すごいぜ、増粘剤 [2014年07月09日(Wed)]
◆続・クローン病中ひざくりげ(85)  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 前回の、ゼリーをつくる魔法の粉だが、こんな添加物が入っていた。 「増粘安定剤」 こ、これって必要なのかあ? いや、たしかに、あの濃い液体を固めるには寒天だけでは強度不足かもしれん。 栄養剤“エレンタール”はゼリーにするときは1包を水150ccで溶くのだが、これで300キロカロリーもある。おにぎりなら2個分だ。栄養のかたまりみたいな濃ゆぅい液体なんである。 それを固めてしまう、“増粘安定剤”とはいったい何者なのか? ◇ この添加物は、ほかに増粘剤、安定剤、増粘多糖類、糊料(こりょう)ともいわれるもので、とろみのある加工食品には必ずといっていいほど入っている。 効果は、モノとモノをくっつけること。 たとえばソースだったら、あのトロトロはほんとうなら野菜と果実のとろみでなければいけないのだが、 「へいスティーヴ、企業の都合でちょいと材料をケチりたいんだ。なにかいい方法はあるかい?」 「アニキ、いいものがあるのさ。この増粘剤という魔法の粉を入れてごらんよ」 「なんだいそれは。あっ! なけなしの野菜しか使ってないのに、みごとにとろみがついたぞ。まるで本物のソースみたいだ」 「アニキ、そんなこといったら本物のソースじゃないことがバレちまうぜ」 「おっといけねえ。安価で提供できる、お客様がよろこぶソースをつくることができたぜ!」 増粘剤が水分とほかの原料をくっつけ合わせることでこの効果が生まれるのである。 とろみは本来うまみであり、うまみとはすなわち栄養である。したがって本来とろみのあるものは栄養がある。山芋やオクラとかがそうだ。しかし栄養のあるものは本物の食品でなければならないゆえに、相応のコストがかかる。 そのコストをばっさり削ってくれるのがこの魔法の粉。これさえあれば、ほんとうはソースなんて、砂糖水に香料だけ加えてあとは着色料でてきとうに色をつけて、ほとんどタダで出来上がる。しかし原材料名に野菜がひとつも書いていないのはさすがにマズいので最低限の量を入れてあるのだ。ちなみに、原材料名を表示する義務がない弁当用のちっちゃいソースのパックとかインスタント焼きそばのソースは、ほぼ砂糖とこの増粘剤である。 このようにたいへん便利なので、加工食品は増粘剤だらけだ。 残念だが豆乳(調整豆乳)にも入っている。豆乳でいちばん売れている「紀文 調整豆乳」の原材料名をみてみよう。 「大豆(カナダ産)(遺伝子組み換えでない)、砂糖、米油、天日塩、乳酸カルシウム乳化剤、糊料(カラギナン)、香料」 しっかり“糊料”が入っている。これが増粘剤。 「やあスティーヴ、どうして豆乳にも増粘剤が必要なんだい?」 「アニキ、必要ってことはないけどさ、考えてごらんよ。野菜を使わなくてもとろみたっぷりのソースができるんだぜ。豆乳にこいつを使えば……どうだい?」 「やあスティーヴ! これってマジ豆乳なのかってくらいうすい豆乳なのに、とろみがついたら格好がついたよ」 「ついでに“米油”も入れておいたぜ」 「スティーヴ、なんだいこれは」 「油だからね、こいつもとろみづけさ。それと、豆乳がうすくて足りないコクを加えることもできるぜ」 「でもでも、水と油じゃ、混ざらないんとちゃうのお?」 「アニキ、そこは“乳化剤”さ。こいつを入れてごらんよ」 「あっ! うすい豆乳と油が一瞬で混ざって……すごいよスティーヴ! みごとなとろみの、まるで本物の豆乳、おっといけねえ、安価で提供できてお客様がよろこぶすばらしい豆乳ができたよ」 豆乳がうすい証拠として、最後に“香料”まで加えてある。この豆乳はおいしくないとメーカー自身が認めているわけだ。 「やあスティーヴ、こんどは何に魔法の粉を入れてるんだい?」 「アニキ、これはスーパーで奥様がたに人気の、ゆでうどんさ」 「うどんんん? なんでまた、うどんにまで増粘剤を入れるのお?」 「アニキしらないのかい。添加物ってのは一つの薬品にいろんな用途があるのさ。アニキ、こっちが増粘剤を入れていないまともな、おっと、効率の悪いうどん。こっちが増粘剤を入れたうどんさ。食べ比べてごらんよ」 「もぐもぐ……。あっ! 増粘剤のほうがシコシコしてる!」 「だろ? いまどき、うどんのシコシコ感は手間ひまかけて小麦を練ってる時代じゃないぜ。これなら職人さんはいらない。パートのおばちゃんでも高校生のバイトでもできるぜ」 「すごいよスティーヴ! ついでに使う小麦も減らせない?」 「減らせる、減らせる。ソースや豆乳と同じ理屈さ。ちょっとくらい水を多くしても、うどんっぽく固まってくれるぜ」 「儲かりまっか」 「儲かりまっせ」 「ところでスティーヴ、この魔法の粉、いったいどうやって作ってるんだい」 「ああ、これ? 増粘剤ってのはいくつか種類があるんだけど、おいらが今日持ってきたのはキサンタンガムといってね、遺伝子組み換えトウモロコシのデンプンを遺伝子組み換え細菌に食わせて吐き出させたものさ」 「おえーっ! ぺっぺっ。キモ! ひどいじゃないかスティーヴ、先に言ってよ。ちょっと食べちゃったよ」 「ごめんごめんアニキ、じゃあ、こいつは持って帰るから」 「待て。あるだけ置いていけ」 ◆ 編集後記  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ねんのため、紀文の無調整豆乳のほうは品質がよくて、しかもおいしいです。なんでこの心意気で調整豆乳を作れないかなあ。 って、メーカーの悪口ばかり書いたけど、1円でも安けりゃそれを善とする消費者の声に応じているだけでもあります。 ◆このブログはメールマガジンの記事をアップしたものです。 最新の記事は、メールでお送りしています。 無料購読するには今すぐここをクリック |