
1月29日「森林の有効活用」講演/農都会議10周年討論の報告[2020年02月28日(Fri)]
NPO法人農都会議は、2020年1月29日(水)夕、「森林の有効活用と燃料生産について講演/農都部会〜農都会議10周年記念討論」を開催しました。
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今回は、農都会議の前身組織「農都地域部会」設立からちょうど10年経ったのを機に、森林・バイオマスについての講演と、林業・バイオマス産業のこれまでの10年とこれからの10年について討論を行いました。
会場の港区神明いきいきプラザに40名の参加者が集まり、講演と質疑応答、10周年討論が行われました。
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今回は、農都会議の前身組織「農都地域部会」設立からちょうど10年経ったのを機に、森林・バイオマスについての講演と、林業・バイオマス産業のこれまでの10年とこれからの10年について討論を行いました。
会場の港区神明いきいきプラザに40名の参加者が集まり、講演と質疑応答、10周年討論が行われました。
第1部の基調講演は、Bioフォレステーション株式会社代表取締役社長、株式会社森林再生システム取締役兼COOの近藤亮介氏より、「森林の有効活用と燃料生産について 〜新たな森林管理や国有林政策」のテーマで、講演がありました。近藤氏には、新たな森林管理や国有林に関する政策について存分に語っていただきました。
近藤氏は、(株)森林再生システム及びBioフォレステーション(株)の会社概要、CO2削減は林業の使命、スーパーツリーなどの説明の後、次のようなお話をされました。
・東京大学大学院の白石則彦教授は、伐期を80年として1haあたり造林・保育に150人日、収穫(主伐)に50人日を要する我が国の林業は、全国で考えると5万人の林業労働者が年間200日就業し、循環木材生産林は400万ha、林業労働者1人が維持可能な循環木材生産林は80haである。
・林業で重要なのは植栽面積。ひたすら間伐すると先細る。(参考:2050年齢級構成)
・ある県は、路網の無い林分は環境林とするなど、木材生産を目的としない林分へ誘導している。
・バイオマス発電のニーズは、全国で1,030万Haから660万Haへ
当面の間は更新伐、強間伐、再造林しなくてよい皆伐がかなりあり、木材利用を目的としない“低質材”が多くなる。
また、最近二つの大きな法改正があったとして、次の説明をされました。
・近年、森林経営管理法による新たな森林管理システムが始まった。
・国有林野管理経営法が改正され、樹木採取権制度ガイドラインが設けられて事業者の募集が始まる。
・意欲と能力のある林業経営体とアセマネ(資産管理)が必要。林業の収益性は低いのでほとんどの市町村は意欲を持てない。
・集積・集約化に向けたポイントと問題点は、日本の林業はアセマネがいないのでダメになった。アセマネの役割を森林組合がやらねばならなかった。
・将来は管理法人が担うことになり、施業は意欲と能力のある認定法人に集約することになる。
・意欲・能力”は、いわゆるアセマネとしての役割を担うことが期待されており、まさにこの機能がこれまでの我が国の林業に欠落していた重大な問題点であり、育成が不可欠である。
・意欲・能力”の育成は、現実的には従来の施業請負業者を対象に考えられているが、アセマネと施業請負業者との間は、本質的に利益相反がある。
・アセマネの選定においては一定の競争環境が必要であると考えられるが、森林の所有に関しては、公金が利用されて資産形成がされる点や、集積化や資産効率の観点から、地域の官民連携による投資法人が一括して所有する形態が好ましい。→この場合、“意欲・能力”とは別の、アセマネが不可欠になると考えられる。
・小規模な山林においては、皆伐後、再造林の“投資”に耐えうるところは少ないと考えられ、経営管理権の設定は困難で、市長村有林化を検討せざるをえないケースが増えると考えられる。
・経営管理実施権を設定するための条件が非常に厳しい。
近藤氏は、国有林野事業の債務と返済について、次のように説明されました。
・国有林野事業特別会計の赤字解消で1.28兆円を財務省から借入れ60年で返済することになっている。
・2017年度より未来投資戦略を掲げ、Society 5.0実現へ向けた改革を進めている。
・国有林野管理経営法改正の概要は、@樹木採取区の指定、A樹木伐採権の設定・再造林の申し入れであり、丁寧に提案されてはいるが、残念ながら科学的議論がされていない。
第2部は、パネリスト各氏のプレゼンテーションと、ディスカッションが行われました。パネリストは、NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長の泊みゆき氏、ちば里山・バイオマス協議会代表幹事の高澤真氏、NPO法人農都会議の田口幸央理事、NPO法人農都会議の山本登事務局長の5名。モデレーターは、NPO法人農都会議の杉浦英世代表理事でした。
