
6月19日「森林は日本の宝物」総会記念講演会の報告[2023年07月19日(Wed)]
NPO法人農都会議は、東湘物産株式会社と共同で、6月19日(月)午後、「総会記念講演会『森林は日本の宝物、林業は地域の宝物』 〜地域の森林・林業・木材産業の可能性」を東京都港区会場及びオンラインで開催しました。
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今回は、地域の森林業(森林・林業・木材産業)の現状および課題、地域の脱炭素化と木質バイオマス活用についてお二人の専門家からお話を聞きました。会場に約20名、オンラインに約50名の参加者が集まり、講演と質疑応答、ディスカッションがありました。農都会議の杉浦英世代表理事が開会挨拶し、東証物産の高澤真専務が司会進行を務めました。
2年ぶりの会場開催とオンラインとの併用でしたが、開始時にZoom接続が一時的に不安定になりましたことをお詫び申し上げます。
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今回は、地域の森林業(森林・林業・木材産業)の現状および課題、地域の脱炭素化と木質バイオマス活用についてお二人の専門家からお話を聞きました。会場に約20名、オンラインに約50名の参加者が集まり、講演と質疑応答、ディスカッションがありました。農都会議の杉浦英世代表理事が開会挨拶し、東証物産の高澤真専務が司会進行を務めました。
2年ぶりの会場開催とオンラインとの併用でしたが、開始時にZoom接続が一時的に不安定になりましたことをお詫び申し上げます。
第1部は、はじめに、株式会社モリアゲ代表の長野麻子氏より、「森林は日本の宝物、森林業は地域の宝物」のテーマで講演がありました。
昨年、林野庁木材利用課長からモリアゲ代表に転じられた長野氏は、森の木材資源活用の観点から、森と町すなわち上流と下流を繋いで日本の森林資源を広く活用すべきであるとお話しされ、その実践を試みるモリアゲ社の今後の展望について説明されました。
長野氏の講演の概要です。
・林業の現状はいろいろな課題があるというが、実は森の利用の可能性はとても広く、自治体、企業等の協働により森を支え、次の世代に繋げていけるはずと考えている。モリアゲ社は官と民をうまくつなぐ間合いを演出する立ち位置として、そのビジョンを実現したい。
・SDGsの観点でも、森や生物といった自然資本が持続可能なものでなければ人間の存在が成り立たない。自然の循環修復のスピード以下で、あらゆるものを循環させていくのが大事。そのために森林の役割は重要で、脱炭素という形で地球環境・温暖化を防ぐ機能も期待されている。
・私たちが目的にすべきは、木材生産だけではない。森の機能を維持するというのが非常に大事で、国土保全や水系の涵養、大気の浄化、人間の健康にも効果があり、われわれは年間70兆円ぐらいの生態系サービスを森から無償で得ている。環境経営や社員の健康経営を重視する企業にはぜひ企業の森に投資してほしい。
・森林の炭素を吸収する機能をクレジットとして付加価値化する時代となった。森林経営のクレジットはいまCO2トン当たり15000円程度と高いが、クレジットをきっかけに森との関わりができるので企業からの引き合いが多い。森の所有者には、ぜひこのクレジット認証にチャレンジして森にお金が返る仕組みに参加していただきたい。自然保護の国際目標のサーティバイサーティの観点でも、環境保全の取り組みが今後ネイチャークレジットとしてお金に換わっていくという時代が来るだろう。
・高知県の早明浦ダム下流水系の上流下流の森と町で、水の安定保全を目的に、森林整備事業のソーシャルインパクトボンドを形成している。奈良県でも、自治体が森林環境譲与税を出し合って木材利用促進コンソーシアムを組む例があり、森の恩恵を受ける川下側と川上側がうまく繋がることに譲与税を有効活用しているモデル的な事業だ。
・改正された木材利用促進法の下で、企業・自治体が木材利用促進協定を結び、安定的なサプライチェーンを作ることが自由にできる。最近では、町側のデベロッパーや不動産企業が森をもつ自治体と協力してマンションへの木材利用を広げようとする動きがある。また生物多様性保全活動を目的とする連携協定を結んで、企業版ふるさと納税を進める企業もある。
