
11月25・26日内子町脱炭素地域づくりシンポジウムの報告[2023年01月26日(Thu)]
NPO法人農都会議は、内藤鋼業ほかの企業、団体と協働し、11月25日(金)と26日(土)の両日、「持続可能な森林資源を活用した脱炭素地域づくり 〜地域から見る地域通貨とニューコモンズを視野に」シンポジウムを、内子町内の会場とオンラインを併用して開催しました。
→イベント案内
内子町シポジウムでは、町内にあるバイオマス施設の見学ツアーが25日に、町内の会場とオンラインを併用したシンポジウムが26日に行われました。
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バイオマス施設見学ツアー
内子町バイオマス施設見学ツアーは50名弱が参加して行われました。
竹中工務店の宮崎賢一氏による開催挨拶の後、内子町森林組合参事の大鍋直幸氏による「内子町森林組合と木質燃料材供給」について説明がありました。
続いて、有限会社内藤鋼業代表取締役の内藤昌典氏による「内子バイオマスタウン」について説明がありました。
説明会場の森林組合事務所(内子町五百木)では、大鍋氏より内子町内の森林概要と内子森林組合の概況について説明がありました。それを受けて内藤氏より内藤鋼業のペレット工場、内子バイオマス発電所、内子龍王バイオマスエネルギー発電所における「森林〜燃料工場〜発電所」の木質バイオマスエネルギーの利活用について説明があり、森林の川上から、川中、川下までの利活用について参加者と活発な質疑が行われました。
次いで、森林組合に隣接のペレット工場、内子バイオマス発電所を見学し、その後にバスに乗車し内子龍王バイオマスエネルギー発電所(内子町内子)の見学を行いました。
脱炭素地域づくりシンポジウム
シンポジウムは、内子町共生館1階ホールとオンライン(Zoom利用)を併用し、約150名が参加して行われました。
「持続可能な森林資源を活用した脱炭素地域づくり 〜地域から見る地域通貨とニューコモンズを視野に」をテーマに、“ペレット生産とガス化熱電併給の視察と代表的事例の発表、脱炭素まちづくり、地域経済循環と地域通貨などによる地域循環共生圏でのシナジー効果”の加速化を目指し、企業、自治体、市民、地域外の大学や企業が協業するニューコモンズについて、報告と討議が行われました。
■開会挨拶と開催趣旨
開会にあたって、島根県立大学准教授(RISTEX研究プロジェクト代表)の豊田知世氏から、ご挨拶とシンポジウムの趣旨・目的の説明がありました。
「戦後の高度経済成長下での木材自由化と薪炭から炭素リッチな化石系エネルギーへの転換とともに森林のローカル・コモンズ(地域資源の集団的・共同的な所有と利用および保全維持管理)が衰え、森林資源の荒廃が進み地域経済も衰退してきました。
しかし近年、チップやペレット燃料利用やガス化熱電併給技術によるエネルギーと大型木質建造利用などが広がりつつある時代となりました。それらにより地域の森林資源を活用する脱炭素と地域づくりを目指し、地域金融と地域通貨による川上から川下までの地域循環型システムを促進する新たな社会・経済的取組みが始まっています。その取組には住民と自治体が一体となり、さらに地域外の産官学とも協業、実践が増え、それがニューコモンズ形成への繋がる兆しともなっています。事例として、岩手県紫波町、群馬県上野村、岐阜県高山市、島根県津和野町、愛媛県内子町、高知県梼原町、宮崎県串間市などが挙げられます。」
■来賓挨拶、内子町の紹介
内子町の小野植正久町長より、来賓挨拶がありました。町長のお話の一部を記します。
・内子町は平成17年1月1日、内子・五十崎・小田の3町が合併して誕生、面積は、約300ku(東西30km、南北18km)、その8割が山林、町の中心を肱川の支流である小田川が流れ、平坦地は少なく、山地または丘陵地で、山々に囲まれ、大小の川が流れる緑と水の恵み豊かな町である。
・町がめざす将来像は、「町並み、村並み、山並みが美しい、持続的に発展するまち」とした。昭和47年頃より町内で「町並み保存運動」の声が上がり、明治〜大正期にかけて木蝋生産で栄えた当時の商家などが立ち並ぶ八日市護国地区の町並みが、昭和57年に国「重要伝統的建造物群保存地区」に選定された。その中で大正5年の豪商らが中心となり創建された木造の芝居小屋が現在の「内子座」である。
