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オバマの中間選挙大敗とユーラシア外交と日本への影響 [2010年11月04日(Thu)]

米国中間選挙で与党の民主党が歴史的な大敗を喫した。オバマ大統領も負けを認め、shellackingという言葉を使っている。これはスラングで「ボロ負け」ということだ。シェラックとはバイオリンなどに塗装されるニスの中にふくまれる樹脂で、ラックカイガラ虫という虫の分泌物ということだが、「ボロ負け」という意味との因果関係は不明だ。(だれか教えてください。)オバマ政権の弱体化と引き換えに、また一つ英語のボキャブラリーが増えた。

ユーラシア外交の関心でみれば、まず重要なことは、オバマの対ロシア外交、特にロシアとのリセット、および「核なき世界」に向けての核軍縮政策について直接のダメージがあることだろう。なぜなら、ロシアとのリセットとの肝であり、すでに両政府が署名している新戦略兵器削減条約(新START)の批准には、上院の三分の二、つまり67議席の賛成が必要だからだ。上院外交委員会はすでに9月16日、米国とロシアの新たな新STARTの批准を14対4の賛成多数で承認し、上院の採決を待つばかりの状況にある。

今回、上院で与党民主党はかろうじて過半数を維持したが、59議席から大幅に議席を減らしたので、(まだ確定してないが52議席+ぐらいになるだろう)批准が遅れれば採決は困難が予想される。おそらく、今回の中間選挙で当選した議員で新しい議会が始まる前に、古い議席での議会(いわゆるレイムダックセッション)が開かれるので、ここで駆け込み採決をすることが予想されている。しかし、それがうまくいったとしても、オバマ政権が「核なき世界」を目指すための包括的核実験禁止条約(CTBT)の上院批准はきわめて困難になった。

それでは日米関係や日本には直接どういう影響があるのか。この質問は私のところにも頻繁によせられる。11月3日付の毎日新聞の二面の「日本冷静に受け止め」という記事に私の見方が掲載されている。「(オバマ政権の)対日政策の大きな変化はないだろうが、普天間問題など中途半端になっている問題について、日本の民主党政権が日米同盟重視の行動を起こすことが大事」というのが私の答だが、どのような背景からこう発言しているかを説明する必要があろう。

今回のオバマ政権の「ボロ負け」は、日米関係に直接の影響はあまりないかもしれないが、同盟国の米国政権の力が弱ることは日本にとっては深刻だと考えたほうがいい。特に今の世界では、日本も経験しているように、民主主義国家が民主的プロセスゆえにリーダーシップの弱体化に苦しみ、中国やロシアなどの台頭する民主的ではない新興パワーに対し、相対的に弱体化しているという皮肉な現象が起こっているからだ。そのような中で、民主国家として米国と利益を共有し、アジア地域の安定のカギとなる同盟国の日本の役割はかなり大きいはずだ。

例えば、80―90年代の日米貿易摩擦の頃の日本は、米国の政治の変化に日本はどう振る舞うか、という受動的なことだけを考えていればよかった。しかし、日本が本当に自国の生き残りに真剣であるのなら、オバマ政権の弱体化をアジア地域と世界の不安定要因と理解し、日本がより積極的に責任を果たしていく覚悟を示すべき時期にきていると思う。自らの生き残りのためにも、日本人は日米同盟とアジアの安定への責任について、「受動性」や「お客様」意識から脱却すべき時期にきている。
メドベージェフ大統領の北方領土訪問のメッセージ [2010年10月08日(Fri)]

ロシアのメドベージェフ大統領が11月中旬に横浜で開かれるAPECのため訪日する前後、北方領土を訪問する公算が大きい、という報道がなされている。本当のことはまだわからない。日本が中国との尖閣諸島でのトラブルがあって、日本が過剰に反応している面も大きいからだ。実際、10月7日の参院本会議でも、菅首相は「現時点で具体的な計画は明らかにされていない」と述べている。最近ロシア大使館の関係者と話した私の友人も、むしろロシア側は日本での過剰反応に困っている様子だということだ。訪中したメドベージェフが歴史認識や領土問題で共同歩調をとっているように見えるからだろうが、ここで日本はナイーブに反応せずに、戦略的にしたたかに考えるべきだ。