・ベンチャーでもいろいろなアイデアでウッドチェンジに取り組むところが出てきている。SANU社は、木製キャビン別荘のサブスクリプションのサービスで、地域の木を使った分は植林するなど完全に循環するスタイルを謳っている。VUILD社はネット上で顧客が自ら設計し組み立てられる家具パーツの販売を行うサービスで、Chat-BPTを導入し言葉だけで誰でも設計注文できるようなことを考えている。
・材を取るのではなく森林浴の効果といった森林空間の利用も注目されている。森林浴は日本発祥で世界的な用語だが、その割には外国の方を受け入れる森が少ない。インバウンドの方々に森林浴を目当てに来てもらうことに取り組むチャンスがある。
・モリアゲが各地で自治体と進めているのは、いろいろなアイデアで森と町を計画的に繋げること。まだ国産材ではできていないバリューチェーンを構築するための、コーディネートの役回りを果たしていきたい。また広葉樹の利用拡大にも力を入れたい。

次に芝浦工業大学副学長、システム理工学部環境システム学科教授の磐田朋子氏より、「長期的視野から木質バイオマスを活用した地域脱炭素化を考える」のテーマで講演がありました。
磐田氏は、地域のバイオマスをどのように活用したら全体として脱炭素になり得るか、経済的に持続可能になり得るかという点を中心にお話視されました。
磐田氏の講演の概要です。
・環境省の脱炭素先行地域選定の62提案中、木質バイオマス利用は27提案で全体の44%を占めている。さらに、熱電併給によって、発電事業だけでは経済的に中々ペイしないバイオマス事業をペイさせようとしている。
・岡山県間庭市は熱電併給システムに加え、地域に非常に多い広葉樹専用の伐採機械を開発するなど、広葉樹の利活用につながる全国的な先駆的事例として先行地域に選定された。
群馬県上野村でも63%が広葉樹という状況から、ペレット工場を整備し広葉樹をチップ化し公共施設などに熱電併給している。将来的には未利用材をペレット化し都会への搬出も検討している。
大都市の脱炭素先行地域選定は非常に少なく、上野村のような未利用材ポテンシャルがあるところと都市部との地域間連携をさらに進めることは非常に期待されている。
・スマート林業は経済性も重要。システムダイナミクスシミュレーションという手法を用いて森林調査から主伐・間伐・流通までトータルで見たスマート化の経営改善を計算した。仮に労働生産性が4.0㎥/人日から11.4m3/人日まで上がった場合、およそ2倍の利益が得られる試算になった。間伐もせず林業のスマート化もしなければ、林業収益はマイナスになってしまうという計算であり、少しでも定量的に評価できるツール開発は今後も必要。
・バイオマス発電を行うことによって木材価格の変動リスクを分散できるメリットがある。原木価格が低迷しているときは発電燃料用を少し多くするなど、切り出した材の振り分けにより利益を上げられる。
・地域の定住者を増やす取り組みは地域の脱炭素化を成し遂げる点で非常に重要。林業経営が安定化し生業としての魅力を高めることにより地域で働く人たちの移住が期待され、そこにCLT開発やバイオマスプラスチックなど新技術開発企業が移動してくるとまた定住者が創出される。定住者の増加は電力や熱の販路安定化につながり、エネルギー供給ビジネスの安定化、最終的には地域の脱炭素化につながる。
・世界全体で見ればCO2を急激に削減しなければならないエネルギー革命であるが、日本は化石燃料依存から脱却できていない。日本で使われているエネルギーは、半分が電気と熱に使われ半分が燃料系に使われている。電気の部分を仮に全て再エネで置き換えても残り半分の燃料系やプラスチックなどの原料を化石燃料に変わるもので置き換えない限り、全体の脱炭素化は非常に困難。そこで注目されているのが合成燃料。基本的には水素とCO2を化学合成して石油に代替するが、水素は再生可能エネルギーの電力を使った水の電気分解で入手し、CO2はDAC(Direct Air Capture)と呼ばれる技術で大気中のCO2を吸着する。或いは、DACプラスCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)といった工場から排出されるCO2を貯留するといったものやBECCS(Bio-Energy with Carbon dioxide Capture and Storage)というような森林系で吸着させてバイオマス発電所で使うといったことによってカーボンニュートラルが実現する。
・木質バイオマスの活用に関しては、中期的視野に基づく林業経営を成り立たせること、地域の定住者を増やし活力を生み出すことが重要。また、地域で余剰に出るバイオマスを合成燃料として地域外あるいは都市部に搬出することによって新たな収入源を得るという未来が来るかもしれない。
