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「価値を創造する助成へ」マイケル・E・ポーター書評 〜その2 [2010年04月05日(Mon)]

つづきです。

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第4章 戦略(財団には戦略が必要)
企業の戦略→競合するどの企業よりも、顧客に対してより大きな価値を生み出すか。競合よりも低い費用で同じ価値を生み出すか、同じ費用でより大きな価値を生み出さねばならない。
財団も同じ。フィランソロピーのための少ない資源を活用して、社会に貢献するというビジネスを行っている。
他の方法(個人や行政)と比べてより少ない資本で同等の価値を生み出すか、同じ費用でより大きな社会利益を生み出して始めて、財団は価値があることになる。

【戦略の立て方(戦略の原則)】
@目的を正しく設定する(目的は、特定の分野における、より高い事業成果)
より高い事業成果
    ↓
まわりも高い社会的効果を得る
    ↓
財団の価値

他の手段(他の財団や個人や行政)と比較した正確な評価を得る事はできないが、自らの事業成果を測定し、成果目標を自らに課す事はできる。

助成財団は他の組織(助成先)を通じてのみ価値を創出できる。

財団にとっての成功=すべての助成先を一つの集団とみなし、常に平均よりも高い成果を出すこと。

資金提供することが目的なのではなく、高い事業成果を得る事を目的とし、結果の測定と目標の設定を行う。

A活動領域を特定する(戦略は独特のポジショニングによって決まる)
どこでどのように成果を生み出したいか。生み出せるか。
・自分たちの財団の文化や価値観=やりたい事
・専門能力や経営資源=可能な事
・他の財団と比較した強み弱み。今存在する社会問題=おかれている状況
を考慮した上で、他と比較して自財団が最高の価値を生み出せる事。これが設定すべき活動領域。

→坂本竜馬の名言『世に生を得るは事を成すにあり』
自分の人生をすべて賭けるにふさわしい「事」それを特定するのと、きっと同じ意味。


B活動領域に対して効果的な運営をする(戦略は独特の活動に始まる)
助成業務(選考方法、助成金の規模、基幹、スタッフや理事の構成、etc)は、活動領域に適応していなければならない。

Cやらない事を明確にする(活動領域の特定にはトレードオフが必要)
自らの事業において卓越するには他の領域での機会を放棄しなければならない。しかし、あちこちから支援を求められ、しかもそれが(効果は薄くとも)何かの役には立っているように見えて、その上株主総会などの結果の説明責任もない財団には特に難しい事だ。

→確かに、「することを明確にする」のではなく、「しない事を明確にすること」が戦略です。でなければ「事は成せない」という事です。(竜馬づいててスミマセン)

第5章 現状(現実の状況)
・ポジショニングが出来ていない。
助成の75%以上を1つの分野で行っている財団は9%未満。助成の90%以上を1つの分野で行っている財団は5%

・事業成果を高められていない。
助成先を支援する十分な時間を持っていない。スタッフ1人が担当する事業は年7件以上。助成先の事業成果の改善にあてられる助成金は2.2%

・助成の95%が単年度助成で長期的な視野が持ちにくい

・研究調査に対する助成は8.8%で、基礎的な医療や科学分野が中心で、研究やリサーチ(一定の課題に対して異なる取り組みをした場合の相対的な成果の調査など)にはほとんど資金提供していない。

助成による成果の評価が全面的に欠落
多くの財団が、「評価に資金を使うべき」「過去の助成成果を評価することが将来の助成を改善する」という考えに否定的な感情を持っている。
財団スタッフの評価基準では、助成前の分析といった文章上の手順(事務手続き能力)が重視され、社会での成果実現度はほとんど重視されない。

【評価の課題】
・資金が計画通りに使われたかという報告に限られていて、社会的な効果の測定を試みていない
・評価が助成先による自己評価
・プログラムの社会的効果測定は、他の助成と切り離して助成先ごとに評価される。そのため、財団の全体的な目的の達成度を反映していない

評価なくして事業が成功しているかどうかを知ることは決してできない。事業成果の評価なしに、「より高い事業成果を追求する」ことは絶対にできない。

第6章 おさらい(新しい課題に取り組む)

多くの財団がすでにこれまでの方向に向かいつつある。しかし達成している財団はまだない。

実現のためには、ガバナンス(財団の統治体制)を修正する必要がある。
その変革の責任は、財団と社会の資金の使途に責任をおう受託者である、理事と管理職にある。

【変革実現のためのステップ】

@以下の方法で戦略を立てる

1.活動領域を特定
最も重要な問題を特定することではない。重要な事はたくさんある。
大切なポイントは、「自財団がどれだけ効果的に解決に貢献できるか」だ。

2.過去の助成を分析
助成分野の先行事例から学び、最近の動向や他の組織の状況から、自財団が他組織の活動を補強できないか、問題の根本原因を発見できないか。

3.強み弱みを認識
自分たちの財団が過去に最も大きな成果を生んだ経験から、他の組織よりも最も効果的にかつを創出できる強みを見出す。

A戦略に適した形に、助成業務や組織管理システムの再編成を行う。
・特に、成果測定のための評価技術の発展はマスト
・助成の手続きや承認や資金運用などの事務機能に時間を取られないような、戦略の立案と成果の評価に重点を置く仕組みを検討する

