少し前になりますが,12月11日(金)朝,NHK-BSでの国際ニュース番組「キャッチ! 世界の視点」で,
歴史的沈没船の話題をあつかった「300年前の沈没船財宝の行方は」と題した特集が放映されました.
先日,ニュースとして報じられたコロンビア沖海底で発見されたスペイン・ガレオン船「サンホセ号」に関しての内容です.
発見したのはアメリカのトレジャーハンター(会社)で,その所有権をめぐって発見場所のあるコロンビアと起源国のスペインとが争っているとのことです.
この手の話題があると必ずと言って良いほど,関連報道がなされますが,
関心はもっぱら,その沈没船が積んでいた「財宝」の経済的価値(時価)やその沈没船の所有権の問題です.
そして,必ず関連法の専門家がそれに対するコメントを求められてきました.
最近ではユネスコの水中文化遺産保護条約が発効したことから,条約がらみのコメントも聞かれるようになりましたが,それでもその経済的価値や所有権に関心の中心があるのはかわりません.
このようなことが,NHKそして民放でも事あるごとに繰り返されてきました.
今回もタイトルに「財宝」「行方」とあるように関心の対象は同じです.
今回は,歴史的沈没船とそれにかかわる国際法に詳しい東京海洋大学准教授の中田達也さんがコメントされていました.
ただし,今回の中田さんのコメントは,これまでの専門家のコメントとは一線を画すような内容でした.
中田さんは,所有権や経済的価値云々というような法律的な側面のみではなく,沈没船とその積荷に歴史的価値を認め,それこそが水中文化遺産保護条約の精神であり,単に所有権や経済的価値に焦点を当てるのではなく,文化財として正しくとらえよう,ということを強調されていた.
このような,歴史的沈没船=文化財ということを強調した内容のコメントは,この種の番組では初めてではないようでしょうか?
同事例でコメントを求められた専門家(関連法)で,中田さんのようなコメントをできる専門家はいるでしょうか?
これは,歴史的沈没船を文化財として,どれだけ正しく認識しているのかとも関連してきます.
逆に言えば,専門家の多くは歴史的沈没船を文化財としてとらえていないということの裏返しにも見えます.
(関連法の専門家だけではありません,実際には文化財や考古学研究者のなかにも正しく理解していない方もいますので,彼らにも言えることです)
もちろん中田さんは,所有権に関しても十分な知見はあります.
中田さんはARIUAの会員で,私たちとも日ごろから議論をしており,水中文化遺産を正しく理解し,現場にも足を運び水中文化遺産調査の最前線も見ています.
だからこそ,言うことのできたコメントだったのでないでしょうか.
ただし,全体を通じての関心事が所有権や経済的価値であったこともあり,今回の特集を観た方に歴史的沈没船が文化財である,という認識がどれだけ伝わったでしょうか.
最後にキャスターは「人類共通の文化遺産として保全されることを望む」と締めていましたが.
歴史的沈没船にたいする多くの方の興味の対象が「財宝」「時価」などの経済的価値およびその所有権であること,これには報道する側の扱い方が大いに反映されている結果と言えます.
今回の特集でも「商業的利用を禁じた」水中文化遺産保護条約触れながら,このありさまです.
また,今回の特集ではトレジャーハンターの撮影映像,彼らのコメントを使っていました.
それも彼らを肯定するかのように,無批判に.この状況も毎度みられることです.
トレジャーハンターは,水中文化遺産保護条約では違法行為として明確に否定しています.
たしかに彼らを認めている国もありますが,世界の趨勢は文化財保全の立場から否定しています.
このような行為を報道側が無批判に肯定的にあつかうことそれ自体に,この問題の本質があらわれているのかもしれません.
(陸上の事例だったら,こんな報道はありません.このようなところにも,報道側の歴史的沈没船が文化財であるという認識の希薄さがみられます.)
そろそろ,歴史的沈没船=積荷・経済的価値,ではく,歴史的沈没船=水中文化遺産=文化財という認識に立った報道をしてほしいものです.
TBSテレビでは,正月特番で今年に引き続き「歴史的沈没船」の「お宝」関連の番組が放映されるようです.
その対象は,トレジャーハンターが発見した「歴史的沈没船」です.
遺物の引揚げもなされるのかもしれません.
私の願望の達成は,まだまだ先のようです.