
7月22日「地域エネルギーサービス会社づくり」勉強会の報告[2022年07月27日(Wed)]
NPO法人農都会議は、7月22日(金)夕、「地域主導のエネルギーサービス会社づくりの課題 〜エネルギー事業体が引き起こすエネルギー大転換に期待する」勉強会をオンラインで開催しました。
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地域の脱炭素化に寄与するエネルギーサービスには、再エネ電気の販売や地域新電力事業があり、バイオマスであれば熱売り事業(温水、蒸気、薪・チップ等)、熱電併給など様々なビジネスが考えられます。また、産業の血液となる資金の確保も必須です。
今回の勉強会は、エネルギー事業の中間支援組織のあり方、エネルギーサービス会社の作り方とその事例及びファイナンス等について、大学教授や事業者などのご専門の方々から学ぶ機会とし、地域主導のエネルギーサービス会社づくりが各地で実現する一助になればと考えました。
参加は、約70名でした。農都会議の杉浦英世代表理事が司会進行を務め、山本登事務局長が開会挨拶を行いました。
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地域の脱炭素化に寄与するエネルギーサービスには、再エネ電気の販売や地域新電力事業があり、バイオマスであれば熱売り事業(温水、蒸気、薪・チップ等)、熱電併給など様々なビジネスが考えられます。また、産業の血液となる資金の確保も必須です。
今回の勉強会は、エネルギー事業の中間支援組織のあり方、エネルギーサービス会社の作り方とその事例及びファイナンス等について、大学教授や事業者などのご専門の方々から学ぶ機会とし、地域主導のエネルギーサービス会社づくりが各地で実現する一助になればと考えました。
参加は、約70名でした。農都会議の杉浦英世代表理事が司会進行を務め、山本登事務局長が開会挨拶を行いました。
第1部は、3氏による講演がありました。
最初に、北海学園大学経済学部教授の氏より、「エネルギー大転換における中間支援組織の役割」のテーマで講演がありました。
上園氏は、オーストリアの政策、中間支援組織の役割と意義、地域金融の役割地域金融の役割、日本における中間支援組織の作り方などについてお話しされました。
上園氏の講演の概要です。
(1) 中間支援組織の役割と意義〜オーストリアの事例より
・脱炭素社会の構築は、エネルギーシステムを根本的に変革することが求められる。『エネルギー自立と持続可能な地域づくり−環境先進国オーストリアに学ぶ』(昭和堂、2021年)の本を書いたので、オーストリアの事例として参照されたい。
・オーストリアでは、レベル別の支援プログラムが用意されており、どの自治体でも目的や能力などに応じて選択できる。
・品質管理プログラムの「e5」は、1)自治体の空間計画戦略、2)公共の建築物・施設、3)水・エネルギーの供給と廃棄処分、4)モビリティ、5)内部組織、6)コミュニケーションと協力関係の6つの
領域、79項目で審査し、75点以上が最高ランキングとなる。
・自分たちの地域をより良くするためにどういう地域づくりを行うかということが重要。
・小規模自治体支援モデルに専門知識は不要だがコミュニケーション能力にたけている「KEMマネージャー」とコンサルタント会社などの専門部隊の「エネルギーエージェンシー」があり、協働して小規模自治体への支援体制をとっている。
(2) 地域金融の役割〜オーストリアのライファイゼン銀行を事例に
・1980年代以降の金融の自由化と経済のグローバリゼーションは、欧州における連帯金融の流れをつくり、金融の社会化を目指すことにつながった。
・SDGsを実現していくためにも、「責任ある投資」が欠かせない。
(3) 日本における中間支援組織の作り方
・市町村が気候変動対策を推進できない要因として、取組のニーズが感じられないこと、取り組むための人員が不足していること、専門知識が不足していることがあげられている。
・脱炭素地域づくりは、人材、ノウハウ、資金調達などの専門能力を外部から支援を受けたとしても、地域社会の住民や事業者などが主体となり、自治体がマネジメントしていく地域協働が重要である。
・地域脱炭素が政策として進められ、中間支援組織が求められている。
・中間支援組織のメンバーは、技術者や有識者のほかに、地域に精通した人材、ファシリテーターやプロジェクトネージャーが想定される。
(4) まとめ
・「地域脱炭素」の構築に向けて“哲学”が重要。
・脱炭素地域づくりにおいて、気候変動対策が住民の生活の質を向上させ、地域経済の発展や社会課題の解決につなげていく視点が欠かせない。
