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6月28日「地域の脱炭素化」総会記念講演会の報告[2022年07月04日(Mon)]
 NPO法人農都会議は、6月28日(火) 夕、総会記念講演会「改正温対法と地域の脱炭素化について 〜先導的事例と計画づくり」をオンラインで開催しました。
 →イベント案内

6月28日記念講演会

 今回は、持続可能な社会に貢献する地域の脱炭素化の支援策、脱炭素先行地域と各地域の実行計画の内容等々について、所管庁のご担当者、脱炭素先行地域に選定された自治体首長及びご専門の研究者に講演をお願いし、参加者と一緒に考えることにしました。
 参加は、申込90余名の中の70名でした。農都会議の杉浦英世代表理事が開会挨拶を行い、司会進行は、農都会議の永井猛運営委員が行いました。


 第1部は、3氏による講演がありました。
 最初に、環境省大臣官房環境計画課課長補佐(総括))の三田裕信氏より、「地方創生に貢献する脱炭素地域づくり」のテーマで講演がありました。
 三田氏は、地域脱炭素ロードマップのキーメッセージ、脱炭素先行地域、重点対策、地方公共団体実行計画、改正温対法の内容、温対法に基づく再エネ促進区域の仕組み等についてお話しされました。
 また、地域脱炭素移行・再エネ推進交付金、脱炭素化支援機構設立と民間投資促進、地域共生型再エネ導入加速化支援パッケージ、地方財政措置、地域中核人財育成事業、地域企業の脱炭素化移行支援、地域脱炭素を今後全国に展開していく方向性などについて説明されました。
 更に、地域における再エネ活用の意義として、市町村別のエネルギー収支、再エネ導入ポテンシャルと発電量のポテンシャル、脱炭素の取組による防災レジリエンスの向上についても述べられました。

6月28日記念講演会

 三田氏の講演の概要です。
・昨年6月、改正温対法や農山漁村再エネ法に基づく地域脱炭素ロードマップを策定し、新しい技術というよりも今ある技術で脱炭素化に取り組む方針を示した。
・再エネなどの地域資源を最大限活用する。環境省の試算では全国市町村で約9割がエネルギー代金の域内外の収支がマイナスになっている。これを地域資源活用でプラスにする。
・更に再エネ活用による地域経済活性化と地域課題の解決を行い、防災・減災・快適な暮らし・循環型経済を追求していく。
・地域脱炭素は、地域課題を解決し、地域の魅力と質を向上させる地方創生に貢献する。
・地域脱炭素ロードマップに基づき、少なくとも100か所の脱炭素先行地域で、2025年度までに、脱炭素に向かう地域特性等に応じた先行的な取組実施の道筋 をつけ、2030年度までに実行する。
・脱炭素先行地は、地方からはじまる、次の時代への移行戦略。先行地域を含め全国津々浦々で取り組むことが望ましい脱炭素の基盤となる重点対策を全国で実施する。
・具体的には地方自治体が2030年度目標及び2050年カーボンニュートラルに向けた意欲的な取組として以下の2つ事業を創設・支援し、全国の多くの脱炭素ドミノの起点とする。
 1)脱炭素先行地域づくり事業
 2)重点対策加速化事業
・脱炭素先行地域は2025年度までに少なくとも100ヵ所以上つくり2030年までに様々な類型(都市部・農山漁村・離島等)で実施する。
・第1回選考は4/26に決定(全国102の地方公共団体から79件の提案があり26選定)。
・重点対策加速化事業は5/30に第1回内示が行われ13地方公共団体に決定、数年に渡って支援を行う。


 続いて、岡山県真庭市長の太田昇氏より、「脱炭素先行地域『真庭』の挑戦〜地域資源を生かした真庭市の戦略〜」のテーマで講演がありました。
 太田氏は、真庭市の自然条件、脱炭素・SDGsに向けた歩み、ゼロカーボンシティまにわ、第1回脱炭素先行地域に選定、真庭バイオマス発電所の概要と地域エネルギー自給率100%の実現を目指した取組などについてお話しされました。

6月28日記念講演会

 太田氏の講演の概要です。
・岡山県の中央部、中山間地の豊かな自然に囲まれた真庭市の経営方針は次となる。
 1)地域資源循環型の地域経営
 2)林業、木材加工業活性化と再生可能エネルギー産業
 3)環境型低コスト農業の推進
 4)高齢化社会に対応する共生社会
・脱炭素に関する取組みは1992年市内若手企業人のよる将来の真庭のあり方の議論があり「バイオマスの活用」に繋がった。銘釼工業鰍ェ1998年2、000kWの木質バイオマス発電を開始、その後2015年同社が中心となり、市と共に市内木材関係業者が参画した10,000kWの真庭バイオマス発電鰍発足した。その時「バイオマス産業都市」に選定された。
・そして第1回SDGs未来都市にも選定され、更に環境省から地域環境共生圏に選ばれ、今回「脱炭素先行地域」に選定された。
・脱炭素先行地域に選定された内容としては、(1)2030年公共施設のCO2排出量を実質ゼロにする、(2)脱炭素ドミノの取組として、第2バイオマス発電所の建設と生ごみの資源化施設の整備、公共施設のLED化や太陽光発電の導入(PPAの活用)を行う。更に創エネと徹底的な省エネを行っていくこと。
・民間事業者の取組により、「エネルギーの森づくり」 など広葉樹活用の事業化が見えてきた。
・真庭市では市内の飲食店などと連携して、ごみになるものを減らす取組「エコテイクアウト」を推奨している。ごみを減らすことは温暖化を止めること、市民の取組も始まっている。
・環境教育にも力を入れ、体験しながら環境意識を高めることを行っている。持続可能な社会の担い手育成を目的に、企業等多様な主体と協働し、地域資源を活用した、環境学習を平成21年度から実施。現在は省エネ講座や食ロス削減講座など15講座。


