水中文化遺産と文化財保護法 [2012年07月12日(Thu)]
日本の文化財のための法律として文化財保護法があります。
文化財保護法は、文化財の保護・活用と国民の文化的向上を目的として、1950(昭和25年)に制定された比較的新しい法律です。 制定の契機なったのは、制定の前年に起こった法隆寺金堂焼失事故です。 焼失事故のあった1月26日は、文化財防火デーにさだめらています。 この文化財保護法のなかで、遺跡や考古資料は「埋蔵文化財」と定義されています。 そして「埋蔵文化財」の章がもうけられ、 遺跡や出土遺物の取り扱い等が規定され、保護の対象となっています。 このなかで、「埋蔵文化財」は、 「土地に埋蔵されている文化財」と規定されています。 また、条文をみても「水中」や「海底」ということばは、一切みあたりません。 恐らく、制定当時は「水中」(あるいは水底)については想定していなかったのでしょう。 この文面からは、「文化財保護法」で「水中文化遺産」は保護の対象となり得るのか、 はっきりしません。 確かに、陸上の遺跡と同様に「埋蔵文化財」と、とらえられるのか、もふくめて。 「水中文化遺産」は、「土地に埋蔵されている文化財」となり得るのか。 実はこの点に関しては、文化庁が各都道府県教育委員会教育長あてに、 伊豆大島沖から引揚げられた江戸時代の小判類の取り扱いにたいする質問に答えるかたちで、 1960(昭和35)年にだされた「海底から発見された物の取扱いに関する疑義について」 で、 海底から発見・引揚げられたものは、一般に遺物と同じように埋蔵文化財として扱う、 領海は、国が所有者である、 もうひとつの沈没品に関する法律である「水難救護法」の適用は受けない、 という法制局の見解がしめされています。 すわわち、「水中文化遺産」も「埋蔵文化財」として、 文化財保護法の対象となるのです。 ただし、このことについては十分に理解がなされていないようで, 「水中文化遺産」を文化財保護法の対象とすることに、 躊躇する行政が多いのが現状です。 やはり、条文中に明確に「水中」や「海底」という語がないことも一因なのでしょう。 また、「水難救護法」の存在も、無視はできません。 ちなみに、「水難救護法」を水中文化遺産に適用すると、 文化財保護法との連携はないので、文化財というルートからは外れてしまいます。 この点からも,「水中文化遺産」の扱いに関する共通認識をもつためも 明確なルールづくり(法整備)は、 急務であると思います。 なお、お隣の韓国の「文化財保護法」には、「海底」や「海面」という語が明示されています。 中国は、「水中文化財の保護管理条例」という「水中文化遺産」に特化した法律があります。 いずれも、両国で「水中文化遺産」の扱いが問題となってきた1980年代に制定されたものです。 |