・日本には、脱炭素地域づくりが未着手段階の自治体が大半を占めている。
・これまでの研究や政策論議では、資金、人材、ノウハウの支援に焦点が当てられてきたが、オーストリアのように、地域社会においてコーディネートや調整する人材を含めた中間支援組織の創設や拡充が求められる。
次に、.エネ技地ンター株式会社代表取締役社長、紫波グリーンエネルギー株式会社代表取締役の山口勝洋氏より、「地域エネルギーサービス事業の実践例」のテーマで講演がありました。
山口氏は、今までの地域エネルギーサービス会社づくりの経緯、地域ぐるみの普及戦略、地域経済効果と森林整備などについてお話しされました。
山口氏の講演の概要です。
(1) 取組の経緯・歴史
・2004年より、省エネ・再生エネを導入実現する事業を、自治体や金融機関を巻き込んで地域の共同会社を設立して行ってきた。地域の様々な人と協働の仕組みを作り、いまはバイオマス事業に注力している。新事業の開発では、経験人材や先行投資を推進母体が受持って実現。
・ESCo、PPA、HPAなど、同様の効能含む事業モデルであるエネルギーサービスは、ユーザーに代わって設備投資や運用をし、普及ハードルを大きく下げる。小中規模の事業群が、地域において件数分だけ実現できる。
・紫波中央駅前の再開発地区において、町役場、体育・宿泊施設、住宅46軒、保育園などに対し、木質由来の熱・冷熱を供給。暖房・給湯・冷房用の地区のインフラを24h/365日運用している。
(2) 地域エネサービスの活用例: 千葉商科大学
・各地で地域ESCo(エネルギーサービス社)を作ってきた経験を活かし、「大学発の地域エネ会社」として、CUCエネルギーを作った(山口勝洋が初代社長)。
・岩手から離れ、千葉商科大学でネット・ゼロ・エネルギー・キャンパスの実現に向けたエネルギー・サービスを事業化し、その経験を活かし、地域分散型エネルギー社会の推進に貢献することをめざす。
・地域に1つESCoを設けると、エネルギーを消費している事業所に代わって、省・再エネ策導入の資金準備、技術リスク、実務負担などをしてもらえる。これにより導入が格段に容易になる。
(3) 木質バイオの地域エネ事業作り
・お湯を使う事業所では、ボイラで重油や灯油、ガス等を焚いていることが多い。これを木質由来の熱で置換え、化石燃料の消費をやめていく。
・木質由来の熱を作るのに、ガス化熱電併給とチップボイラという2種の技術を組み合わせるのが、最もエネルギーを有効活用する方法。メンテナンス費用の削減も見込まれる。
・当社は事業主体として資金調達し初期投資をし、チップや保守運用も自己費用で賄う。熱ユーザーは、今の重油等の代金を、木質の熱に払い先を変えていただくイメージとなる。熱ユーザーには、木質の熱を、重油相当の単価で、長期に亘り提供する。当社は売電+熱販売の両面で採算を作り、熱の競争価格を実現する。
・個別には経済的に難しい「木」という再生可能エネルギーの利用を、地域で複数件の事業所と歩調を合わせることで可能にする。地域の脱炭素化を地域協働の力で、が本モデルの趣旨。一定の件数・量的利用と、コストダウンを進め、行政負担 ⇒ 民間責任の体制への移行を図っている。
(4) 普及への人材・体制作り
・地域としては個人や事業者の仕事の対価としての収入は、桁が1〜2つ大きい。地域として協力しリスクを減らせば、取組チャンスは大きい。
・材出しには一般市民や小規模山林所有者も参加。それを促進する研修会を継続的に実施している。例えば、気仙沼では: 地区グループ・個人を対象に自伐型林業家の育成講習を実施。
・各地で未経験な事業者が作るにはハードルが高い。経験を積んだエネ技仲間が、自ら思い入れを持つ地域にてエネ事業を開発し切り盛りするのが実になる展開方法と思う。
・地域の需要は様々。地域エネルギー事業にはノウハウを持った人材が必要。地域人材と外部人材をミックスする形で、自治体や地域の事業者等と相談しながら進めるのが良い。
三番目に、株式会社ソーシャルビジネスパートナーズ代表取締役、一般社団法人ソーシャルファイナンス支援センター代表理事、NPO法人農都会議理事の澤山弘氏より、「地域エネルギーサービス会社の立ち上げと、ファンド出資を活用した資金調達の進め方について」のテーマで講演がありました。
澤山氏は、新会社設立の仕方、市民出資ファンド(匿名組合)は自己資金集めになぜ有効なのか、地域エネルギーサービス会社を実際に立ち上げていくうえでのポイントなどについてお話しされました。
澤山氏氏の講演の概要です。
・地域エネルギーサービス会社の立ち上げについては、高い経営の自由度を有している合同会社をお薦めする。
