
7月27日「バイオマス熱利用書解説」公開セミナーの報告
[2020年07月30日(Thu)]
今回の公開セミナーは、書籍の説明を通して、バイオマス熱利用を考えている大勢の方々に木質バイオマスボイラーの導入に際しては計画、設計、施工のすべてが石油ボイラーとは異なることを知っていただきたいために企画しました。燃料の違いのほかにも、バイオマスボイラーの普及がなかなか進まない理由(国内2千台で停滞)、無圧開放式(ボイラ技士資格や検査の必要がない)など法規制のあり方等、論点は多方面に及びます。
予想を超える150名余がZoomで参加され、講演と意見交換が行われました。開会に当たって、杉浦代表理事よりご挨拶とZoom利用についての説明がありました。
第1部は、はじめに株式行会社WBエナジー代表取締役の梶山恵司(ひさし)氏より、「『実務で使うバイオマス熱利用の理論と実践』発刊の趣旨」のテーマで講演がありました。
梶山氏の講演の概要です。
(1) 日本にバイオマス熱利用の膨大なチャンス
・日本は世界有数の森林大国に成長。全国どこにでもカーボンニュートラルな資源がある。全国どこにでも熱需要がある。特に温泉などで給湯需要の多い日本では、稼働率を高められるので有利。熱は需給ともに、地域に大量に存在する。
・バイオマスは、使えば使うほど地域が潤う、典型的な地産地消のエネルギー源。SDGs推進の核となるエネルギー源。
・バイオマス利用の前提としての森林・林業の潜在力はあるが、ドイツ、オーストリアに比べ森林蓄積は多いが木材生産は少ない。
・しかし、チャンスを活かしきれない現実がある。
(2) バイオマス熱利用補助事業打ち切りの衝撃
・会計検査院の指摘と外部専門家等からの厳しい意見で以下の実態が明らかに。
−バイオマス依存率が60%未満となっている
−稼働状況や達成率を適切に把握することができない
−長期にわたり稼働を停止していたり、達成率が低調となっている。
(3) バイオマス普及の前提となる「事業性・利便性」、その前提としての体系化・共有化された技術
・バイオマス熱利用の適切な技術体系に基づき設計・施工・運用されれば、日本でも事業性、利便性に優れたバイオマス利用は十分に可能。
・すでに、そうした事例が構築されてきている。
・技術体系化には、具体的なデータに基づく議論が前提。
・バイオマス利用の技術体系に基づいて設計・施工・運用される事業性・利便性に優れた事例をデータに基づき分析し、ベンチマーク化。
・これをベンチマークとして、技術水準の抜本的な底上げをはかることによって、バイオマス利用の飛躍的な普及拡大を図る。
・議論の段階は終わりで、実践⇒検証⇒改良⇒事業性・利便性のさらなる向上⇒地域における本格的な普及拡大が急がれる。本書は、その出発点となるもの。
・高めのイニシャルコストを低めのラニングコストで回収するのが、バイオマスのビジネスモデル。
続いて、神鋼リサーチ株式会社代表取締役の黒坂俊雄氏より、「実務で使うバイオマス熱利用の理論と実践、エンジニアリング部分の紹介」のテーマで講演がありました。
黒坂氏の講演の概要です。
(1) 発刊の目的、書籍の概要
・本書は、事業性を確保するために、バイオマスボイラーシステムの技術面に焦点を当てて、技術的な根拠などを含めて、なるべく体系的に説明している。
・最新のバイオマスボイラーシステムは、利用の仕方を間違えなければ使い勝手の良いシステムとなるが、日本ではうまく使えていないケースが多く存在する。
・なぜ、日本ではバイオマスボイラーがうまく稼働しないのか、どう対処すれば良いのか、従来の書籍では指摘されていない事柄を説明している。導入者や設計者に大いにヒントになると思う。
・技術知識の共有化が、事業性向上に大きく貢献する。日欧の比較を通して明らかだ。
・他書ではほとんど触れられていない事業性を獲得する技術ポイントを紹介している。例えば、石油ボイラーを単にバイオマスボイラーに置き換えた場合に発生する問題点とその解決方法、設備規模やイニシャルコストを決める重要な設計手順、燃料代・電気代を削減するポイントなど。
(2) 事業性を確保するための技術ポイント
・熱需要分析から適切なサイジング、温度差ΔT(デルタティ)を可能な範囲で大きく設定する。
−イニシャルコストの低減
−稼働率、バイオマス依存率の向上
−ランニングコストの低減
・蓄熱タンクへの還り温水を高い温度で戻さない。
・熱損失や電気代が低く抑えられていることを確認。
