障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービス事業等の人員、設備及び運営に関する基準の一部を改正する省令(案)に関する意見の募集に対するNPO大阪精神医療人権センターのパブリックコメント
〜病院敷地内におけるグループホームの設置及びその条件に対する反対意見〜
2014年12月13日
〒100−8916
厚生労働省 社会・援護局
障害保健福祉部障害福祉課企画法令係 御中
〒530−0047
大阪市北区西天満5丁目9番5号
谷山ビル9階
NPO大阪精神医療人権センター
代表理事 位 田 浩
代表理事 大 槻 和 夫
TEL 06-6313-0056 FAX 06-6313-0058
当センターは、『扉よ、ひらけ』をスローガンに、精神科病院の閉鎖性や密室性によって生じる精神障害者に対する人権侵害を防止し、安心してかかれる精神医療を実現させるための活動を29年にわたって続けている、当事者、家族、精神科医療福祉従事者、弁護士、市民等で構成される特定非営利活動法人です。
当センターは、日本の精神医療の歴史的、構造的な問題点を是正するために、精神科病院から独立した第三者的な立場から、@大阪府下の精神科病院への訪問活動や入院中の患者の皆様や家族からの電話相談等の権利擁護活動を行うとともに、A講演会やセミナーを企画し、また、B国や地方自治体に対して、日本の精神医療の改善等に対する政策提言を積極的に行っています。
上記活動経験から、当センターは、本省令(案)、特に、病院敷地内におけるグループホーム(以下「病院敷地内グループホーム」といいます。)の設置及び「病院敷地内グループホーム」の実施のための条件について、下記のとおり、意見を述べます。本省令(案)の改正にあたっては、本意見を十分に斟酌して下さるようお願い申し上げます。
記
1「病院敷地内グループホーム」の導入による重大な弊害の発生 (1) 「病院敷地内グループホーム」の導入により精神障害者の地域生活への移行が妨げられてしまうこと
「病院敷地内グループホーム」は、精神障害者の地域生活への移行を促進するという目的を実現するために、長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策に係る検討会による取りまとめ(以下「本取りまとめ」といいます。)において提言されたものです。
しかしながら、「病院敷地内グループホーム」の導入は、精神障害者の地域生活への移行の促進にならないだけでなく、かえってその妨げとなることは明らかです。上記目的を実現するための手段として極めて不適切です。
その理由は、以下のとおりです。
@「病院敷地内グループホーム」を導入すると、国及び地方自治体の予算の多くが「病院敷地内グループホーム」のために用いられることとなり、本来の地域移行や退院後を支えるサービスのための具体的な施策(例えば、病院敷地外の地域におけるグループホーム、ホームヘルプ、相談支援、日中活動の場、地域移行や地域定着のための支援、ピアサポーターによる支援等)を進めるための財政的基盤がなくなり、地域生活への移行のために本来なされるべき施策が実現されなくなります。
A日本の精神医療における歴史的問題点(隔離・収容政策を取り続けてきたこと)や構造的問題点(精神科病院の閉鎖性や密室性)が解消されていない現状からすると、精神科病院による患者の囲い込みの危険性が具体的に、かつ、確実に予想されます。これまでの精神科病院への訪問活動において、入院中の当事者が医療従事者に対し、自らの思い、希望、本音を伝えることができず、医療従事者の指示に従わざる得ない状況を目の当たりしていることからも明らかです。地域生活が十分に可能である精神障害者も、「病院敷地内グループホーム」の利用が事実上強制されてしまいます。地域移行の名のもとに、精神科病院による隔離・収容が継続されてしまいます。
B「病院敷地内グループホーム」の導入により、病院敷地内への退院も、地域生活への移行という誤解が生じてしまいます。その結果、本当の意味での地域生活(患者の望む地域への患者の望む居住生活の)への移行を希望する精神障害者にとっては、地域移行の希望が絶たれたと感じて失望し、地域生活への移行に対する意欲が大きく損なわれてしまう恐れがあります。
(2) 「病院敷地内グループホーム」の導入により、精神病床数の削減という政策を統計の上でだけ実現し、隔離の実態は変わらないことを隠蔽すること
ア 日本の精神病床数は、他の国と比較して極めて多く、入院医療中心から地域生活中心という基本方針を宣言した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(厚生労働省、2004年)において、その病床数の削減が喫緊の課題として指摘されてきました。しかし、精神病床数がほとんど減少しないことから、厚生労働省は、その「改善策」として「病院敷地内グループホーム」を導入しようとしています。
イ しかしながら、厚生労働省も、本省令(案)で、「(「病院敷地内グループホーム」の)利用中も地域生活への移行に向けた支援をすること」とし、「病院敷地内グループホーム」の利用が地域生活に該当しないことを認めています。また、病院敷地内にある限り、事実上、精神科病院の支配下で生活し続けなければなりません。
