ノブの看板ぶらり旅

普段どれほど危機感を抱いて生きているだろう？

日本という安全な場所では想像もつかない恐怖は世界のあちこちに転がっている。

それだけ生きるということに必死なのだ。

自分の身は自分で守らなければならない。

そんなことを思わせてくれるような経験だった。



ホテルに無事つけたことで緩んでしまった危機感。

ベッドに横になると緊張と不安から解放されるかのように眠りに落ちた。

・・・

AM６：００

ルルルルル

｢ん？電話？｣

ガチャ

｢Hello？｣

｢Good morning sir.｣

ああ、モーニングコールかぁ

｢Thank　you｣

そう言って電話を切る。

さてさてもう一眠りくらいすっかな

ルルル　ルルル　ルルル

｢ん？また電話？？｣

ガチャ

｢Hello？｣

｢ハロー今アナタ何シテタノ？｣

片言の日本語で女性からの電話だった。

ホテルの日本人スタッフかな？

｢寝テタ｣

なぜかオレも片言で返すｗ

｢何時ニソコ出ルノ？｣

｢ん？10時くらい・・・？｣

そこでちょっと考える。

ホテルスタッフだとしても名前くらい名乗るんじゃないか？

｢すいません。あなたは誰？｣

｢ハ？私昨日会タデショ？｣

会ってねーよ。

オレが昨日会ったフィリピン人はタクシーの運ちゃんだけだ。

おかしい。

｢悪いけど、わからないよ｣

すると・・・

｢ハ？意味ワカラナイ｣

意味がわからないのはこっちだっつーの！

すると突如彼女はこう言った。








｢アナタ、イシヅカノブヒロデショ？｣







？？？





ちょっと待て！

なぜオレの名前を知っている？

一気に目が覚め、体中に鳥肌が立つ。

このまま日本語だと相手ペースだと思い、英語で話す。

｢(あなたの名前は？)｣

｢アイリン｣

やはり知らない。

｢(会社はどこ？)｣

｢メトロポリタン｣

メトロポリタン？

昨日の送迎タクシーだ！

しかし、オレは女の人には会っていない。

嘘かもしくは情報が漏れてるのか？

頭を必死に動かしていると・・・

｢私今カラソコニ行ク｣

は？

｢(なんで来るの？)｣

｢私ノ親戚ソコニ行ク｣

｢(だからなんでここに来るの？)｣

｢マッサージ｣

？？？

またしても全身に寒気が走る。

｢(必要ない！)｣

ガチャン！

受話器を置く。




鳥肌は立ったまま。

怖いのは名前が知られていること。

相手がオレの部屋番号まで知っていること。

そして、この恐怖を誰かに話すことができないこと。

結果、一人パニック状態の頭を少しずつ整理してみた。

情報は漏れている。

おそらく送迎タクシー。

そうでなければ空港からつけられていたか。

どっちにしろ10時に出るのは危険だな。

早く出たいけど、さすがに早い。

もう少し寝るか。



・・・



眠れない。

こんな恐怖は最近体験してなかったな。

｢これがフィリピンか｣

一人で声に出してつぶやいてみる。

やれやれ、まだ始まってもいないのに。

仕方なく本を読み、落ち着いたところで少し眠れた。

もう一度起きると急いでホテルを出たのだった。

こうして、思わぬ形で一人旅編はスタートする。

つづく。