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2月22日森林環境譲与税勉強会2023の報告[2023年02月27日(Mon)]
 NPO法人農都会議は、2023年2月22日(水)夕、「森林環境譲与税、これからの林業・森林整備にどう活かす? 〜新しい林業の定着と、地域における譲与税の活用を考える」勉強会を開催しました。
 →イベント案内

2月22日森林環境譲与税勉強会

 今回は、森林環境譲与税が各地域の森林整備に有効に使われるための課題を知るため、あらためて地域の利用状況を知り、関係者からお話を伺い、制度を学び直そうと思いました。新型コロナウイルス感染症対策のためオンラインでの実施でしたが、80名を超える参加申込があり、講演と質疑応答、ディスカッションがありました。
 最初に、NPO法人農都会議の杉浦英世代表理事が開会挨拶を行いました。司会・進行は、農都会議の平岡教子運営委員が務めました。

2月22日森林環境譲与税勉強会


 第1部は初めに、林野庁森林整備部森林利用課森林集積推進室課長補佐の近藤美由紀氏より、「森林環境譲与税の現状と今後の進め方」のテーマで講演がありました。
 近藤氏は、環境譲与税の現状と事例を短い時間内で要領良くまとめていただきました。

2月22日森林環境譲与税勉強会

 近藤氏の講演の一部を記します。
・林野庁のホームページで取組事例を紹介しているので見てほしい。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/kankyouzei/kankyouzei_jouyozei.html
・移住希望者を募集して林業事業体に配属し、現場で間伐や再造林等の作業を行う実践研修をする事例がある(高知県仁淀川町)。
・制度が始まって4年経ったが、今迄の剰余金を貯めて体育館等の大型施設をつくる動きが出てきた(東京都日野市)。
・連携事例のリクエストをいただているので、その一部を説明する。
 −奈良県では、サプライチェーン川下の平野部2市3町(活用団体)と、川上の吉野郡3町8村(協力団体)、2関連組合連合会(協力関係団体)が連携し、R3年に「上下流連携による木材利用等促進コンソーシアム」を設立し、木材製品の購入や森林体験活動の実施等の連携を図って森林環境譲与税を活用した木材利用等を進めている。
 −一対一の連携としては奈良県の田原本町・川上村の例がある。川上村所有の森林を田原本町が森林環境譲与税を利用して整備し、間伐材を活用した木製品を田原本町民に配布。連携してカーボンオフセットを具体化するなど。
 −長野県信濃町と千葉県流山市の例や千葉県の山武市と浦安市の例など、森林地域の市町村と都市部の市町村との連携を県庁が取り持つ事業スキームもある。
・林野庁は上流・下流の連携を重視したい。それは、昨年実施した市町村への連携ニーズに関するアンケート調査の結果にも現れている。


 次に、株式会社西湘フォレスト代表取締役、株式会社森林再生システム取締役の近藤亮介氏より、「自治体の森林環境譲与税活用の現状と森林再生への支援について」のテーマで講演がありました。
 近藤氏には林業ビジネスのノウハウを詳しく説明していただきました。講演を始めるに当たって、株式会社森林再生システムと速水亨氏を紹介し(2004年から森林・林業講座「林業塾」を開催、林業経営=考える林業を実践)、株式会社西湘フォレストの紹介(最近の自治体向けコンサル等業務の主な実績)から始められました。

2月22日森林環境譲与税勉強会

 近藤氏の講演の一部を記します。
・主伐・再造林にシフトしているところと、いまだに間伐ばっかりのところに分かれてしまっている。
・都道府県にとって再造林が優先モードに変わっている。伐期を考えると今から再造林を始めるべき。労働力が足りなくなる前にモードチェンジが必要。
・航空レーザ測量により、林齢・樹高の散布図や生産力マップが簡単に作れてしまう。
・しかし、いまの経営スタイルのまま航空レーザに年間の環境税額600億円を使ってしまうのはどうかと思う。
・現在の林業は官民連携の事業であり、行政の計画が存在しない林業はない。
・市町村は図面計画で、森林経営で利益を上げられそうな森林と経済性がなさそうな森林の経済性ゾーニングを決めている。
・ゾーニングに際しても技術職が不足のため、環境譲与税の使い方を当社がコンサルしている。
・市町村の林木生産の数値計画では少ししか伐っていない。伐採・運搬のコストがかかるためであり、もう少し伐らないと樹木の生長に追いつかない。
・林野庁予算は本予算と補正を合わせて毎年4千億円を超えるくらいである。それに比して小さい譲与税は、上手なキッカケづくりに使っていくのが良い。
・日本の森林は4,000万立方メートルの素材生産をめざすとしているが、現実にはその4割しか伐ることができない。そこで400万haを人工林にし、残りの600万haを混交林としていずれは自然林に戻すしかないと思う。
・施業の計画を立てる際は、すでに林道が入っているところから始めよう。(けっこう入っている)
・数十年、数百年先のために「考える林業」を行っていく必要がある。