 三番目に、芝浦工業大学システム理工学部環境システム学科教授、博士(環境学)の磐田朋子氏より、「脱炭素社会の実現を目指した計画づくりの考え方と具体的な方策」のテーマで講演がありました。
 磐田氏は、2050年カーボンニュートラル宣言と2030年度目標(46%削減)実行計画をどうしたら達成できるか?、市民目線で考える例・市民をまきこむ工夫などについてお話しされ、策定委員として参加した脱炭素化施策を推進する実行計画策定マニュアルの内容などについても説明されました。

6月28日記念講演会

 磐田氏の講演の概要です。
・地方自治体の地球温暖化対策実行計画について、「地方公共団体実行計画策定・実施支援サイト」に、かなり丁寧に記載している。
・実行計画策定マニュアルの考え方として言及されているのが茅恒等式。CO2の削減を考えるときに、ただ単にCO2の排出量に着目するのではなく、構造的に分けて考えようというもの。
・CO2排出量削減を考える上での視点として、
 1)人口当たりの生活の満足度を下げる
 2)生活の満足度(快適性)を維持しつつ、必要なエネルギーを減らす
 3)必要なエネルギーをできるだけ少ないエネルギー消費で対応する
 4)どうしてもエネルギーを最終的に消費してしまう場合は、脱炭素エネルギー源で供給する、
 以上の考え方を総動員して経済的で生活の快適性を維持しながら、CO2排出量を削減していく考えがマニュアル中で貫かれた考え方となっている。
・脱炭素先行地域において、最初から再エネを入れていこうという考えに飛びついてしまいがちだが、費用対効果が高いのは省エネ。
・マニュアル策定委員会の中で議論になったのが、大きな自治体やコンサル等専門家にこの様な計画策定について発注する事ができる様な予算を持っている自治体は可能だろうが、今回、区域施策編の策定をしなければならない対象の自治体が増えてしまったので、簡易版を作成する事となった。
・2〜3年で担当者が異動してしまう地方公共団体の中で、計画づくりのスキルを継続して維持する事が難しいという捉えており、例えばその地域の地球温暖化防止センターや環境省の地方事務局、地域住民の団体と連携して、計画策定の知識を地域に蓄積できる様にもっていって頂きたい思いがある。
・脱炭素を推進するための調査・分析は自治体で行うには難しいと思われる。但し、定量的に数値を得られなくとも、市民対話を設ける事で市民のニーズを捉えることはできる。
・例えば、EUで盛んにおこなわれている市民会議は、フランスの場合、無作為に市民を選出、国の脱炭素施策に何が必要なのか議論を重ねてもらい、消費・交通・住宅・食・生産等様々な範囲に渡る149項目の対策案を市民が考えて政府に提出した。この様な市民会議は日本でも行われてきたが、ここで大きく違ったのは、提出された案のうち大統領が146項目を採用しさらに検討すると発表、実際の政策に無作為に選出された市民の意見が反映された大きな事例と言える。
・地域の合意形成がなぜ重要かというと、脱炭素先行地域事業で行おうとしている事業の賛同者が増える事は契約者が増える事である。例えば、地域新電力は最初の立ち上げ時は少ない契約者で始めざるを得ないが、需要のマスが大きくなればなるほど、エネルギーの需要パターンが平準化され、不安定な出力変動する再エネのエネルギーを吸収し易くなる傾向がある。
・仲間を増やすことは、事業経営の安定化にもつながる。単に環境教育も重要であるが、ただ巻き込む、自分が主体となって契約者・事業者となって巻き込む仕組みが脱炭素ドミノの起点地として重要であることを改めてお伝えしたい。


 第2部は、質疑応答と「地方の脱炭素移行はどのように始まっているか?」をテーマに、ディスカッションが行われました。
 モデレーターは、芝浦工業大学工学部機械機能工学科非常勤講師、博士(工学)、農都会議運営委員の永井猛が務めました。

6月28日記念講演会

 質疑と意見交換の概要を記します。(○印:質問・意見、・印:回答)