そもそも、ロシアは昨年、鳩山政権が成立した際には、鳩山首相個人がロシアとの関係が深いこともあって対日関係の改善に大いなる期待を持っていた。しかし実質的には何も進まなかったため、失望しているのだ。実は、シベリアへのエネルギー開発投資や日ロですでに調印している原子力エネルギー協力等、ロシア経済への日本の持つ潜在力かなり大きい。しかも中国だけではなく、米国とEUも、しかも歴史的にロシアと敵対してきたポーランドまで、ロシアとの関係改善を進めてきており、世界では日本とイギリスだけが対ロ改善に取り残されている形になっている現状がある。菅政権は、中国との緊張関係があるからこそ、11月に訪日するメドベージェフ大統領時期に合わせ、ロシアに対して戦略的な一歩を踏み出すべき重要な時期を迎えている。しかもそれは同盟国の米国と足並みが揃う好機でもある。

オバマ政権がロシアとの関係を「リセット」したことでいかに外交選択肢を増やすことができたかは、最近出版された久保文明東京財団上席研究員と東京財団現代アメリカ・プロジェクトによる「オバマ政治を採点する」(日本評論社)の中の拙稿「対欧・対露外交―欧州・ロシアとの心理的な距離を縮め外交・安全保障政策の選択の幅を広げることに成功」という章をぜひ読んでみてほしい。私はオバマ外交の対露政策にはAマイナスという高い評価をしている。ちなみにこの本は外交だけでなく、経済・貿易から貧困・犯罪対策までそれぞれの専門家が幅広く評価しており、オバマ政治の評価を通して現在の米国と世界の状況を理解できるお勧めの本である。
お詫びと訂正ー防衛大臣は自衛隊員ではなかったのですね。ご指摘ありがとうございました。 [2010年08月31日(Tue)]

Joggeryukiさん、ご指摘ありがとうございました。
そのとおりです。

私は、自衛隊法の第二条第5項を見落としておりました。
ご指摘の部分は、

この法律(第九十四条の六第三号を除く。)において「隊員」とは、防衛省の職員で、防衛大臣、防衛副大臣、防衛大臣政務官、防衛大臣補佐官、防衛大臣秘書 官、第一項の政令で定める合議制の機関の委員、同項の政令で定める部局に勤務する職員及び同項の政令で定める職にある職員以外のものをいうものとする。

私が勘違いした部分は第二条第1項です。

この法律において「自衛隊」とは、防衛大臣、防衛副大臣、防衛大臣政務官、防衛大臣補佐官及び防衛大臣秘書官並びに防衛省の事務次官並びに防衛省の内部部局、防衛大学校、防衛医科大学校、防衛会議、統合幕僚監部、情報本部、技術研究本部、装備施設本部、防衛監察本部、地方防衛局その他の機関(政令で定める合議制の機関並びに防衛省設置法 (昭和二十九年法律第百六十四号)第四条第二十四号 又は第二十五号 に掲げる事務をつかさどる部局及び職で政令で定めるものを除く。)並びに陸上自衛隊、海上自衛隊及び航空自衛隊を含むものとする。

私はこれを読んで、防衛大臣は「自衛隊」に含まれるので、「自衛隊員」と誤解したわけです。でも、含まれているからといって、自動的に隊員とはいえないわけですね。

整理してみます。

防衛大臣や防衛副大臣、政務官、大臣秘書官等は、「自衛隊」に含まれるが、
「自衛隊員」ではなく、「自衛官」でもない。

防衛事務次官や防衛政策局長とかは「自衛隊員」だけれども、「自衛官」ではない。

統合幕僚長や航空自衛隊の1佐とかは「自衛隊員」で「自衛官」である。

こういう理解でいいでしょうかね?

本当、菅首相のことを「単に見識がない」とはいえないということを、はからずとも、身を持って証明してしました。法律って本当に複雑ですね。







「朝まで生テレビ」での徹底議論とアジア太平洋の地域安全保障アーキテクチャの東京財団報告 [2010年08月30日(Mon)]

8月27日(金)の深夜にテレビ朝日系の「朝まで生テレビ」に出演して「米中新冷戦?」というテーマで議論した。米中関係は、中国の南シナ海への影響力の拡大や韓国の哨戒艦「天安」の沈没をうけた米韓軍事演習をめぐって、緊張状態にあるといっていいだろう。しかし、同時に米中関係の経済の相互依存も深く、かつての「米ソ冷戦」とはまったく質が異なったものになってきている。