 続いて、都留市産業建設部産業課農林振興担当副主査の後藤孝氏より、「都留市の森林環境譲与税を活用した取組状況」のテーマで講演がありました。
 後藤氏は、都留市の特徴を紹介し、山林の現状、森林管理制度推進方針について説明され、環境譲与税を活用して林業関係者と一緒にまちづくりプランを実現し、若い世代へつなげていく夢のあるお話をしていただきました。

2月22日森林環境譲与税勉強会

 後藤氏の講演の一部を記します。
・都留市は、富士山の麓の小さな城下町の歴史と伝統・文化、湧水などの豊かな自然資源、ワサビや川魚などの特産品という地域資源に恵まれている。
・人口3万人規模では珍しく公立大学の都留文科大学、健康科学大学看護学部、県立産業短期大学都留キャンパスの高等教育機関が揃っていて人口の10%が若者である。
・都留市は森林面積が約84%を占め、将来の担い手の育成・確保に向けた取組として、環境譲与税を活用して「森の学校」事業を行っている。
・また、今年度から都留市及び近隣地域在住の中高生を対象に「ジュニア・フォレスターズ・クラブ(JFC)」事業を開始した。


 第2部は、質疑応答と「新しい林業の定着に向けて、地域における森林環境譲与税の活用を考える」をテーマにディスカッションが行われました。
 パネリストは、第1部へご出演の三氏と株式会社つくば林業代表取締役の松浦晃氏、モデレーターは、NPO法人蔵前バイオエネルギー理事長の米谷栄二氏でした。

2月22日森林環境譲与税勉強会

 ディスカッションでは大勢の方から沢山の質問や意見をいただきました。質疑と意見交換の一部を記します。(○印:質問・意見、・印:回答)

○司会(米谷氏):最初に、チャットでいただいた質問を取り上げます。
○R6年度から環境税一人頭全国民1000円スタートする。徴収は在留外国人からも住民税と共に譲与税の配布と共に徴収するのか?また、譲与税への配分はこれまでと同じ配分になるのか?国民が1億1千2百万人とすると譲与税として徴収する額は1億1千2百万円となるわけで、600億円の運用譲与税では少ないのではないか?
・近藤美由紀氏:所管が総務省になるので、わかる範囲で回答する。在留外国人で住所を置いていて納税義務がある方、一定の所得がある方、生活保護の方など、国籍によって外れることは見当たらない。住民税が徴収される時に一緒に譲与税も徴収される。
一人1000円になるかと思います。
森林環境譲与税の配分は同じ基準(人口と人工林と林業業者数)で配分される。納税義務者かどうかが関係していて、住民税を課されてない方を除くと600億円くらいになる。
○後藤氏:森林管理計画は素晴らしいが、手法は他の領域でやられているのを手本にしたのか?効率の確認をしたのか?
・近藤美由紀氏:農林水産省の中で農地バンクに続いて森林の集積・集約化を進めていくか検討し、地域密着の行政主体の市町村を中心にした森林管理制度に行きついた。
○森林の境界などの多面的な情報はGIS(地理情報システム)で本当に管理できるか?地図で示せない場所が多いのではないか?
・近藤亮介氏:GISを県単位でなく市町村単位でやるのは意味がある。地籍調査により境界が明確化される。
○司会:ここで、つくば林業の松浦さんにコメントをお願いします。

2月22日森林環境譲与税勉強会

 今日は譲与税の使い方ということですが、私たちが最初に聞いた段階では最初の5年間でまず森林の情報を取るということで、やはりそこが一番大きいかなあと思いました。その情報が市町村に上がり、私たち事業体とかと連携されるということで、譲与税は一言でいえば、地域が積極的に行動する機会を作っていただいたのではないかと思います。
 金太郎飴的な森林整備計画ではなくて、地域の文化とか、今までの経験とかを合わせたものができるのではと大歓迎しています。私の会社は相模原市を中心に茨城とか千葉とかやらしていただいていますが、やはりこのものをいただいた上では皆さんと連携して一つのものを樹立していく。ただ補助金をいただくとかではなく、皆さんと一緒にやるというところではないかと思っています。
 私たちがこの譲与税を使って何をするかというと、やはり中山間地の若年層の定住化、安心して暮らせる100年先までの安定した生活を作るため、なおかつ水道保全で水利学上でいっても土壌を流亡させないような形とか、COP15のような形の生物多様性というものを出して地域から守っていく、それが日本を守る。そのような形で使われるといいかなと思います。