○司会(永井):チャットでいろいろな質問・意見が出ていますが、その中からまず、「市民会議に加えて市民とエネルギー業者や施工業者との対話を進めるべき」というご意見がありました。
・磐田氏:市民会議を無作為にしたのは、政策決定が難しいことを考え、多様性を確保するため。真庭市で実施している液肥処理については技術や費用などバリアが多くあるが、事業者と連携して対話することが解決手段の一つとなる。
・太田氏:迷惑施設の液肥だが、施設公募で中山間地から4件の応募があった。液肥の濃縮施設には10億円もかかるので、生ごみ(燃えるごみの3割もある)と下水処理を組合わせることにし、市民的合意が得られた。
○司会:脱炭素の効果が大きい熱利用の推進についてはいかがでしょうか?
・三田氏:熱利用は重要で重点対策を取りたい。例えば高知のJAでは農業ハウス60棟で廃熱を利用している。熱利用推進は「脱炭素先行地域」の施策で対応が可能だ。
○司会: 建築物省エネ法が改正されたことで木材利用が重要になりますか?
・三田氏:昨年夏まで三省で協議を続けた。ヨーロッパの事情を比較し、国会も無事通った。関係者へロードマップが示されたことになる。
・太田氏:木材に関しては、集成材の技術が良くなってきた。木材は鉄筋コンクリートに比べて軽く、コンクリは重くてCO2が多い。木材建築には次のような有利な特徴がある。
 ‥木造建築はCO2が少ない。
 ‥木材はCO2を100年固定する。
 ‥伐採と植林の造林サイクルが回ればもっと良くなる。
 ‥岡山大学に木造建築の学科を作った。大学との連携を国がもっと進めれば大きく変わる。
・磐田氏:建築が早く許可されるようにワーキンググループを作って働きかけている。
○司会:自治体が関する地域新電力が多く立ち上がっているが、電気代高騰の影響は?
・磐田氏:経営的に厳しくなっている。今の市場価格では、新電電の立ち上げを見合わせたり、経営が立ち行かないという状況が出ている。コストを下げるために廃棄物を組み入れる必要がある。再エネと蓄電池の組合せだけでなく、バックアップ電源は廃棄物系にするとかを考える。
・太田氏:地域の力、専門家の力、行政の力が合わさった時に非常に大きな力が出る。
○司会:太陽熱の利用はどうでしょうか? “待ったなし”であれば太陽光も。
・三田氏:太陽熱は機器の不具合などで一時評判が悪くなっていた。2030年を考えると、政府としては自家消費型に期待したい。
○司会:最後に三氏にまとめをお願いします。
・三田氏:・地域の脱炭素は自治体主導の取組を支援する形となっているが、それだけではなく地域の金融機関、商工会等、前に進めていこうという関係者を制度的にも応援することを考えていきたい。
・太田氏:経産省の方は今日居ないが、エネルギー政策は国家政策であり、自治体は無関係、事業者と国で決めている。自治体が関与できないのはおかしい。エネルギーを国民のものとするには、悪質業者を除き、市民と一緒に考えて行かなければならない。国と自治体と市民が上手く動かないと2050年、2030年を乗り越えられない。
・磐田氏:脱炭素に取組んでいる自治体や地域のお手伝いをしたいと考えている。

 また、チャットで小型のボイラー・コジェネと大規模な発電のそれぞれの利点についての意見も出され、時間が迫っている中で議論がありました。

6月28日記念講演会

 最後に、農都会議運営委員の吉野雅一が閉会挨拶を行いました。

 今回は、自治体職員の方が多く参加され、「知りたいことがダイレクトに分かり良かった」、「小さな自治体でも運用できるように工夫が必要」、「普通の自治体としては何を学んだらよいのか、課題をどう解決できたかなどの話が聞きたかった」、「市民の潜在的意識をわかりやすく理解できた」、「計画の策定に苦慮している自治体は多いと思う、自治体担当者としてはまさにお聴きしたい内容だった」等々とアンケート回答にありました。
 アンケートには、ほかにも多数の貴重なご意見がありました。いずれ冊子にまとめるなどしてできるだけオープンにしていきたいと考えております。


 農都会議は今年度、「地域の脱炭素化」をテーマに複数回の勉強会を企画しています。1回目の6月は「脱炭素先行地域」を、7月は「地域エネルーギーサービス会社づくり」を、8月は「地域のエネルギー自給」を取上げて実施いたします。

・7月22日「地域エネルギーサービス会社づくり」勉強会のお知らせ
 https://blog.canpan.info/bioenergy/archive/371
・8月22日「地域の脱炭素化とエネルギー自給」勉強会のお知らせ
 https://blog.canpan.info/bioenergy/archive/375

 今回も盛況な会となり、「地域の脱炭素化」についての理解がいっそう進み、その課題や今後をいろいろな視点で深く考える、たいへん有意義な場になったと思います。
 講師の皆さま並びにご出席の皆さま、誠にありがとうございました。
Posted by NPO農都会議 at 11:41 | 勉強会 | この記事のURL | コメント(0)
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https://blog.canpan.info/bioenergy/archive/374
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