こういった長期的視野に基づいた未来に備えて、この林業を維持し、そして活性化していくことが今私たちに求められているのではないかと考えている。
第2部は、最初に、株式会社大昭和加工紙業代表取締役会長の田中博邦氏より、「セルロースナノファイバー(CNF)×紙、新たな付加価値製品の提供について」のテーマでプレゼンがありました。
田中氏は、株式会社大昭和加工紙業の紹介、CNF/CNF関連技術の利活用のポイントをお話しされ、認定品のアピールポイントはプラスチック製品や木製製品の代替として再生利用可能なエコで堅い厚紙であること、製品化の事例では「KAMIDE+CNF」ブランドとして、ティッシュボックス、ペーパータオルボックス等の「PAPER CONTAINER」を製品化し、スマホスタンドや厚紙のケース箱等を製造していることを説明されました。
続いて、質疑応答と「地域の森林業の可能性を考える〜次世代が親しみをもてる林業へ」をテーマにディスカッションが行われました。
質疑と意見交換の概要を記します。(○印:質問・意見、・印:回答)
○司会(高澤):第2部「地域の森林業の可能性を考える〜次世代が親しみをもてる林業をやっていこう」のテーマでディスカッションを頂きます。以下、進行を磐田様にお願いします。
・磐田氏:長野様から「まちと森が分散されている」とのお話がありましたが、その中で、都市部の企業と森林を有する自治体が連携する取組についてご紹介頂きました。企業にとってどういう自治体であれば組んでみたいと思うのか、どんな地域で活性化したいと思っているのか教えて下さい。
・長野氏:野村不動産と奥多摩町、三菱地所と水上町の例を紹介しました。前者の例で申せば、野村不動産は都内に多くのマンション販売・管理を行っていて、都内で何か活動をしいと考えていたところ、奥多摩町は、町内外の森林所有者と分集育林契約し、企業が入り易いまとまった町有林を提示することができました。今後、企業は脱炭素・生物多様性等の企業活動の開示が求められる状況になる中で、前記の様な自らできることを行う自治体を企業が求め連携していく動きになるでしょう。そこで、その地域の森にかかわりのある方々やNPOがうまく協力していく座組が必要になると思います。潟c潟Aゲはその座組のプロデュースを行っていきます。
・磐田氏:脱炭素先行地域でも同様に企業任せではその地域の需要や森の様な資源の把握は顔の分かる自治体が行わないと上手くいかないです。まさに、そのあたりが「モリアゲ」なんですね。
・長野氏:そういって頂けるとありがたいです。この様な役割が今すごく求められていると思います。私は木材コーディネーターという講座を取っていますが、その受講者は全国に200人位います。その方々をネットワーク化して広げるようにしたいです。また、国土の7割の面積もある森については、基礎自治体も林業政策の中で経営管理制度や森林環境譲与税によって、これまで見ない事にしてきた森の扱いに予算を使って、人も雇って実行することができるようになったことから、民の力を上手く使いながら対応できるようになると思います。
・磐田氏:森林環境譲与税に関連して、森に関して70兆円の外部不経済化していたお話がありましたが、それを自治体がどこまで理解して自分たちの地域の活性化に役立てようとしているか、その意識の差みたいなものがまだあるかもしれないですね。
・長野氏:そうですね。開始して5年目になる森林環境譲与税、だいぶ分かってきたかと思いますし、令和4年度分は全部使えた様ですし。林野庁のHPには良い事例を全て公開していますので、そこを真似するって素晴らしいと盛り上げていきたいですね。
・磐田氏:自治体も企業が森林に目が向いている今、絶好の機会と捉えて活動すべきですね。そして、森林との関係人口をもっと増やす取り組み、健康増進だけでなく、レクレーション、観光や最近では“ジビエ”等も話題になっています。少しずつ森の持っている多様な価値をまち側の、まち側に住んでいる人が気付きつつあるかと思います。一方、田中さんからご説明のあった、新しい産業による価値の創出も森のかかわり方が関係人口にどの様につながっていくか伺いたいところです。(本ディスカッションの前に、株式会社大昭和加工紙業代表取締役社長田中博邦氏から、同社が開発製造販売しているカーボンナノファイバー:CNFに関するショートプレゼンがありました)
