税と社会保障一体改革の本質/年金推計公表を巡る議論から見えてくること
[2012年02月03日(Fri)]
結局、年金制度を抜本改革した場合の将来推計の公表を巡る議論は、以下のとおり、公表することになったようです。
野田政権 年金財源改めて試算へ 2月3日 4時3分 NHK
野田政権は、最低保障年金の創設などの新しい年金制度の財源について、先に国の研究所が発表した最新の人口推計などを基に、改めて試算=試みの計算を行うことにしており、試算が公表されないことに反発している野党側に理解を求めていくことにしています。
野田政権は、社会保障と税の一体改革を巡る与野党協議に向けて、公明党などの要求を踏まえて、前回の衆議院選挙で掲げた年金制度改革の全体像を示したいとしていますが、去年春に行った新しい年金制度で必要となる財源についての試算は、国民に誤解を与えかねないとして、当面、公表を見送りました。これに関連して、民主党の前原政策調査会長は、記者会見で「来年の通常国会に、年金を一元化し、最低保障年金を創設するための法案を出すことを計画している。それについての試算は、新たな人口動態も含めて、精緻に行わなければならない」と述べ、年金制度の抜本改革に向け、先に国の研究所が発表した最新の人口推計などを基に、改めて試算を行う考えを示しました。民主党は、厚生労働省のほか、民間のシンクタンクなどにも依頼して、複数の試算を作成し、内容を詳細に検討することにしており、党幹部は「まとまるまでに数か月必要になる」という見通しを示しています。野党側は、去年春の試算が公表されないことに反発していますが、民主党は、新たな試算を行うことに理解を求め、一体改革の協議を早期に始めるよう働きかけていくことにしています。
試算を公表しないというのは、ずいぶんと国民をバカにした話ですし、政治家としての自分たちの責任を放棄していることになります。
どんな政策であっても、変更をすれば、メリットとデメリットが生じます。
これをきちんと説明し、政策変更への理解を求めるのが政治家の仕事です。
当初はこれをやらないと言っていたのですから、各方面から批判が出るのは当然のことです。
図らずも、こんなことがあって、先日の日経新聞「経済教室」に掲載したもののベースとなっている政策提言「将来推計の抜本見直しを -日本の経済財政社会保障に関する将来推計の課題と将来像」にも関心をいただいています。
"お手盛り"の推計に基づく政策検討・立案・決定をいつまでも許していては、この国はまともな国にはなりません。なかなか容易なことではありませんが、関係者の理解を深め、まともな国にするための具体策の実現を進めていきたいと思います。
さて、今日は一連の推計公表を巡る話が、どうしてこういうことになるのか、そのウラを読み解いてみたいと思います。
先日のブログ「素案」をどう読むか/税・社会保障一体改革 [2012年01月13日(金)] にも書きましたが、いま政府与党が進めているのは『税・社会保障の一体改革』です。
『税・社会保障の一体改革』であって『税・社会保障制度の抜本改革』ではない
というのがポイントです。
間違い探しみたいですが、何が違うといえば、以下の二つです。
@社会保障の改革であって、社会保障制度の改革ではない
A一体改革であって、抜本改革でない
まず@について、詳しくお話してみましょう。
現在の税制・社会保障制度の最大の問題は、世代間格差と制度間格差の拡大、また、これに伴って制度間の狭間に陥り、セーフティネットを失っている方たちへの対応です。
具体的には、高齢者と若年層で便益と負担の差額が一人当たり一億円以上も差がついてしまっているという問題です。人口ピラミッドが逆三角形になっている構造的な問題もありますが、現在の税制や社会保障制度を放置していては、ますます拡大が進むばかりです。
もう一つには、これも世代問題となってきていますが、非正規雇用者と正規雇用の制度面で生じる格差の問題です。これは雇用の問題であると同時に、社会保障の問題でもあります。
これらの問題は"制度"改革を行わなねば解決できません。
現役世代が負担する保険料で社会保障をまわすというのは、世代間格差を大きくします。
年収の多寡に関わらず誰もが同じ金額を負担する人頭税型の国民年金保険料は制度間格差を助長しています。
いま議論されているのは、消費税率の引き上げばかりですが、本来であれば、税と保険料の関係の整理もきちんとされるべきです。
税は"公助"、企業負担は"共助"、自己負担保険料は"自助"を担うとしばしば言われますが、何が何に使われているのかよくわからない、いまのドンブリ勘定の制度では、その構造を理解することはできません。