(3) まとめ
・バイオマスアカデミーの議論では、技術問題に加えて、プロジェクトマネジメントもとても重要。石油ボイラーをバイオマスボイラーシステムにリプレイスするイメージで、粗い精度の予算枠に縛られて苦労したケースなどが多くある。
・ボイラー種類や熱利用機器に様々な組み合わせがあり、本書だけではまだまだ足りない。今後の業界を挙げたマニュアル作りなどが期待される。
・技術知識の体系化と共有化がされれば、失敗の撲滅、設備コストの低減、設計コストの低減、ランニングコストの低減につながり、バイオマスボイラーの普及が進む。本書はその出発点。
最後に、NPO法人農都会議事務局長の山本登氏が、「バイオマスアカデミー熱利用書籍の概要」のテーマで講演を行いました。
山本事務局長は、書籍の位置づけ、発刊の狙い、目次・執筆者などについて紹介し、他書籍の基礎的・入門的な幅広い層が対象なのに比べ、本書は、体系化されたエンジニアリングと事業性を重視した記述でバイオマス熱利用設備設計の指針となり、メーカー、施工業者、コンサルタント、行政、ユーザー等を対象としていると説明しました。
また、農都会議バイオマスアカデミーの『実務で使うバイオマス熱利用の理論と実践』書籍とともに、JWBAの『地域ではじめる 木質バイオマス熱利用』書の両方を参考にしてほしいと紹介し、めざすバイオマスボイラーシステムについてや、今後のバイオマスアカデミーの活動についてもお話ししました。
第2部は、質疑応答と、「バイオマス熱利用を一層拡大するために」のテーマで、参加者を交えて活発に意見交換が行われました。司会進行は、引続き山本事務局長が務めました。
質疑と意見交換の概要を記します。(○印:質問・意見、・印:回答)
・山本氏:まず、講師の3名よりポイントを述べます。その後、Zoom参加者より質問・意見をお願いします。
・黒坂氏:バイオマスボイラーは、石油ボイラーと異なり、軌道と停止に時間がかかる。制御技術が非常に大切。戻り温度が低すぎるとボイラーは止まるようになっている。しかし、対策は難しくない。本書では、バイオマスボイラーの上手くいっている事例や将来性を説明している。
・山本氏:石油ボイラーのように、バイオマスボイラーも手間いらずにしたい。
・梶山氏:適切な技術を使うことがすべての出発点である。技術の体系化・共有化が必要。
○バイオマス熱利用に関しては、何しろ投資が足りない。設計・施行の技術が半分、資金集めとユーザー探しが残りの半分だ。10〜15年で元は取れる。15年後の未来のために数千万円を投じてほしい。
○技術と普及の両面からやっていく必要がある。業界を挙げての研究や行政の支援の仕組も必要。
・梶山氏:ユーザーは技術を知らなくても判断はできる。いま一番求められているのは、技術のベンチマークをきちんと作ることだ。
○ヨーロッパの樹種は?
・梶山氏:針葉樹の残材が主に燃料として使われている。
○燃料について教えてほしい。
・梶山氏:ペレットは使いやすいが高コスト。薪はやり易いがくべる手間がかかる。ヨーロッパでは、薪は家庭用で一定規模以上であればチップが使われる。日本でもチップが一般的。
○岩手では、59台導入されたバイオマスボイラーのうち50台が動いている。チップは十分あるが、バイオマス熱利用があまり知られていない。
・梶山氏:チャットの質問の中の熱FIT、施設園芸への適用採算性についてお答えすると、バイオマス熱利用の技術が確立されてない中で熱FITをやったら混乱する。まず、適切な技術を導入することが重要。施設園芸は通年の熱利用が難しいと考える。

書籍『実務で使うバイオマス熱利用の理論と実践』案内・購入申込
新型コロナウイルス感染対策のため 当会はオンライン/オフラインを適宜に利用することにしています。今回はオンライン勉強会の2回目でしたが、地域のバイオマス資源活用による熱利用の普及のためにまず重要なのは“技術のベンチマークを作る”との梶山氏の説明が印象的でした。
熱心な講演と意見交換があり、バイオマス熱利用のさらなる拡大をめざす有意義な機会になったと思います。コロナ禍で延期していた2020年度のバイオマスアカデミーは11月より再開する予定です。
講師の皆さま並びにご参加の皆さま、誠にありがとうございました。
予想を超える150名余がZoomで参加され、講演と意見交換が行われました。開会に当たって、杉浦代表理事よりご挨拶とZoom利用についての説明がありました。