・田中氏:新素材を使用した商品開発・販売はまだ難しいところがあります。紙ではない紙をどう使うかのアイデア出しについて静岡県や富士市は前向きに対応して頂けるのですが、未だ、自組織内で使用するネームプレート等の使用に留まっています。一例として、プレゼンの中でミニ塔婆をご紹介しましたが、国産間伐材等を使用しているのかと思っていましたら、ヨーロッパやアジアなどの海外産材を使用していて、国産材はほとんど使用されていないことが分かりました。国内林業を邪魔してはまずいみたいな所があったのですが、そのできない理由が何かあるのでしょうか。
○司会:チャットで質問があります。大型バイオマス発電は地域の利益につながっていないのでは。そしてFIT期間が終了したらどの様になるのかという質問があります。
・磐田氏:プレゼンの中でリスク分散の話で説明しました。脱炭素先行地域においても地域内で経済が回る観点から地域新電力を立ち上げて、自分たちの公共施設に供給するといった形の地域内循環が必要です。現状では、熱需要がなく、発電のみとなっていますが。そもそもFITは単体では経済的に成立しないシステムへの補助です。20年経つと機器の更新時期になります。従って、その収益を次の付加価値を付けたプロジェクトを動かすために重要かと考えています。一アイデアとしては、将来は熱需要に見合った範囲でのバイオマス発電がこれから地方に出てくるのではとプレゼン最後のスライドで説明しました。
○会場参加者:森林所有権・土地所有権について何か留意すべき点を教えて下さい。
・長野氏:森林経営管理制度があり、所有権は移転せず、管理権を設定して地域の担い手に移転する制度があります。更に、自治体によっては所有権移転も受け入れする場合もあります。岡崎市は積極的に受け入れする自治体で、三菱自動車と協定を結び「アウトランダーの森」として、カーボン・オフセットを行っています。別の制度としては一定条件を満たせば国が対象の森林を引き取る「国庫帰属制度」ができました。空き家等対策と同様に森林も対象になっていますが、未だ森林で適用となった事例はありません。
○司会:長野さんへの質問です。本日のお話で積極的に活動されている自治体があることが分かりました。その自治体を見つける活動はどの様にされていますか。
・長野氏:「モリアゲ」のHPに積極的な自治体はメールをくれます。そこで“モリアゲさん来てね”という自治体は積極的だと捉えて、講演会でこの自治体はすごいですよって、話をします。自治体は先にも述べたように財源が確保され、様々なスキーム(外部人材雇用等)の適用ができる等からだいぶ意識が変わってきており、基礎自治体の皆さんは頑張っています。そこで、一緒に盛り上げて、まちづくりと森づくりを合わせて考えていきましょう。そして、若い世代の皆さん、一緒に森に行きましょう。
○司会:本日はありがとうございました。
最後に農都会議の山本昇事務局長が閉会挨拶して総会記念講演会は終了しました。

今回も盛況な勉強会となり、「森林業」についての理解がいっそう進み、その課題や今後をいろいろな視点で深く考える、たいへん有意義な場になったと思います。
講師の皆さま並びにご出席の皆さま、誠にありがとうございました。
昨年、林野庁木材利用課長からモリアゲ代表に転じられた長野氏は、森の木材資源活用の観点から、森と町すなわち上流と下流を繋いで日本の森林資源を広く活用すべきであるとお話しされ、その実践を試みるモリアゲ社の今後の展望について説明されました。
長野氏の講演の概要です。
・林業の現状はいろいろな課題があるというが、実は森の利用の可能性はとても広く、自治体、企業等の協働により森を支え、次の世代に繋げていけるはずと考えている。モリアゲ社は官と民をうまくつなぐ間合いを演出する立ち位置として、そのビジョンを実現したい。
・SDGsの観点でも、森や生物といった自然資本が持続可能なものでなければ人間の存在が成り立たない。自然の循環修復のスピード以下で、あらゆるものを循環させていくのが大事。そのために森林の役割は重要で、脱炭素という形で地球環境・温暖化を防ぐ機能も期待されている。
・私たちが目的にすべきは、木材生産だけではない。森の機能を維持するというのが非常に大事で、国土保全や水系の涵養、大気の浄化、人間の健康にも効果があり、われわれは年間70兆円ぐらいの生態系サービスを森から無償で得ている。環境経営や社員の健康経営を重視する企業にはぜひ企業の森に投資してほしい。
