社会や地域にとってどういう意味を持つか
‐脱炭素は、社会や地域の将来のために総力戦で取り組むべき「未来づくり」、新たな経済的付加価値を生み出し生活の質を高めエネルギーや経済の自立を実現」するチャンス
‐地域(地方)が貧しい大きな原因は、膨大な対外エネルギー支払いにある、「地域資本」主義で真の循環型社会をめざすべき
‐3.11後導入された再生可能エネルギー等固定価格買取制度
(FIT)のねらいは再エネの大幅導入だけではなかったはず、「地域」の視点に乏しい再エネ導入計画
・脱炭素社会転換への障壁
@国や自治体の制度面での問題→政府の縦割り行政や中途半端な制度改革
A経済面→急激な経済社会変革は、産業の盛衰、産業構造変化、地方経済へ雇用への影響をもたらし、当然摩擦と変化への抵抗を生む
・『脱炭素の論点』に込められたメッセージ
@「社会を元気にする脱炭素」の視点
A適正技術の視点
B多主体性の視点: 参加・熟議・互恵の作法・技法
Cエネルギー弱者救済・福祉の視点
D現代という時代を生き、人類史的課題に挑戦する気概
・国土全域のインフラ整備と資源管理をどう進めるか
三番目に、品川区企画部施設整備課長の小林剛氏より、「新改築でのZEB化とその効果 -品川区での取組-」のテーマで講演がありました。
小林氏は、ZEBとは、国の動向、ZEBの認証状況、品川区とZEB、ZEBとSDGs、10年後の目指す姿などについてお話しされました。
また、初認証「エコルとごし」とZEB達成への導入技術(建築、機械設備、電気設備、その他の環境配慮設備)、地域産材の利用、一次エネルギー削減量、実績の考察、効果検証 (快適性)、認知度向上に向けてなどについて説明されました。
第2部は、質疑応答と「地域の特徴を活かした脱炭素化技術と、期待される効果」をテーマにディスカッションが行われました。パネリストは第1部講師の三氏、モデレーターは芝浦工業大学教授の村上公哉氏でした。
前半は、村上氏からの質問に対し、秋澤氏、重藤氏、小林氏がそれぞれ回答する形で進み、後半は参加者を交えた意見交換が行われました。熱心な議論が続く中でも「環境技術は専門家だけのものではなく、役所も住民も“自分事”として考えていく必要がある」と小林氏が話されたことが印象的でした。


講師の方々から感想をいただきました。
○秋澤氏:エクセルギーの話は物理的な説明に寄りすぎたかもしれません。皆様のお役に少しでも立てば幸いです。
○重藤氏:熱の基本的な利用に関する考え方、品川区のZEBの先進的な取り組みなど、私も大変学びが多かった。第二部のディスカッションも村上先生から、大変鋭いご質問やコメントをいただき、改めて現状を整理し、今後の展開を考える良い機会となった。
○村上氏:脱炭素の実現はまだまだ難しく、秋澤先生の機械工学的視点から省エクセルギー社会ステムの構築や重藤先生の社会科学的視点からの地域が豊かになる視点とそのためのコミュニティパワーなど大変勉強になった。
○永井氏:重藤先生のお話も大変分かり易く、賛同できる内容で、ご参加頂いた皆さんもご理解頂けたのではないかと思う。秋澤先生がご指摘いただいた熱利用、それもエクセルギーの視点は、農都会議が木質バイオマスをはじめ再エネ熱の効率的な利用の提言にもつながるお話で、参加の皆さんの参考になったのではないかと思う。
最後に、農都会議の杉浦英世代表理事より閉会挨拶がありました。
司会進行は芝浦工業大学非常勤講師、農都会議運営委員の永井猛氏でした。
今回も盛況な勉強会となり、社会や地域にとって脱炭素化が持つ意味についての理解が進み、各地域毎の脱炭素の課題や今後の進め方を多様な視点で考える、たいへん有意義な機会になったと思います。
講師の皆さま並びにご参加の皆さま、誠にありがとうございました。
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