○司会:では、第1部にご出演いただいた三氏に、第2部のテーマの「新しい林業の定着に向けて、地域における森林環境譲与税の活用を考える」についてお考えをお聞きします。
・近藤美由紀氏:譲与税で全てがカバーできるわけではない。山主(担い手)は自分の山の状況を知ることが大事で、全体の中での一つのツールとして考えたら良いのではないか。
・近藤亮介氏:戦後の造林の伐期が来た。いまやることは「林業再生」。「新しい林業」ではない。市町村の林務職員が大変な状況にある。産業政策として林業経営を考える必要がある。伐期が来ていることを考えると、限られた予算でやるには小規模より大規模のほうが有利だ。
・後藤氏:中山間地域の事務職担当者の率直な感想として述べる。⑴現状は組織体制の整備が不十分。自分は農業も担当していて片手間だったが仕事が増えて大変だった。⑵譲与税の配分割合は税の使途として問われている。その意味で与党PJの見直しには期待したい。⑶境界確定は施業のためにも必須と思う。

2月22日森林環境譲与税勉強会

○司会:皆様、ありがとうございました。ディスカッションを続けます。
○間伐を進める必要があるのは分かりますが、現状でも再造林率は30%程度であり、また説明のとおり苗木も足りない状況です。当面間伐による素材生産にも頼らざるを得ないのではないかと考えますがいかがでしょうか?
航空レーザ測量によると蓄積が森林簿よりかなり多く、高齢級になっても成長が衰えないことがその原因と考えられます。二酸化炭素の吸収源として高齢級の人工林は見直す必要があるのではないでしょうか?
・近藤亮介氏:北海道では再造林率ほぼ100%。宮崎県は最初低かったがいま7割くらいまできた。いまは皆伐よりも再造林が必要。
間伐による素材生産は効率がとても悪く諸外国には例がない、特に利用間伐が推奨されているのは日本くらいだ。利用間伐一辺倒はそろそろ見直す時期が来ていると思う。
○司会:啓蒙は沢山やっていると思いますが?
・近藤美由紀氏:林野庁森林集積推進室から、市町村・都道府県・国等の取り組み状況を定期的に情報発信している。市町村の皆さんがどんな考えでやっているか、分かりやすく紹介し、課題の解決につなげたいと思う。
https://www.rinya.maff.go.jp/j/keikaku/keieikanri/sinrinkeieikanriseido.html#3.4
○司会:最後にまとめると、森林環境譲与税の問題点はいろいろありました。例えば税制大綱には「検討する」と書かれ、具体策が無かったこと。金額的には少ないお金で市町村にはやれと言ってること。譲与税以外の予算で、他省庁と連携してやることになること等々。残念ながら本当の森林整備につながる部分はまだ少ないのではないかと感じます。


2月22日森林環境譲与税勉強会

 閉会挨拶は農都会議の関和夫運営委員が行い、「国、自治体、地域企業・林業者などの異なった立場の講師から、森林環境贈与税の活用事例、自治体の取組の現状と方向性、地域の施業者の対応などをお話しいただき、また、活発なディスカッションを通じ、たいへん有意義な場になった。木材は地産地消だけではなく、地産外消として、山と都市、川上と川下が連携し共存共栄できる持続可能なサイクル構築が今後は益々重要になる。譲与税をきっかけに、どのような地域とどんな関係を結び、どうしていくか、知恵の出しどころとなる。一旦所有権を棚上げにして、国民共有の森林活用を検討していくことはできないか、私からの提案です。」と述べました。

 今回も盛況な勉強会となり、各地域の課題と森林環境譲与税活用方法について理解が進み、今後の地域毎の森林整備や森林の生かし方を様々な立場から考えることができる機会になったと思います。
 講師の皆さま並びにご出席の皆さま、誠にありがとうございました。
Posted by NPO農都会議 at 13:18 | 勉強会 | この記事のURL | コメント(0)
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