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「2018 日中海洋対話会議」に出席 [2018年08月01日(Wed)]
7月30日(月)及び31日(火))の両日、東京で「2018 日中海洋対話会議〜東アジアにおける日中協力に対する展望〜」(笹川平和財団海洋政策研究所・中国南海研究院主催、日本財団協力)が開催された。

東アジアの海洋問題への協調的取り組みを目指すこのトラック2レベルの会議は、2016年6月の「日中対話:東アジアの海洋問題への協調的取組みを目指して」(於東京。本ブログ2016年6月22日参照)、2017年11月の「2017日中海洋対話会議」(於海口、本ブログ2017年11月11日参照)に次いで3回目である。

折から2018年は、日中平和友好条約の締結40周年なので、今回の会議は、外務省の日中友好条約締結40周年事業の認定を受け、中国のCと日本のJをハート形に組み合わせた「CJハート」マークを掲げて行われた。

前回の「2017日中海洋対話会議」は1日だけだったが、前回終了時の申し合わせにより今回は2日間にわたって行われた。

会議は、冒頭に主催者・来賓の挨拶があって始まった。
開会セッションに続いて、次の4つのセッションが行われた。

S1 日中両国における海洋政策の動向
日本側は、第3期海洋基本計画等の内容を紹介し、中国側は海洋分野の政策と国家機構改革後の海洋行政体制の変化について紹介し、そのあと総合的なガバナンスの確立等について意見交換。

S2 日中両国におけるブルーエコノミーの発展
両国におけるブルーエコノミーの発展状況とその特徴、国の政策、地方での取り組みを紹介し、ブルーエコノミーの定義等について意見交換。

S3 日中両国における漁業養殖の技術開発
日本における赤潮や魚病問題などの漁場環境問題への対応、中国における新たな海洋牧場の整備を紹介し、持続可能な漁業・養殖の実現等について意見交換。

S4 日中両国におけるSAR(捜索・救助)への協力
両国における海難事故発生時の対応システムについて紹介し、東アジアの海での海難事故が発生した場合の救助活動及び情報共有のあり方について意見交換。

各セッションともそれぞれの分野の日中両国の専門家が報告し、それらについて参加者が質問・コメントして討議するというやり方で行われたが、その内容豊かな報告、参加者間の率直な意見交換から、今後この日中対話でそれらの問題にどのように取り組んでいったらいいのかについてのアイデアが浮びあがってくるようないいディスカッションが行われた。 

2日目には、参加者が2つのテーマ(「東アジアの海洋ガバナンス」と「ブルーエコノミーの発展」)に分かれて、テーマごとにファシリテーターを立てて議論するワークショップが行われ、問題点の整理、今後の取り組み方についての議論が行われ、最後にそれをもとに全体で総合討議が行われた。

今回の対話において共通の認識、今後の行動計画として示された展望は次の通り。

@東アジアの海洋ガバナンスの確立に向けて、認識を共有し議論を深め、日中のシンクタンクとして必要な行動を提言していくこと、A特に、SARの分野の情報共有メカニズム、協定締結などは喫緊の課題であること、B日中両国の自然的・社会的背景の違い・類似点に留意して東アジアのブルーエコノミーのモデルを確立し、共通の物差しでの評価を探ることが重要であること、C特に、漁業を含む幅広い海洋産業を対象とし、環境保全、地球環境に対する検討を進めていくことが肝要であること、D日中相互のベストプラクティスを共有し、人材育成についても積極的に実施していくことが重要であること。

最後に、笹川平和財団海洋政策研究所と中国南海研究院は、この対話を継続し、政府間の話し合いにもその成果を提供していくことを合意し、会議は終了した。

3回目となる今回の日中海洋対話では、参加者がこれまで醸成してきた互いの信頼関係に基づき率直かつ前向きに意見交換したので、協力の具体化に向けて対話がさらに一歩前進したように感じられて、この対話会議にスタートから係わった一人として嬉しく思った。

「日中海洋対話会議」の今後益々の発展を期待するとともに、海洋政策研究所の角南篤所長、南海研究院の呉士存院長をはじめ今回の日中海洋対話会議に熱心に取り組んだ皆さんの真摯な努力に感謝したい。
Posted by 寺島紘士 at 18:55
「2017日中海洋対話会議」に出席(2) [2017年11月12日(Sun)]
今回の訪問先の海口がある海南島は、ベトナムのハノイのちょっと手前でハノイよりもっと南にある。海南島の北部は、亜熱帯で、南部は熱帯に属するという。