・人や物の集積地である「町並み」の賑わいを生み出すのは、町を取り巻く周囲の里である村も元気でなければ、町は栄えないという「想い」を持った。そこで村里の暮らしを持続可能にするための取り組みで「村並保存」の活動が行われた。
・内子町にとってかけがえのない財産であり、町の8割を占める森林資源を「山並の保全」としている。内陸特有の樹種であるイチイガシ、ケヤキ、エドヒガンなどが多く、役場小田支所から上流10qほどの間は、愛媛県内では最も巨木が集中している地域ともいわれている。特に小田川上流域の小田地域に現存している約110件の巨木・名木が有名である。
・本シンポジウムのテーマである、豊かな森林資源の活用を図りながら、新たな産業の創出に取り組むため、平成18年度に策定された「内子町バイオマスタウン構想」がある。構想では「森」「畑」「まち」の3つのプロジェクトを掲げ、森のプロジェクトでは、木質ペレットの製造、畑のプロジェクトでは、生ごみの分別収集と、堆肥の製造、まちのプロジェクトでは、NPO法人による一般家庭や飲食店などからの廃食油の回収とBDF燃料の製造が行われている。
・内子町は現在、2050年までのカーボンニュートラル達成をめざして、再エネ導入戦略を策定中である。内子町の地域特性を踏まえ、町並み、山並み、村並み それぞれを一層施策化し、地域課題の解決と経済活性化の両立を図っていき、この中で、「木質資源によるエネルギーの供給・利用体制の構築」なども、大きな柱の1つになっていく。
・本日のシンポジウムをとおして、全国の先駆的な取り組みを学び、また新たな知見を得られるものと期待しており、このシンポジウムが内子町で開催されることに、あらためて感謝を申し上げるとともに、充実した、実り多い会となることを祈念し、開催にあたってのご挨拶とさせていただく。
■第1部 基調講演
初めに、神奈川大学理事・名誉教授の日野晶也氏より、「これからのコモンズとしての大学の役割〜内子町と神奈川大学」のテーマで講演がありました。日野氏の講演の一部を記します。
・神奈川大学は、愛媛県喜多郡満穂村(現内子町)論田に生まれた米田吉盛(1898〜1987)によって創設された。米田先生は「教育は人を造るにあり」とされ、神奈川大学は授業だけでなくゼミやクラブ活動を通して、有意な人材を社会に送り出すことを使命とした。創立100周年に向けた将来構想実行計画に基づき、発祥の地である横浜市桜木町に近い、みなとみらい21地区に原点回帰する形で、2021年4月に「みなとみらいキャンパス」が開設され、そこでは場所と時間を共有することによって新たな知恵が産みだされ、学習のためのラーニングコモンズ、社会との連携を図るソーシャルコモンズを実践している。
・Commons(入会地 共有地)は、共同的ないし集団的に利用・管理が行われている資源であり、コモンズの基本要素として、@ 公平性、A 持続可能性、B 多様性がある。多様性に配慮して共同で利用・管理が行われている資源を「ニューコモンズ」と定義したい。
・「太陽の水槽」について話したい。水槽の金魚には餌を与えず、金魚は水草や藻を食べていて、水草や藻は光合成により酸素と栄養分を提供し、金魚の排泄物はバクテリアによって分解されて水草や藻の栄養分となり、太陽からの光と熱エネルギーが元となって水槽の中で物質循環が起こり、小さな生態系が保たれている、しかし、「太陽の水槽」では、水槽内の植物は呼吸もしていて、光合成が盛んな日中はCO2<O2であるのに対し、夜には二酸化炭素も排出する(CO2のみ)ので、夏期は藻が繁殖し過ぎて夜間に酸欠になる危険があった。エネルギーと物質の循環を持続可能にする生態系を維持していくためには、水の流れを生成し、細かいプランクトンを除去して、藻を取り除くためのろ過循環するポンプのモーターを駆動させることにした。それには電力エネルギーが必要となってしまった。その結果、秋以降は藻の生育よりも金魚の食欲がまさり藻を食べつくす可能性があったが、冬になると金魚の活動も低下し、一昨年の春から給餌することなく今に至っている。
・このことから、「生きていること」は、「呼吸をする」、「子孫を増やす」、「 代謝する」(エネルギー代謝と物質代謝)、「外からの刺激に反応する」、「 進化する」、「共存する」ことである。
