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「水中文化遺産」と「水難救護法」 [2013年03月27日(Wed)]
もうひとつの法律とは,「水難救護法」です.

おそらく大半の方が初めてその名を聞く法律だと思います.
また,聞いたことがある方でも,その内容はよく知らないのではないでしょうか.

「水難救護法」は,1899(明治32)年に制定された古い法律です.
しかも今日まで,文言の一部が変更されたくらいで,改定はされていない法律です.
言い換えれば,それだけ使かわれることのなかった,使う場面が少なかった法律と言うことができるかもしれません.

法では,「遭難船舶の陸上的施設による救護,漂流物および沈没品の拾得に関する」ことを規定しています.
簡単に言うと「遭難船を助ける」「海などの落とし物」に関する法律です.
そして,その裁量は「最初に事件」を認知した市町村長にあります.

「落とし物」に関しては,通常は警察が担当官庁ですし,
法律は「遺失物法」です

しかし,「水中」「水面」のばあいは,なぜか別の法律,別の官庁が所管するようです.
この点は,「埋蔵文化財」においての「水中文化遺産」が「特別視」されている現状と似ています.

通常の埋蔵文化財では,発見されたばあい(発掘調査,不時発見など)は,
遺失物として一端警察に届けます.
そのうえで,文化財として認定される,という手続きが踏まれます.
文化財として認定されれば,「国庫」に帰属されます.

この一連の流れは,「文化財保護法」に規定されています(第100〜108条).
「遺失物法」と「文化財保護法」はリンクしているのです.

それでは「水難救護法」はどうでしょう.
「文化財保護法」に「水難救護法」とのリンク規定はありません.
ですので,「水中文化遺産」に「水難救護法」が採用されると,
「文化財」として認定されなくなってしまいます.
そして,最終的な帰属(持ち主を特定できなかったばあい)は,市町村になります.
それも教育委員会ではありあません.

「水難救護法」を採用すると「文化財保護法」のルートからは外れてしまうのです.
その遺跡・遺構・遺物が「埋蔵文化財」としてあつかわれなくなってしまいます.

「水中」の遺物には,「文化財保護法」(「遺失物法」とのリンク」)と「水難救護法」というふたつの法律が関係するから単純にあつかうことはできない,と「慎重な」態度をとる担当行政もあります.

ですので,
私たちが調査で記録をとったうえで引揚げた遺物についても,
行政に相談をすると,その処遇が明らかされないこともあります.
「処遇方法がよくわからい」という回答とともに,
「水難救護法があるから」と回答されることもあるのです.
(このばあいは,暫定的にARIUA保管といういうかたちで処理をしています)

しかし,前述したように,
「水難救護法」を適用すると「文化財」ルートからははずれますので,
「文化財」としてあつかうのであれば,「文化財保護法」を適用するべきだと思います.
これにたいして「水難救護法」が存在する,という以外に問題はあるのでしょうか?

少なくとも調査で引揚げた遺物や水中で確認した遺構・遺物は,
「陸上」あれば間違えなく「埋蔵文化財」としてあつかわれるものです.

実際に,中世の鷹島海底遺跡の引揚げ品,近世の開陽丸の引揚げ品など,
時代を問わず,「文化財保護法」に則って「文化財」に認定されているわけですから.

ただし,現状ではそのハードルは高い.
(「慎重」といえるのかもしれません).
そこには,「水難救護法」の存在は無視はできないのです.

それとともに,「慎重さ」の背景には,
やはり「水中」にあることにより,「見えない」「見えにくい」ということも,
見え隠れしているようです.
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