最後の授業 [2010年01月29日(Fri)]
先日22日金曜日、紙芝居とお話のボランティアさんがアンジュールの2階に来てくださいました。
なんと、ボランティアは溝辺ともの家の管理者をされていたSさんです ホーム長と同い年のSさんは、とても知的で温厚な方。 ホーム長と「ツートップ」で助け合いながら溝辺時代(まだアンジュールはありませんでした) を切り開いてこられたのです。 この日は柔らかく通る美声で"ごんぎつね"を読んでくださいました。 アンジュールのグループホームからも聞きに来られ、午後のひと時 皆で机を囲みます。 その後、Sさんのご友人が民話の「お話」をしてくださいました。 これまた上手な話し振りに一同聞き入っていました。 「私の知ったお顔がいくつかあります」 終わったあと、Sさん等を囲んでお茶を飲みながらおしゃべりです。 小規模のKさん、「感動しました」と涙ぐんでおられます。 「小さい頃は、紙芝居屋さんが自転車で回ってきて…カランカラン、とベルを鳴らすので その音で小さい子供が寄ってきて。水あめをなめながら見たものです。 昔は娯楽がなかったからね〜」 おしゃべりに花が咲きます。 以前、溝辺のデイサービスに通っていた古株のK・Mさんは 「お久しぶりです」とSさんに挨拶され 「まあまあ、よう寄ってくださいました」とにこやかにお返事。 「先日京都の北白川に行きました」 「ほう、そう!そらうちの近くやわ」相手に合わせておられます。 こうやって退職された方もボランティアに来てくださり、嬉しいなあと感じたのでした。 さて、26日に愛媛大学・理工学研究科教授・加藤敬一先生の最終講義を聴きに行ってきました。 題名は「人工細胞と共にー癌治療への利用を目指してー」。 長年人工細胞とがん治療のご研究に携わってこられた加藤先生。 ご自身の歩みをご紹介くださいました。 初めは界面活性剤に関心があったという加藤先生。 その研究から、化粧品や食料品にも使われているSPAN80ベシクルという物質に注目しました。 リポゾームまたはベシクルと呼ばれる脂質分子の薄い膜で取り囲まれた微小粒子は、 生体細胞のような構造を持っています。 中でも、SPAN80はリポゾームの価格の5000分の1から1万分の1であり、 膜融合能力も高くがん細胞と親しみやすく、正常細胞には結合しにくいという特性があります。 そこで加藤先生はこの人工細胞に抗がん剤を内包させ飛ばす、ということを思いつかれました。 名づけて「人工細胞を利用した癌細胞ミサイル攻撃」です。 ちょっと穏やかならざる響きですが、その名の通り、ミサイル装置を積んだ人工細胞は血管を通過してがん細胞を狙い撃ちしやっつけます。 これは人類にとって夢のような話だ、と思いました。 もし実用化されれば、今現在"不治の病"と闘って苦しんでいる方を救うことが出来るかもしれません。 昨年先生は特許を申請され、実現も夢ではなくなりました。 ともの家と加藤先生とのつながりは、ご友人であるみのりホームの寺川社長を通じ、 先生のお母様がともの家に入居されたことから生まれました。 皮肉にもお母様は癌にかかりお亡くなりになったのですが 先生には「もう少し早く、自分の研究が実用化されていれば…」という気持ちがあったそうです。 先生のご研究には、実際に肉親を失った悲しみや憤りがこめられています。 講義を伺いながら、感動がこみ上げていました。 文系の私には畑違いの分野であり、難しい理論にはとてもついていけなかったのですが、 先生の"原点"に触れ、そのあふれる情熱と優しさとを感じました。 研究を通じ、先生は恩師や同僚、生徒との交流を暖め、 パソコンがない時代には図を手書きしながら勉強を深めてこられた。 その努力は並々ではなかったでしょう。 研究室に寝泊りし、時に酒を飲み励ましあって来られた姿が垣間見られました。 また山の好きな先生は、ワンダーフォーゲル部の顧問として 長年学生さんたちと山に登って来られました。 多くの学生さんに慕われ、彼らををとても大事にされています。 私の大学時代の経験から言うと、自分の業績や進退には心血を注ぐのに、 それ以外のサークル活動や学生指導には極力関わろうとしない教授が多かったです。 加藤先生は、そうではない、「心」ある先生なのだと改めて実感しました。 現在、研究は大阪大学と合同で続けられ、スイスのピーター博士を初めとして国際的な学者たちの賛同を得、企業からの関心も高まっています。 早くその「夢」が実現する日が待ち望まれます。 ドーテの小説ではありませんが、「最後の授業」を拝聴できたことは喜びでした。 加藤先生にそうであったように、私にとっても色々な人との出会いが今の自分を創っているのだ、と感じます。 お母様のことから、先生夫妻はともの家の協力者となってくださり、いつも介護という地平にいる私たちを励まし、応援してくださいます。 その坂の向こうに「白い雲」がある、と。 加藤先生の見ている白い雲、私も真っ直ぐに見つめて自分の道を歩きたいと思います。 |