先週,初島沖海底遺跡の調査をおこないました.
遺跡は,江戸時代前期の多量の屋根瓦を主体とする遺物およびその積載廻船遺構(船体材が遺存)で,相模湾唯一の有人島である初島(静岡県熱海市)の西岸沖合水深20m前後の海底に残されています.
瓦以外の遺物としては,丹波産の擂鉢や京都産とみられる砥石があります.また,鬼瓦の中心飾りに「三葉葵紋」が表現されていることから,瓦(群)は江戸幕府が当時御用瓦師のいた大坂にオーダーしたものと考えています.
今回の調査は,2018年度から3か年にわたり朝日新聞文化財団助成事業として,遺跡の「保存・活用」を目的に実施してきた調査の最終年度にあたります.調査では,水中文化遺産保護条約を発効したユネスコが指摘する第三の海洋資源である海底遺跡の新たな保全や観光・教育資源としての利用を目指す「海底遺跡ミュージアム化」の実現を最終目標として,この3カ年でその可能性を模索してきました.実現のためには地域社会との連携は不可欠ですので,地域とともに活用とともにその表裏関係ともなる保存にも取り組んで,そのモデルケースの構築も目指しました.
今年度は,この助成事業の最終年度として,モデルケースを実行すべくダイバーによる見学会(活用実験)を予定していましたが,今般の新型コロナ感染症の拡大により,残念ながら見学会の実施を中止せざるを得ない状況となってしまいました.
このため今回の調査では,これまでの成果も合わせて今後の遺跡の保護あるいは保全,活用への提言をおこなえるよう,屋根瓦等が集積する遺物集積地区を主体に,できるかぎりの現状データーの取得をおこないました.具体的には,遺物の集積状況の再確認,もっとも保全の必要な板材(船体材)遺存部分についての詳細確認,および遺跡把握(可視化)に不可欠な,これまでの調査で作成した3Dモデル・現況実測図の補完をおこないました.合わせて,活用実験のひとつとして昨年度の調査で沈め置いた鬼瓦レプリカの経年変化確認,および経年観察用の新たな鬼瓦レプリカの設置もおこないました.
幸にこれまでの調査や成果報告・対話をとおして,地元の遺跡への理解は得られており,連携体制もとれているので,今後は提言をもとに,地元と意見交換をとおして貴重な水中文化遺産をより良いかたちで後世にのこすための保護あるいは保全,活用の実施・実現を目指したいと考えています.
調査は,2011年に日本財団助成事業での確認からはじまり,今年で10年が経ちました.初調査から,ほぼ毎年調査はおこなってきましたが,調査費用やマンパワーとの兼ね合いから小規模の調査であったこともあり,なかなか遺跡全容の解明にはいたっていません.ただし,これまでの調査は複数の団体や企業からの協力(助成)によるもので,これらの協力によって調査を継続でき,遺跡の内容が少しずつ明らかとなってきたことも事実です.
協力に感謝するとともに,より多くの方とこの水中文化遺産の歴史的意義を共有し,保護あるいは保全,活用の機運を高めるためにも,これまでの成果の詳細については調査報告書にまとめ,公表を予定しています.
なお,今回の調査は,首都圏1都3県に出されていた緊急事態宣言の再延長が決まったなかでおこなわれたもので,実施も危ぶまれましたが,地元から受け入れを了承していただけたことで実現することができました.地元の方々・機関にはあらためて感謝申し上げます.
また,このような状況でしたのでできるだけ少人数での調査を計画しました.調査参加への声掛けはかぎられた会員のみにおこない,多くの員の皆さまにはあえてしませんでした.お詫びいたしますとともに,ご理解のほどをお願いいたします.
遺物集積地区・全景(積荷.瓦を主体に,一部乱れはあるものの遺物が種類ごとに整然と並ぶ)遺物集積地区・平瓦が列をなし整然と並ぶ遺物集積地区・軒丸瓦が2段重ねで整然と並ぶ遺物集積地区・乱れがあるものの擂鉢が重ねられて積まれていた状態がわかる海底に残された鬼瓦・中心飾りに「三葉葵紋」が表現されている海底に残された二隅が切り取られた平瓦海底に置いた鬼瓦レプリカ(左は昨年置いたもの・右は今回置いたもの)遺物集積地区での写真撮影のようす