・森林の炭素を吸収する機能をクレジットとして付加価値化する時代となった。森林経営のクレジットはいまCO2トン当たり15000円程度と高いが、クレジットをきっかけに森との関わりができるので企業からの引き合いが多い。森の所有者には、ぜひこのクレジット認証にチャレンジして森にお金が返る仕組みに参加していただきたい。自然保護の国際目標のサーティバイサーティの観点でも、環境保全の取り組みが今後ネイチャークレジットとしてお金に換わっていくという時代が来るだろう。
・高知県の早明浦ダム下流水系の上流下流の森と町で、水の安定保全を目的に、森林整備事業のソーシャルインパクトボンドを形成している。奈良県でも、自治体が森林環境譲与税を出し合って木材利用促進コンソーシアムを組む例があり、森の恩恵を受ける川下側と川上側がうまく繋がることに譲与税を有効活用しているモデル的な事業だ。
・改正された木材利用促進法の下で、企業・自治体が木材利用促進協定を結び、安定的なサプライチェーンを作ることが自由にできる。最近では、町側のデベロッパーや不動産企業が森をもつ自治体と協力してマンションへの木材利用を広げようとする動きがある。また生物多様性保全活動を目的とする連携協定を結んで、企業版ふるさと納税を進める企業もある。
・ベンチャーでもいろいろなアイデアでウッドチェンジに取り組むところが出てきている。SANU社は、木製キャビン別荘のサブスクリプションのサービスで、地域の木を使った分は植林するなど完全に循環するスタイルを謳っている。VUILD社はネット上で顧客が自ら設計し組み立てられる家具パーツの販売を行うサービスで、Chat-BPTを導入し言葉だけで誰でも設計注文できるようなことを考えている。
・材を取るのではなく森林浴の効果といった森林空間の利用も注目されている。森林浴は日本発祥で世界的な用語だが、その割には外国の方を受け入れる森が少ない。インバウンドの方々に森林浴を目当てに来てもらうことに取り組むチャンスがある。
・モリアゲが各地で自治体と進めているのは、いろいろなアイデアで森と町を計画的に繋げること。まだ国産材ではできていないバリューチェーンを構築するための、コーディネートの役回りを果たしていきたい。また広葉樹の利用拡大にも力を入れたい。

次に芝浦工業大学副学長、システム理工学部環境システム学科教授の磐田朋子氏より、「長期的視野から木質バイオマスを活用した地域脱炭素化を考える」のテーマで講演がありました。
磐田氏は、地域のバイオマスをどのように活用したら全体として脱炭素になり得るか、経済的に持続可能になり得るかという点を中心にお話視されました。
磐田氏の講演の概要です。
・環境省の脱炭素先行地域選定の62提案中、木質バイオマス利用は27提案で全体の44%を占めている。さらに、熱電併給によって、発電事業だけでは経済的に中々ペイしないバイオマス事業をペイさせようとしている。
・岡山県間庭市は熱電併給システムに加え、地域に非常に多い広葉樹専用の伐採機械を開発するなど、広葉樹の利活用につながる全国的な先駆的事例として先行地域に選定された。
群馬県上野村でも63%が広葉樹という状況から、ペレット工場を整備し広葉樹をチップ化し公共施設などに熱電併給している。将来的には未利用材をペレット化し都会への搬出も検討している。
大都市の脱炭素先行地域選定は非常に少なく、上野村のような未利用材ポテンシャルがあるところと都市部との地域間連携をさらに進めることは非常に期待されている。
・スマート林業は経済性も重要。システムダイナミクスシミュレーションという手法を用いて森林調査から主伐・間伐・流通までトータルで見たスマート化の経営改善を計算した。仮に労働生産性が4.0㎥/人日から11.4m3/人日まで上がった場合、およそ2倍の利益が得られる試算になった。間伐もせず林業のスマート化もしなければ、林業収益はマイナスになってしまうという計算であり、少しでも定量的に評価できるツール開発は今後も必要。
・バイオマス発電を行うことによって木材価格の変動リスクを分散できるメリットがある。原木価格が低迷しているときは発電燃料用を少し多くするなど、切り出した材の振り分けにより利益を上げられる。
・地域の定住者を増やす取り組みは地域の脱炭素化を成し遂げる点で非常に重要。林業経営が安定化し生業としての魅力を高めることにより地域で働く人たちの移住が期待され、そこにCLT開発やバイオマスプラスチックなど新技術開発企業が移動してくるとまた定住者が創出される。定住者の増加は電力や熱の販路安定化につながり、エネルギー供給ビジネスの安定化、最終的には地域の脱炭素化につながる。