第1部は、はじめに株式行会社WBエナジー代表取締役の梶山恵司(ひさし)氏より、「『実務で使うバイオマス熱利用の理論と実践』発刊の趣旨」のテーマで講演がありました。
梶山氏の講演の概要です。
(1) 日本にバイオマス熱利用の膨大なチャンス
・日本は世界有数の森林大国に成長。全国どこにでもカーボンニュートラルな資源がある。全国どこにでも熱需要がある。特に温泉などで給湯需要の多い日本では、稼働率を高められるので有利。熱は需給ともに、地域に大量に存在する。
・バイオマスは、使えば使うほど地域が潤う、典型的な地産地消のエネルギー源。SDGs推進の核となるエネルギー源。
・バイオマス利用の前提としての森林・林業の潜在力はあるが、ドイツ、オーストリアに比べ森林蓄積は多いが木材生産は少ない。
・しかし、チャンスを活かしきれない現実がある。
(2) バイオマス熱利用補助事業打ち切りの衝撃
・会計検査院の指摘と外部専門家等からの厳しい意見で以下の実態が明らかに。
−バイオマス依存率が60%未満となっている
−稼働状況や達成率を適切に把握することができない
−長期にわたり稼働を停止していたり、達成率が低調となっている。
(3) バイオマス普及の前提となる「事業性・利便性」、その前提としての体系化・共有化された技術
・バイオマス熱利用の適切な技術体系に基づき設計・施工・運用されれば、日本でも事業性、利便性に優れたバイオマス利用は十分に可能。
・すでに、そうした事例が構築されてきている。
・技術体系化には、具体的なデータに基づく議論が前提。
・バイオマス利用の技術体系に基づいて設計・施工・運用される事業性・利便性に優れた事例をデータに基づき分析し、ベンチマーク化。
・これをベンチマークとして、技術水準の抜本的な底上げをはかることによって、バイオマス利用の飛躍的な普及拡大を図る。
・議論の段階は終わりで、実践⇒検証⇒改良⇒事業性・利便性のさらなる向上⇒地域における本格的な普及拡大が急がれる。本書は、その出発点となるもの。
・高めのイニシャルコストを低めのラニングコストで回収するのが、バイオマスのビジネスモデル。
続いて、神鋼リサーチ株式会社代表取締役の黒坂俊雄氏より、「実務で使うバイオマス熱利用の理論と実践、エンジニアリング部分の紹介」のテーマで講演がありました。
黒坂氏の講演の概要です。
(1) 発刊の目的、書籍の概要
・本書は、事業性を確保するために、バイオマスボイラーシステムの技術面に焦点を当てて、技術的な根拠などを含めて、なるべく体系的に説明している。
・最新のバイオマスボイラーシステムは、利用の仕方を間違えなければ使い勝手の良いシステムとなるが、日本ではうまく使えていないケースが多く存在する。
・なぜ、日本ではバイオマスボイラーがうまく稼働しないのか、どう対処すれば良いのか、従来の書籍では指摘されていない事柄を説明している。導入者や設計者に大いにヒントになると思う。
・技術知識の共有化が、事業性向上に大きく貢献する。日欧の比較を通して明らかだ。
・他書ではほとんど触れられていない事業性を獲得する技術ポイントを紹介している。例えば、石油ボイラーを単にバイオマスボイラーに置き換えた場合に発生する問題点とその解決方法、設備規模やイニシャルコストを決める重要な設計手順、燃料代・電気代を削減するポイントなど。
(2) 事業性を確保するための技術ポイント
・熱需要分析から適切なサイジング、温度差ΔT(デルタティ)を可能な範囲で大きく設定する。
−イニシャルコストの低減
−稼働率、バイオマス依存率の向上
−ランニングコストの低減
・蓄熱タンクへの還り温水を高い温度で戻さない。
・熱損失や電気代が低く抑えられていることを確認。
(3) まとめ
・バイオマスアカデミーの議論では、技術問題に加えて、プロジェクトマネジメントもとても重要。石油ボイラーをバイオマスボイラーシステムにリプレイスするイメージで、粗い精度の予算枠に縛られて苦労したケースなどが多くある。
・ボイラー種類や熱利用機器に様々な組み合わせがあり、本書だけではまだまだ足りない。今後の業界を挙げたマニュアル作りなどが期待される。
・技術知識の体系化と共有化がされれば、失敗の撲滅、設備コストの低減、設計コストの低減、ランニングコストの低減につながり、バイオマスボイラーの普及が進む。本書はその出発点。
最後に、NPO法人農都会議事務局長の山本登氏が、「バイオマスアカデミー熱利用書籍の概要」のテーマで講演を行いました。