日本からの直行便はなく、羽田からまず広州まで飛び、そこから中国国内線で海口に行った。羽田を飛び立ったのが午前8時50分、海口に着いたのは午後4時半ごろで、結局1日がかりの旅行だった。それでも帰りに比べるとまだましで、帰路は、海口発8時25分で、羽田に着いたのは夜7時半だった。往きと帰りの移動で2日間丸々かかり、海口滞在の2日間は会議と官庁訪問をフルにこなしたので身体的には結構疲れた。

「2017日中海洋対話会議」の翌日は、午前に海南省海洋漁業庁、午後には海南海事局を訪問した。

海洋漁業庁では、弁公室の陳業貴主任を筆頭に、海域課、捕𢭐課、養殖課、市場課、漁政課、予報減災課から課長又は副課長・調査研究員が出席して我々対応し、業務説明をしてくれた。

その主なポイントは、@国際漁業協力では、テラピアの輸出が盛んで、米国、EU,メキシコなどに輸出している、A科学技術協力にも力を入れており、ドイツ、オーストラリアなどとも協力しており、東京海洋大学とも海ぶどうの養殖などを一緒にやった、B持続可能な漁業に力を入れており、沿岸養殖を沖合の水深20m以下の場所に移して生態系の回復を図った、等であった。

海南海事局でも、海南海事局指揮センター(捜索救助センター弁公室)の呉育耀主任等が交通安全、環境保護、船員管理、権益保護、捜索救難など海事局の業務概要について説明してくれた。
2017-11-09 15.43.12 (2)海南海事局.jpg

2017-11-09 14.59.59 (2)海南海事局A.jpg

その後、局内施設を案内してくれたが、特に、広東省との間の瓊州海峡の交通管制センターの視察は中々興味深かった。
171109海南海事局交通管理IMG18 (2).jpg

海洋漁業庁、海事局ともに私たちの訪問を快く迎えて、その業務を進んで説明してくれてありがたかった。

海南省は、海南島と東シナ海の西沙諸島、南沙諸島、中沙諸島からなり、今国際的に注目されている南シナ海をカバーしている省なので、私たちの訪問をどのように対応してくれるのかちょっと気になっていたが、今回の海事関係官庁訪問は、友好的な雰囲気の中で行われ、嬉しかった。
Posted by 寺島紘士 at 23:36
「2017日中海洋対話会議」に出席(1) [2017年11月11日(Sat)]
中国の海口で開催された「2017日中海洋対話会議」に出席するため7日から10日まで出張した。このため、ブログ掲載が1週間ほどできなかったことをお詫びしたい。

東アジアの海域では、その管理や開発、利用、保全をめぐって、国際的な協調の必要性が指摘されている。そこで昨年6月21日には、笹川平和財団海洋政策研究所と中国南海研究院は、トラック2レベルの会議「日中対話:東アジアの海洋問題への協調的取組みを目指して」を東京で開催した。(本ブログ2016年6月22日参照)

「2017日中海洋対話会議」は、それに続く2回目で、今回は中国海南省の海口にある中国南海研究院で開催した。

会議は、両国の有識者が参加して、11月8日(水)に朝から夕方まで1日かけて集中的に行われた。
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最初に開会セッションが行われ、4人が開会挨拶をした。まず、中国南海研究院の呉士存院長が開会挨拶をし、続いて笹川平和財団参与の小生と角南篤笹川平和財団海洋政策研究所長が開会挨拶をした。

さらに、中国外交部辺海司の賀湘g参事官が開会挨拶をする予定だったが、到着が遅れたため後刻到着してから挨拶をした。

私の挨拶では、6月末に所長を角南さんに引き継いだのでこれからは角南さんが海洋政策研究所の先頭に立ってリードしていくことを述べるとともに、次のような趣旨の挨拶をした。