人口構造が変わり、家族の形が変わり、働き方が変わったいまこそ、いまの時代にあった(もちろん、将来も見通した)税と社会保障制度を再構築すべきなのです。
もうひとつはAの問題(抜本ではなく一体改革)についてです。
当初、民主党が進めようとしていたのは「抜本改革」でした。その証拠に、一連の改革を進めるために民主党が設置した調査会(党において制度改正等、大きな政策変更がある際に臨時で設置される政策検討機関。ちなみに省庁別に恒常的に設置されるのが部門会議、自民党の場合は部会)の名称は"税と社会保障の抜本改革調査会"でした。
名は体をあらわすと言いますが、当初は"抜本"としていたにも関わらず、いつのまにか"一体"に替わってしまったのです。
これは@でも書いたように、根本問題や制度改正を避けて、どこの役所の口車に乗ったのか、ちがう話になってしまったということです。
けっきょく、いま、政府与党が示している"一体改革"は、高齢者3経費(医療・介護・年金)+少子化対策で財源不足に陥っている状況を解消することだけを目的とするものとなりました。
加えて、当初は財源不足を補うことを狙いとしていましたが、"社会保障の機能強化"と称して数々のバラマキを含めたため、結果としては、税率引き上げ分のほとんどがバラマキに回され、借金の返済には殆ど使われないという、これまたおかしな状況に陥っています。
そんな事情を反映し、素案に示されたのは年金制度の抜本改革については頭出しだけとなり、具体的な改革案を示すことは先送りされることとなりました。
そうなれば、将来推計についても同じで、制度改革をやるつもりはありませんから、前提はあいまいで、現時点で公表できる(政策議論ができる)レベルのものはないのかもしれません。
(レベルはともかく試算は確かにあるという話もありますが・・・)
超党派協議を進めるための方策とはいえ、あまりに稚拙なやりとりとなってしまいました。
こうした稚拙なやり方のために、"抜本"改革の議論が停滞するようなことがあっては、国の大方針を誤ることになります。
以上のように、いまの政府与党案は直面する課題を避けたその場しのぎのものです。
何度も申し上げますが、いまやるべきは、世代間格差と制度間格差等、現行制度によって生じている問題を解決することです。
与野党が正しい問題意識の下、政府与党が提示する案の問題点を真摯に議論し、あるべき制度改革に向け進むようにしていかねばなりません。
野田政権 年金財源改めて試算へ 2月3日 4時3分 NHK
野田政権は、最低保障年金の創設などの新しい年金制度の財源について、先に国の研究所が発表した最新の人口推計などを基に、改めて試算=試みの計算を行うことにしており、試算が公表されないことに反発している野党側に理解を求めていくことにしています。
野田政権は、社会保障と税の一体改革を巡る与野党協議に向けて、公明党などの要求を踏まえて、前回の衆議院選挙で掲げた年金制度改革の全体像を示したいとしていますが、去年春に行った新しい年金制度で必要となる財源についての試算は、国民に誤解を与えかねないとして、当面、公表を見送りました。これに関連して、民主党の前原政策調査会長は、記者会見で「来年の通常国会に、年金を一元化し、最低保障年金を創設するための法案を出すことを計画している。それについての試算は、新たな人口動態も含めて、精緻に行わなければならない」と述べ、年金制度の抜本改革に向け、先に国の研究所が発表した最新の人口推計などを基に、改めて試算を行う考えを示しました。民主党は、厚生労働省のほか、民間のシンクタンクなどにも依頼して、複数の試算を作成し、内容を詳細に検討することにしており、党幹部は「まとまるまでに数か月必要になる」という見通しを示しています。野党側は、去年春の試算が公表されないことに反発していますが、民主党は、新たな試算を行うことに理解を求め、一体改革の協議を早期に始めるよう働きかけていくことにしています。
試算を公表しないというのは、ずいぶんと国民をバカにした話ですし、政治家としての自分たちの責任を放棄していることになります。
どんな政策であっても、変更をすれば、メリットとデメリットが生じます。
これをきちんと説明し、政策変更への理解を求めるのが政治家の仕事です。
当初はこれをやらないと言っていたのですから、各方面から批判が出るのは当然のことです。
図らずも、こんなことがあって、先日の日経新聞「経済教室」に掲載したもののベースとなっている政策提言「将来推計の抜本見直しを -日本の経済財政社会保障に関する将来推計の課題と将来像」にも関心をいただいています。