山本事務局長は、書籍の位置づけ、発刊の狙い、目次・執筆者などについて紹介し、他書籍の基礎的・入門的な幅広い層が対象なのに比べ、本書は、体系化されたエンジニアリングと事業性を重視した記述でバイオマス熱利用設備設計の指針となり、メーカー、施工業者、コンサルタント、行政、ユーザー等を対象としていると説明しました。
また、農都会議バイオマスアカデミーの『実務で使うバイオマス熱利用の理論と実践』書籍とともに、JWBAの『地域ではじめる 木質バイオマス熱利用』書の両方を参考にしてほしいと紹介し、めざすバイオマスボイラーシステムについてや、今後のバイオマスアカデミーの活動についてもお話ししました。
第2部は、質疑応答と、「バイオマス熱利用を一層拡大するために」のテーマで、参加者を交えて活発に意見交換が行われました。司会進行は、引続き山本事務局長が務めました。
質疑と意見交換の概要を記します。(○印:質問・意見、・印:回答)
・山本氏:まず、講師の3名よりポイントを述べます。その後、Zoom参加者より質問・意見をお願いします。
・黒坂氏:バイオマスボイラーは、石油ボイラーと異なり、軌道と停止に時間がかかる。制御技術が非常に大切。戻り温度が低すぎるとボイラーは止まるようになっている。しかし、対策は難しくない。本書では、バイオマスボイラーの上手くいっている事例や将来性を説明している。
・山本氏:石油ボイラーのように、バイオマスボイラーも手間いらずにしたい。
・梶山氏:適切な技術を使うことがすべての出発点である。技術の体系化・共有化が必要。
○バイオマス熱利用に関しては、何しろ投資が足りない。設計・施行の技術が半分、資金集めとユーザー探しが残りの半分だ。10〜15年で元は取れる。15年後の未来のために数千万円を投じてほしい。
○技術と普及の両面からやっていく必要がある。業界を挙げての研究や行政の支援の仕組も必要。
・梶山氏:ユーザーは技術を知らなくても判断はできる。いま一番求められているのは、技術のベンチマークをきちんと作ることだ。
○ヨーロッパの樹種は?
・梶山氏:針葉樹の残材が主に燃料として使われている。
○燃料について教えてほしい。
・梶山氏:ペレットは使いやすいが高コスト。薪はやり易いがくべる手間がかかる。ヨーロッパでは、薪は家庭用で一定規模以上であればチップが使われる。日本でもチップが一般的。
○岩手では、59台導入されたバイオマスボイラーのうち50台が動いている。チップは十分あるが、バイオマス熱利用があまり知られていない。
・梶山氏:チャットの質問の中の熱FIT、施設園芸への適用採算性についてお答えすると、バイオマス熱利用の技術が確立されてない中で熱FITをやったら混乱する。まず、適切な技術を導入することが重要。施設園芸は通年の熱利用が難しいと考える。

書籍『実務で使うバイオマス熱利用の理論と実践』案内・購入申込
新型コロナウイルス感染対策のため 当会はオンライン/オフラインを適宜に利用することにしています。今回はオンライン勉強会の2回目でしたが、地域のバイオマス資源活用による熱利用の普及のためにまず重要なのは“技術のベンチマークを作る”との梶山氏の説明が印象的でした。
熱心な講演と意見交換があり、バイオマス熱利用のさらなる拡大をめざす有意義な機会になったと思います。コロナ禍で延期していた2020年度のバイオマスアカデミーは11月より再開する予定です。
講師の皆さま並びにご参加の皆さま、誠にありがとうございました。
【バイオマスアカデミーの最新記事】
- 1月13日バイオマス産業用熱国際シンポジ..
- 11月14日「バイオマスアカデミー第7回..
- 11月14日「バイオマスアカデミー第7回..
- 2月4日東邦大学・農都会議 共同研究シン..
- 4月23日「バイオマスアカデミー第6回 ..
- 4月8・9日バイオマスアカデミー岩手県久..
- 2月15日地域型バイオマスフォーラム第2..
- 4月23日「バイオマスアカデミー第6回 ..
- 4月8・9日バイオマスアカデミー岩手県久..
- 11月16日「バイオマスアカデミー第5回..
- 10月15日バイオマス熱利用書籍・出版記..
- 9月14日岐阜県立森林文化アカデミー出前..
- 新刊『実務で使うバイオマス熱利用の理論と..
- 11月26日「バイオマスアカデミー 第4..
- 11月26日「バイオマスアカデミー 第4..