次に、日本製鉄株式会社顧問、前環境省事務次官の中井徳太郎氏より、「脱炭素と地域循環共生のこれから」のテーマで講演がありました。中井氏の講演の一部を記します。
・2050年カーボンニュートラルの目標をテコに、地域や暮らしの現場から、地域資源のポテンシャルを引き出して、エネルギー・食の地産地消や災害への備えなど地域課題を解決しながら地域活性化を実現する「地域循環共生圏構想」の最前線をお話しする。
・地球環境の危機に対応するためには、経済・社会システムや日常生活の在り方を大きく変えること(=社会変革)が不可欠で、2015年のパリ協定から世界的に具体的な取組が始まった。
・気候変動等にかかるわが国の政策では、「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことが宣言され、2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指し、さらに50%の高みに向け挑戦を続けると総理発言があった。
・社会変革のために何をすべきかだが、@脱炭素社会、A循環経済、B分散型・自然共生社会の「3つの移行」で経済社会をリデザインし、地域循環共生圏(ローカルSDGs)を創造することを目指し、「地域ビジネス創生」、「快適な暮らし」、「災害時も安心」などの地域の活性化を、カーボンニュートラルにより実現可能である。
・今後の5年間に政策を総動員し、人材・技術・情報・資金を積極支援するために、2030年度までに少なくとも100か所の「脱炭素先行地域」を選定する。既に46自治体地区認定済み。
・ポストコロナ社会においては、コロナ危機・気候危機に対応するための経済社会のRedesignに向けた3つの移行は、地域循環共生圏の具現化そのものである。
続いて、有限会社内藤鋼業代表取締役の内藤昌典氏より、「脱炭素!木質バイオマスによるエネルギーの地産地消 〜愛媛県内子町からの挑戦」のテーマで講演がありました。内藤氏の講演の一部を記します。
・内藤鋼業は、内子町で2011年に木質ペレット工場を稼働し、ペレット燃焼機器を導入した。そして2018年に木質ペレット工場の拡大稼働と内子バイオマス発電プロジェクト事業(約1MW)を開始した。
・木材から電気ができる過程で発生する炭化物(粉炭)は、粒状に加工して助燃材や土壌改良補助材に、同時に発生する燃焼灰はセメントと混練しブロック状に加工し、「バイオマスストーン」と名付けて林道整備補助材に活用されている。
・2022年10月よりスタートした内子龍王バイオマス発電所の事業内容は、 @ 電力販売 A オーベルジュ内子ならびにフィットネスRyuouへの熱供給事業である。発電出力規模は330kW(一般家庭560世帯分の電気使用量に相当)、熱約500kWである。燃料は地域の原木未利用間伐材3,600トン/年が使われている。総事業費は約4.2億円、「木質バイオマスによる持続可能なまちづくり」の先導モデル実現に向け、地域内外の企業が連携・役割分担した新会社が運営している。
・発電所建屋は、地元木材を用い、景観まちづくり条例に配慮したデザインの木造建築とし、燃料原木は全て、内子町森林組合より調達されている。
・資金調達面では、事業に賛同する地元企業20社より出資を得るなど、地域の方々と共にプロジェクトを実現していく仕組みづくりが実現できた。
・内子で木質バイオマス発電を行うメリットは、従来の「地域外からのエネルギー購入」から、「地域内でのエネルギーの創出・消費」へ移行し、林業活性化と経済循環を実現することだ。
第1部の最後は、株式会社日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏より、「山間の町・内子の大きな未来」のテーマで講演がありました。藻谷氏の講演の一部を記します。
・令和の時代に、まだ「田舎には何もない」と言っている人がいる。そんなことを言う彼らはまだ「昭和」を生きているのかもしれない。イチローに続いて大谷翔平も出てきた時代に、まだ長嶋茂雄の話をしている人のようものである。
・過密な都会にはない山と森と農地が、今の時代、どれだけ貴重なのか計り知れないと語り、自然資本は自然利子を生むのだと。山と森と農地を持たない都会こそがその自然利子も得られず、「何もない」のではないか。超高齢化社会になるほど田舎は有利であることと、昭和、平成の時代にはもう戻られない。今は時代が大きく変化をしているのだ。