‛昨年日中海洋対話をしてみて、お互いに相手がどのような考え方に基づいて行動しているのか知らないことがずいぶんある、したがって、互いに議論して確かめた方がいいこと、確かめる必要があることもずいぶんある、そして互いに共有できるものは共有し、意見の異なる部分についてはどのようなことが出来るかを双方でさらに議論して協力の道を探ることが両国のため、ひいてはアジア・世界のために意味あることではないかと思った。この日中海洋対話が海洋の総合的管理と持続可能な開発、海洋の平和と各国間の友好関係の増進、東アジアの安定と発展に貢献していくことを切に願っている。’

開会セッションに続いて、次の4つのセッションが行われた。

1. 東アジア海洋における安全保障の新たな取組み
2. 漁業資源の持続可能な利用と管理
3. 海洋ガバナンス
4. 海洋分野の日中協力
2017-11-08 12.08.03 (2)日中海洋対話.jpg

各セッションとも、最初に両国から有識者がそれぞれ2人ずつ発表し、その後討議を行った。それぞれの分野の専門家が、それぞれの専門的知見に基づいて自分の意見を述べて提案を行ったので、聞いていて参考になった。ただ、発表の後の討議の時間が必ずしも十分に取れなかったきらいがあり、最後の総合討議では、次回はもっと討議を十分にできるようにしようという意見が多く出され、次回は2日間会議を行うことが申し合わされた。

私は、「セッション3:海洋ガバナンス」で「海洋ガバナンスの取組み」と題して、大きく動き出した国際社会の海洋ガバナンスの取り組み、日本の海洋基本法を中心にした海洋ガバナンスの取組みについて発表し、最後に、国連海洋法条約による海洋空間の再編成により発生している各国間の対立・紛争に私たちがどう対応すべきかについて、様々なレベルでの対話・検討の実施、能力構築の推進等5つの提案をした。
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会議は、議論の白熱等により若干予定の時間をオーバーしたが、次回は海洋政策研究所がホストとなって日本で開催することを確認して成功裡に終了した。

その後、会議参加者全員よる夕食会が行われ、そこでは参加者間でインフォーマルで自由な会話が弾んだ。この日中海洋対話がいい形で発展していくことを期待している。
Posted by 寺島紘士 at 23:36
南シナ海に関する国際シンポジウムで基調報告 [2017年09月27日(Wed)]
9月25日(月)夕、国際シンポジウム「海洋安全保障のグローバル化−領有権非当事国による南シナ海討議(Globalization of Maritime Security: The South China Sea from Viewpoints of Territorial Non-Claimants) 」が開催された。これは、日本国際フォーラム、明治大学国際政策研究所・国際総合研究所及びベルギーのルーヴァン・カトリック大学危機国際紛争研究所が共催したものである。

6月の「21世紀ビジョンの会」の発表者だった明治大学の伊藤剛教授(本ブログ2017年6月22日参照)から、このシンポジウムで基調報告してくれないかという話が飛び込んできたのは9月に入ってからだった。

準備する期間が短いので少し迷ったが、日頃関心を持っているテーマであり、報告時間が短い(15分)ことにも背中を押されて結局引き受けた。そして勧められるままに公開シンポジウムの前に開催された午後の国際シンポジウム報告者等による非公開セッションにも参加した。

午後と夕のシンポジウムは、南シナ海の領有権非当事国である日本、韓国、英国・米国、インド、ベルギー、オーストラリアから専門家が参加して行われた。

夕方の国際シンポジウム(公開)は、日本国際フォーラム評議員・上席研究員で明治大学国際政策研究所長の伊藤剛教授と日本国際フォーラムの渡邊繭専務理事の開催挨拶で始まり、続いて私が「国連海洋法条約による海洋空間の再編成がもたらした問題にどう取り組むべきか」というタイトルで基調報告を行った。
170925国際シンポP9257260 (2).jpg

新海洋秩序を体現する国連海洋法条約による海洋空間の再編成が、近年、近隣諸国間で新たな対立・紛争を引き起こしている状況を取り上げ、これにどう対処すべきか、
特に、中国がいわゆる九段線を引きその内側の海域に対して権利を主張し、力による現状変更を推し進めている南シナ海の問題の解決に向けて領有権非当事国がどう取り組んでいくべきか、
に焦点を当て、短い時間を精いっぱい活用して報告を行った。