最初に、泊氏が「森林・バイオマスのこれまでの10年、これからの10年」のテーマでプレゼンを行いました。泊氏は、「FIT見直しの中で、輸入バイオ燃料の持続可能性基準を定め、食料と競合するものは対象外とする方針は評価したい。今後の基準作りや現行の燃料へも適用するよう期待したい。エネルギーサービス会社や熱供給会社を熱利用拡大の担い手として育成する必要がある」と、お話しされました。
また、FITにおけるバイオマス発電の現状、日本の発電種類ごとの温室効果ガス排出比較、FIT後のバイオマス発電の可能性(燃料を購入するバイオマス発電のFIT後の自立は困難だが、安価な燃料へのシフトし、電力販売先を確保し、熱利用が必須)、木質バイオマス産業の利用例などについて説明されました。
今後の方向性について、泊氏は次のように述べられました。
・熱利用のないバイオマス発電は、これ以上増やさない方がいいのでは
・国産バイオマスは、カスケード利用の原則のもと、熱利用、熱電併給、廃棄物発電へ混焼など
・熱利用においても、高い温度帯を需要に合わせて供給できるバイオマスの特徴を生かした産業用などへ誘導
・エネルギー・サービス会社、熱供給会社の育成が重要
・木質バイオマス利用推進は、林産業の産業化推進と両輪で
・バイオマス発電はオワコン(終わったコンテンツ)。変化への対応というよりは変化を起こしていきたい
続いて、杉浦代表から「農都会議のこれまでの10年とこれからの10年」のテーマでプレゼンがありました。
杉浦代表は、「農都会議の前身組織『市民キャビネット 農都地域部会』は農山漁村と都市・地域のカテゴリでNPO/NGO等市民団体のネットワーク化を進めるため、2010年1月29日に設立された。おかげさまで本日ちょうど10年が経過し、FIT制度の施行に合わせて設置したバイオマスWGも7年弱となっている。NPO法人化してまもなく4年となる。農都会議のミッションは、勉強会・フィールドワークを通じて市民、企業、地域の現場の課題を提言に取りまとめること」と、説明を行いました。
また、政策課題について、次の項目を挙げました。
○ 気候変動から気候危機へ
・ 21世紀末までに世界平均気温が0.3〜4.8℃上昇、 世界平均海面水位は0.26〜0.82m上昇
・スーパー台風頻発、強風は送電網を直撃し停電が長期化、想定以上の雨量で東京はあわやの洪水危機
・サンマ不良、温暖化は農業や漁業へ深刻な影響を与えている
○ レジリエンス向上
・GHG削減へ政策大転換(エネルギー・トランスフォーメーション)、遅れを取り戻す
・分散型エネルギー、マイクログリッド
・治山・治水の基準値変更
○ 大災害への備え
・国民一人一人の自覚と助け合い
○ 人口減少社会への備え
・少子化は恐れる必要は無い。結婚と子育てができない低賃金構造が問題
まとめでは、次のように述べました。
・イノベーションなくして経済成長なし、目に見えない制約から自由になろう
・世界は化石燃料から再エネ・分散型へ転換、昨年7団体共同で地域型バイオマスフォーラムを開催、今年から地域型バイオマスムーブメントを始める
・地域のエスコ(Energy Service Company)事業のモデル化と推進制度策定をめざす
・変化に対応することが何より肝心
高澤氏は、「森林整備がおろそかだったから台風15号で停電被害が起こった。整備された竹林は被害が少ない。4日間の停電で感じたことは、プロパンガスは災害に強い、小型バッテリーが役に立った、米があれば生き延びられる、水が必要、ガソリンは半分以上給油、車のラジオとエアコンがオアシス、発電機もあれば助かる」などとお話しされました。
田口氏は、農都会議に参加して主に森林・林業に関する勉強会を担当してきたと述べ、「日本林業の森林・林業再生に向けた現状と課題」資料を元に、我が国林業の構造的な課題に対する林野庁の診断(2018年6月)、絶望の林業から希望の林業へ、などについてお話しました。
最後に、山本事務局長が「バイオマスアカデミー 〜日本でのバイオマス利用の飛躍的拡大を目指して 2019⇒2020」のテーマでプレゼンを行いました。
山本氏は、「日本でのバイオマス利用の飛躍的拡大を目指して『バイオマスアカデミー』を始動した、バイオマスの有効活用はまず熱利用から、日本のバイオマス熱利用の問題点と課題、バイオマスボイラー導入台数の推移、バイオマス普及の阻害要因は?、バイオマス熱利用普及のために何をすべきか?」と、バイオマスアカデミー設立の目的、活動内容について説明しました。
また、CHP(熱電併給システム)も熱利用優先、バイオマスの有効利用、日本のバイオマス熱利用の問題点と課題、日本のバイオマス熱利用普及のために何をすべきか?などについてもお話ししました。
ディスカッションは、「2020年初に考える森林・バイオマスの“これまでの10年”、“これからの10年”」のテーマで行われ、会場の参加者とパネリストの間で熱心は意見交換がありました。
今回は「森林の有効活用と燃料生産について講演/農都部会〜農都会議10周年記念討論」というタイトルの当会の10周年記念イベントでした。今月は森林関係の勉強会が2回続き、森林・林業・バイオマス活用について学ぶ内容の濃い月間になったと思います。
2回にわたってご講演いただいた近藤亮介氏に感謝いたします。また、他のご登壇の皆さま並びにご参加の皆さま、誠にありがとうございました。
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