・人は資本に投資する。資本とは「人的、自然、物的、金融、知的」がある。自然資本は元本を循環再生させれば、利子は付き続ける。農産、林産、水産、日光、淡水、自然景観である。都会の人は不安定な金融投資による利益に頼るが、常に将来不安を抱える。だが、田舎には都会では味わえない緑、水、虫の音、四季の匂い、渡る風などがある。最も大切なことは自然資本を上手に活かし、人間の触覚を活かした暮らしだ。それは、地に足を付けて、全身の肌感覚を活性させることではないか、もっと土と水と生き物に触れて五感を満たした豊かな暮らしを考えよう。
■第2部 地域事例報告
最初に、元津和野町農林課、現フォレストエナジー株式会社の久保睦夫氏より、「島根県津和野町における川上から川下までの森林ニューコモンズの形成」のテーマで講演がありました。氏の講演の一部を記します。
・津和野町は、東京23区の1/2の面積 30,704haがあり、内27,747haの森林が90%以上を占め、その60%が広葉樹林であり、森林、特に広葉樹林の活用が課題である。
・津和野町では、2013年に「高津川流域木質バイオマス活用調査検討協議会」を立ち上げ、木質バイオマスガス化発電の可能性について検討を重ねた。一方2014年からは、作業道開設、伐採・運搬技術を習得し、3年後に独立を目指す地域おこし協力隊制度を活用した自伐林家の育成に力を入れ、今日までに23名が活動した。この内、現役及びリタイアした人数を除いた11名の内9名が町内に定住し、林業に従事している。また、「山の宝でもう一杯プロジェクト(平成23年〜)」で、自伐型林家による搬出間伐促進のため、間伐材1tに対して地域通貨券3,000円を支給している。
・発電所の計画は、2017年に中国電力との接続契約をしたが、2022年までの5年間系統接続は延期と言う内容だった。2019年にフォレストエナジー株式会社による発電所建設運営が決まり、2022年8月よりVolter社製40kW×12基の発電施設でFIT売電を開始することができた。その仕様は、1基あたり発電量 40kW、熱量 100kWで、現在順調に稼働させることができている。
・木質バイオマスガス化発電プラントを連続稼働させるためには、均一に乾燥されたチップ製造が鍵となる。そこで1,000kWの熱エネルギーで、含水率50%のチップを10%に低減させ900s/h 、約21t/dayの乾燥チップ生産が可能な能力を持つWoodTek社T4Plus 乾燥機を採用。発電施設12基にこの乾燥機を接続し、まず発電プラントに必要な年間6,500tの含水率50%チップから含水率10%のチップ3,610tを生産した。この12基の発電からの余った熱量からさらに約2,500tの乾燥チップが製造可能である。
・本発電所をエネルギーセンターとし、今後周辺の津和野温泉、津和野共存病院、老人ホームなどにこの余剰乾燥チップを供給する予定である。供給を受ける各施設ではガス化熱電併給設備を導入し、得られた温水、電気より給湯及び非常電源として活用する計画している。
・世界のエネルギー資源確認埋蔵では、2000年末調査に対して2021年末調査で石油の可採年数は長くなり化石燃料の時代は予想より長く続いたが、最近の地球温暖化問題、再生可能エネルギーの普及で、森林バイオマスエネルギー利用と林業の時代がやって来たと実感している。
次に、宮崎県串間市役所の立本一幸氏より、「宮崎県串間市 森林資源からはじまる地域まるごとショウルーム」のテーマで講演がありました。立本氏の講演の一部を記します。
・串間市は、森林資源をはじめ様々な自然資源の宝庫で、この自然を背景に、風力発電・太陽光発電・水力発電・木質バイオマス発電・地中水熱利用などの再生可能エネルギー施設が稼働している。
・木質バイオマス発電では、地域産未利用木材による燃料ペレット生産から発電までのプロセスを一貫して行う。発電時に発生した排熱もペレット工場や排熱利用発電で有効活用し、工場全体として運用コストの低減を実現している。木材の買い手業者となることで、林業の活性化や新たな雇用を創出するなど、地域に恩恵を与えている。発電規模は1,940kWで、一般家庭約4千世帯分に相当し、木材の買取量も年間1万9千トンである。