・世界全体で見ればCO2を急激に削減しなければならないエネルギー革命であるが、日本は化石燃料依存から脱却できていない。日本で使われているエネルギーは、半分が電気と熱に使われ半分が燃料系に使われている。電気の部分を仮に全て再エネで置き換えても残り半分の燃料系やプラスチックなどの原料を化石燃料に変わるもので置き換えない限り、全体の脱炭素化は非常に困難。そこで注目されているのが合成燃料。基本的には水素とCO2を化学合成して石油に代替するが、水素は再生可能エネルギーの電力を使った水の電気分解で入手し、CO2はDAC(Direct Air Capture)と呼ばれる技術で大気中のCO2を吸着する。或いは、DACプラスCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)といった工場から排出されるCO2を貯留するといったものやBECCS(Bio-Energy with Carbon dioxide Capture and Storage)というような森林系で吸着させてバイオマス発電所で使うといったことによってカーボンニュートラルが実現する。
・木質バイオマスの活用に関しては、中期的視野に基づく林業経営を成り立たせること、地域の定住者を増やし活力を生み出すことが重要。また、地域で余剰に出るバイオマスを合成燃料として地域外あるいは都市部に搬出することによって新たな収入源を得るという未来が来るかもしれない。
こういった長期的視野に基づいた未来に備えて、この林業を維持し、そして活性化していくことが今私たちに求められているのではないかと考えている。
第2部は、最初に、株式会社大昭和加工紙業代表取締役会長の田中博邦氏より、「セルロースナノファイバー(CNF)×紙、新たな付加価値製品の提供について」のテーマでプレゼンがありました。
田中氏は、株式会社大昭和加工紙業の紹介、CNF/CNF関連技術の利活用のポイントをお話しされ、認定品のアピールポイントはプラスチック製品や木製製品の代替として再生利用可能なエコで堅い厚紙であること、製品化の事例では「KAMIDE+CNF」ブランドとして、ティッシュボックス、ペーパータオルボックス等の「PAPER CONTAINER」を製品化し、スマホスタンドや厚紙のケース箱等を製造していることを説明されました。
続いて、質疑応答と「地域の森林業の可能性を考える〜次世代が親しみをもてる林業へ」をテーマにディスカッションが行われました。
質疑と意見交換の概要を記します。(○印:質問・意見、・印:回答)
○司会(高澤):第2部「地域の森林業の可能性を考える〜次世代が親しみをもてる林業をやっていこう」のテーマでディスカッションを頂きます。以下、進行を磐田様にお願いします。
・磐田氏:長野様から「まちと森が分散されている」とのお話がありましたが、その中で、都市部の企業と森林を有する自治体が連携する取組についてご紹介頂きました。企業にとってどういう自治体であれば組んでみたいと思うのか、どんな地域で活性化したいと思っているのか教えて下さい。
・長野氏:野村不動産と奥多摩町、三菱地所と水上町の例を紹介しました。前者の例で申せば、野村不動産は都内に多くのマンション販売・管理を行っていて、都内で何か活動をしいと考えていたところ、奥多摩町は、町内外の森林所有者と分集育林契約し、企業が入り易いまとまった町有林を提示することができました。今後、企業は脱炭素・生物多様性等の企業活動の開示が求められる状況になる中で、前記の様な自らできることを行う自治体を企業が求め連携していく動きになるでしょう。そこで、その地域の森にかかわりのある方々やNPOがうまく協力していく座組が必要になると思います。潟c潟Aゲはその座組のプロデュースを行っていきます。
・磐田氏:脱炭素先行地域でも同様に企業任せではその地域の需要や森の様な資源の把握は顔の分かる自治体が行わないと上手くいかないです。まさに、そのあたりが「モリアゲ」なんですね。
・長野氏:そういって頂けるとありがたいです。この様な役割が今すごく求められていると思います。私は木材コーディネーターという講座を取っていますが、その受講者は全国に200人位います。その方々をネットワーク化して広げるようにしたいです。また、国土の7割の面積もある森については、基礎自治体も林業政策の中で経営管理制度や森林環境譲与税によって、これまで見ない事にしてきた森の扱いに予算を使って、人も雇って実行することができるようになったことから、民の力を上手く使いながら対応できるようになると思います。
