娘と息子の学校は、とにかく講演会がよくあります。保護者にもお誘いがあるので、今回もでかけてみました。今回の講師はトーマス・C・カンサさん。ワールドカップで盛り上がる南アフリカ出身のかたです。NGO団体ヒランガニ・ンゴタンドを主宰し、大阪市に住んでおられます。
彼は貧困のなかに育ち、11歳のころ初めて町に行ったとき、彼は昼食代を我慢して「Power of Black」という本を内容も知らずに買ってしまいました。その本はアパルトヘイト下の南アフリカでは黒人が買うことを禁じられた本でした。11歳の子どもだった彼は政治犯として逮捕され、警察で取調べを受けます。わけもわからず恐ろしい暴力にさらされ、拷問のような尋問をうけ、やっと開放されて家に戻ってからもPTSDのような症状に悩まされました。その後、その反動からかアパルトヘイト反対運動に身を投じ、まるで映画のシーンのように命からがらイギリスへ亡命しました。そこで、日本人の今の奥さんと出会い、現在は日本に住んで、南アフリカの子ども達を支援する活動をしておられます。日本で捨てられる車椅子を集め、自ら修理し、南アフリカの子ども達に送るのです。もう5000台以上の車椅子を送りました。
彼は、黒人であるというだけで、幼い頃不当に受けた暴力を「許す」と言うのです。「許す」ことは人間の力だといって。
彼は幼い頃とても貧しい村に育ちましたが、そこでは、みんなが物を貸し借りして生きていたと言います。だれかが、ジュースを買う。その人は周りの人に先に飲ませる。「みんな飲んだ?だいじょうぶ?」と聞いてから自分が飲む。それが、彼の育ったところで受けた教育だったそうです。また、「ものを大事にしなさい。ものを大事にしない人が家族や他人を大事にできますか?」という教育を受けていた彼は、日本のゴミ捨て場に捨てられているまだ使えるものたちを見てとても驚き、その驚きが捨てられる車椅子を南アフリカに送るという今の活動の原点になったそうです。
カンサさんは平野区の牧師さんとともに、公園に住むホームレスに食事を配るボランティアもしておられます。中学生が夜、ホームレスのテントに花火を投げ込んで火をつけたり、買っている犬を虐待したりするという事件がありました。南アフリカ人である彼が、「ぼくが、家に帰っている間にこんな事件がおきて、ごめんなさい。」と頭を地にすりつけて謝ったというのを聞いて、どうしようもない気持ちになりました。
なんで、この人はすべての人を許し、すべての人が幸せになれるように頑張っているんだろう。彼は私たちの持っている価値観をくつがえしました。だれもが、お金をためて、物をもって、幸せになれると思っているわけではない。カンサさんの育った村のように、みんなが貧乏。でも、ものを大事にし、大事にしているものを快く隣人に貸し、人も大事にして、ひどい目にあえば許し、子どもには正しいことを教え、幸せに暮らしている人たちもいるのです。同じ貧困のなかにいても、中学生に花火で大事なテントを焼かれた日本のホームレスとは天国と地獄くらいの差があるのではないでしょうか。
偶然の出会いでしたが、良いお話を聞けて本当によかったです。カンサさんは詩人でもあります。詩という道具で、彼の思想を伝えているのです。力強く、穏やかで、本当の強さと優しさを感じさせる人でした。