以上を踏まえての議論だったが、いい議論ができたと思う。その貢献者の一人が、東京財団の安全保障プログラムのプロジェクトリーダーでもある山口昇防衛大学教授だ。彼の自衛官としての長い経験と確かな国際情勢認識に裏打ちされた冷静な議論は全体の議論の流れをバランスのよいものにしたと思う。彼は、米中関係の緊張についても、中国の軍事の近代化についても、日本は今すぐにパニックになる必要はなく、現在の自衛隊の実力と日米同盟に自信を持って冷静になっていいという点と、同時に、今後20年先を見据えて、着実に日本も効果的な安保・防衛政策を取っていくべきだという意見を述べた。経済力についても極端に悲観的になる必要はなく、持っている実力はそれなりに大きいのだから、それをどう生かすかを考えるべきだということだった。他のパネルからも建設的な意見が多く、議論後の視聴者の反応も極めて妥当なものだった。過半数は日米同盟を維持・強化すべきだという意見であり、残りには日本の自主防衛を進めるべきだ、という意見が寄せられた。

番組内でこれについて発言する時間が限られていたのでここで確認したいが、日米同盟の維持・強化と自主防衛は相反するものではなく、むしろ私は両方すすめるべきものだと考えている。ここで私が考える自主防衛というのは「日米同盟を廃棄して日本だけで防衛力を作る」という意味の自主防衛ではない。それは財政的にも政治的にも不可能だからだ。しかし、日本が着実に主体性を持って自らの防衛力を高めることは、自国の安全と地域の安定に寄与することになる。かつての「自主防衛論」と区別するために「自主防衛の精神」といってもいいかもしれない。

そして、このような「自主防衛の精神」は米国との同盟に矛盾しないどころか、同盟強化策にもつながる。実は今年の6月に発表された米国の国家安全保障戦略(NSS)文書では、長期的には米国が現在のような世界での軍事力展開を維持することは難しいという率直な問題意識を提示し、同盟国が自国の防衛力を高める方向性を求めている。

さて、アジア全体をみれば、今後の鍵は中国を軍事的な敵にしないように誘導していくための方策である。そして、そのために日本が今からやるべきことは多い。例えば、アジア地域での安全保障協力体制の構築に日本が果たすべき役割がその一つだ。例えば、米国は南シナ海問題で中国をけん制するために、8月10日には、かつて激しい戦争を戦ったベトナムのダナン港にイージス駆逐艦ジョン・S・マケインを入港させ、軍事交流を行っている。

このような中で、今週、東京財団は「アジア太平洋の地域安全保障アーキテクチャ―地域安全保障の重層的構造―」という研究成果を発表する。本日8月30日(月)の16時から18時まで、日本財団ビル2階で公開研究会も開く。(席に余裕があるので参加希望者は今からでも参加できます)レポートは財団のウェブサイトにも今週中にアップされる予定だ。 
菅首相が批判されている「防衛相は自衛官ではない」ってみんな本当に知ってた? [2010年08月23日(Mon)]

8月20日付の日経新聞を読んだら、19日、菅首相は自衛隊の4幕僚長と意見交換の席で、「予習したら防衛相は自衛官じゃないそうですね」という「認識不足と受け止められない発言」をしたそうだ。

私は政軍関係(シビル・ミリタリー関係)を研究してきた人間だが、「防衛相は自衛官ではない」という命題は、私にとってはそれほど自明のことでもなかったので、菅首相と同じで「へえ―」と思ってしまった。むしろこの記事は不必要に菅首相の弱点を叩く「いじめ」の要素があるではないかと勘ぐってしまった。もちろん、菅首相が軍事に弱いのは明らかだが、一般の国民がどのぐらいこの件に関して基本的な知識を共有しているのだろうか?

例えば、以下の質問に答えてみてください。「防衛相は自衛隊員でしょうか?」答えは、Yes, 防衛大臣は自衛隊員だ。最後に添付した自衛隊法第二条に書いてある。もしこの質問のあとに、「防衛相は自衛官でしょうか?」と聞かれたら、ちょっと悩むはずである。正しく答えるためには、「自衛官」と「自衛隊員」の違いをきちんと認識しなければならないからだ。

私が菅首相の「防衛相は自衛官ではない」と聞いて「へえー」と思ったのは、ここの「自衛官」と「自衛隊員」の違いというトリッキーな部分を整理してピンとくるのに時間がかかったからだ。自衛官とはいわゆる「制服組」(憲法解釈はさておいて、国際法上あるいは国際通念上は軍人、英語ではミリタリー)のことで、大臣や政務官や内部部局という背広組の防衛省の官僚は、非軍人=シビリアンである。自衛隊員は「自衛官」と「自衛官以外のシビリアン」から成り立っている。