・融資を得るためには「自己資金」が必要になるが、すべてを資本金で積む必要はない。
・株式出資による資本金集めのデメリットは、@資本金が大きくなると利益の多寡にかかわわず高い法人事業税率を課せられる、A資本金は原則として会社を解散するなどしない限り回収できない、B株主には、税引後利益からしか配当できない。
・「自己資金」 は ファンド(匿名組合)で集めるのがよい。
・出資者にとって匿名組合出資のメリットは、資本金出資を少額に抑えつつ、ファンド出資によって「自己資金」を積み上げ、これをもとに金融機関借入を得て事業を進めていく。このスキームは、再生可能エネルギー事業の立ち上げ・拡大において極めて有効。
・匿名組合出資は元本保証はせず、利益が出たら配当や元本返還する契約。利益が出るまで配当しなくてよい。また、税引き前利益から配当してもらえ、二重課税回避や有限責任の仕組となっている。
・民主党政権時代に欧州型のエネルギー協同組合を作ろうとしたがとん挫した。
・しかし、合同会社(GK)と匿名組合(TK)のスキームを活用して日本型「エネルギー協同会社」を作れば、エネルギー協同組合の十分に代わりとなる。TKでは 、金融商品取引法の諸規制に基づき、出資者保護が図られる。
第2部は、質疑応答と、「地方の脱炭素移行はどのように始まっていか?」をテーマに、第1部の講師の皆様と参加者間によるディスカッションが行われました。モデレーターは、農都会議の杉浦代表理事が務めました。
意見交換に入る前に、上園氏より、「日本における中間支援組織の作り方」についてのお話がありました。
質疑と意見交換の概要を記します。(○印:質問・意見、・印:回答)
○司会(杉浦):今日のディスカッションは、(1)地域主導のエネルギーサービス会社づくりの課題は?と、(2)地エネサービス会社を通じた現状からの大転換は可能か?の二つのサブテーマを用意しました。まず(1)について、講師の皆様のご意見をお伺いします。
・山口氏:実際の現場は地方であり、課題は「人材」。プロジェクト開発時は技術のわかる者が必要で、運用段階では保守要員を地元ベースで3人位雇用している。
いままで政策改革が必要と言っていたが、燃料価格が上がって同じ効果が出ている。自治体・大学・金融機関との連携が必須。NPOもその中に入る。
・澤山氏:地域エネルギーサービス会社や中間支援組織の課題は中核人材だと考える。地域金融との連携で言うと、金融機関から融資を得るためには、収支計画を緻密に作ることがまず求められる。
○司会:最後に、今日の感想やまとめなどをお願いします。
・上園氏:地域の脱炭素化は地域の人々の暮らしの質をあげることに繋がる。これからも持続可能な地域づくりをめざしていきたい。
・山口氏:中間支援組織について今日は自分バージョンで一通り回したが、最初は同じ現場で知識やノウハウを積んだ人材が、各々好きな地域に行って(戻って)事業を広げるのが一番良い。その時は劣後資金などいろいろ支援できる。
・澤山氏:農都会議は再エネ・バイオマス・林業・建築・金融などさまざまな専門家が揃っています。地域の困りごとには、農都会議をぜひご活用ください。

最後に、農都会議の松浦晃理事が、「今まで以上に為になる話を聞くことができた。8月勉強会も参加したいと思う」と閉会挨拶を行いました。

地域のエネルギービジネスを創出・拡大するチャンスが訪れています。当会は今年度、「地域の脱炭素化」をテーマに複数回の勉強会を企画しています。1回目の6月は「脱炭素先行地域」を、7月は「地域エネルーギーサービス会社づくり」を、8月は「地域のエネルギー自給」を取上げて実施いたします。
・8月22日「地域の脱炭素化とエネルギー自給」勉強会のお知らせ
https://blog.canpan.info/bioenergy/archive/375
・6月28日「地域の脱炭素化」総会記念講演会の報告
https://blog.canpan.info/bioenergy/archive/374
今回の講演とディスカッションを通じて、日本の地域エネルギーサービス会社づくりは「人材」が主要な課題であることが解りました。国、自治体、地域金融機関が関与して外部人材(企業・団体等)を活用し、地域エネルギー導入をめざす地元企業と住民の役に立つ中間支援組織づくりが求められていると思いました。
農都会議も、地域エネルギーサービス会社づくりの支援等を通じて持続可能な地域づくりのお役に立ちたいとの考えを、今回の勉強会であらためて確認いたしました。
講師の皆さま並びにご参加の皆さま、誠にありがとうございました。
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