【こうほう雑記帳】これからの防災について考える [2016年03月11日(Fri)]
こうほう雑記帳
これからの防災について考える B&G財団 広報課 山口 優 (福井県大野市 自治体派遣研修生) 自然災害には、地震や津波、火山噴火、台風、ゲリラ豪雨による土砂崩れや河川の決壊等があり、日本は世界で5番目に自然災害に遭いやすい国と言われています。災害は忘れた頃にやってくると言いますが、近年では忘れる間もなく毎年、大規模な自然災害が日本各地で起きているようにも見えます。 私たちは自然災害が起きるたびに、そこから様々な教訓を学び、防災対策を立てて被害を抑えることに努めてきました。 2011年3月の東日本大震災は、いろいろな教訓を生みました |
教訓は伝わっているのか 1978年に発生した宮城県沖地震の被害を教訓として、1981年に建築基準法で「新耐震基準」が定められました。そのため、1995年に阪神・淡路大震災が起きた際には、「新耐震基準」の建物は軽微な被害か無被害で済むという、非常に良い効果を得ることができました。 しかしその反面、1981年以前に建てられた木造住宅などの建物に倒壊の被害が集中し、死者の8割以上がこうした建物の倒壊で起きた圧死や窒息死によるものとなりました。火災も多数発生しましたが、死者の8割以上が古い建物の倒壊によるものだったことから、「耐震性の高い住宅に住むことが大切」であるという大きな教訓が生まれました。 ところが、2013年時点での住宅耐震化率は82%という推計結果が出ており、単純に考えてみれば日本全体で同様の地震が今起きたら、耐震化されていない18%の住宅在住者の8割は建物の倒壊による圧死や窒息死によって命を失うことになってしまいます。国では、2020年までに住宅の耐震化率を95%にすることを目標としていますが、現在の状況からみて達成は難しいことが想像できます。耐震化を進める費用の問題もありますが、耐震化することで死亡要因の8割をなくすことができるという教訓が重要視されていない、つまり教訓がしっかり伝えられていないことが、目標の達成を妨げる原因の1つになっていると思うのです。 想定にとらわれるな 東日本大震災では、地震による津波等によって1万8000人以上の死者・行方不明者が出ましたが、過去の教訓を最大限に活かしてほとんどの小・中学生が助かった事例として、岩手県釜石市の防災教育がよく取り上げられます。私は、この防災教育に関する講演を聞きましたが、印象に残っているのが「想定にとらわれるな」という考えです。 想定にとらわれないとは、どういうことでしょうか? 例えば各自治体で洪水・津波・火山・地震・土砂流等のハザードマップが作成されており、災害発生時の被害想定区域やどこに避難すれば良いかが示されています。しかし、自分の住んでいる場所が被害想定区域から外れていたとしたら、どう考えるでしょうか。多くの人は行政が安全を保障してくれたものと思いがちですが、ハザードマップは過去の被害事例やシミュレーションによって推定されたものでしかありません。ですから、想定外の災害には対応しきれないことを念頭におくべきなのです。 これからの防災 私は、2015年9月に行われた秋田県由利本荘市西目B&G海洋センターでの避難所開設訓練の体験を通して防災士に興味を持ち、2016年2月に防災士研修講座を受講しました。合格はしましたが、まだまだ知識・経験とも未熟な立場です。防災士教本の中に興味深い言葉がありました。これから求められる防災とは、「人が死なない防災」であるとのことです。 防災と聞いて思い浮かべるのは、「食料・飲料などの備蓄」や「避難所開設訓練」等、いろいろあります。これらはもちろん重要なことですが、いずれも「生き残った人のための防災」であり、災害から生き延びてからこそ必要なものばかりです。 よく考えてみれば、自然災害が起きた時に第一に求められるのは「人を死なせないこと」に尽きます。一人ひとりが想定にとらわれることなく、その状況下で最善を尽くすこと、すなわち自らの命を守ることに主体的な姿勢を持って避難することなのです。そして、そのような姿勢を醸成する防災の取組みを、普段から実施していくことが大切です。 自らの命を自ら守る術がなければ、相手を助けることもできません。それゆえ、今後ともスキルアップに努め、地域の防災士を目指していきたいと思います。 由利本荘市西目B&G海洋センターで実施された避難訓練の様子 |