菅首相をはじめ、我々日本人全員が本当にきちんと理解しておくべきは、日本国憲法および近代の民主主義国家の理念においては、政策の決定の場において、ミリタリーに対して、国民の選挙の洗礼を受けているシビリアンの意思が優先されるべき、といういわゆるシビリアンコントロールの大原則である。それが、菅首相が改めて法律を調べてみた「総理大臣は自衛隊の最高の指揮監督権を有する」という自衛隊法の規定なのだ。さらに日本国憲法の第66条の第二項には、「内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない」と定められている。「文民」とはミリタリーでない人間を指す、シビリアンの訳語だ。つまり、現職の自衛官は総理大臣や大臣にはなれないのである。

しかも、誤解してはいけないのは、シビリアンの優位があるからといって、逆に専門家である制服組の意見を無視したり封殺したりすることも、民主主義国家にとっては健全なことではない。制服組は、国家の存続に関わる防衛の専門知識と技術を持ち、国民の生命を守る防衛というミッションに対し命を賭して遂行する大事な人達だからだ。菅首相は、政軍関係に造詣の深い自民党の石破茂政調会長に「制服組から意見を聞いたのか」と問い詰められて、自衛隊の4幕僚長との懇談となるのである。菅首相のこの素直な行動はむしろ評価されるべきだろう。「いじめ」のような記事の残念なところは、このような建設的な視点が欠落している点だ。そして、私は失言だとは思わないが、菅首相は今回のことをいい教訓にして、軍事・安全保障問題について、「自衛官」とのより良好な意思疎通を図るいい機会にしてほしいと思う。

そして、多くの政治家には菅首相を「他山の石」としてほしい。「いじめ」では国は良くならない。例えば、麻生元首相は漢字の読み方間違いで不毛な「いじめ」にあったが、彼は「政軍関係」や「安全保障」については立派な見識があった。政治における「焼き畑農業」をそろそろ止めないと国が滅びますよ。

自衛隊法 第二条  この法律において「自衛隊」とは、防衛大臣、防衛副大臣、防衛大臣政務官、防衛大臣補佐官及び防衛大臣秘書官並びに防衛省の事務次官並びに防衛省の内部部局、防衛大学校、防衛医科大学校、防衛会議、統合幕僚監部、情報本部、技術研究本部、装備施設本部、防衛監察本部、地方防衛局その他の機関(政令で定め る合議制の機関並びに防衛省設置法 (昭和二十九年法律第百六十四号)第四条第二十四号 又は第二十五号 に掲げる事務をつかさどる部局及び職で政令で定めるものを除く。)並びに陸上自衛隊、海上自衛隊及び航空自衛隊を含むものとする。
米国人の約二割がオバマ大統領をイスラム教徒だと思っているらしい [2010年08月20日(Fri)]

最近、米国のホワイトハウスが、「オバマ大統領はキリスト教徒で彼の信仰は日々の生活の重要な部分になっている」という内容のステートメントを発表した。日本からみると、「何をいまさら」という気になってしまうのだが、これには重要な背景がある。最近のピューリサーチセンターの世論調査では、米国人の回答者の18%がオバマ大統領はイスラム教徒だと答えているのだ。しかも、これは2009年3月の同様の質問の11%より着実に増加している。

このような背景を知ると、ニューヨーク・マンハッタンの9.11テロの跡地、グラウンドゼロにモスク(イスラム教寺院)を建設すべきかどうか、という点が米国内で大きな賛否を巻き起こしていることが理解できる。では、あれだけマスメディアが発達している米国で、大統領の宗教についての理解が進まないのか。そもそも、米国のメディアは日本に先駆けて多様化しており、今のアメリカにおいてテレビの三大ネットワークだけで日々の情報を入れている人などはいない。日本のような画一的な全国紙も読んでいる人は少ない。(数少ない全国紙「USAトゥデイ」などは、旅先のモーテルで仕方なく読むような新聞!)