・木質ペレット工場において、地元林業家や森林組合などから仕入れた原木は樹皮(バーク)を剥ぎ、残りの剥皮丸太からおが粉を生産。それをバークボイラーからの温水で乾燥ペレットを生産する。これを燃料として木質バイオマス発電装置と排熱温水利用のバイナリー発電機で発電した電気を販売。ペレット工場併設発電施設で、熱源を利用し双方向で補いあう施設は国内初の取り組み。
・これまでの「串間市民病院」及び「串間温泉いこいの里」では、灯油を燃料とした温水ボイラーと蒸気ボイラーを使用していた。しかし余剰にペレットが生産されることから、地域内でペレット活用を検討し、化石燃料代替としてこの二つの施設に木質バイオマスボイラーを導入した。加えて病院には熱電併給施設も設置し、病院内の空調や給湯及び殺菌用に温水や蒸気を活用し、電気も院内で利用されている。既存の灯油による給湯や蒸気ボイラーはバックアップ施設とし、コストは、導入時の単価で比較を行った試算では約5百万円、現在の燃料費高騰の部分を加味した場合は約7百万円のコストダウンとなった。
・これにより、伐採、造林(育林)から、木材製材加工、間伐材、樹皮などまでをすべて利活用し、域内で完結することができた。これが域内経済・環境・社会の好循環を生み出した。
・既存再生エネルギーに加え、新たな再生エネルギーが観光地串間に揃うことにより、「串間市全域がまるごと脱炭素エリア」となることを目指している。
■第3部 地域通貨とまちづくり
初めに、株式会社竹中工務店の山崎慶太氏より、「ニューコモンズと地域通貨 〜木の橋、水車、内子座+木質バイオマス発電」のテーマで講演がありました。山崎氏の講演の一部を記します。
・内子町には、森林資源を活かしてバイオマスエネルギーを活用する「コモンズ」以外に、木橋、内子座など、木のインフラや地域文化を継承・管理してきた「コモンズ」があり、さらに地域通貨によるネットワークで繋がった「森林と地域社会のコモンズ」がある。
・「社会的共通資本とコモンズ」は、制度資本、社会的インフラストラクチャー、自然環境で構成される社会的共通資本と、地域資源の集団的・共同的な所有、利用および管理のあり方による「コモンズ」がある。宇沢弘文(経済学者)によれば、社会的共通資本である地域資源(森林資源)の持続的な管理のためには、林業が森林と関わり、林業者が森林に出入りすることが必要である。
・「ニューコモンズと木質バイオマス発電」については、現在までの「グローバル・コモンズ」として化石燃料に依存した集中型エネルギー社会では、エクセルギー(エネルギーの価値)を有効に活用できずCO2が大量に排出され、かつ地域にほとんど価値を生み出さないのに対し、小型ガス化発電を使った木質バイオマスエネルギー利活用による分散型エネルギー社会では、「ローカル・コモンズ」により森林が保全・活用に結び付き、入口(森林)〜燃料工場〜出口(発電所)の地域循環システムによる地域経済への波及効果で地域に価値が創造され、かつ電力と排熱の併用により、エクセルギーがカスケード消費されることによって脱炭素にも貢献できる。
・地域通貨によるネットワークで繋がった「森林と地域社会のコモンズ」については、木の駅事業による資源と経済のフロー図とステークホルダーを用いて、地域通貨Enepoを用いた地域内経済と木質資源の循環効果がある。
・弓削神社の木橋「太鼓橋」は、コモンズである弓削神社の氏子の地域住民(現在24世帯)によって水田用溜池の水とともに500年間管理され、杉皮葺屋根は8 〜10 年、栗の丸太などから作られた橋脚は数十年に1 回交換されている。
・一方、芝居小屋の内子座(1916年建造)は、建設と運営が個人によるものではなく、少額の株を分配することにより、住民を中心とする株主を募って建設、運営されたことが特徴である。当時の設立発起人を含む株主は約200名で、大半の株主は一株を所有しており、当時の内子町本町地区の戸数を概ね800戸と考えれば、4戸に1戸が株主であった。内子座は、一部の芸術愛好家のものではなく、町に必要な劇場と町民に認識されており、内子座の建物をとおして内子の歴史や文化を知るとともに、音楽や演劇等の催し物を実施することによって町民文化の向上に役立つ拠点となってきた。内子座設立は地域文化の「コモンズ」として認識される。
