• もっと見る

2022年11月19日

令和4年11月19日土曜

気になることがあった。昨日の午前、カンボジア人女性67歳が来院。息子さんに付き添われてきた。僕が近くの公立病院に外科医として勤務していたとき、市内に開設されていたアジア福祉教育財団難民事業本部傘下のインドシナ難民定住促進センターの嘱託医を務めていて、カンボジア人、ラオス人難民の健康をチェックしていたため、35年を過ぎた今でも、なにかあると僕のところに相談しに来てくれる人たちは多く、とくにカンボジア人が多い。
彼女もそういう一人だ。日本で育って僕らと同じように日本語を使う息子さんが言うには胸にしこりがあるのだという。話からは感染性の粉瘤でもできたのかと思っていたが、胸を見せてもらって驚いた。左の乳房の中心から上部にかけて硬いしこりがあり、ノギスで計測すると9×7.5センチであった。進行性の乳がんであろうとすぐにわかった。息子さんに乳がんにまずまちがいないだろうと話し、近くの公立病院の乳腺外科に診てもらおうとして気がついた。カルテの保険証の内容記載のところが空白となっている。日本の公的保険で診察を受けているわけではないということだ。息子さんに訳を聞いて了解できた。定住目的で日本にやってきたものの、日本語は上手にならず、日本になじめず、幸いなことに戦火が収まった故国カンボジアに帰ったのだった。すでに定住ビザは有効期限が切れていて、今回は親族訪問の短期滞在ビザで来ていて、1月に帰国予定なのだそうだ。
 息子さんには自費で日本で乳がん治療をした際の費用について、内容によっては彼の給与からは天文学的数字になりかねないので、カンボジアにすぐに帰っての治療を勧めてみた。今や、プノンペンにも立派な病院がある。すると、なんとか自分で支払うので日本で治療してほしいと言う。こういうときのお金の約束ほど、あてにならないものはないことを知ってはいるが、とりあえず、正式な診断を下し、今後の見通しについて検討をつけるまでの費用なら支払えるだろうと思い、近くの公立病院の乳腺外科に連絡を取った。すると、完全予約制で、今から初診の予約を取ると12月の中旬になると言われた。進行性の悪性腫瘍に対して、一か月も待たせたらどういうことになるのか専門医ならわからぬわけはあるまいと思い、乳がんについてだけはがん専門病院の名称を使用許可されているこの病院を受診してもらうことはあきらめた。次の手段として、県のがん専門病院にすがることにして紹介状を書いた。この病院の予約は患者または患者家族から直接取ってもらうシステムになっているので、息子さんに電話してもらうことにした。すると・・・しばらくして息子さんが戻ってきて、電話してやりとりしていた中で、日本の公的保険には加入していないということを放したら、日本の公的保険に加入していないひとは受診できないと断られたと教えてくれた。たぶん、電話番号からは対応したのは予約専門の部署だと思うので、個人的な見解ではないだろう。
どういういきさつがあって、そのような方針になったのかは知らない。しかし、もし日本の公的保険に加入していない人は診ないというのがこの病院としての方針だとすると差別と言われても仕方がないだろうし、もし万が一、日本の公的保険に加入していない外国人は受け付けないというのなら、人種差別と言われても違うとは言えまい。きっと自由診療で支払いますと言っておいて、未納金を踏み倒した外国人がいたか、あるいはそのようなトラブルを避けたいという方針からなのだろうが、まずは診るというところまではすべきだろう。単に正確な診断をつけるまでなら支払えないような金額になるとは思えない。その後に方針を話し合う時点で、医療費支払いの見通しが立たない、困難と判断した時点で受け入れを拒否し、帰国しての治療を勧めるなら、それはそれで法的な問題はないだろう。外国人受け入れのルール等について各医療機関が各々、話し合って作り上げておくことには意義がある。しかし、その際には外国人医療の専門家や法律の専門家が加わらないと、面倒なことには一切タッチしたくない的な実りのないルールになりかねない。ましてやこのケースのように法律上の問題を抱え込んでしまう可能性がある。以前から僕が主張していることなのだが・・
posted by AMDAcenter at 09:22 | TrackBack(0) | (カテゴリーなし)