多様化したメディアの中には、有名なラジオパーソナリティーのラッシュ・リンボーを代表とする保守派の論客の影響も強い。案の定、ラッシュ・リンボーは、今回のグラウンドゼロへのモスク建設を容認することで、オバマ大統領は非アメリカ人(日本風にいえば非国民)だということを明らかにしたと発言している。(What he is really saying is that by supporting the group’s right to build, President Obama has revealed himself to be un-American)

もちろん、このような反オバマ、反イスラムというような米国内の保守派の動向は、その対イスラム・中東政策にも大いに影響を与える。この夏に一時帰国していた米国在住の著名な日本人ジャーナリストの言葉が印象的だ。私が「11月の中間選挙に向けて、反オバマ勢力はどう影響するのですか?」と聞いたところ、「彼らは反オバマなのではなくて、オバマが嫌いな人達なんだ」という答えが返ってきた。このあたりの微妙なニュアンスは、今回の「オバマ=イスラム教徒?」問題の経緯をみると腑に落ちるところがある。

ブログ再開のお知らせ(今から2008年を振り返えると…) [2010年08月19日(Thu)]

最後にブログをアップしたのは、2年前の2008年の夏で、当時、グルジア侵攻と悪化する米露関係が大きなテーマでした。その後、米国ではオバマ政権が誕生し、日本でのも歴史的な政権交代が起こり、それぞれの政策を追いかけることに忙殺されて現在に至ります。その間、私はテレビ朝日系報道番組「サンデープロジェクト」のレギュラーコメンテーターや日経新聞ウェブ「日経ネットPlus」での「米国ポリシーウォッチ」等、他のメディアで発信したメッセージと重複も多く、東京財団のユーラシア情報ネットワークでは、分析レポートとオーバービューレポートの執筆に専念しておりました。最近になって「サンデープロジェクト」が終了したり、米国と日本の政権交代が一段落したりと、私にも余裕がでてきましたので、ブログを再開しようと思います。

2008年の夏から現在までの展開を考えるとなかなか趣深いです。たとえば、グルジア侵攻当時の「私」は、米露関係は「新冷戦」のような状況になっていくのか、それとも共有する「利害」が大きいので協力関係を続けていくことになるのか、という問題意識を持ってブログを書いています。その後の展開は、ユーラシア情報ネットワークでの一連のロシア担当の畔蒜研究員や私の分析などでもあきらかなように、オバマ政権が「リセット」以来、新START(戦略兵器削減条約)締結にいたるまで、緊張をはらみながらも協力関係を維持してきました。つまり、現在の米露関係は当時のマスコミが「新冷戦」と呼んだような関係とは程遠いものになっております。オバマ政権が対ロシア政策をどのように展開したか、という点については、東京財団の現代アメリカプロジェクトで「オバマ政治を採点する」(仮題)という本の出版をこの秋に予定しており、私は対ロシア政策と対欧州政策の評価を執筆しておりますで、ご期待ください。

それから、2008年の米国はまだブッシュ政権でしたが、2010年には民主党政権誕生の可能性も高く、2007年7月当時の「私」はCNAS(新米国安全保障研究所)という当時、ワシントンで新しく設立された民主党系の安全保障政策のシンクタンクの「創設記念コンファレンス」に出席してブログでその内容を報告しております。その後、共同創設者のカート・キャンベルはオバマ政権のアジア・太平洋担当国務次官補に就任してアジア政策の要となり、ミッシェル・フローノイは政策担当国防次官として、国防総省のグローバルな戦略策定の中心人物になりました。

オバマ政権の高官人事の詳細については、東京財団の現代アメリカプロジェクトで、久保文明上席研究員(東京大学教授)足立正彦プロジェクトメンバー(住友商事総合研究所シニアアナリスト)が「オバマ政権の主要高官人事分析」という米国人も驚くぐらい詳細な情報を出版しました。私などは、ワシントンのシンクタンク勤務時代の友人の政権入りをこの本を読んで知ったほどです。この内容は東京財団のウェブサイトでも読めます。しかも、わが東京財団はCNASとは、日米同盟についての共同プロジェクトを現在進めております。

過去2年というのは本当に大きな変化の時期だったということが、ブログをサボっていたことで、よく実感できました。自慢にはなりませんが・・・・
ロシア・グルジア武力衝突と米国 [2008年08月17日(Sun)]

今回のグルジアとロシアの武力衝突は、今後の世界秩序のあり方を大きく変えるだけの
インパクトがあるような出来事だと思います。まだまだ、現在の状況がどう落ち着くかはわからないのですが、まずは初動の段階での米国の動きの鈍さと影響力の弱さは、印象的でした。そもそもこれだけの事態になっているにも関わらず、ゲイツ国防長官が14日の会見で、ロシアが撤退しなければ「将来何年にもわたり米ロ関係に悪影響がある」と警告はしたものの、米国の軍事介入の可能性を否定していることは、ロシアに対する圧力としては、迫力不足だろうという気はします。とはいえ、米国にとって、ウクライナの将来も視野にいれれば、グルジアを見捨てるわけにはいかないでしょうし、おくればせながら米国はそれなりの動きを見せているようです。これに対して、ロシアの反発もあるでしょうから、今後も緊張が続くことが予想されます。少なくても、ロシアは今後の政治的目的達成を優位に運ぶための道具である軍を、簡単にはグルジア領内からは撤退させないような気がします。詳しくは今月分析レポートで取り上げるつもりですが、あらためて、コーカサス地方をめぐる米ロの複雑でやっかいな関係を実感しております。