・われわれ日本人の文化の根底には、朽ちて自然に還るが循環を繰り返す豊かな自然(森林)、その恵みである木を循環を繰り返しながら無駄にすることなく使って培ってきた建築、橋、家具、工芸などの技術・伝統芸術・文化、景観をも含めた「持続可能なコモンズ」が潜んでいると思われる。
最後に、サイテックアイ株式会社代表取締役社長の大澤佳加氏より、「森づくり、まちづくりと地域通貨」のテーマで講演がありました。
大澤氏は、まず、現在の通貨「円」が便利すぎる通貨であるために、お金が地域外に流出してしまう「漏れバケツの理論」について、コロナ禍おける地域内で消費・流通されなかった国の「持続化給付金」、「コロナ個人支援金」を例として解説。それに対して地域通貨だからできる、「場所の限定」、「期間の限定」、「目的の限定」の3つの限定とその役割について説明されました。
続いて、流通量と流通スピードの違いによって地域通貨の「アナログからデジタルへ」の流れが進み、上記「3つの限定」と「アナログからデジタルへ」の例として、高松市で実証が始まった地域通貨を活用したデジタル田園都市構想(TYPE3)の「プレミアム付きデジタル券:高松市がデジタル化の実証として発行し、地域の加盟店で使えるデジタル商品券」、「レシートクエスト:購買データと連携し、買い物レシート画像をアプリから送信するとポイントがもらえる」、「とくとくマイヘルスケア:健康データと連携し、ワクチン接種や健康診断情報を連携アプリで取得するとポイントがもらえる」、「暮らしのポイント(防災×健康)」を取り上げ、近く実施予定の(ことでん(高松琴平電気鉄道(株))など公共交通の利用によって買い物ポイントが貯まる「コンシェルジェ for モビリティー」が、脱炭素と地域造り(地域経済循環)に貢献する例があるとして紹介されました。
さらに、「地域の人の幸せ」、「地域の人の溜り場」を提供し、シビック・プライドを醸成し、地域の目標とビジョンを「見える化」することが、「地域通貨・地域ポイント」ができることであると強調し、講演を纏められました。
大澤氏の講演からは、今後の地域通貨を活用した川上から川下までの地域循環型システムと脱炭素社会を目指す新たな社会・経済的取組への期待が高まったと思われます。
■第4部 パネルディスカッション
シンポジウムの最後を飾るパネルディスカッションは、日本総合研究所主席研究員の藻谷浩介氏の司会で、内藤鋼業代表取締役の内藤昌典氏、フォレストエナジーの久保睦夫氏、串間市役所主幹の野田昌弘氏、竹中工務店の山崎慶太氏、サイテックアイ代表取締役の大澤佳加氏、など講演者6名が参加して行われました。
最初に、パネルディスカッションの主旨を島根県立大学准教授・RISTEX研究プロジェクト代表の豊田知世氏が説明されました。
ディスカッションでは講演が深堀りされ、活発な議論が展開されました。「コモンズ」をキーワードに、地球環境、生態系、森林、エネルギー、地域おこし、地方創生、まちづくりから地域通貨まで、多様で分野横断的でありながら相互に関係がある内容が、一般町民にもわかりやすく興味深く討議されました。森林活用と木材からのエネルギー生産などが地域に多くの便益をもたらすことなども話し合われ、飽きることがなく学ぶところが多いパネルディスカッションとなりました。
■主催者挨拶
NPO法人農都会議の杉浦英世代表理事が閉会の辞を述べました。
「木材のカスケード利用によるバイオマス燃料から生じたエネルギーの活用が、脱炭素化に寄与し、、地域の便益を生み出している。今回の催しがニューコモンズの形成となり、森林活用と脱温暖化、まちづくりなどの啓発普及に繋がることを願う。講演者、内子町関係者、来場者とオンライン参加者などの皆様のおかげで、シンポジウムが無事に終了できることに感謝します。」
二日間にわたる内子町シンポジウムは大変中身の濃いものとなり、自治体はじめ地域の脱炭素化に関心の深い皆様方にとって有益なものになったのではないでしょうか。
講師の先生方並びにご参加の皆様方へ心より感謝申し上げます。
本企画は、国立研究開発法人科学技術振興機構(略称JST)のJST-RISTEX 政策のための科学プログラム「木質バイオマス熱エネルギーと地域通貨の活用による環境循環と社会共生に向けた政策提案」プロジェクトの研究開発の一環で行いました。
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