これらにより、目的と戦略と評価制度が整うことにより、以下の、あるべき組織が実現する。
 スタッフ→理事会で決定した基準に基づき個々の助成の決定
 理事会→活動領域の研究、戦略立案、スタッフの業績評価

最後に・・

事業成果の改善によって、財団は
・社会セクターの運営習慣を変革する先導的な役割を果たせる
・フィランソロピー活動が「私的な良心的行動」から「専門的な領域」へ発展するうえでの先導役も果たせる

財団は、社会への説明責任を受け入れ、価値の創出という義務を果たすことを実現せねばならない。
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感想:
私はコンサル出身なので、こうゆう正論を振りかざすものに抵抗がありませんが、普通は受け入れられにくいのだろうなぁと思いました。
でもやはり、ここに書いてある事は正しい原則だと思うので、困難でも近づく努力をしていかなければならないと思います。
組織に限らず、個人の生き方としても大切な事だと思いました。

竜馬名言:
「何の志もなきところにぐずぐずして日を送るは、実に大馬鹿ものなり」
(最近、竜馬で高まってしまってるので、お許しを・・)


今回この本を読むにあたって、難しそうだったので、あえて書評を書いてみることにしました。薄い冊子なのですが、正直すごくキツかったです。。


「価値を創造する助成へ」マイケル・E・ポーター書評 その1 [2010年04月05日(Mon)]

助成機関の目指す姿はどうゆうものなのかを考えていたら、ユースビジョンの赤澤さんがバイブル的な本を紹介してくれました。
「価値を創造する助成へ」マイケル・E・ポーター(※)
2000年にIIHOE川北秀人さんが監訳をされたものです。

マイケル・E・ポーター
ハーバードビジネススクールの教授で経営学者。ビジネスフレームワークの基本中の基本である、「バリューチェーン」「5フォース」を提唱し、ビジネスの生みの親と呼ばれる人です。

気合いで書評を書きます。
色ついてる所だけ飛ばしよみでも概略把握できます。

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第1章 経緯(価値を創造する助成へ)
財団には、個々の寄付者や政府に比べ、少ない資源をより有効に活用できる、潜在的な可能性がある。にもかかわらず、社会に対して最大限の価値を創出することを戦略的に考えている財団は多くない。成果の評価には、ほとんど努力されていない。慈善的な使命には事業の評価は関係ないことだとと考えている。

第2章 あるべき姿(価値を創造する義務)
財団は財産の5.5%しか助成していない。また、財団を通して事業を行う場合、余計に、「財団自身の管理費用」「受給者に課せられる管理負担」がかかる。資金分配として財団は費用のかかる方法。
ただ、財団はその永続性により、社会課題の分野で長期的視野を持てる。これにより、個人の資金提供や政府の資金に比べて、大きな社会的成果を実現できるはず。これが財団の価値。

第3章 実現方法(他組織を通じた価値の創出)
@最良の助成先を選ぶ →助成金額に対する経済価値:1倍
財団はビジネス界での投資顧問のように専門知識を生かして最も生産性の高い利用法に経営資源を投資することができる。
現状の財団は評価と選考が最も重要な任務であると認識しているにもかかわらず、将来の助成金配分の効果を向上するために、成果を測定している財団はほとんどいない。

→私がこの業界に来て一番驚いた点です。それだけ多額の金額を動かしている以上、当然成果評価がされ、それが来年の投資(助成)戦略や職員のボーナスに反映されていると思っていました。

A他の財団にシグナルを送る →助成金額に対する経済価値:3〜5倍
財団の評価や選択が効果的ならば、他の資金提供者(他の財団)を誘導することができる。これにより自身の資源以上に価値を拡大することができる。しかし、財団を支配する文化である「独立性」が障害となっている。

B助成先の事業成果を改善する →助成金額に対する経済価値:50〜100倍
資金配分者からパートナー(助成先の組織の能力を改善するという役割)へ転じたとき、さらなる価値を創出できる。
 事例1:
デイビッド&ルシル・パッカード財団では、地域活性で関心と観光客を集める事に成功した環境系の団体に「利益を得るためのマーケティング能力」が欠けている事を見抜き、マーケティングを教えるコンサルタントを助成した。これにより「継続的な収入構造」という提供した資金をはるかに超える価値をもたらした。
 事例2:
チャールズ&ヘレン・シュワブ・ファミリー財団は、他の2助成財団と共に、同カテゴリの16団体の成長に取り組むためのプロジェクトに参加した。そのうち3つの団体が合併により、より効果的な経営ができると判断し、助成先と共に合併を実現させ、課題解決のための調査を行った。

C知識と技術の水準を高める →助成金額に対する経済価値:1000倍以上
社会課題の取り組み方の手法や体系の開発に資金提供する。知識の躍進の追求や先駆的なプロジェクトの確立だけでなく、それを成果に結び付ける活動が価値を生み出す。

 事例:フォード財団とロックフェラー財団の共同助成により、収量を3倍にする小麦の新種を開発。独自の研究機関を発足し、この成果を発展途上28カ国の組織へ広めた。
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次の記事に続く。。