ところで、スローなブッシュ政権やオバマ陣営とは対照的に、特にグルジアとの関係も近く、ロシアの民主化後退と周辺への覇権的な姿勢に再三警告を送ってきた共和党のマケイン候補の声の大きさが印象的です。これまでのマケインのロシア叩きは、どちらかといえば、KY(空気が読めない)的なものでしたが、今回の軍事紛争で、ぴたりと状況にはまってきたように思います。彼は、イラクへの増派についても、信念からKYな姿勢をとってきましたが、それがイラクの治安改善でぴたりとはまった経緯があります。これは彼の選挙には大いなるプラスです。ロシア・グルジア危機は、今後の大統領選挙の論戦にも影響を与えることになるでしょう。


ブッシュが魂に触れたプーチン大統領の瞳の中にマケインが見たものは? [2008年02月15日(Fri)]

米国の大統領選挙の予備選で、民主党はオバマ対ヒラリーの激戦が続いていますが、共和党はマケイン候補がほぼ指名獲得を決めたといっていいでしょう。ロシアは、マケインが共和党の大統領となるようだと、大変いやなことになりそうです。とにかくマケイン候補のロシア嫌いは際立っています。 分析レポートで、その背景をリサーチしてみましたが、一つ、マケインのプーチン批判で傑作なコメントを見つけたので、ぜひお伝えしたいと思い書き込みました。

2001年6月、スロベニアで初めてプーチン大統領と会談したブッシュ大統領は、よほど相性がよかったのか、天性の楽天性の成せる技なのか、プーチン大統領との記者会見で彼に対して極めてフレンドリーなコメントをしました。「私はプーチン大統領の瞳をのぞいた。彼はとても率直で信用できることがわかった。彼の魂に触れることができた。」

かたや昨年12月にボストン・ヘラルド紙のインタビューに答えたマケイン候補は、ロシアがイラン南部のブシェール原子力発電所に濃縮ウランを提供しようとしている態度に対して、「何度もいうようだが、次のG8にはロシアを招待すべきではない」と答えた後で、「私はプーチン大統領の瞳をのぞいた。三つの文字が見えた。KとGとBだ」と答えています。

国営イラン通信によれば、1月28日、ロシアからブシェール原発向けの濃縮ウラン5トンがイランに到着し、稼働開始に必要な計82トンの供給が完了したということです。

激戦のスーバーチューズデイをどうみるか? [2008年02月06日(Wed)]

大統領選挙の予備選が大変な激戦になっています(ブログがこれまで静かだった言い訳をすれば、今年の頭から、米国の大統領予備選に忙殺されており、先月には米国に行ってきました。)本日はいよいよ、天王山のスーバーチューズデイの結果がでます。民主党のヒラリーとオバマは、どちらが勝つかわからない大激戦。共和党はマケインが、ロムニーの追撃をかわして本選指名を獲得するのかどうか、という状況です。

この時点で、各候補の政策、特に外交政策を判断するのは至難の業でしょう。ただ、一ついえることは、本命の4候補とも、外交的・政策上は、穏健な現実主義者の傾向があるということだ。右派や左派にかたよりすぎた孤立主義者はいません。これはとりもなおさず第一次ブッシュ政権のユニラテリズムへの強烈な反発といえます。その意味で、これまでの米国とは、最も大きな変化をもたらしてくれそうなオバマ候補が、最も大きな勢いがあるのも、よくわかります。

このような変化のモーメンタムを考えれば、米国の対ユーラシア政策も、ユニラテテラリズムから現実的な方向に、大きく動いていくことが期待されます。例えば、米ロ間で激しく対立するミサイル防衛の欧州への配備にしても、ブッシュ政権とはニュアンスが変わってくるかもしれません。予備選の段階で、外交政策の話がでることはほとんどないのですが、このような問題意識を持って選挙戦を見ていけば、米国の変化への胎動を体感できるのではないでしょうか?
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