・磐田氏:森林環境譲与税に関連して、森に関して70兆円の外部不経済化していたお話がありましたが、それを自治体がどこまで理解して自分たちの地域の活性化に役立てようとしているか、その意識の差みたいなものがまだあるかもしれないですね。
・長野氏:そうですね。開始して5年目になる森林環境譲与税、だいぶ分かってきたかと思いますし、令和4年度分は全部使えた様ですし。林野庁のHPには良い事例を全て公開していますので、そこを真似するって素晴らしいと盛り上げていきたいですね。
・磐田氏:自治体も企業が森林に目が向いている今、絶好の機会と捉えて活動すべきですね。そして、森林との関係人口をもっと増やす取り組み、健康増進だけでなく、レクレーション、観光や最近では“ジビエ”等も話題になっています。少しずつ森の持っている多様な価値をまち側の、まち側に住んでいる人が気付きつつあるかと思います。一方、田中さんからご説明のあった、新しい産業による価値の創出も森のかかわり方が関係人口にどの様につながっていくか伺いたいところです。(本ディスカッションの前に、株式会社大昭和加工紙業代表取締役社長田中博邦氏から、同社が開発製造販売しているカーボンナノファイバー:CNFに関するショートプレゼンがありました)
・田中氏:新素材を使用した商品開発・販売はまだ難しいところがあります。紙ではない紙をどう使うかのアイデア出しについて静岡県や富士市は前向きに対応して頂けるのですが、未だ、自組織内で使用するネームプレート等の使用に留まっています。一例として、プレゼンの中でミニ塔婆をご紹介しましたが、国産間伐材等を使用しているのかと思っていましたら、ヨーロッパやアジアなどの海外産材を使用していて、国産材はほとんど使用されていないことが分かりました。国内林業を邪魔してはまずいみたいな所があったのですが、そのできない理由が何かあるのでしょうか。
○司会:チャットで質問があります。大型バイオマス発電は地域の利益につながっていないのでは。そしてFIT期間が終了したらどの様になるのかという質問があります。
・磐田氏:プレゼンの中でリスク分散の話で説明しました。脱炭素先行地域においても地域内で経済が回る観点から地域新電力を立ち上げて、自分たちの公共施設に供給するといった形の地域内循環が必要です。現状では、熱需要がなく、発電のみとなっていますが。そもそもFITは単体では経済的に成立しないシステムへの補助です。20年経つと機器の更新時期になります。従って、その収益を次の付加価値を付けたプロジェクトを動かすために重要かと考えています。一アイデアとしては、将来は熱需要に見合った範囲でのバイオマス発電がこれから地方に出てくるのではとプレゼン最後のスライドで説明しました。
○会場参加者:森林所有権・土地所有権について何か留意すべき点を教えて下さい。
・長野氏:森林経営管理制度があり、所有権は移転せず、管理権を設定して地域の担い手に移転する制度があります。更に、自治体によっては所有権移転も受け入れする場合もあります。岡崎市は積極的に受け入れする自治体で、三菱自動車と協定を結び「アウトランダーの森」として、カーボン・オフセットを行っています。別の制度としては一定条件を満たせば国が対象の森林を引き取る「国庫帰属制度」ができました。空き家等対策と同様に森林も対象になっていますが、未だ森林で適用となった事例はありません。
○司会:長野さんへの質問です。本日のお話で積極的に活動されている自治体があることが分かりました。その自治体を見つける活動はどの様にされていますか。
・長野氏:「モリアゲ」のHPに積極的な自治体はメールをくれます。そこで“モリアゲさん来てね”という自治体は積極的だと捉えて、講演会でこの自治体はすごいですよって、話をします。自治体は先にも述べたように財源が確保され、様々なスキーム(外部人材雇用等)の適用ができる等からだいぶ意識が変わってきており、基礎自治体の皆さんは頑張っています。そこで、一緒に盛り上げて、まちづくりと森づくりを合わせて考えていきましょう。そして、若い世代の皆さん、一緒に森に行きましょう。
○司会:本日はありがとうございました。
最後に農都会議の山本昇事務局長が閉会挨拶して総会記念講演会は終了しました。

今回も盛況な勉強会となり、「森林業」についての理解がいっそう進み、その課題や今後をいろいろな視点で深く考える、たいへん有意義な場になったと思います。
講師の皆さま並びにご出席の皆さま、誠にありがとうございました。
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