"お手盛り"の推計に基づく政策検討・立案・決定をいつまでも許していては、この国はまともな国にはなりません。なかなか容易なことではありませんが、関係者の理解を深め、まともな国にするための具体策の実現を進めていきたいと思います。
さて、今日は一連の推計公表を巡る話が、どうしてこういうことになるのか、そのウラを読み解いてみたいと思います。
先日のブログ「素案」をどう読むか/税・社会保障一体改革 [2012年01月13日(金)] にも書きましたが、いま政府与党が進めているのは『税・社会保障の一体改革』です。
『税・社会保障の一体改革』であって『税・社会保障制度の抜本改革』ではない
というのがポイントです。
間違い探しみたいですが、何が違うといえば、以下の二つです。
@社会保障の改革であって、社会保障制度の改革ではない
A一体改革であって、抜本改革でない
まず@について、詳しくお話してみましょう。
現在の税制・社会保障制度の最大の問題は、世代間格差と制度間格差の拡大、また、これに伴って制度間の狭間に陥り、セーフティネットを失っている方たちへの対応です。
具体的には、高齢者と若年層で便益と負担の差額が一人当たり一億円以上も差がついてしまっているという問題です。人口ピラミッドが逆三角形になっている構造的な問題もありますが、現在の税制や社会保障制度を放置していては、ますます拡大が進むばかりです。
もう一つには、これも世代問題となってきていますが、非正規雇用者と正規雇用の制度面で生じる格差の問題です。これは雇用の問題であると同時に、社会保障の問題でもあります。
これらの問題は"制度"改革を行わなねば解決できません。
現役世代が負担する保険料で社会保障をまわすというのは、世代間格差を大きくします。
年収の多寡に関わらず誰もが同じ金額を負担する人頭税型の国民年金保険料は制度間格差を助長しています。
いま議論されているのは、消費税率の引き上げばかりですが、本来であれば、税と保険料の関係の整理もきちんとされるべきです。
税は"公助"、企業負担は"共助"、自己負担保険料は"自助"を担うとしばしば言われますが、何が何に使われているのかよくわからない、いまのドンブリ勘定の制度では、その構造を理解することはできません。
人口構造が変わり、家族の形が変わり、働き方が変わったいまこそ、いまの時代にあった(もちろん、将来も見通した)税と社会保障制度を再構築すべきなのです。
もうひとつはAの問題(抜本ではなく一体改革)についてです。
当初、民主党が進めようとしていたのは「抜本改革」でした。その証拠に、一連の改革を進めるために民主党が設置した調査会(党において制度改正等、大きな政策変更がある際に臨時で設置される政策検討機関。ちなみに省庁別に恒常的に設置されるのが部門会議、自民党の場合は部会)の名称は"税と社会保障の抜本改革調査会"でした。
名は体をあらわすと言いますが、当初は"抜本"としていたにも関わらず、いつのまにか"一体"に替わってしまったのです。
これは@でも書いたように、根本問題や制度改正を避けて、どこの役所の口車に乗ったのか、ちがう話になってしまったということです。
けっきょく、いま、政府与党が示している"一体改革"は、高齢者3経費(医療・介護・年金)+少子化対策で財源不足に陥っている状況を解消することだけを目的とするものとなりました。
加えて、当初は財源不足を補うことを狙いとしていましたが、"社会保障の機能強化"と称して数々のバラマキを含めたため、結果としては、税率引き上げ分のほとんどがバラマキに回され、借金の返済には殆ど使われないという、これまたおかしな状況に陥っています。
そんな事情を反映し、素案に示されたのは年金制度の抜本改革については頭出しだけとなり、具体的な改革案を示すことは先送りされることとなりました。
そうなれば、将来推計についても同じで、制度改革をやるつもりはありませんから、前提はあいまいで、現時点で公表できる(政策議論ができる)レベルのものはないのかもしれません。
(レベルはともかく試算は確かにあるという話もありますが・・・)
超党派協議を進めるための方策とはいえ、あまりに稚拙なやりとりとなってしまいました。
こうした稚拙なやり方のために、"抜本"改革の議論が停滞するようなことがあっては、国の大方針を誤ることになります。
以上のように、いまの政府与党案は直面する課題を避けたその場しのぎのものです。
何度も申し上げますが、いまやるべきは、世代間格差と制度間格差等、現行制度によって生じている問題を解決することです。
与野党が正しい問題意識の下、政府与党が提示する案の問題点を真摯に議論し、あるべき制度改革に向け進むようにしていかねばなりません。



