「水中考古学」と「水中遺跡」,そして「水中考古学者」 [2012年07月29日(Sun)]
昨日ラジオを聴いていると,「水中考古学」の話題が.
ゲストの方が,「水中考古学者」という肩書きをもつという. その方については, お名前を聞いたことはありますが, それはあくまでもダイバーとしてで,「水中考古学者」としてではありません. これまでに多くの水中活動に尽力された方で,海洋文化に造詣が深いことも存じています. また,海底で遺構状のものの発見を報告されたり, 沈没船の調査?にもかかわってはいらっしゃる方ですが, 少なくともフォーマルな「考古学者」あるいは「考古学研究者」ではないと認識しています. 番組では「水中考古学」「水中遺跡」という用語が何回もでてきましたが, かなりの違和感をもって聴いていました. ゲストの方はもちろん,パーソナリティも「水中考古学」を 「考古学」の一分野であるとの認識はないものと感じました. 「水中考古学」と「考古学」は,別の学問ととらえている,のでしょう. ただし,これは多くの方が感じている「水中考古学」にたいする認識かと,思います. ですので,今回の放送を聴いた聴取者が, さらに,誤解するのではにあかとの懸念があります. それに,ゲスト方の言う「水中考古学」は,その話を伺う限り, 対象は「沈没船」のみで,調査は「水中考古学」に名を借りた遺物引揚げ行為です. 「考古学」ではありません. ゲストの方には,そのような認識はないのかもしれませんが, 考古学研究者からみれば,「トレジャーハンター」です. 「水中考古学」が対象とするモノも,あくまでも人が作ったモノです. 陸上に残されたモノと何ら変わるものではありません. ですので,遺構や遺物へのアプローチや取り扱い方法,その分析方法等については, 「考古学」を理解し,問題意識をもっていないと,できません. 学問としての「考古学」を学ばないとできなのです. 「水中考古学」や「水中遺跡」という用語は, 今やかなりの誤解や先入観をもって使われ,認識をされています. この誤解を解くために,私も尽力してきたつもりですが, 今回のような番組(ラジオ・テレビ)や誤解をまねく内容の書籍が, 放送・出版されるたびに,誤解が助長される現状があり, これにたいして,無力ささえ感じています. これが,研究者にさえも浸透し, 「水中考古学」=「考古学」ではない(学問的な裏付けのない,単なる遺物引揚げ), という認識になってもいる現状もあります. そのために,最近では「水中考古学」や「水中遺跡」という用語は使わないほうが良いのではないか, とさえ,思っています. また,そもそも「水中考古学」を「考古学」の一分野であると考えれば, 「水中考古学者」などは,存在はしないのではないでしょうか. 一般の方にはわかりやすい用語かもしれませんが, 「考古学」の研究者は,通常「考古学者」あるいは「考古学研究者」と言われ, そのなかで「〜の専門家」とは呼ばれますが,「〜考古学者」とは呼ぶことはほとんどありあません. このことからも「水中考古学」の特異性がみてとれます. 私自身も「水中考古学者」と呼ばれることはありますが,これは本意ではありません. ですので,自ら「水中考古学者」と名乗る人を,私はにわかに信じることはできません. ラジオ番組の感想から,長々と書きましたが, やはり,この分野のことを正しく知っていただくことは, 地道に正しく発進していくこと以外にはないのでしょうか? マスコミなどによる中途半端な理解による情報発信,一度考えて欲しいですね. |