続いて、次の2つのセッションが行われた。
セッション1 領有権非当事国から見た南シナ海問題の重要性
セッション2 グローバルな海洋規範構築に向けて
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壇上に海外から4人、日本から5人の報告者がずらりと並び、伊藤剛教授が議長を務めて、報告と自由討論が行われた。限られた時間の中で、報告が次々と行われ、セッション毎に報告が終わると自由討議が行われた。テーマが大きくて、かつ、奥が深かかったので、もっと聞きたいと思うところも多々あったが、それぞれの専門知識に基づいたなかなか聞きごたえのある報告と討論が行われた。

他方、国際シンポジウムとは対照的に午後の非公開セッションでは、海外と日本からの出席者が、自らの地域の取組みを踏まえてそれぞれ情報を提供し、自由闊達に自らの意見を発言したので、聞いていて面白かった。

最初は、出席者がそれぞれ自らの言いたいことを述べて、議論がどこに飛んでいくのか見えないような状況から始まった。…が、主催者の伊藤教授が議論を積極的にリードし、桜美林大学の佐藤考一教授が活発に発言し、関西外国語大の畠山京子準教授がポイントついた発言をするなど、日本側の出席者が海外からの出席者と混じって議論を積極的に展開していって、中々いい自由討論会になった。

この国際シンポジウム開催は、日本国際フォーラムの調査研究事業「新段階の日本の海洋戦略」の一環として開催されたとのことであるが、その研究成果を期待したい。
Posted by 寺島紘士 at 23:30
南シナ海問題の仲裁裁判判決に思う [2016年07月14日(Thu)]
7月12日(火)、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は、南シナ海における中国の主張や行動は国連海洋法条約に違反しているとしてフィリピンが求めた仲裁裁判についてフィリピンの主張をほぼ認める判決を行った。

仲裁裁判所は、この判決についてプレスレリースを発出しているが、まだ時間がなくて、11ページからなるプレスレリースをじっくり読み込めていない。そこで、とりあえず、13日の各紙朝刊の報道を突き合わせて判決の概要を眺めると、大体、次のとおり。

・中国の主張する「九段線」には国際法上の根拠はない。
・南沙諸島には、法的な「島」はなく、排他的経済水域、大陸棚の権利は主張できない。
・中国の埋め立てや、中国船による違法な漁業は、海洋環境の保護義務に違反している。
・中国は、フィリピンのEEZ内でフィリピンの漁業や石油探査を妨害し、フィリピンの主権的権利を侵害している。

各紙は、「九段線」の主張が法的根拠がないとして退けられたことを大きな見出しで報じている。これはもちろん重要なポイントである。さらに、埋め立てや人工島の建設が国連海洋法条約が定める海洋環境の保護義務に違反しているとしている点にも注目したい。

これに対して、中国は、「この判決は無効で拘束力はなく、受け入れない」と言う声明を発表し、さらに中国の主張を「白書」として発表したようである。

フィリピン政府は、仲裁判決を歓迎する一方で、平和的な解決を目指すとも発言しており、今後の成り行きが注目される。

いずれにしても、両当事国、さらに国際社会は、徒に感情的なるのを避けて、本問題を国際法の問題として冷静に論じ、行動することを望みたい。
Posted by 寺島紘士 at 00:32
海洋フォーラム「南シナ海をめぐる問題と中国の海洋戦略」開催 [2016年01月25日(Mon)]
1月20日(水)、第127回海洋フォーラムを財団ビル11階の国際会議場で開催した。

今回は、「南シナ海をめぐる問題と中国の海洋戦略」をテーマに採り上げた。

ご存知のように、南シナ海でその大半を囲むように「九段線」を設定して広大な海域の支配を主張している中国が、最近、南沙諸島に人工島を建設して滑走路を整備するなどの動きを見せ、これに対して周辺諸国が反発し、さらに米国が海軍艦船を派遣して人工島周辺12海里内を航行させるなど、南シナ海をめぐって緊迫した状況が続いている。

そこで、南シナ海の問題に詳しい防衛省防衛研究所主任研究官の飯田将史氏に講師をお願いして中国の海洋戦略と南シナ海をめぐる問題についてお話しいただいた。

飯田さんは、まず習近平主席が主導する「新たな情勢下の積極防御軍事戦略方針」から話をはじめ、海洋が、宇宙、サイバー空間、核戦力とともに4つの重要な安全保障分野として採り上げられていることを説明した。

そして、中国が陸上の国境問題をほぼ解決して領土・主権問題は海洋に集中している状況、経済発展に必要な資源・エネルギーの安定的確保や海上交通路の安全確保、海洋権益の擁護など、中国の海洋進出の背景を解説した。

