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8月30日「国産バイオマス燃料の課題」セミナーの報告[2016年09月08日(Thu)]
 NPO法人農都会議 バイオマスWGは、8月30日(火)夕、バイオマス燃料セミナー「バイオマス燃料の国内調達の課題 〜伐採・搬出の現場から考える」を開催しました。
 →イベント案内

8月30日バイオマス燃料セミナー

 木質バイオマスエネルギーの利用には、伐採・搬出、輸入・流通、制度・コストなど多くの課題がありますが、2回目のバイオマス燃料セミナーは、関東地域の森林・林業の現場の方々をお招きして、国産バイオマス燃料にフォーカスしました。
 当日は、強い台風の接近が懸念される中での開催でしたが、会場の港区神明いきいきプラザに約70名の参加者が集まりました。パネルディスカッションとして講演・質疑応答・意見交換が行われ、モデレーターは、株式会社つくば林業 代表取締役社長、NPO法人農都会議 理事の松浦晃氏にお願いしました。


8月30日バイオマス燃料セミナー

 最初に、Bioフォレステーション株式会社 代表取締役社長の近藤亮介氏により、「バイオマス発電と林業経営 〜神奈川・千葉の山々で考えたこと」のテーマで講演が行われました。
 Bioフォレステーション株式会社は神奈川県内に約900haの森林を所有してバイオマス燃料の供給事業を行い、近藤氏は神奈川県林業経営者協会理事も勤め、バイオマス発電と林業との間にあるミスマッチの解消を目指す活動もされています。

近藤氏の講演内容を一部ご紹介します。
・本年上期の5ヶ月間で木質バイオマス発電をめぐる状況は、稼動中の発電所の大半が50〜112MWの事業規模であることが明らかになってきた。その要因は、発電事業の認可に不可欠な環境アセスが簡略で済む事業規模の境界が112MW(注)であることによる。
・しかしそれら大規模木質バイオマス発電所の使用燃料は北米材、PKS、BDFなどの輸入バイオマスである。国内の林材使用では安定供給が見込めない実状が背景にあり、高効率を追求するほど大規模になるので、日本の森林の間伐材は大半が利用しない計画となっている。
・現在バイオマス材として搬出されている国産材は皆伐によるものが多く、搬出効率が悪く出材の少ない間伐材だけでバイオマス発電を運営するということは世界的にも例がない。
・山林経営は、国の林業への助成制度に依存している。皆伐への助成は少なく、間伐のみが助成対象になっていることが多いので、間伐のみを行い、間伐終了後は皆伐/再造林をしないケースが多い。
・山林経営は助成金に依存しているが、この林業助成予算を管理しているのは、都道府県の“林務担当者”であるため、各地域の伐採量を決めているのは“林務担当者”であると言える。予算の総額を見れば全国のバイオマス発電所に必要な量の間伐材が供給できないことは明白となる。
・フル環境アセスが不要な上限112メガ級(注)で、発電効率は40%以上の発電所を造り、操業開始時は大半の燃料を輸入材でまかない、国内材は出材した分をすべて高値で購入してもらえるとありがたい。序々に国産材使用の比率を向上させていけると、発電事業者、林業ともにメリットがある。
・小型の木質バイオマス発電は、FIT制度に基づく投資と考えると採算的に厳しいが、自治体が強力に関与し、地域の安定電源として価値、熱利用による産業の創出も期して、導入を促す助成金を独自に拠出してでも普及させるべきである。
(注: 各都道府県の諸事情によって上限は異なります。)


8月30日バイオマス燃料セミナー

 続いて、NPO法人蔵前バイオマスエネルギー技術サポートネットワーク(K-BETS) 副理事長、バイオマスWG運営委員の米谷栄二氏より、「実用化間近のKシステム」のテーマで講演がありました。
 米谷氏は、林業機械と搬出システムの現状、Kシステムの狙い、改良してきた主な項目、試用実績と確認出来た事、施業にKシステムを使った感想、要望・問題点と対策、Kシステムのこれからなどについて丁寧に説明されました。

