• もっと見る

2022年05月30日

令和4年5月30日月曜

インド人女性27歳、北隣のS市から来院。足が腫れていると受付で訴えたらしい。整形外科ではないかと思ったが、浮腫ということもありうると考え、そのままカルテを作成した。診察室で拝見すると、たしかに左の足背の一部が腫脹している。発赤はなく、自発痛は強くはないが、触るとかなりの痛みを訴える。近隣の整形外科もすでに土曜の診療を終えているので、やむをえずに10日分ぐらいの処方を行って様子を見ることにした。細菌感染とは思えないので抗生物質の処方はせずに、鎮痛剤と抗炎症剤だけにしておいた。同じくインド人男性44歳、1時すれすれに来院。もう新型コロナの予防接種を開始しようかという時間にやってきた。3か月近くインドに帰国していて、先週帰国、数日前に空腹時の採血を終えたばかりで、結果を聞きにやってきたのだ。もともと中性脂肪が極めて高値で、血圧も高かった。血圧は降圧剤に簡単にコントロールできたのだが、中性脂肪はOmega 3 fatty acidを最大量使っても申し訳程度に下がるだけ。父親が心筋梗塞で亡くなったとのことで、この原因は彼の家族的な因子とあのカレーにあると思った。インド人やネパール人、スリランカ人の中には高脂血症とくに中性脂肪が高値の人がかなり多く、原因はあの「やめられない」カレーにあると思っていた。日本人の友人がインドに駐在していたころ、帰国して採血を行うと中性脂肪が高く、雇っていたインド人コックがカレーを作っているところを見ていた彼は中に入れる調味料などからその原因が彼が作るカレーにあると疑い、日本食を食べ始めてしばらくして帰国・・・採血してみたら中性脂肪は正常範囲内となり、その後、再度上がることはなかった。今回、このインド人男性の中性脂肪の値を見てびっくり。初めて正常範囲に収まっていた。どうしたのかと尋ねてみたら、にやっと笑った彼からかなり驚きの説明があった。「ドクター、私が菜食主義って知ってますよね?」知ってますよ、「インドに帰ってからチキンや魚を食べるようにした」・・・なるほど。彼は父親と同じ病気になっては大変と、一大決心をして、あの乳製品でいっぱいのカレーを食べるのをやめてチキン等を食べたのだという。でもインドでは菜食主義は宗教と結びついていたはず、そう簡単に宗教上のタブーを破るわけにはいかないはず・・・・と推察してこのあたりを尋ねてみたらその通りだった。彼の宗教は菜食主義、菜食主義をやめることで家族から強い反対を受けたのだという。宗教からも排除されるかもしれない・・こう思いながらも自分の命、自分の健康を優先に行動したのだろう。温和そうな彼のどこにそんな強い意志が隠れていたのかと驚きを隠せなかったが、次の会話で気がついた。「奥様も菜食主義なら日本に帰ってきて家庭でチキンなど食べるのは大変じゃない?」と質問したときだ。奥様は菜食主義ではないと言う。インドでは菜食主義者は菜食主義者としか結婚しない・・というか数ある宗教の中で同じ宗教に属している人以外とは結婚しないと聞いていたので、つい「奥様が菜食主義ではないということは宗教も違うということだよね、そういう女性と結婚するのは大変じゃなかった?」と尋ねてしまった。すると「ドクター、その通り、大変なんてものじゃない」と答えてくれた。ここで納得。彼が家族や周囲の反対を押し切って自分の意思を貫いたのは今回が初めてではない、もっと大きな人生の節目にも闘ってきたのだ。新型コロナの流行の前からインドに帰っていなかったというのももしかしたら、そういう軋轢が残っていたのかもしれない。日本のIT企業に勤めて、僕のクリニックに初めてやってきてからもう5年目ぐらいになる彼が少し大きく見えた。
posted by AMDA IMIC at 10:03 | TrackBack(0) | (カテゴリーなし)