続いて、島嶼の領有権と領海・海洋権益をめぐる中国と周辺諸国との対立、中国の法執行機関の強硬な行動、人民解放軍のプレゼンス強化、中国による島嶼埋め立て、対米A2AD戦略の重点実施など、中国の南シナ海での一連の行動について詳述した。

さらに、これに対して米国が懸念を強め、フィリピンなどの同盟国への支持を表明し、中国に対する批判を明確化し、航行の自由作戦の実施やB-52による上空飛行の実施などの挙に出ていること、及び、それに対して中国が対抗姿勢を強めていることを紹介した。

最後に、飯田さんは、東アジアの安全保障への影響について取り上げ、中国の強硬な海洋進出は今後も継続し、南シナ海での米中の対立は強まる方向であると結んだ。

飯田さんが、南シナ海に関する情報を整理し、そこで起こっている事象についてその背景も含めてわかりやすく話してくれたので、大変参考になった。

今回は、事前の申込が、メディア関係者30名を含めて、250名近くに達し、これまでにないほど多くの方々が参加して講演を熱心に聞いていた。講演後の質疑・意見交換も活発に行われ、またその内容もなかなか充実していた。南シナ海の問題に対する皆さんの関心の深さを改めて感じさせてくれたフォーラムだった。
Posted by 寺島紘士 at 23:19
長崎大学講演会「いま考える東シナ海の未来」 [2012年05月24日(Thu)]
5月16日(水)、日経ホールで長崎大学海洋環境科学情報発信シリーズ「海と地球と人と」の講演会があり、講演者及びパネリストとして参加した。実は、この講演会は、当初、昨年3月に開催する予定であったが、直前に東日本大震災が起こって中止となっていたものである。

講演会のタイトルは、「いま考える東シナ海の未来〜その知られざる魅力と忍び寄る環境危機〜」で、私たち日本人にとって重要な役割を果たしてきた東シナ海に焦点をあてている。

最初に、長崎大学片峰学長の開会挨拶、中田英昭長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科長のセミナーのねらいについての紹介があり、そのあと養老孟司東京大学名誉教授が「海・生物・環境を考える」というタイトルで基調講演を行った。「海は体の一部」などのキーワードをホワイト・ボードにマジックペンで書きながら、現代に生きる私たちが持つべきものの見方・考え方やとるべき態度などについて講義され、いろいろ教えられるところがあった。 

そのあと、私が、「東シナ海の海洋環境と持続可能な開発」というテーマで概略次のような講演した。

わが国の3.3倍の大きさの東シナ海は、水深が浅く、大河川から陸水が大量に流入し、南西から北東へ黒潮が流れ、豊かな海洋生物資源に恵まれている。また、近年では海底の石油・天然ガス資源が注目されている。
中国、日本、韓国、台湾に囲まれた東シナ海は、古くから漁業、海上交通、流通・貿易活動、文化交流の舞台だった。

近年、東シナ海では、沿岸各国の人口増加と急速な経済発展が、その環境に大きな影響を与えている。人間の活動によって海洋環境や生態系は悪化・劣化し、環境汚染、生息地の劣化・破壊、漁業資源の減少、生物相の変化が顕在化している。今、東シナ海でも、「海洋環境の保全」と「持続可能な開発」をいかに確保するかが大きな問題となっている。

これらの問題に効果的に取り組むためには、私たちは、「国連海洋法条約」による新しい海洋秩序と「アジェンダ21第17章」等の国際的な海洋政策の枠組みの下で、多国間・二国間の協力を進めるとともに、政府間だけでなく、大学・研究機関、NGO等非政府機関間でも様々なレベルで科学的調査研究、技術協力、地域プログラム、共同プロジェクトなどを実施していく必要がある。さらに、これらを進めるためには、それらに必要な人材育成にも注力する必要がある。

2003年にマレーシアで開催された「東アジア海洋海議2003」で採択された「東アジア海域の持続可能な開発戦略SDS-SEA」は、東シナ海において関係国が協力してこれらの問題に取り組む際に活用できる有力な地域的政策枠組みである。私たちは、東シナ海における多国間・二国間の協力が沿岸国の共通の利益であることを認識して、これらの協力を強力に推進すべきである、と考える。