 米谷氏の講演内容を一部ご紹介します。
・森林とエネルギー利用、どちらも重要だが、ヨーロッパ型のシステムでなく、日本の地形にあったシステムを 導入して行くべきである。将来、日本の森林とバイオマスFIT制度がどうなるか、不透明だが、森林・林業の再生とバイオマス利用は必須である。
・急斜面からの搬出に必要な架線系機械の動向をみると、
 −保有台数は伸びていない、導入希望は少ない(林業白書)
 −多少能力は低くとも、小型で、設置・操作が容易で、安価な機械が要望されている(林業白書)
であり、林業は労働災害が非常に多いので安全な機械が必要。
・Kシステムは、今までに様々な改良を図ってきた。これまで出せなかった場所からの集材が可能ならKシステムを使ってみたい、との問合せが増えている。
・政府が目標とする2025年の国産材供給量4,000万m3を達成するには、これまで出せなかったところからの集材を可能にすることが必須なので、Kシステムへのニーズは高いと思われる。
・このような状況の中で、今後、Kシステムの改善と製品化を進めていくが、林業機械の市場はまだ小さく、開発費負担が大きい。さらなる開発支援に期待する。
・ただし、我が国森林では、急斜面30度以上が60%を占めており、そのほとんどが、今まで搬出困難、あるいはコストがかかりすぎて手付かずであった。この手付かずの場所が、今後、対象として顕在化するわけであり、その意味では、林業機械、Kシステムのマーケットのポテンシャルは、きわめて大きいと言えよう。


8月30日バイオマス燃料セミナー

 最後に、茨城県常陸太田市でを林業を営む若手自伐林家の荷見信孝氏に、「美しい森づくりとブランド林業」のテーマで、お話しいただきました。
 荷見氏には、今ほど林業専業が厳しいときば無い中で、どのような考え方で経営にあたり、これから数十年後には次代へ家業を引継いでゆくつもりなのか、その思いを語っていただきました。

 荷見氏の講演内容を一部ご紹介します。
・父親が残した美林の管理に携われることを楽しむ余裕を持った経営スタイルを貫けているのは、一本一本の木の特徴を見極めながら丁寧に育林するという薫陶のお陰と思う。
・山の事故発生は、疲労の蓄積する夕刻に発生しやすい。仕事は明るいうちに切り上げる。
・材は太ければ良いのではない。直径34cmよりも太いと通常の製材機にかからなくなるので売れない。市場のニ―ズを考えながら育林(除伐、枝打ち、間伐)して市場価値のある材を出木している。急速に太らせた樹は価値が低い。
・荷見家の林家としての矜持は、国有林とは違う育林・施業をやること。3〜4年で指導者や施業方針がクルクル変わるような国の方針に従っていたら、子育てと同じで失敗するのが目に見えるようで恐ろしい。
・10年〜20年先、50年〜100年先を見据えた林家が出てきてほしい。列状間伐と定性間伐をうまくミックスするような施業指導が望まれる。国有林などでは100ha規模での間伐も行われている。地元にもその規模での伐採が出来る事業体が5社程あるが、間伐でも大規模になれば地すべりや水害の原因となるので注意が必要と思われる。
・路網は一時的な物ではなく、崩落防止等絶えず維持管理は欠かせない。自分の山の作業道を巡回しながら愛着心を持って山の維持管理に努める姿勢が欠かせない。
・各種助成金をうまく活用するとともに、極力自前の施業が必要。自分で古い機械を購入して工事をする。
・時給500円くらいの労賃にしかならない作業もあるが、その何倍もの山林経営の楽しみを味わえる。出来あがった山林には納得できるものがある。


8月30日バイオマス燃料セミナー

 講師や参加者の意見交換が活発に行われました。アンケートへも多数の回答をいただきました。
 三氏の講演の概要や資料などについてお知りになりたい方は、事務局へメールでお尋ねください。会員様には詳細レポートをお送りします。

 林業を投資として捉える経営者、搬出システムの考案者、自伐林家という異なったお立場の三人の講師から、伐採・搬出の施業者・プランナーであるモデレーターが本音に切り込む展開の貴重で有意義な会となりました。経済性だけでなく、日本の急峻、狭隘な林地の立地条件や山林の持つ国土保全機能など多面的価値に配慮した議論が行われ、講師の皆様の生の声を聞くこともできました。
 講師並びにご出席の皆さま、誠にありがとうございました。次回のセミナーもどうぞご期待ください。
Posted by NPO農都会議 at 12:17 | 勉強会 | この記事のURL | コメント(0)
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