このような実質を考慮すれば、「病院敷地内グループホーム」の導入により形式的に精神病床数を減らしたとしても、日本の精神医療の実態は何も変わりません。むしろ、「病院敷地内グループホーム」が導入されることによって、「精神保健医療福祉の改革ビジョン」で具体的に示された精神病床数の削減という政策について、統計上の数字でのみ精神病床数を削減し、実態として変わらない収容を隠蔽してしまうことは明らかです。精神病床数の削減という重要な政策を形だけで終わらせてはいけません。
2「病院敷地内グループホーム」の導入が障害者権利条約に違反すること日本は、2014年1月20日、障害者権利条約(効力発生日:同2月19日)を締結しました。
障害者権利条約は、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的とし、障害者が政策及び計画(障害者に直接関連する政策及び計画を含む。)に係る意思決定の過程に積極的に関与する機会があることを規定しています。
また、障害者権利条約では、精神障害者が、どこで、誰と、どのように暮らすかを決定する自由があることを規定しています。
日本の精神医療政策を決定する過程で当事者の意思を無視し、当事者の選択の自由を奪ってしまうことは、障害者権利条約に違反することになります。
「病院敷地内グループホーム」の導入に関して、多くの当事者団体が反対の意見を表明しており、2014年6月26日に開催された「STOP!病棟転換型居住系施設 6.26緊急集会」では、全国各地から、多数の当事者を含む3200名の関係者が集まり、「病院敷地内グループホーム」の導入に対して反対の意思を明らかにしました。また、これ以外にも、「病院敷地内グループホーム」の導入に反対するため、全国各地で集会や勉強会が開催されており、当事者が「病院敷地内グループホーム」の導入に反対していることは明白です。
当事者が導入に反対しているにもかかわらず、その意思を無視して、「病院敷地内グループホーム」を導入することは、障害者権利条約に違反します。
3「病院敷地内グループホーム」の実施のための条件が不合理であること (1) 利用者及び利用に当たっての条件が不合理であること
ア 利用者本人の自由意思に基づく選択による利用であるという条件の不合理性
厚生労働省は、「病院敷地内グループホーム」について「利用者本人の自由意思に基づく選択による利用であること」を強調しています。
しかしながら、物理的にも人的にも地域資源が不足している現状においては、地域で支援を受けながら生活するという選択肢を選ぶことは事実上不可能です。他に選択肢がない中で、「病院敷地内グループホーム」を利用させたとしても、それは「利用者本人の自由意思に基づく選択による利用」とは到底いえません。「利用者本人の自由意思に基づく選択」といえるためには、「病院敷地内グループホーム」の導入よりも、まずは地域資源の充実(例えば、ホームヘルプ、グループホーム、相談支援、日中活動の場、地域移行や地域定着のための支援、ピアサポーターによる支援等)を優先しなければなりません。
イ 利用期間を設ける(利用期間は2年以内で、やむを得ない場合には更新可能とする)という条件の不合理性
厚生労働省は、「病院敷地内グループホーム」の導入について、利用期間を設定するという条件を課しています。
しかしながら、「やむを得ない場合には更新可能」としており、精神科病院の運用次第では、利用期間の制限が骨抜きとなってしまうことになり、これでは利用期間を設定した意味がありません。
(2) 支援体制や構造上の条件が不合理であること
支援体制や構造上の条件に関しても、多くの例外規定が設けられています。例えば、利用者のプライバシーの尊重について、「病院職員や病院に通院してくる通常の病院利用者が「病院敷地内グループホーム」の利用者の生活圏に立ち入らないように配慮する」とされており、全面的には禁止されていません。また、「やむを得ない場合」には、外部との面会や外出が制限できるとされています。
このように支援体制や構造上の条件を課しても、多くの例外が予定されており、精神科病院の運用次第で骨抜きとなってしまい、支援体制や構造上の条件を課したとしても意味がありません。
(3) 運営上の条件が不合理であること
運営上の条件について、時限的な施設とする(制度施行日から4年後をめどに3年間の実績を踏まえ、「病院敷地内グループホーム」の在り方について検討する。)とされていますが、精神科病院や国・地方自治体が多額の予算を用いて、一度導入してしまった制度を見直すことや廃止することは、極めて困難であり、実効性に乏しいものです。
4結論以上のとおり、@「病院敷地内グループホーム」の導入により重大な弊害が生じてしまうこと、A「病院敷地内グループホーム」の導入が障害者権利条約に違反すること、及びB「病院敷地内グループホーム」の実施のための条件が不合理であることから、本省令(案)に基づく改正はもとより、「病院敷地内グループホーム」の導入そのものに対して強く反対します。
当センターは厚生労働省に対し、「病院敷地内グループホーム」の導入ではなく、他の地域資源の充実のための施策に優先して取り組み、精神障害者の真の地域生活への移行を実現し、精神病床数の削減という重要な政策を実行するよう強く求めます。
以上