私の講演の後、休憩をはさんで、この講演会を中心になって準備してきた征矢野清長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科環東シナ海環境資源研究センター長の講演「東シナ海では今…研究現場からのメッセージ」があった。

それに続いて、パネルディスカッション「東シナ海の魅力と重要性〜環境・資源を守り、東シナ海を永続的に利用するためには〜」が行われ、私もパネリストとして参加した。パネリストは、内田沖縄美ら海水族館名誉館長、八木東京大学準教授、山口長崎大学教授、河本長崎大学準教授及び私の5人で、日経BPネットの藤田宏之編集長の司会で、生物多様性、環境変動、持続的利用、里海などをキーワードにしてディスカッションを行った。

今回の講演会で、東シナ海について様々な角度から検討してみて、その重要性を改めて痛感した。長崎大学の時宜に適した意欲的な企画に敬意を表したい。
Posted by 寺島紘士 at 23:40
南シナ海での印越の共同開発 [2011年09月19日(Mon)]
今年の7月に、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)の間で南シナ海の領有権問題の平和的解決を盛り込んだ「南シナ海行動宣言」(2002年)の実効性を高める「ガイドライン」が合意され、南シナ海の緊張が少しは収まることを期待したが、そんな簡単なものではなさそうだ。

9月17日(土)の読売新聞は、南シナ海でベトナムとインドが天然ガス・石油の共同開発に関して合意したこと、及び、それに対して中国が反発しているというニュースを大きく報じている。

インド・ベトナム両国は、16日に行われた外相会談で、インド国営企業がベトナム沖の南シナ海でガス・油田開発を推進していくことで合意した。

読売新聞は、インドが南シナ海の開発に乗り出したのは、エネルギー需要増への対応に加え、領土・領海問題での中国の攻撃的姿勢をけん制するためだ、と報じている。インドは、中国が将来、南シナ海からインド洋に重点を移すことを懸念している、という。

これに対して、中国は、インド国営企業の開発について、中国の管轄海域での石油、天然ガスの探査や開発を進めることに反対、と反発している。

インド・中国というアジアの大国同士が、南シナ海の開発をめぐって対立するという新たな状況の出現である。

これに加えて、17日の新聞は、次のような南シナ海に関する米豪の動きも伝えている。

15日に、サンフランシスコで米国とオーストラリアの外務・防衛閣僚協議が行われ、共同声明が発表されたが、その中で南シナ海について、航行の自由、平和と安定の維持、国際法の順守は国際社会と米豪両国の国益であるとして、いかなる国の実力行使にも反対する、と表明した。
さらに、同共同声明は、アジア・太平洋海域の安定に向けて、両国に日本を加えた日米豪の連携を深める方針も確認した、という。

20世紀後半から顕在化した、中国と、ベトナム、フィリピンをはじめとする東南アジア諸国との間の南シナ海の島の領有権や海域の管轄権をめぐる紛争・対立は、21世紀に入ってむしろ問題が大きくなり、最近では、中国対ASEAN・米国の様相を呈してきていた。

そこに今回、インドが新たに登場したのである。
新聞記事にも「予想外のインド進出」と小見出しがついていたが、よく考えてみれば、中印両国は、陸域で直接国境を接しているだけでなく、海上でも安全保障、資源輸送路などをめぐって様々な対立・緊張関係にある。両国の間にある半島が「インド・シナ半島」であることを思い起こせば、そのような展開も驚くには当たらないのかもしれない。

いずれにせよ、南シナ海問題に新たな要素が加わったことは間違いない。

近年、南シナ海、東シナ海における中国の一方的な主張と実力行使を辞さない行動が目立ち、これに対して、国際社会の関心と反発が高まっている。それが、今回のインドの南シナ海への進出、あるいは、米豪の共同声明の背景にある。

昨年9月の尖閣諸島沖の中国漁船の巡視船体当たり事件(本ブログ2010年9月27日等参照)や最近の同海域での領海侵入を含む中国漁業監視船の活動に直面している我が国としても、これらの動向を我がこととしてフォローし、国連海洋法条約などの国際法のもとで、国際社会と連携して、海洋の問題にきちんと対処していく必要がある。

新たに発足した野田内閣に、外交面でのきちんとした対応を期待したい。(了)
Posted by 寺島紘士 at 18:24
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